ヘビ爆弾から蚊軍団まで、生物兵器の起源は古代にまでさかのぼる。ときに使用者側に裏目に出ることもあったが、それらはパニックを引き起こし予想外の死者を出した。
生物兵器は、人類の戦争の血なまぐさい歴史の中で比較的新しく登場したものだと思うかもしれないが、実は古代より使用されていたようだ。
生物兵器の歴史
英語で生物兵器を意味する『Biological weapons』という用語ができたのは、20世紀の第一次世界大戦が始まって以降で、辞書に載るようになったのは1960年代と言われている。現在、国連は生物兵器を以下のように説明している。
病気の原因となる生物または毒素をまき散らして、人間、動物、植物に害を与えたり死滅させたりする装置または方法しかし、生物(細菌)兵器の概念は、間違いなく古代からあった。
大量破壊兵器としての何世紀も昔の生物兵器も、兵士や市民にとって恐ろしいものだった。それは、現代の私たちにとっての脅威と変わらない。
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古代の生物兵器
古代世界では、驚くほど多様な生物兵器がまかりとおっていた。つまり、矢や槍はその先端に毒や排泄物、ばい菌がうようよいる泥を塗れば、その瞬間から技術的に生物兵器になる。感染した、あるいは腐敗した動物や間の死体を、敵が飲み水として利用する井戸に投げ込んだり、城壁の中に投じたりすれば、それは即席の生物兵器と化し、病気を広めるだけでなく、敵方の戦意喪失ももたらす。
過去の軍事指導者の中には、生物戦を行うにあたって、より悪魔的・創造的な手を使った者もいた。
彼らは、自分がとった方法の裏にある科学的作用を理解していたわけではなかった。ただ、その戦術が効果的だということがわかっていただけだ。
歴史における戦争屋は、生物兵器の威力を完全に理解、制御していなかったため、古代の生物兵器は思いもかけない結果をもたらし、味方にまで危害を及ぼしたこともしばしばあった。
ときにそれは壊滅的な巻き添え被害を引き起こし、その後何世紀にもわたって、広範囲に広まった。
紀元前14世紀:ヒッタイトペスト
ヒッタイト帝国は、紀元前1600年頃、現在のトルコで生まれた。その領土は広大で、中東でかなりの勢力になった。彼らは聖書の中でよく引き合いに出され、旧約聖書では、ソロモン王の強力な隣人だとされている。歴史は、ヒッタイトはエジプトと並んで、世界最古の和平協定として知られるカデシュ条約に調印したと記録されている。
しかし、ヒッタイト人は、世界初の生物戦争を戦った不名誉な記録ももっているかもしれない。
紀元前1320年頃、ヒッタイト人は、病原菌に感染したヒツジやロバを、敵が利用する交易路に放った。
敵がその一部を村へ連れて帰り、その動物から野兎病(ツラレミア)という細菌性の病気が広まった。この病気は現在では治療可能だが、古代においては、重大な障害や死をもたらした。
敵だけを弱体化させるための、いわゆるヒッタイトペストは、キプロスからイラク、イスラエルからシリアへと広まり、より広範囲に悪影響を及ぼした。
ヒッタイトの王、ムルシリ2世が感染症の流行を終わらせるために神々に祈りを綴った粘土板(イスタンブール考古学博物館) / image credit:Osama Shukir Muhammed Amin FRCP(Glasg) / WIKI commons
現在でも、野兎病は深刻なバイオハザードだとみなされていて、かつてはアメリカと旧ソ連が潜在的な生物兵器として備蓄していた。
紀元前3世紀:ローマのモスキート軍
ローマの南東300平方マイル以上の範囲にポンティノ湿原が広がっている。ここは敵の侵入を防ぐ自然の防塞となっていた。それは単に、この湿原が行軍する敵の兵士たちを疲弊させ、士気をくじく過酷な環境だっただけでなく、古代ローマのもっとも破壊的な軍隊が潜む場所だったからだ。
つまり、マラリアを媒介する蚊(モスキート)の大群が好んで生息する場所だったのだ。
侵略者の力を吸い取ってしまう湿原の能力をローマ人はよく知っていたが、彼らはマラリアを積極的に兵器として使おうとしたわけではなかった。
古代では、蚊に壊滅的な病気を蔓延させるシステムがあることを確認する術はなかったのだ。
実際、ローマ人たちは湿地帯の有害な空気が、敵を倒すと考えていた。のちにこの病気に正式に名前がつけられたとき、イタリア語で悪い空気を意味するマラリアと命名された。
何世紀もの間に、マラリアは恐るべき生物兵器であることが証明され、今では誰でもその恐ろしさを知っている。
この独創的な生物兵器を配備したハンニバルでさえ、蔓延したマラリアによって辛酸をなめるはめになった。
それでも、この湿地の存在はかなり手ごわいものだったのだろう。
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時代が下るにつれ、マラリアはローマ市民にとって固有の脅威となり、これが帝国が没落する一因となった可能性がある。20世紀までに、湿地の水を抜くさまざまな取り組みによって、マラリアの流行はだいぶ下火になった。
だが、第二次大戦中、ドイツ軍は再び湿地に水を満たした。湿地はまた生物兵器を備えた防塞となり、今度は連合軍の進軍を妨害した。
しかし、この作戦はイタリアに被害を及ぼし、1944年にはこの地域でマラリアが大流行した。
紀元前2世紀:ハンニバルの毒薬先兵部隊
古代ローマが直面した最大の敵のひとつは、カルタゴの名将ハンニバルだったが、彼を永遠の伝説にしたのは、その天才的な戦術と武術だった。最終的には、彼は敗北し、自ら命を絶ったが、その狂気すれすれの大胆さは語り草となった。
彼のもっとも偉大な功績のひとつは、アルプスを越えてローマヘと進軍したことだ。4万もの軍勢、数千頭の馬、訓練された40頭のゾウを引き連れてのことだった。
ザマの戦い / image credit:public domain/wikimedia
だが、北イタリアで激しい戦いを繰り広げたのち、ハンニバルは敗北した。晩年は、その軍事的采配を生かすことのできるほかの勢力のために働いたが、力は衰えていくばかりだった。
紀元前184年、ハンニバルは現在のトルコで、ビテュニアとペルガモンの戦争にのぞんだ。
強力なビテュニアのために戦い、自分の海軍をとり仕切って、まだ大砲が登場する前の時代だったが、敵に攻撃をしかけた。これまでとは異なる種類の生物兵器を使ったのだ。
傑出した人物の人生を集めた初期の伝記集の中で、筆記者のコーネリウス・ネポス(紀元前110〜24)は、ハンニバルが部下に多くの毒ヘビを集めさせ、それらを土器の壺の中に入れるよう命じたと述べている。
ネポスの記述には、ハンニバルが400隻以上の敵の艦隊に対して効果的な戦いをするのに十分な数のヘビと壺を集めることができたのかについては、はっきり書かれていないが、気にすることはない。
ハンニバルが、ヘビ爆弾を投じたことは記録に残っている。
このせいで、敵の王の神経は衰弱し、自分の海軍とともに敗走した。ハンニバルは、再び軍事史にその足跡を残すことになったのだ。
14世紀:黒死病爆弾
歴史の中で、数多くの軍隊が、死んだ動物や人間の死体を敵の城壁の中に投げ込み、嫌がらせをした。人間や動物の排泄物もまた、立てこもっている敵に投げつける格好の生物兵器になった。しかし、多分に疑わしいが、モンゴル軍はこの技術を利用して世界を変えるほどの結果をもたらしたと自負している。
1346年頃、カッファの包囲のとき、モンゴル軍は、黒死病に感染した死体を敵の城壁内に投げ込んだと言われている。
このカッファから、ジェノヴァの商人がヨーロッパへペストを持ち込んでしまった。さらに悪いことに、その後の5世紀にわたって、ヨーロッパでペスト大流行が数回繰り返されることになる。
ペストで亡くなった人を埋葬するトゥルネー市民 / image credit:public domain/wikimedia
疾病予防管理センターによると、ペストは現在、迅速かつ早期に治療すれば、最新の抗生物質で回復が可能だが、深刻なバイオテロの脅威であることは変わりないという。
時代を越えて広まり続ける生物兵器もあるのだ。
References:Ancient Empires Used Bioweapons to Strike Terror More Than 3,000 Years Ago / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
明確に「菌」「ウィルス」を兵器として使ったのはいつが最初だろう?
2. 匿名処理班
人間は愚かだね
3. 匿名処理班
古代エジプトが攻められた猫の盾も生物兵器と言えるかもしれない。
4. 匿名処理班
現代の兵器と比べるとなんかしょぼいな
そのしょぼいレベルでも通用したって証でもあるが
5.
6. 匿名処理班
医学の発展がまだまだの時は不潔さ自体が武器になり得たんだね
7. 匿名処理班
なんだかよくわからないまま使うとこが古代の恐ろしさ
占領したあとどうすんねんっていう
8. 匿名処理班
>>4
大量に敵対勢力の国民を殺しめる兵器をしょぼいとか表現すること自体、無知で無教養の現れだな。
9. 匿名処理班
細菌から見たら、人間を利用した戦争(縄張り争い)だろうね
ま、持ちつ持たれつということで
10. 匿名処理班
あるある。
投石機で死牛馬をぶん投げたりね。
>>7
単純に敵を無力化したいだけなら占領とか関係ないわな。撫で斬りにするより楽だし。
逆に、敵に占領地を使わせないために行われる生物戦ってのもある。
日本の例だと、『雑兵物語』には「敵地の井戸の水は飲むな」って伝承が残ってる。糞便を沈めて使えないようにしてあるもんだ、っていう。
なんだかよくわらないままって事はないでしょ。
何がどうなるか、ある程度は経験の蓄積がないと、こういうのは使えないもんよ。
11. 匿名処理班
>>6
現代は、人道上の理由から
国際条約で生物兵器が禁止されているだけで、
糞便を塗ったブービートラップとか
(実害以上に、士気を削ぐ精神的効果も大きい)
感染動物を大量に敵国へ送り込むとか
(人間に伝染しなくても、家畜壊滅で食糧事情の悪だけでも)
やられたら わりと普通に、地味に大打撃な気がする。
12. 匿名処理班
>>7
良く分かんないまま使うの古代だけの話?
13.
14. 匿名処理班
コロナ生物兵器説もあるけど、実際病気一つでこれだけ世界中の経済に打撃を与えられるんだから恐ろしい効果だよな
15. じょん・すみす
アメリカ先住民に、天然痘患者が使った毛布を送った
なんて話はありますね。
そもそも新大陸にいた人達にとって、旧大陸の人達が持ち込む未知の病気が
かなりの脅威だった様子。
もっとも新大陸での病気を旧大陸に持ち込んだ、って事もあるんですけど。
16. 匿名処理班
対エジプトの猫チャージとか、エジプト人以外には影響ないし戦後に影響が残ることもない優秀な平気だったに違いない。
17. 匿名処理班
なまものは、あたると怖い
18.
19. 匿名処理班
モンゴルが生物兵器使ってたのは知ってたけど、だいぶ後発の方だったんだな
20.
21. 匿名処理班
>>14
ただし、勝者は誰もいなかった。
生物兵器にしても核兵器にしても、強くなりすぎて、もはや使えば使用者自身も含めて壊滅する状況なのだろう。
22. アユラ
>>15
バイオテロって、歴史が深いんですか……知らなかった。
23. 匿名処理班
>>4
こういう汚染物質による兵器を通称”汚い爆弾”とも言うんだけど何が一番怖いって一般人でもお安く簡単に作ることができるところだよ(ただし色んな意味で不快なのを我慢する必要はある)
しかも効果は抜群だからね
しょぼいとか馬鹿にしたらあかんよ
24. 匿名処理班
天然痘vs梅毒の大航海時代
25. 匿名処理班
むちゃくちゃ古代からあるんだな
もしや古事記のスサノオがアマテラスとのウケヒに勝った勢いで糞を撒き散らしたり馬の生皮を投げ入れるとかの狼藉を働いたってくだりも、実は潔白でもなんでもなく侵略のためにやったってやつが変化したのでは
26.