この画像を大きなサイズで見る真っ暗な夜の海を見つめていると、はるか沖合にピカーッと光る灯台の光が見える。しかし、海の上には何もない。
本物の灯台は「自分の背後」にしかないはずだ。頭ではわかっていても、目の前の海にもうひとつの灯台があるように見えてしまう。
世界各地で報告されてきたこの奇妙な現象は「幻の灯台」と呼ばれ、人々を惑わせてきた。
背後の光を、脳はなぜ「目の前の海にある」と勘違いしてしまうのか。オーストラリアのメルボルン大学などの研究チームが、その謎をついに解き明かした。
まさに灯台もと暗しってやつだ。
この研究成果は『Open Mind』誌(2026年)に掲載された。
参考文献:
- The phantom lighthouse: new research explains one of Australia’s strangest illusions
オーストラリアの島にある有名な「幻の灯台」
オーストラリア北東沖に広がる世界最大のサンゴ礁、グレートバリアリーフの最南端に浮かぶレディー・エリオット島は、幻の灯台がよく見える場所としてよく知られている。
島の灯台を背にして夜の海を眺めると、沖の水平線に別の灯台が光っているように見えるため、島の観光ガイドでも紹介されている。
幻の灯台は、世界各地で目撃されてきた。
最も古い記録は1937年にフランスのブルターニュ沖で報告されたもので、それから89年間、なぜ幻の灯台が見えるのか、科学者たちの間で議論が続いてきた。
この画像を大きなサイズで見る夜の海では、目の情報に脳が予想距離を補っている
メルボルン大学のチャールズ・ケンプ教授らの研究チームは、レディー・エリオット島で実際に幻の灯台を体験したうえで、バーチャルリアリティ(VR)で同じ見え方を再現し、原因を調べた。
研究チームによると、幻の灯台は、脳が目からの情報と自分の予想を組み合わせて景色を判断していることで生まれるという。
暗い夜の海には、ものまでの距離を測る手がかりがほとんどない。
手がかりが足りないとき、脳は目から入る情報だけでは判断できず、「たぶんこのくらいの距離だろう」という予想に頼って見え方を決めてしまう。
たとえば真っ暗な部屋に、小さく光る円盤が1つだけ浮かんでいたとしよう。
光る円盤は目の前にある小さな物かもしれないし、遠くにある大きな物かもしれない。
距離の手がかりがなければ、円盤がどこにあるのかは、見る人の予想次第で変わってしまう。
遠くの光を「近い」と勘違いして、光源の位置を見誤る
灯台の光は、ぐるぐる回りながら、背後の灯台から観察者の頭上を通り越し、はるか沖まで伸びている。
遠くの船にも届くほど長い光なので、光の遠い端は大きな円を描き、実際には猛スピードで動いている。
ところが人間の脳は、ふだん身近なものを見ることに慣れているため、夜の海で遠くの光を見ても「もっと近くにあるはずだ」と予想してしまう。
脳が距離を短く見積もると、光の遠い端は、近くをゆっくり動いているように見える。
回転する光は、光源に近い部分ほどゆっくり動く。
そのため脳は、ゆっくり動いて見える沖のほうに光源があると判断し、背後の灯台の光が、目の前の海に立つ灯台から出ているように見えてしまうのだ。
この画像を大きなサイズで見る灯台から67m離れるだけで、幻の灯台は現れる
これまで幻の灯台を報告してきたのは、灯台から1km以上離れた海を航行する船乗りたちがほとんどだった。
研究チームは自分たちの説明をもとに、高さ30mの灯台なら、灯台から67m離れただけで幻の灯台が見え始めると予測した。
VRで灯台からの距離を変えて試したところ、予測を裏付ける結果が得られた。
脳の予測する力は、少ない情報から周りの世界を正しく見るために欠かせない働きだが、そのために錯視が発生することもある。
ふだん私たちが世界を正しく見られるように働いている脳の予測する力が、手がかりのない夜の海では、灯台の位置を数十kmも見誤らせてしまうのだ。
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