この画像を大きなサイズで見る1986年、チェルノブイリで史上最悪の原子力発電所事故が起きた。住民が避難した後も、置き去りにされた一部の犬たちは生き延び、その子孫は今もここで暮らしている。
原発近くの敷地内で暮らす犬たちは、16km離れた市の犬と遺伝子が大きく異なっていることがわかっており、放射線の影響による突然変異が疑われてきた。
だが、米ノースカロライナ州立大学の研究チームの新たな分析によると、もともとがんや有害物質に強い遺伝子を持つ犬が生き残り、世代を重ねるごとにその遺伝子を持つ個体が増えていく「自然選択」が起きていた可能性が高いという。
自然選択が起きた結果、町の犬たちと遺伝子が異なっていたのだ。
この研究成果は『Genes』誌(2026年9月27日付)に掲載された。
参考文献:
- Chornobyl Dog Population Shows Genetic Signatures of Directional Selection | NC State News
立ち入り禁止区域の犬たちの遺伝子の違い
チェルノブイリ原子力発電所から約3km離れたプリピャチで暮らしていた人々は、1986年4月の事故の後に避難を余儀なくされ、多くのペットが置き去りとなった。
ソビエト連邦当局から派遣された処理班は残された動物の処分を行ったが、一部の犬は処分を逃れ、この地で生き延びて繁殖を続けてきた。
現在チェルノブイリの立ち入り禁止区域(半径30km圏内)に住む犬たちは、生き延びたプリピャチの犬の子孫たちと考えられている。
2023年の研究で、原発近くの敷地で暮らす犬と、原発から16km離れたチェルノブイリ市の犬の遺伝子が異なることが明らかとなった。
今回、ノースカロライナ州立大学の研究チームは、原発近くの犬を、他の地域の犬と比べたところ、やはり、どの地域の犬とも大きく異なっていることがわかった。
外の犬とほとんど交わらずに暮らしてきた南米ガラパゴス諸島の犬でさえ、原発の敷地の犬ほど大きな遺伝子の違いはなく、チェルノブイリ市やヨーロッパの犬に近かったという。
この画像を大きなサイズで見る遺伝子の違いは放射線の影響によるものではない
なぜ原発近くで暮らす犬は他の地域の犬と遺伝子が大きく異なるのか?
ノースカロライナ州立大学の研究チームが2024年に発表した調査では、放射線を浴びてDNAが書き換えられた証拠は見つからなかった。
また、偶然だけで遺伝子の割合が変わる「遺伝的浮動(いでんてきふどう)」という現象も当てはまらず、原発周辺の犬たちはほかの犬と変わらない多様性を保っていた。
偶然による変化なら遺伝情報の全体に散らばるはずだが、原発周辺の犬の違いは特定の場所に集中していた。
突然変異でも偶然でもないとすれば、残る理由は進化の基本原則である自然選択に行き着く。
この画像を大きなサイズで見る自然選択により遺伝子が変化
チェルノブイリ原発周辺には、放射線に加えて、重金属や農薬などの有害物質も残っている。
研究チームが遺伝子の違いが集中していた場所を調べると、100か所以上で自然選択の痕跡が見つかり、その近くには、がんやDNAの修復、免疫に関わる遺伝子が多く見つかった。
自然選択とは、ある環境で生き延びて子孫を残すのに有利な性質を持つ個体が自然に選ばれ、世代を重ねてその性質が集団の中に広がっていく仕組みを指す。
置き去りにされ、生き延びた犬たちの中には、がんになりにくい遺伝子、免疫の働きが強い遺伝子、有害物質に強い遺伝子を生まれつき持っていた犬がいたと考えられる。
過酷な環境で、生存するのに有利な性質を持つ犬たちが生き延びて子を産み、その遺伝子を子孫へと伝えていったと研究チームは考えている。
この画像を大きなサイズで見るわずか40年で環境に適応していく生命の強さ
チェルノブイリ周辺では、黒い体色のカエルが増えていたことも報告されている。
黒い色素のメラニンには放射線から細胞を守る働きがあり、もともと少数派だった黒いカエルが生き残って数を増やしたと考えられている。
今回の犬も、同じ仕組みで環境に適応したと考えられる。
犬は生後1年ほどで子を産めるようになるため、事故から約40年の間に、親から子へ約35世代にわたって命が受け継がれてきた。
1986年の事故からわずか40年の間に、厳しい環境に耐えられる強い遺伝子を持つ犬たちが数を増やし、環境に適応していったのだ。















