この画像を大きなサイズで見る海にすむ魚のほとんどは変温動物で、体温は周りの海水と同じまで下がる。ところがアカマンボウだけは違っていた。
アメリカ海洋大気庁の研究チームが調べたところ、深海の冷たい水の中を泳ぎながら、アカマンボウの体の中は温かいままだったのだ。
全身の体温を保てる魚は、今のところアカマンボウしか見つかっていないという。
この研究成果は『Science』誌に掲載された。
アカマンボウだけが海の中で体が冷たくならない
魚が体を温められないのは、エラで呼吸をしているからだ。魚は空気ではなく海水から酸素を取り込んでいる。
エラの中を海水が通り抜けるとき、細い血管の中の血液が海水と接して酸素を受け取る。
このとき血液の熱まで海水に奪われてしまうため、魚の体温は海水温より高くならない。
マグロやネズミザメの仲間は、泳ぐための筋肉や目、脳など、体の一部だけを温めることができるが、心臓を含む体の大部分は海水と同じ温度のままで、深く潜れば体が冷えていく。
そのため、冷たい海に長くとどまることはできず、海面近くに戻って体を温め直す必要がある。
ところが、アカマンボウだけは違っていた。
アカマンボウは世界の外洋域の水深500mまでの表層と中層に生息する魚で、マンボウと名前がついているものの、マンボウの仲間ではない。リュウグウノツカイに近縁の魚である。
体は左右から押しつぶされたような円盤の形をしていて、大きいものは全長2m、体重270kgに達する。
人目に触れない環境に生息しているため、生態については不明な点も多い。
アカマンボウの体の温度は海水より高かった
NOAA漁業局サウスウエスト漁業科学センターの水産生物学者、ニコラス・ウェグナー氏率いる研究チームは、カリフォルニア沖の調査で水揚げされたアカマンボウの体温を、35か所以上にわたって測定した。
すると胸ビレの筋肉も、内臓も、心臓も、そして頭部も、すべて周りの海水より温かかった。
研究チームは、生きたまま泳いでいる個体でも同じなのかを確認するため、生け捕りしたアカマンボウに体温を測るセンサーを胸ビレの筋肉に取り付けて海に放した。
アカマンボウが泳ぎ回った水深50mから300mの地点の水温は7.8℃から10.8℃しかなかったが、アカマンボウの筋肉の温度は、周りの海水より平均4.8℃高いまま保たれていた。
衛星を使った追跡調査でも、アカマンボウは水深50mから400mにとどまり続け、マグロやサメのように、体を温め直すため海面へ戻ることをしないことがわかった。
胸ビレで熱をつくり、エラが血液の温度を逃がさない構造
アカマンボウが体を温められる理由は、泳ぎ方と体のつくりの2つにあった。
ほとんどの魚は体をくねらせて前に進むが、アカマンボウは翼のような胸ビレを上下に動かして泳ぐ。
胸ビレを動かす筋肉は暗い赤色をしていて、体重の16%を占めており、魚類の中でも飛び抜けて大きい割合だ。
泳ぎ続けるかぎり筋肉は動き続け、そのたびに熱が生まれていたのだ。
筋肉の周りは1cmほどの脂肪の層に覆われていて、生まれた熱が海水へ逃げないようになっている。
エラは海水と血液が接する場所で、せっかく温めた血液の熱が奪われてしまうため、ほかの魚が体を温められない原因となっていたが、アカマンボウだけは違っていた。
研究チームがアカマンボウのエラの構造を調べたところ、体から送られてくる温かい血液が通る血管と、酸素を受け取って戻っていく冷たい血液が通る血管が、交互にびっしりと束ねられていることがわかった。
血液が隣り合って逆向きに流れることで、出ていく血液の熱が、戻ってくる冷たい血液に移し替えられる。エラで冷やされた血液は、体に戻る前に温め直されていたのだ。
「魚のエラでこのようなものが見られたことは、これまで一度もありません」と、ウェグナー氏は語っている。
温かいものと冷たいものを逆向きに流して熱を移し替える方法は、人間も熱を逃がさないための技術として使っているが、アカマンボウは同じ仕組みを手に入れていた。
この画像を大きなサイズで見る深海をすばやく泳ぎ回る捕食者
冷たい深海にすむ魚は、体が冷えて動きが鈍くなるため獲物を待ち伏せして襲うものが多く、研究者たちもアカマンボウを同じように動きの鈍い魚だと考えていた。
ところが体を温められるおかげで、イカのようなすばやい獲物を追いかけ、長距離を回遊する活発な捕食者であることがわかったという。
体温が保たれていれば、筋肉は強い力を出せる。目と脳の働きも速くなり、暗い深海でも獲物を見つけて追いかけられる。
心臓が冷えないため、深いところに長くとどまることもできる。
マグロやサメが海面に戻って体を温めている間も、アカマンボウは冷たい海の中で獲物を追い続けられるのだ。
2015年の報告から11年がたつが、全身の体温を保てる魚は、今もアカマンボウのほかに見つかっていない。
References: Science / Moonfish: The World's Only Fully Warm-Blooded Fish That’s 5°C Hotter Than Its Environment | IFLScience















