この画像を大きなサイズで見るオーストラリア北西部の険しい岩場で、半世紀以上も目撃が途絶えていた小さなワラビーが、今も生きていることが確認された。
2026年9月2日、オーストラリア野生生物保護協会(AWC)は、西オーストラリア州キンバリーで、小型のイワワラビー「ナバレク」の生息地を確認したと発表した。
ナバレクはキンバリー沖の一部の島では現在も生息しているが、今回調査が行われた地域の本土側では、50年以上にわたってその姿が確認されていなかった。
AWCは先住民の組織とも協力し、個体群の規模や、島の個体群との違いなどについて、今後もさらなる調査を続ける予定とのことだ。
参考文献:
- Tiny wallaby detected on mainland Dambeemangaddee Country after 50 years
「パン1斤ほど」の小さなナバレク
この「ナバレク」とは、日本ではヒメイワワラビー(学名:Petrogale concinna)と呼ばれる、オーストラリア北部に生息する小型の有袋類である。
主な生息地域は、西オーストラリア州北部のキンバリーと、そこから東へ離れたノーザンテリトリー北部にあり、両地域の分布は連続していない。
オーストラリアに生息するイワワラビーの仲間では2番目に小さい。AWCは今回の発表の中で、全長は約36cmで「パン1斤ほど」、体重は約1.2kgとしている。
岩の多い崖や峡谷などに暮らし、昼間は洞窟や岩の割れ目に身を潜めている。夜になると動き出し、草やシダ類などの植物を食べる、夜行性の生き物である。
足の裏にはざらざらとした肉球があり、岩戸の摩擦を利用して、急な斜面や岩場を移動する。体が小さいことも、狭い岩の隙間を行き来するのに適している。
人里離れた険しい場所に生息するうえ、体が小さく夜行性であるため、もともと姿を確認すること自体難しい動物だったのだ。
なお、「ナバレク(Nabarlek)」はオーストラリア北部の先住民言語のひとつ、クンウィンク語で「小さなイワワラビー」を指す言葉に由来するそうだ。
この画像を大きなサイズで見る一生生え替わり続ける奥歯
ナバレクにはもうひとつ変わった特徴がある。生涯にわたって、次々と歯が生え替わり続けていくのである。
魚のサメも顎の内側で作られた新しい歯が前へ移動して、次々に古い歯と交代していくことで知られているが、ナバレクの場合は奥歯の臼歯だけが生え替わる。
すり減った臼歯、つまり奥歯は前方へ移動して脱落し、その後ろから新しい臼歯が生えてくるのだ。
臼歯が生涯にわたって交換され続ける哺乳類は極めて少なく、ナバレクのほかに知られているのはマナティー類などごくわずかなんだとか。
ただし、なぜナバレクがこのような特徴を進化させたのか、その詳しい経緯までは、今のところまだ解明されていないそうだ。
この画像を大きなサイズで見る本土では50年以上目撃が途絶えていた
ナバレクはかつて、オーストラリア北部に比較的広く分布していたと考えられているが、本土では多くの地域で生息数が減少している。
ノーザンテリトリーのビクトリア・リバー地域では、長年ナバレクが目撃された記録がなく、地域的に絶滅した可能性も指摘されている。
今回確認されたキンバリー地域でも、生息が確認された場所の多くは沖合にある島々で、本土側で確認された目撃情報は非常に少ないのが現状だ。
キンバリーに2,500以上ある島のうち、糞のDNA解析によってナバレクの生息が確認されているのは、わずか5島にすぎないという。
その一方で、過去の博物館標本からは、1950年代や1970年代には今回の調査地域を含む本土のキンバリー側にも生息していたことがわかっている。
だがそれ以降、半世紀以上にわたって、この一帯でのナバレクの目撃情報は途絶えたままだったのだ。
この画像を大きなサイズで見る本土の2か所で生息を確認
AWCによると、今回ナバレクの姿が確認された場所は、同州北部・キンバリー地域の、ダンビマンガリ郡にある2つの地点である。
うち1か所は、オーストラリア国防省が管理する軍のヤンピ・サウンド訓練区域で、ここでナバレクが記録されたのは初めてだそうだ。
ヤンピ・サウンドとその周辺は、険しい山地や峡谷、サバンナなどが残る、オーストラリアでも貴重な野生生物の生息地として知られている。
オーストラリア政府の「絶滅危惧種行動計画」で保全を優先する20地域のひとつにも選ばれた地域なのだ。
この地域で、AWCは国防省や先住民レンジャーらと協力し、火災管理や野生化した動物の対策、生物調査などを進めている。
もう1か所はそこから約170km離れた地域だった。今回の本土での新たな生息確認は、ナバレクの分布を知るうえでも重要な発見となったという。
この画像を大きなサイズで見るカメラとDNA分析でナバレクと確認
今回の発見はAWCと、地元の先住民組織「ダンビマンガリ・アボリジナル・コーポレーション(DAC)」の共同調査で確認されたものだ。
調査に携わったAWCの上級フィールド生態学者ラリッサ・ポッター氏は、キンバリー地域で野生動物の調査に取り組み、DACとの共同調査も進めてきた。
ダンビマンガリに古くから暮らしてきた先住民の人々と協力することは、この土地の生物多様性について理解を深めるうえで欠かせません。
彼らが持つ知識と、AWCの科学的な調査手法を組み合わせることは、ナバレクのように見つけるのが難しい動物を探し出すうえで、とても大きな力になります
調査チームはモーションセンサーカメラを設置して、この地域にナバレクが今も生息しているかを調べていた。
だが、カメラに小型のイワワラビーが写っても、すぐにそれがナバレクだと断定することはできない。
キンバリーにはミミナガイワワラビーやバービッジイワワラビーなど、ナバレクによく似た小さなイワワラビーの仲間が、ほかにも生息しているためだ。
そこで調査チームは、モーションカメラの画像だけでなく、現地で採取した糞のDNA分析も行った。
DNAからナバレクの存在が確認されると、その結果をもとにカメラ画像を改めて調べ、体の模様や形などを比較した。
こうして複数の証拠を突き合わせることで、今回判明したふたつの地点に、ナバレクが現在も生息していることを確認したのである。
この画像を大きなサイズで見る今回、DNA分析でナバレクと確認された個体の画像は、今後の調査で種を見分けるための基準にもなるという。
確実にナバレクと判明した画像を蓄積し、体の模様や体つきなどの特徴を詳しく比較することで、よく似たイワワラビーとの識別精度を高めていけるからだ。
ポッター氏は今回の発見について、次のように述べている。
これはこの種にとって、とても喜ばしい知らせです。本土側の2つの新たな場所でナバレクの生息を確認できたことは、この動物がどこに生息しているのかを理解する上で大きな前進です。
これまで知られていなかったキンバリー本土でも、この絶滅危惧種が生き続けていることがわかり、心強く感じています
大規模な山火事を乗り越えた島のナバレク
2024年末、キンバリー沖のオーガスタス島で、落雷による2件の山火事が発生し、島の半分以上が焼失した。
そこで調査チームは2025年8月、この山火事で焼けた場所と、5年以上火災の影響を受けていない場所を含む計16地点に、モーションセンサーカメラを設置した。
約1か月後にカメラを回収すると、ナバレクの姿は16地点すべてで記録されていたのである。
さらに、2024年の山火事で焼けた場所と、5年以上焼けていない場所との間で、カメラに記録されたナバレクの数に大きな違いはみられなかった。
これらの島には、野生化した猫が侵入していない。小型哺乳類を捕食する猫がいないことは、島のナバレクにとって有利な条件のひとつと考えられている。
また、険しい岩場には植物が焼け残っていた場所もあり、こうした一種の安全地帯が、ナバレクへの火災の影響を和らげていた可能性もある。
本土には、まだ知られていない個体群がいる可能性も
この地域の先住民、インガ・ペダーセン氏は今回の発見を喜びながらも、今後さらに詳しい調査が必要だと話している。
私たちは、もっとナバレクについて知りたいと思っています。個体群は健全な状態なのでしょうか?
島々にいるナバレクの個体数とも比較して、この動物が絶滅していないことを確認したいのです。
本土では、野生化した猫や火災が、彼らの命を奪っている可能性があるのではないかと考えています。
この動物についてもっと研究するための資金が得られれば、素晴らしいでしょう
AWCとDACは、今回確認された2地点を手がかりに、ほかの地域にもナバレクが残っていないか、引き続き調査を続ける予定だ。
現在は生息数すら十分にはわかっていないため、まずはどこにどれだけ生き残っているのかを把握することが、保全に向けた次の課題となるだろう。
ペダーセン氏は最後にこう語っている。
どんな動物にも、それぞれの歌と物語があります。小さな動物もいれば、大きな動物もいます。
みんなこの土地を健全に保つために、それぞれの役割を果たしています。みんな生態系の一部なのです。
本土にはもうナバレクはいないと聞いていたので、今もいるとわかって安心しました。それは、この土地が健全であることを示しているからです
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