
1人の人が一生涯をかけても終わらない実験は数多い。ここではそのうちの12の長期間に及ぶ科学実験を見ていくことにしよう。
1. ピッチドロップ実験 86年(現在も進行中)
オーストラリア、セイントルーシア

トーマス・パーネル教授は漏斗にピッチを入れて熱し、液体状になったところで蓋をした。そこから約3年の月日をかけて室温へと戻ったピッチが漏斗から出てくるように、漏斗の底を切り落としたのである。
1930年から始まった実験だが、トーマス・パーネル教授が存命中に落ちたピッチは2滴だけである。ピッチの落下速度は1滴に対しておよそ8.5年である事が現在確認されており、パーネル教授が1948年に亡くなって以来、この栄光ある実験はまだ続けられているのだ。2009年までに落ちたピッチの数は8滴で、80年たった今、9滴目が徐々に出来上がっているのだ。
あまりにも突然起こる現象のため、ピッチが落ちる瞬間を見た人物は未だかつて居ないのである。2000年にウェブカメラが設置された事もあったが、技術的トラブルに見舞われ、8滴目を逃してしまった。
2. べヴァリー時計 152年(現在も進行中)
ニュージーランド、ダンデイン

内部の機械である錘を1ポンド上げ、時計が1日分動くには摂氏プラスマイナス6度の気温変化が外部で起きなくてはいけない。この時計の量産型として有名なのが「アトモス時計」である。
3. オックスフォード・エレクトリックベル 170年(現在も進行中)
イングランド・オックスフォード

2本の乾電池(何で出来ているかは不明)の下に繋がれた2個の鐘から成るこの機械は、1840年に発明されて以来、常に等間隔に両方の鐘を鳴らし続けているのだ。乾電池の残り残量が無くなれば機械は停止するはずだが、それが何時止まるのかは誰にもわからないのである。
常に音を鳴らし続けるこの機械は、まるで誰かがスヌーズモードを解除させないようにしているかのように厚い二重構造のガラスで守られている。
4. ビール教授の発芽実験(現在も進行中)
ミシガン州、イーストランシング

ビール教授がガラス瓶を最後に埋めたのが137年前である。彼はこの実験がこれほどまで長く続く物だとは到底思っていなかった事だろう。本来は5年ごとに掘り返される筈だったガラス瓶も、ビール教授の後継チームが冬季に「土が硬すぎる」という理由で掘り返すのを断念して以来、20年ごとに掘り起こすように実験内容が変更されたのである。
これによりビール教授が最後に埋めた20本目のガラス瓶が掘り起こす作業は今から80年以上あとの西暦2100年の事になるのだ。
5. ヘンリエッタ・ラックス女史の細胞実験 66年(現在も進行中)
世界各国

彼女の死の間際、彼女の細胞は彼女の知らない所で採取され、科学者たちの間で「ラックス腫瘍」として実験に使用されていたのである。
彼女の細胞は「ヒーラ細胞(HeLa細胞)」という不死の細胞群としての可能性を秘めている事をとある医者が発見して以来、彼女の細胞は株を分けられては育てられ、無限に増殖を続けているのだ。彼女のこの細胞は極めて稀であり、現在に至るまで何の問題なく「人間の細胞の模型」として使用されている。
当初はポリオワクチンの実験に使用されていたこの細胞は現在癌、AIDs、放射能や化学物質の細胞への変化、ゲノムマッピング等、多岐にわたる分野で使用されている。現在ヒーラ細胞の使用をめぐり、1万1000種類の特許が存在しており、科学者が過去50年に作ったヒーラ細胞の総量はおよそ20トンにも及ぶ。
しかし、ヒーラ細胞の増殖率力を問題視する事件も幾つか存在する。
ヒーラ細胞はその増殖力ゆえに、何度かラボのヒーラ細胞汚染が発生しているのだ。ヒーラシア細胞は取扱いに気をつけねば、少しでも意図しない場所に紛れ込んでしまった場合、全ての実験が有効性を失う可能性を秘めているのだ。
6. レンスキーの「長期的進化論実験」 28年(現在も進行中)
ミシガン州

1988年、リチャード・レンスキーによって考案されたこの実験は、彼が大腸菌であるE.coliを20年かけて別々に培養した事から始まる。彼の実験チームは新しいE.Coliが増殖するたびに、その内の1%を新しいフラスコに移し、それを幾度となく繰り返したのである。これにより彼は12種類の別々の世代の大腸菌の培養に成功したのである。そして驚くべき事にその内の1種は他の大腸菌には見られないクエン酸への耐性を獲得していたのである。
未だに続けられているこの実験は過去に数百から数千万の進化による多様性を見せて来たが、大腸菌が継続して獲得し続けるに値する進化は10個から20個しか無く、他の進化は後の世代で消えてしまっていた。
2011年2月、実験はおよそ5万種の世代を作り上げた。ちなみに私達ホモサピエンスがこれまで獲得した進化の世代は7500種のみである。
7. 火星環境研究「バイオスフィア・ツー」
アリゾナ州、オラクル

だがこの実験は最終的には失敗したそうだ。
それは人為的・心理的な要因からだ。この環境下で生活し始めたバイオスフィアン(バイオスフィア内で暮らす人々)は時間と共に憂鬱になり、お互いを嫌悪し始めたそうだ。この実験結果は別段珍しい物ではなく、閉ざされた環境に人間が置かれると、こういう問題に直面するのはよくある事なのだという。
近年行われた8ヶ月に及ぶスペースステーション疑似体験実験でも同じような事が起きている。実験が始まってからおよそ6ヶ月経つと、実験に参加していた二人の宇宙飛行士は拳での殴り合いをしてしまった。話によると、カナダ人の女性はロシア人の男性宇宙飛行士にキスされそうになり、セクハラによる喧嘩が起きたのだという。
その後バイオスフィアの一件もあり、こういった閉ざされた空間での心理現象に対する学問を「環境心理学」と呼ぶようになったのだ。
8. 人間スピーチオム・プロジェクトとボーイフッド (まるまる3年)

この環境下での実験はおよそ1024テラバイトの実験データを必要とし、教授が獲得した実験データは今も彼の地下倉庫に眠っている。
9. ラボラトリー・オブ・アダルト・デベロップメント 144年
マサチューセッツ州 ボストン

2年毎に被験者には社会的地位、肉体的健康などの数多くの分野のチェック項目があるアンケート用紙が渡され、ストレス・幸福度・病気の遺伝等の記録が行われた。72回目の実験結果が収集された時、科学者たちはこの研究で「本当の幸福とは何か」を確かめようとしたのである。
10. オルガン2/ASLSP (2001年〜2640年終了予定)
ドイツ、ハルバーシュタット

11. 動物の家畜化実験

記録に残っている家畜化実験の中で最も記録が残っているのは銀狐に関する実験群だ。1959年にソビエト連邦の科学者であるドミトリ・ベルイェブは「狼が犬になった」現象を理解しようとしていたのだ。その後彼は51年間にわたり、捕えた銀狐を育て、ペットとしての銀狐を作り上げたのである。
via:Atlas Obscura's Guide to the Longest Running Scientific Experiments/ translated riki7119 / edited by parumo
▼あわせて読みたい





コメント
1. 匿名処理班
ヒーラ細胞は本人の許可なく接種培養されて、これほどまでに
ありとあらゆる実験に使われているという事を遺族にも説明していなかったんだよね
遺族側には不快感をしめすものもいるけど、判明した時点でもうヒーラ細胞の使用を止めることはできない状態で
ある意味科学のために犠牲になったと言ってもいい
2. 匿名処理班
気になってASLSPの動画見たけど、廃教会の中にポツンとオルガンが1つ。
それが1つの音を発し続けているのが、不気味で怖かった。
3. 匿名処理班
あると思ったらやっぱりあった>・10オルガン2/ASLSP
しかしまあ、完全無音の曲を作曲(?)したり、こんな長すぎる曲を作曲したり、ジョン・ケージって人はナニ考えてたんだろうかねぇ
4. 匿名処理班
ピッチドロップ実験、ドモホルンリンクルを見る人の超上級者向けって感じだな
5. 匿名処理班
ドミトリ・ベルイェブはドミトリ・ベリャーエフの英語読みだろうか?
6. 匿名処理班
心臓病専門医のおいらとしてはフラミンガム研究(68年 現在進行中)も入れてほしい。
7. 匿名処理班
このすべての研究者ってドモホルンリンクルが一滴ずつ
出るのを見つめていても飽きずに観察できそう
8. 匿名処理班
陽子崩壊は?
9. 匿名処理班
後半しょぼいけど
日本のショウジョウバエの
暗闇閉じ込め進化実験は?
10. 匿名処理班
明治神宮の森だっけ、あれも壮大な人工林実験とも言えるような
11. 匿名処理班
京大の「暗黒バエ」もまだ進行中みたい。
完全な暗闇でショウジョウバエを繁殖・世代交代を繰り返し行って、遺伝子の変異を調べる実験。かれこれ60年・1500世代以上も続いていて、嗅覚などに変異が見られるけど、肝心の「視力喪失」には到ってない模様。
どれだけ途方もない時間を掛けて生物が進化していったのかを知る、物凄く有意義な実験だと思う(*'-')
12. 匿名処理班
竜骨座ベータだったっけ超新星候補ナンバーワン、ずっと観測してる人が居るんだろうな。
13. 匿名処理班
普通の人の細胞はひーら細胞みたく無限に増殖できないの?
彼女みたいな細胞の持ち主は何万人に一人ぐらいなの?
そんなすごい細胞の人なのに早死にしちゃったの?
14. 匿名処理班
ピッチドロップは事故で9個目が落下して今は10個目だよね
15. 匿名処理班
京大の暗黒ショウジョウバエはどうした
16. 匿名処理班
※12
ものすごい実験だな
17. 匿名処理班
8、人間スピーチオム・プロジェクトは、TEDでプレゼンしてたはず。
面白かったよ。
18. 匿名処理班
※14
無限に増える細胞が体内にあったら、すぐ癌になっちゃいますよ。
実際ヒーラ細胞は癌から抽出されたものです。
たしかそんなショートショートがあったような。
不死の薬が成功したはいいけど、ガン細胞も不死化して体中がガンに侵されながらも不死のままという……。
19. 匿名処理班
ここの記事読んでから寝たら
ピッチドロップが落ちたのを目撃した夢見たw
20. 匿名処理班
京大のショウジョウバエは後継者が現れたのかな?
担当教授が移動みたいだけど。
21. 匿名処理班
長い曲についてはもっと長いのも有りましたよ
「Longplayer」って曲で2000年1月1日から1000年反復無しで演奏されてまた戻るそうです
22. 匿名処理班
そんな柱間細胞のみたいな細胞が現実に存在するとは・・・
23. 匿名処理班
最後、ちょっとダレたな。
24. 匿名処理班
ドラえもんのバイバインを思い出した。
そのうち、誰かが汚染を漏らして
地球がヒーラ細胞で埋め尽くされるに違いない。
25. 匿名処理班
発達心理学か何かの研究で、十数人の被験者を7年ごとに追っていくプロジェクトがあったような気がするが。
NHKかどこかで紹介された時、被験者は49歳だったか56歳だったかしたはず。
26. 匿名処理班
>技術的トラブルに見舞われ、8滴目を逃してしまった。
運なさすぎだろ!
>乾電池(何で出来ているかは不明)
記録しとけよ!
>「土が硬すぎる」という理由で掘り返すのを断念
がんばれよ!
>彼女の細胞は彼女の知らない所で採取され、
医者、自由か!
>バイオスフィアン
名前つけたんだ!
>実験データは今も彼の地下倉庫に眠っている。
活用しろよ!
>科学者たちはこの研究で「本当の幸福とは何か」を確かめようとした
大川さんかよ!
>如何に長い間一つの音楽作品を演奏し続けられるかという実験と言えるかも
無理あるだろ!
>「狼が犬になった」現象を理解しようとしていた
じゃあ狼でやれよ!
27. 匿名処理班
3歳まで完全に録画するとか結構な狂気。
28. 匿名処理班
科学者なんて一般人の生活からしたらみな狂気的活動してるよ
29. 匿名処理班
暗黒バエって、環境がそうだからって
生存に影響しないなら視力を失うかはただの運次第じゃないのん?
30. 匿名処理班
※31
そうかもしれんし、そうでないかもしれん。それを確かめるための実験ってこったね。
31. じょん・すみす
バイオスフィア2実験が中止になったのは、施設内の自然環境が
急速に劣化していったっから。
って理由もあったんじゃ無かったかな?
たしか、施設内の酸素がなぜか急速に失われていく、と言う
謎の現象が起きて、外から酸素を何度も補給しなければならなかったとか。
32. 匿名処理班
hela細胞今でも実験で使ってるよ。この女性からのものだったんだね。すごいね。
33. 匿名処理班
>>彼女の細胞は彼女の知らない所で採取され、
>医者、自由か!
当時はその辺の法律が未整備で、特に許可いらんかったのだ
34. 匿名処理班
バイオスフィア2実験の酸素喪失は、謎というよりは考慮不足だな
土中の微生物の酸素消費量の見積もりが甘く、想定してた酸素生産量じゃ追いつかなかったと
確かに当初は謎ではあるんだけど、判明したあとも謎々言ってると陰謀論になるからね