この画像を大きなサイズで見る食卓でお馴染みのアボカドの木は、毎日2回、正確なスケジュールで花の性別をオスとメスに切り替えている。
1世紀近く科学者を悩ませてきた謎めいたメカニズムが、ついに解き明かされた。
アメリカのカリフォルニア大学などの研究チームがゲノム解析を行い、開花リズムを制御する単一の遺伝子を特定した。
遺伝子による切り替えは約4,200万年前から受け継がれており、植物界でも極めて古い進化の産物であることが判明した。
この研究成果は『Proceedings of the National Academy of Sciences』誌(2026年7月28日付)に掲載された。
アボカドの木は毎日決まった時刻に性別を切り替える
花が実を結ぶには受粉が必要になる。花粉を作るのがオシベで、花粉を受け取るのがメシベである。
ハチなどの虫が花から花へ飛び回って花粉を運び、メシベに花粉がつくと種ができ、実がふくらんでいく。
多くの花と同じように、アボカドの花にもオシベとメシベの両方がそろっている。
性別が切り替わるといっても、花のつくりそのものが変わるわけではない。オシベがはたらく時間とメシベがはたらく時間が、初めからずらしてあるのだ。
アボカドの花は2日かけて2回開く。1回目に開いたときはメシベだけがはたらき、虫が運んできた花粉を受け取る。
花はいったん閉じ、翌日にもう一度開くと、今度はオシベが花粉を出す。同じ花のオシベとメシベが同時にはたらくことはないため、自分の花粉が自分のメシベにつく自家受粉は起きない。
自家受粉を避けているのは、別の木の花粉と組み合わさったほうが、病気や環境の変化に強い子孫が生まれやすくなるからである。
時間をずらす植物は他にもあるが、アボカドは木ごとに時間割が決まっていて、しかも2種類しかない。
A型の花は1日目の午前中にメシベがはたらき、2日目の午後にオシベが花粉を出す。B型の花は1日目の午後にメシベがはたらき、2日目の午前にオシベが花粉を出す。
午前中の果樹園では、A型の木が花粉を受け取っている一方で、B型の木は花粉を出している。
午後になると立場が入れ替わる。花粉を出す木と受け取る木が時間帯ごとに交代するため、花粉は必ず別の木へ運ばれていく。
果樹園でA型とB型を混ぜて植えるのは、時間割を利用して実つきを良くするためである。
スーパーに並ぶアボカドの大半を占める品種ハス(Hass)はA型で、生産者は隣にB型の木を植えて花粉を供給させている。
この画像を大きなサイズで見る切り替えの時刻を決めていたのはたった1つの遺伝子だった
アボカドの時間割は、カリフォルニアで品種づくりが始まったおよそ100年前から知られていた。
それでも何がA型とB型を分けているのかは、長いあいだわからなかった。
カリフォルニア大学デービス校が主導し、リバーサイド校が協力した研究チームは、2つの作業を並行して進めた。
A型の品種とB型の品種を交配して育てた374本の苗木について、ゲノム全体を調べて開花型と結びつく場所を探した。
同時に、500本を超える木の花が何時に開いて何時に閉じるかを、昼も夜も現場で記録した。アボカドの開花はわずかな気温の違いで数時間ずれてしまうため、同じ木を何度も見に行かなければならなかった。
2つの結果を突き合わせると、SDMYBと名付けられた遺伝子が1つだけ残った。
SDMYBは、花が開く時刻や花粉を出す時刻を決めるスイッチとしてはたらく遺伝子である。
SDMYBという遺伝子は1つだが、中身には2つの型がある。
人の血液型と同じで、同じ遺伝子でも少しずつ形が違う。優性の型を持つ木はA型になり、劣性の型だけを持つ木はB型になる。
メンデルが見つけた遺伝の法則どおりの伝わり方をしていた。
研究チームが1日の中での遺伝子のはたらき方を調べると、A型では遺伝子のスイッチが入る時刻がB型より遅れており、遅れの幅は2回目の開花が遅れる幅と一致していた。
遺伝子が動く時刻のずれが、そのまま花の開く時刻のずれになっていた。
この画像を大きなサイズで見る2つの型は4200万年前から消えずに残ってきた
研究チームは、アボカドと近い仲間の植物についても同じ遺伝子を調べた。SDMYBの2つの型は、アボカド以外の少なくとも26種からも見つかった。
化石を手がかりに、2つの型が枝分かれした時期をたどると、およそ4200万年前の始新世にさかのぼった。
以来ずっと、どちらの型も失われずに受け継がれてきたことになる。人類が現れるよりはるか昔である。
どちらか片方に偏らなかった理由は、繁殖のしくみで説明できる。
A型ばかりが増えると、B型の木は花粉をやりとりする相手に困らなくなるので有利になる。
逆にB型が増えると、今度はA型が有利になる。多いほうが不利になり、少ないほうが有利になる関係が働き続けたため、どちらの型も途中で消えなかった。
この画像を大きなサイズで見る花が咲く前に型がわかり、品種づくりの時間が縮まる
生産者や育種家は長いあいだ、苗木がA型なのかB型なのかを知る方法を持たなかった。
判別できるのは花が咲いてからで、アボカドが花をつけるまでには10年前後かかる。何百本も植えて何年も待ち、咲いてから振り分けるしかなかった。
SDMYBが特定されたことで、苗木の段階でDNAを調べれば開花型がわかるようになる。かかる年数も手間も、果樹園の場所も大幅に減らせる。
育種家が求めているのは、実の質が高いB型の品種である。
カリフォルニアの果樹園では現在、およそ10%をB型の授粉樹にあてているが、B型の実は商品価値が低いものが多い。
リバーサイド校が開発したルナUCR(Luna UCR)のように、花粉を供給しながら実も売れる品種を、狙って作れるようになる。
遺伝子を書き換えて開花型を変える技術が実用になるのはまだ先だが、欲しい型の苗木を最初に選び出す方法は、すでに使える段階に入っている。
この研究でわかったこと
- アボカドの花は、1日のうちでオスとメスのはたらく時間が入れ替わり、自分の花粉では実らない。
- 入れ替わる時刻を決めていたのは、SDMYBというたった1つの遺伝子だった。
- 遺伝子の2つの型は、約4200万年前に分かれてから、どちらも消えずに残り続けている。
まだわかっていないこと
- 同じ2つの型を持つ26種の近縁植物が、実際に毎日オスとメスを入れ替えているかは確かめられていない。
- 遺伝子を書き換えてアボカドの開花タイプを変える技術は、まだ実現していない。
References: doi.org/10.1073/pnas.2606876123 / Gene discovery could shave years off avocado breeding | UCR News | UC Riverside















