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野生動物の家畜化を実験・研究するロシア、ノボシビルスクの施設を訪ねて

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(著)

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 人間が飼いならしてペットや家畜にできた動物は、ほんのひと握りしかいない。その鍵は動物の遺伝子にあることが、最近の研究でわかってきたそうだ。野生動物が家畜化するプロセスや原因を解明する為の実験・研究施設が、ロシア、シベリア南部、ノボシビルスク郊外の農場にあるという。

 この施設に入ると、犬と同じように人間に尻尾を振り愛想を振りまくギンギツネが出迎えてくれる。ここにいるギンギツネは、人間の良き友になれる素質を持っている。それは驚くべき交配実験の成果だった。

 この施設ができたのは半世紀以上前。農場の近くにある細胞学遺伝学研究所の生物学者、ドミトリー・ベリャーエフの率いる研究チームが、近在の農場で毛皮用に飼育されていたキツネ130頭を集めてきた。このキツネたちを使って、今から1万5000年以上前に起きた、オオカミからイヌへの進化を再現しようというのだ。

 キツネの子が誕生するたびに、ベリャーエフたちは人間と接触させて反応を調べ、人間を恐れない個体を選んで交配し、世代を重ねていった。1960年代半ばには、実験は予想を上回る成果を上げていた。

 人間をこわがらないどころか、積極的に触れ合いを求めるキツネが生まれてくるようになったのだ。研究チームはミンクとラットでも同じ実験を行った。「ベリャーエフの成果ですごい点は、そのスピードです」と、イヌの遺伝を研究する米国ユタ大学の生物学者ゴードン・ラークは語る。「キツネがこれほど短期間で人間にここまでなれるとは……信じられない」

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 家畜化した動物には、野生の祖先とは異なる特徴が現れることがわかっている。たとえば体格が小さめだったり、耳がぴんと立たずに寝ていたり、尾がくるりと巻き上がっていたりするのだ。

 こうした動物は、人間の目には実際の年齢より幼く、かわいらしく見える。また、祖先では単色だった体毛が、家畜化することでまだら模様(斑毛(ぶちげ))になることもある。これらの特徴は家畜化の表現型と呼ばれ、イヌ、ブタ、ウシなどの哺乳動物はもちろん、ニワトリや、さらには一部の魚にも見られる。

 家畜化の成立過程を知る手がかりは少なく、いまだに謎だらけだ。動物の骨や石器などの遺物から、それぞれの動物がいつ、どこで人間と共存するようになったかをうかがい知ることはできるものの、家畜化が「どうやって」起きたかを知ることが難しいのだ。

好奇心の強い野生のイノシシが集落に近づき、残飯をあさるようになって世代を重ねるうちに、人間の食料として利用されるようになったのだろうか?

 今日のニワトリの祖先はヤケイ(野鶏)という鳥の仲間だが、最初のきっかけは人間が捕まえたのか、それとも向こうから近づいてきたのか? 地球上に生息する大型哺乳類は148種いるが、家畜にできたのはそのうちわずか15種にすぎない。これはいったい、なぜなのだろうか?

 実のところ、家畜化の厳密な定義は、科学者の間でもまだ定まっていない。どんな動物も、一代限りの個体レベルであれば、訓練次第で飼いならせる。たとえば1頭のトラを赤ん坊のときから育てて、刷りこみの結果、人間を家族と思うように育て上げることは可能だ。

 だがトラの場合は、飼いならされた親から生まれた子トラでも、生来の性質は祖先と同様、野生の獣そのものだ。これに対し、家畜化された種では、何世代にもわたって人間の身近で生活することで、飼育に適した性質が集団全体に植えつけられている。

その場合は野生の本能が、すべてとは言わないまでも、かなり失われている。家畜化は遺伝子レベルで起こる変化なのだ。

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 クケコヴァが取り組んでいるのは、今のところはまだ第一の段階、つまり人間になれる性質に関与する遺伝子を特定することである。

彼女は毎年夏の終わりになるとノボシビルスクを訪れ、その年に生まれた子ギツネたちの動作や発声などの行動を、客観的な指標によって数値化している。こうしたデータは、人になれたキツネ、攻撃的なキツネ、両者の「かけ合わせ型」という血統の記録と合わせて分析される。

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 家畜化しやすい動物が、もともと人間との接触を嫌がらない性質を持っていたことは確かだ。DNAの変異(もしくは変異の累積)によって、人間を恐れない性質が出現し、さらには進んで人間に近づくまでになったのだ。人間の出すごみを餌にしたり、捕食動物から守られたりといった利点もあっただろう。

 そのうちに人間のほうも、そばに寄ってくる動物に利点を見いだし、扱いやすい個体を選んで交配するようになった。トルートは、こう説明する。「家畜化のプロセスと言っても、始まりはただの自然選択だったはず。その後、人為的な選択が行われるようになったのです」

  では、次に何が起きたのか―そこがまさに研究者の意見の分かれるところだ。ベリャーエフとトルートの説が正しいとすれば、自然選択とそれに続く人為選択で人間を恐れない動物が選ばれた結果、巻いた尾や体格の小型化といった家畜やペットによく見られる特徴が引き出されたことになる。

 一方のアンダーソンは、好奇心が強い、恐怖心が薄いといった性質が出発点になったとしても、そうした動物がいったん人間の管理下に入れば、捕食動物に襲われにくくなることに目を向けた。

 ランダムな変異で、たとえば黒地に白いまだら模様のような目立つ特徴が生じれば、野生ではたちまち淘汰されてしまっただろう。だが、安全な環境ではそうした特徴が消えずに残ることとなった。さらに、そんな動物が子孫を増やした背景には、一つには人間の好みもあったのではないか。彼らの運命を変えたのは「行動の違いではなく、かわいらしい外見だったのです」とアンダーソンは主張する。

 2009年、アンダーソンは自説の裏づけとして、家畜と野生のブタの毛色の遺伝子変異の比較研究を行った。その結果、家畜化の過程で「珍しい毛色のブタが人間によって意図的に選択されていた」ことが示されたという。

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 なかなかに興味深いナショナルジオグラフィックによる研究の全編(4ページ)はここから読むことができるよ。

特集:野生動物 ペットへの道 ナショナルジオグラフィック

 家畜化のプロセスを遺伝子レベルで理解すれば、人間の社会的行動の起源について、多くのことがわかるかもしれない。「脳内で発現する遺伝子は1万4000以上あり、その多くはまだ謎です」とクケコヴァは指摘する。そこから社会的行動に関係する遺伝子を見つけ出すのは至難のわざだそうだ。

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この記事へのコメント 12件

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  1. 前に動画だったか画像をここかザイーガで紹介してたよね
    灰色ブチになったキツネはかわいかった

    • +1
  2. ゲノムじゃなくて、遺伝子情報が持つ「意味」そのものが全て
    解析されたら一体なにが起こるんだろう・・  ?

    • 評価
  3. 自然界で淘汰されるような模様の家畜種が種を拡大した理由が
    かわいらしい外見だから?
    それは只かわいさ関係なく野生種と視覚的に区別できる外見であることが家畜特有
    (又は特有であると錯覚させる)マーカーとして人類に機能し
    原種との選別時、生存しやすかっただけでは
    2匹の同じ親家畜から生まれた二匹の子がいて
    両方とも同じ性質だが一匹だけ模様が家畜になる前の原種と同じものがいる場合
    その模様だけで先祖帰りと判断して性質が出る前から間引くことは
    品種改良の古典的手法としてあるし
    外部データの大部分を視覚に頼る人類が選別する結果、
    原種と同じ外見が発現した家畜は淘汰圧がかなり淘汰圧がかかってそう

    • +2
  4. 面白い研究だな~
    トナカイなんか野生のトナカイと飼われたトナカイがいて、
    飼うためのトナカイは大人しい雄から子供を増やしてくらしいけど
    外見とか変わってるのかな?

    • 評価
  5. 野生のイノシシを家畜化したのが豚ってのには
    実は続きがあって、食べる場所を増やすために
    胴の長い個体を交配して今の姿になるんだって。
    だからダックスフントよろしく、これ以上伸ばす
    と歩けなくなっちゃうんだってどこかで見たな。
    いずれにせよ貧しい自然環境の中で生きてきた
    人々の自然改造技術ってのは凄まじいね。
    時に良心の呵責に苦しむほど。

    • +1
  6. もともと犬は吠えることはあってもワンと鳴く性質はなくて人間と生活するうちに
    そうなったって何かで見た気がする。その証拠がジャンゴとかなんとかいう
    最後の野犬と言われてる種でそいつはワンとは鳴かないそうだ。

    • +1
  7. 家畜は世界中に広がっているし、遺伝子としては勝ち組なんだろうな。人間という環境に野生で適応してきてるカラスなんかは、頭いんだろうな。

    • 評価
  8. サクッとすげぇなと思う。
    とりあえず俺は最初にハムスターが人間に慣れることを発見し普及した人間を評価したいぞ。

    • 評価
  9. トルーパーはエピソード4ではオビワンと戦う場面はなくルークと戦闘するだけの
    ザコだったって何かで見た気がする。その本体がジャンゴとかなんとかいう
    クローン兵士のオリジナルでそいつはオビワンと戦ったそうだ

    • -1
  10. ナショジオの配信情報ありがとうございます。
    興味ありありです。

    • 評価
  11. なんか、こーゆーのよくわからん遺伝子実験を人間にやってるとみんなギャーギャー騒ぐのに…

    • 評価

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