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火星の家づくりレシピ。土壌に酵母とゼラチンを混ぜ3Dプリンターで建設

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Image by unsplash / Dmitry Grachyov
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 そう遠くない未来、火星に建つ家は木材やコンクリートではなく、土壌にゼラチンと酵母を混ぜて作られているかもしれない。

 香港科技大学の研究チームは、火星の表面をおおうレゴリスにゼラチンと酵母から作った接着剤を混ぜ、3Dプリンターで建材を作る構想を発表した。

 建設の障害でしかなかった火星の極端な低温と低圧が、フリーズドライと同じ働きで建材を固めてくれるという。

 この研究成果は 『Chem Circularity』誌(2026年9月10日付)に掲載された。

参考文献:

重い資材を運べない火星で、酵母とゼラチンで家づくり

 人類が火星に移住するとしよう。到着した人たちがまず必要とするのは住む場所だが、木材やコンクリートのような重い資材を地球からロケットで運ぶには、莫大な費用とエネルギーがかかってしまう。

 香港科技大学の土木工学者ジーシェン・チウ氏が率いる研究チームは、火星にあるものを最大限に使う建材のレシピを考案した。

 火星の表面をおおう細かい砂や塵であるレゴリスに、ゼラチンと出芽酵母から作った特殊な接着剤を混ぜ合わせ、3Dプリンターで押し出して建材にするというものである。

 接着剤に使う酵母は、ムール貝が岩に張り付くときに使うものと同じ強力な接着タンパク質を作り出すよう、あらかじめ遺伝子を改変する。

 ゼラチンが材料をまとめて酵母の育つ足場となり、レゴリスが建材の重さと骨格を担う。

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火星の住宅構想のイメージ図 Image credit:NASA/Clouds AO/SEArch

火星の極寒と低圧が、建材をひとりでに固める

 火星は極寒で大気が薄く、ほぼ真空に近い低圧の状態にある。

 研究チームは、建設の障害になるはずの厳しい環境を、そのまま建材を固める工程として使うことを思いついた。

 水分を含んだ建材が3Dプリンターのノズルから押し出されると、火星の低温と低圧によってフリーズドライ(凍結乾燥)と同じ現象が起こる。

 水分が凍り、氷が液体を経ずに水蒸気へと変わって抜けていくため、内部に微細な穴が無数に開いた、軽くて多孔質の構造ができあがる。

 チウ氏は、水分が抜けて硬くなるフリーズドライの果物から着想を得たと語っている。

 研究チームは地球の実験室に火星に近い環境を作り、−30℃、0.01気圧という条件でプリントを行った。

 使用したのは火星のレゴリスではなく地球の天然の砂で、できあがったのはワインのコルク栓ほどの小さなドーム(高さ45mm、幅30mm)である。

 それでも圧縮強度は10から12MPa(メガパスカル)に達した。

 建物用の一般的なコンクリートよりは弱いものの、低強度のコンクリートに匹敵する強さになる。

 チウ氏によると、重力が地球の3分の1しかない火星でなら、複数階の建物を建てられるという。

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左)−30℃、0.01気圧という火星に近い環境で3Dプリントされた生きた建築材料。右)材料内部の多孔質構造を顕微鏡で撮影したもの。黄色く示されているのが高分子と遺伝子を改変した酵母。Image credit:Ning Liu

加熱がいらず、酵母を回収して何度でも作り直せる

 これまで提案されてきた火星での建設方法の多くは、火星の岩石を高温で溶かしてレンガや梁を作るというもので、加熱に膨大なエネルギーを必要とした。

 ゼラチンと酵母を使う建材なら、火星の寒さと低圧が乾燥を肩代わりしてくれるため、加熱に使うエネルギーを減らせる。

 建材の中の酵母が生きたままである点も、セメントにはない使い方を生む。

 建物が不要になったら解体し、生きた酵母をひとつでも回収できれば、微生物を育てるバイオリアクターで増やして、新しい建材を作り直せる。

 研究チームは実際に、強度と酵母の生存率を大きく落とさないまま、材料を4回リサイクルすることに成功している。

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Image credit:NASA

放射線と低重力、最大の壁はロケットの輸送能力

 まだまだ課題も残っている。試験に使ったのは地球の天然の砂で、火星のレゴリスに含まれる塩や鉱物が酵母にどう影響するかは、確かめられていない。

 チウ氏は、生き物にとってより差し迫った脅威になるのは火星の強い放射線だろうと考えている。

 地球の3分の1という低い重力のもとで3Dプリントがどう働くかも分かっておらず、重力を下げて試せる設備を作ることが次の目標になる。

 プリントしたドームは建物の外殻にすぎず、人が中で安全に暮らすには、内側に気密性のある膜を張り、放射線を防ぐために現地のレゴリスで壁を厚くするといった対策が欠かせない。

 最大の壁は何かと問われたチウ氏は、酵母ではなくロケットを挙げた。

 1回の打ち上げ機会にスターシップ級のロケットを20機以上火星へ送り込めれば、意味のある規模の建設に足りるかもしれないという。

 火星は土と寒さと真空を提供してくれるが、それを家に変えるための機械と生物は、まず地球の重力を振り切らなければならない。

References: DOI.10.1016/j.checir.2026.100120

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