この画像を大きなサイズで見る2014年、メキシコ湾の深海を、ソナーを使って海底の物体を探知していた科学者たちは、巨大な構造物があることを確認した。
アメリカ海洋大気庁(NOAA)の調査チームは、「未知の難破船を発見したかもしれない!」と、期待に胸を膨らませて無人潜水機を送り込んだところ、船の残骸はなかった。
深海1,900mの海底にあったのは、海底から咲き誇る不気味で巨大な黒い花だったのだ。
花といっても植物ではない。地下から噴出したタールが冷たい海水の中で成分を失いながら固まり、花びらのように割れた自然の造形物だ。
「タールリリー」と名付けられた奇妙な塊は、光の届かない過酷な環境で多様な深海生物たちの豊かな住み処となっていた。
参考文献:
- Exploration of the Gulf of Mexico 2014: Mission Logs: April 24 Log: NOAA Office of Ocean Exploration and Research
- Tar Lilies - NOAA Ocean Exploration
深海1,900mで発見した海底に咲く花のような構造物
2014年4月24日、NOAAの科学者たちはメキシコ湾で潜水調査を行っていた。
水中を伝播する音波を用いて、水中・水底の物体に関する情報を得るソナー装置による探査で、水深1,900mの海底に巨大な構造物があることが判明した。
海底でこれほど大きな固形の構造物が見つかることは珍しい。調査チームは未知の難破船の可能性を真っ先に思い浮かべた。
科学者たちは考古学者とともに、遠隔操作型の無人潜水機ディープ・ディスカバラーを海底へと向かわせた。
ところが、潜水機のカメラが捉えたのは、黒く滑らかな物質がひび割れ、巨大な花のような形をした塊だったのだ
この画像を大きなサイズで見る海底から噴出したタールが固まってできた「タールリリー」
科学者たちは、この構造物が「アスファルト火山」の一例であることに気が付いた。
アスファルト火山とは、溶岩の代わりに、地下からアスファルトが環境中に噴出する自然現象である。
アスファルトは、石油から燃えやすい軽い成分が抜けたあとに残る、黒くねばついた重い成分をいう。
道路の舗装に使われるアスファルトも中身は同じもので、砂や砕石を混ぜて敷きならしている。
タールは本来、石炭や木材を蒸し焼きにして得られる黒い液体を指す言葉で、石油からできるアスファルトとは別の物質だが、見た目も粘り気もよく似ているため、英語圏では自然に染み出したアスファルトも古くからタールと呼ばれてきた。
今回発見された構造物は、巨大な花のような形状から科学者たちに「タールリリー(タールのユリ)」と名づけられた。
タールリリーは、人工物ではなく、地球の深部から海底の割れ目を通って染み出した物質によって形成されたのだ。
この画像を大きなサイズで見る冷たい海水に溶け出して縮み、花びらのように割れる仕組み
では、なぜタールが巨大なユリの花のような形になるのだろうか。
海底の下には石油の貯留層が存在し、そこからドロドロのタールが巨大なロープ状の塊として絞り出されてくる。
タールが深海の冷たい海水に触れると、揮発性の成分が水中に溶け出して徐々に体積が縮小していく。
ある限界点に達するとタールは流れなくなり、表面に亀裂や割れ目が生じる。
海底に押し出された巨大な塊が、流れを止めながらもろくなりひび割れることで、ユリの花びらのような独特の層を作り出すのだ。
タールリリーは多様な深海生物たちのオアシスだった
まるでエイリアンが残した構造物のような奇妙な造形物にも見えるが、タールリリーは野生生物にとって、一等地の不動産である。
海底に形成された硬い花びらの表面は、ハエトリソウに似た姿から名づけられたハエジゴクイソギンチャク、海綿、フジツボ、サンゴといった動物たちに絶好の住み処を提供していた。
さらに、アスファルトに含まれる石油の成分を栄養にするバクテリアが発生し、バクテリアを栄養源とするチューブワームやエビなどの多様な生物も定着していた。
太陽の光が届かない過酷な環境で、地球内部からあふれ出た物質が生命のオアシスを作り上げていたのだ。
この画像を大きなサイズで見るメキシコ湾のこの海域でタールリリーが確認されたのはこのときが初めてで、同じ日に2つ目も発見されている。
何世紀にもわたって海洋探検が行われているが、深海にはまだ我々の知らない神秘の世界が広がっているのである。
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