この画像を大きなサイズで見る2本の後ろ足で立ち上がり、川の中を二足歩行で歩いていく大きな母ヒグマ。そのすぐ後ろでは、小さな2頭の子グマが母親の後を追っている。
まるで水辺の歩き方を教わっているようにも見えるこの光景は、アメリカ・アラスカ州のカトマイ国立公園・自然保護区を流れるブルックス川で撮影されたものだ。
実はこの母グマは後ろ足で立ち、二本足で歩きながらサケを探しているのだ。しかも興味深いことに、これは彼女だけが思いついた「漁法」ではないらしい。
彼女の母親とみられるクマも、そして彼女の成長した娘とみられるクマも、やはり二足歩行で川に入り、同じ方法でサケを捕っているのである。
そして今、2026年生まれの子グマたちも、母親からこの方法を学び始めている。この一家では同じ漁のスタイルが、母から子へと継承されているのである。
水の中を二足で進む母グマと2頭の子供
今回撮影された映像の主役は、カトマイで個体番号284番、通称「エレクトラ」と呼ばれているメスのヒグマだ。
エレクトラは中くらいの大きさの成獣で、ふさふさした毛と金色がかった耳、そして肩の盛り上がりが目立って見えるのが特徴である。
この画像を大きなサイズで見るエレクトラは2008年に生まれ、最初は母親の708番「アメリア」に連れられてブルックス川へやって来たという。
子グマ時代のエレクトラは、好奇心旺盛で大胆だったそうだ。その性格はおとなになっても変わらず、やがて自らも子供を育てる母親となった。
これまでに2016年と2020年に子供を産んでおり、2026年には確認されている中では3組目となる2頭の子グマを連れて、ブルックス川へ戻ってきた。
映像でエレクトラは後ろ足で立ち上がり、二足歩行で川に入っていく。子グマたちも母親の後を追っていくが、まだ二本足で歩く様子は観察されていないようだ。
この画像を大きなサイズで見る母から子へと受け継がれる「クマの文化」
ヒグマの子供たちは、生きていくために必要なことを、すべて母親から教えられながら育っていく。
たとえば安全な巣穴を作る場所や避けるべき危険、何を食べるか、食べ物をいつ、どこで、どうやって手に入れるのかといったことである。
ほかの個体の行動を観察して学ぶこともあるが、その文化を次世代へ伝える役割を担っているのは、主に母親なのだそうだ。
二足歩行で川に入るのも、エレクトラの家系に母親から伝えられてきた「文化」のひとつなのである。
実際の映像は、この動画の中で見ることができる。
カトマイ国立公園では、Explore.orgというサイトと共同でヒグマの姿をライブ配信する「ベアカム」を運営している。
そのサイトの常駐ナチュラリストで、元カトマイ国立公園レンジャーでもあるマイク・フィッツ氏は、この「クマの文化」について次のように語っている。
クマの文化とは、人間の文化と同じように、生まれつきの本能として受け継がれるのではなく、社会的な学習によって維持される情報や生存戦略です
フィッツ氏が言う「クマの文化」とは、母から子へと伝えられる、餌のありかや危険を避ける方法、食べ物の取り方といった知識や生存戦略のことだ。
エレクトラの母親の個体番号708番「アメリア」は、サケを捕るときに後ろ足で立ち上がり、そのまま水の中へ歩いていく習慣があった。
やがて娘のエレクトラも同じ方法で狩りをするようになり、さらにエレクトラの娘で、すでに成長し自立している個体番号901番も、同様のやり方でサケを捕る。
つまり少なくともアメリアからエレクトラ、そして901番と、3世代にわたって同じやり方でサケを捕っていることが確認されているのだ。
フィッツ氏はこうしたエレクトラ一家の行動を、母親から子供へ受け継がれる「クマの文化」の具体例として紹介している。
この画像を大きなサイズで見るヒグマは母親から漁の方法を学ぶ
実はブルックス川では、ヒグマの個体ごとにサケの捕り方が異なるのだそうだ。
滝の上で待ち構えて跳び上がってきたサケをキャッチするものもいれば、滝壺で待つもの、サケを追いかけて前脚で押さえるものもいる。
水中に顔を突っ込んでサケを探すものもいるし、さらには水に潜ってサケを捕まえるものまでいる。
こうしたそれぞれの「漁法」の多くは、生まれつき決まっているわけではなく、学習によって身につけたものだと考えられているという。
アメリカ国立公園局(NPS)によれば、母親と同じ方法を使うクマも多い一方で、自分で別の方法を覚えることもあるそうだ。
また、いくつもの技を使い分ける個体もいれば、得意な方法をひとつだけ使い続ける個体もいるんだとか。
フィッツ氏は、母グマが子供に直接ブルックス川でのサケの捕り方を伝えることで、この地域の「サケを中心としたクマの文化」が維持されていると説明している。
アメリア、エレクトラ、901番に見られる「二足歩行で川の中を歩いてサケを捕る」方法も、その「文化」のひとつの具体例なのである。
もっとも、ヒグマが後ろ足で立ち上がること自体は、別に珍しい行動ではない。
NPSによれば、ヒグマが立ち上がるのは周囲の情報を集めるためであり、それだけで威嚇を意味しているわけではない。
人間に遭遇した際にも、相手が何者なのか確かめるために、二本足で立ち上がることがあるそうだ。
つまりエレクトラ一家で興味深いのは、立ち上がる能力そのものではない。
立った姿勢のまま水中へ歩いていくことを漁に利用し、それと同じ方法がアメリアからエレクトラへ、さらに901番へと受け継がれている点なのだ。
サケが支えるカトマイのヒグマたち
ヒグマは雑食性で、植物から動物までさまざまなものを食べる。カトマイのヒグマにとって重要な食べ物のひとつが、海から川や湖へ遡上してくるサケなのだ。
6月末になって、ブルックス川でサケの遡上が始まると、ヒグマたちも食べ物を求めて集まり始める。
特に7月は、上流へ向かうサケにとってブルックス滝は大きな関門であり、ヒグマにとっては効率よく魚を捕れる狩場となる。
大量のサケを求めて多くのヒグマが集まるこの川では、それぞれの個体がさまざまな方法で漁をする。
エレクトラの一族に受け継がれている独特な漁法も、そんなブルックス川で見られる行動の1つなのである。
約2年半、子グマは母親からすべてを学ぶ
カトマイでは多くのヒグマが10~11月に巣穴へ入り、5~6か月以上冬眠する。出産は通常、冬眠中の1~2月に真冬の巣穴の中で行われるという。
生まれたばかりの子グマは平均約450gと非常に小さく、目も見えず、自力ではほとんど何もできない。
オスが子育てに参加することはなく、母親だけで子供を育てる。子グマは巣穴の中で母乳を飲みながら成長し、2~4か月ほどして春を迎えると外へ出てくるのだ。
その後も子グマは、母親と約2年半をいっしょに過ごし、さまざまなことを学んでいく。生まれた翌年も母親と行動し、少なくとももう一度一緒に冬を越す。
そして多くの場合、生まれて3回目の夏となる5~6月ごろに子グマは母親のもとを去り、一人前のおとなのヒグマとして自立するのだ。
ただし、すべての親子が同じ時期に別れるわけではなく、3回目の夏も子供を連れ、さらに翌春まで一緒に過ごす母グマもいる。
フィッツ氏は、こうして子供と長い時間をともにする母グマが、その地域で培われた知識や行動を次の世代へ伝える「文化の担い手」であり、「教師」でもあると説明している。
この画像を大きなサイズで見る映像で、エレクトラの後ろを歩いている2頭の子グマが、将来この漁法を身につけるかどうかはまだわからない。
母から子へ、そしてまた次の世代へ。「クマの文化」がどのように受け継がれていくのか、この2頭の子グマの成長にも注目していきたいところである。
ヒグマと火山の大自然、カトマイ国立公園
エレクトラたちが暮らすカトマイ国立公園・自然保護区は、アラスカ半島に広がる広大な自然保護地域で、推定約2200頭のヒグマが生息している。
もともとは1912年のノバルプタ火山の大噴火で形成された「1万本の煙の谷」を保護するために設けられた場所だが、今では大量に遡上するサケと、それを糧に暮らすヒグマたちで知られている。
ただし、カトマイには道路が通じていないため、訪れるには飛行機や船を利用する必要があり、少々不便ではある。
それでもエレクトラたちが姿を見せるブルックス川周辺は、世界的なヒグマ観察スポットで、特に7月と9月には多くのヒグマを見ることができる。
実際に行くのは難しいというみんなも、ちょうど今、ベアカムではサケを捕りに集まっているヒグマたちの様子を配信中だ。
興味のある人はお好きなベアカムを覗いてみてはどうだろうか。
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References: 284 "Electra" | Katmai Bearcams Wiki | Fandom

















二足歩行する事で川で歩く音が少なくなるのかもねその後
サケを死角の上から静かに攻撃してしとめるとか。