
そんな中、寄生した対象の寿命を延ばし、さらに仲間から優遇され、働かなくてもいたれりつくせりの状態を作り上げる寄生虫がいる。
西ヨーロッパに生息する「ムネボソアリ」の仲間は、小型のサナダ虫(Anomotaenia brevis)に寄生されると、寿命が3倍以上に伸び、王侯貴族のような生活を送れるようになるという。
だがやはり、寄生虫がタダでアリに美味しい思いをさせることはなかった。そこには、サナダ虫の狡猾な戦略が隠されていたのだ。
寄生された働きアリは、寿命が延び王侯貴族クラスの扱いを受ける
今回の主役であるムネボソアリの仲間(Temnothorax nylanderi)は、枝やどんぐりなどの小さな穴の中に巣を作る習性がある西ヨーロッパのアリだ。働きアリは、幼虫のときにキツツキのフンなどから小型のサナダ虫(Anomotaenia brevis)に寄生されることがある。
すると働きアリだというのに、なぜか仲間たちからチヤホヤされるようになる。食事を運んでもらったり、体をキレイにしてもらったりと、いたれり尽せりで、感染アリが巣から出ることはほとんどなくなる。
しかも寄生されたアリは普通のアリの3倍以上も長生きする。寄生されたことで、若さや美しさまで手に入れてしまうのだ。

最終宿主となるキツツキに、美味しそうにみせるための策略
うまい話には裏があるのが通例だ。 なぜサナダ虫がアリにこんな極楽生活をプレゼントするのかちょっと考えてみよう。じつはサナダ虫が最終的に目指しているのはアリではない。キツツキなのだ。
サナダ虫としては、キツツキに感染するために、どうにか自分が仮住まいしているアリを食べてもらいたい。
だから、寄生したアリが長生きできるよう若さと美しさを与え、さらに仲間たちにもせっせと世話をさせ美味しそうに育て上げているというのだ。
そうやってサナダ虫がアリに良い思いをさせるのも、アリが無事キツツキに食べられて、念願の引越しを果たすまでのことだ。その後、アリの巣がどうなろうと知ったことではない。
さらに寄生虫はアリの巣の秩序までも乱していく。サナダ虫に感染されたアリが長生きする一方で、そのアリを世話する働きアリは、ずっと早く死んでしまうのだ。
また、働きアリが感染アリをかいがいしく世話する一方、女王アリの世話はおざなりになる。これはアリの巣全体にとって重大なトラブルになりかねない由々しき事態だ。

アリの血液にタンパク質を放出し、寿命と愛され度を操っていた
このサナダ虫は、こんな狡猾な戦略をどのようにして実行しているのか?ヨハネス・グーテンベルク大学の昆虫学者ズザンネ・フォイツィク氏らが『bioRxiv』(2023年5月22日付)に投稿した研究では、その秘密が探られている。
それによると、どうもサナダ虫がアリの体内に住み着くと、抗酸化作用のあるタンパク質などをアリの血液に流し込んでいるらしいのだ。
研究チームは、感染したアリと感染していないアリを比べて、血液(血リンパ)の中のタンパク質の量を調べてみた。
すると感染したアリの血には、サナダ虫由来のタンパク質がかなり混ざっていることが判明したのだ。特に多かった2つのタンパク質は、抗酸化作用があるものだった。
また、寄生されたアリが仲間からチヤホヤされる秘密と思われるタンパク質もあった。
その1つが「ビテロジェニン様A」だ。これはじつはアリ自身が作り出すタンパク質で、アリの身分や生殖に関連しているものだ。
サナダ虫はなんらかの方法でビテロジェニン様Aを操作して、寄生しているアリが仲間から愛されるよう仕向けている可能性がある。
そもそもアリの身分は生まれ持った遺伝子の違いではなく、その発現の仕方によって決められているのだそう。
「制御経路をハッキングして、アリを女王のように見せかけるのは、寄生虫的にはエレガントな作戦かもしれない」と、フォイツィク氏らは論文で説明している。
ただし本当に寄生虫がアリを操作しているのかどうか証明するのは、不可能ではないにしても、かなり難しいという。
研究チームは、この寄生虫のタンパク質がアリにどのように影響するのか解明するべく、今後も研究を続けるとのことだ。
References:There's a Parasite That Triples Ants' Lifespans... And It Actually Sounds Pretty Great : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
> 寄生した対象の寿命を延ばし、さらに仲間から優遇され、働かなくてもいたれりつくせりの状態を作り上げる
寄生されたい...
2. 匿名処理班
凄すぎる
3. 匿名処理班
適者生存できた生物が現代でたまたま観測でき、過去にはもっと多種多様な生物が居た(そしてこれからも出てくる)と思うと生物って凄いな。
ミクロな世界だから探せばもっと出てくるんだろうな。
4.
5.
6.
7. 匿名処理班
人間にも腸内細菌とか。
8. 匿名処理班
なんか、将来は生贄にするために贅沢な養育する怖い話を思い出す。
9.
10. 匿名処理班
アリを人間にサナダムシを宇宙からの生命体に見立てて これで一本SFが書けそうだな。BY星新一
11. 匿名処理班
寄生されて寄生虫のような生活を送るのか・・・
12. 匿名処理班
最終的には食われるにしても、三倍の寿命でイケメン生活遅れたら寄生されたいと人間でも考えるかも
13. 匿名処理班
女王アリと勘違いさせる感じなのかな…寄生虫の戦略多様性はホントに面白いな
14. 匿名処理班
>>10
ブルギさんを思い出した。こっちのほうがもっと直接的だけど
15. 匿名処理班
スターゲートに出てきたゴアウルドみたい
16. 匿名処理班
かなり小型のサナダさんだね。
自分の体で飼ってた研究者がいたな〜。
名前まで付けてた。
17. 匿名処理班
似たような奴が老舗会社をつぶした例を見たことある
アリもだが人もこの手の奴ヤバイ
18. 匿名処理班
星新一の話思い出した
19. 匿名処理班
アリはありのままに生きようとしただけ
20. 匿名処理班
>>16
きよみちゃん
21. 匿名処理班
王国に現れた宗教の教祖みたいだな‥‥‥
22. 匿名処理班
>>10
いやサイレント侵略や寄生モノのSFなんて山ほどあるよ
70〜80年代のSF映画は特にそういうの多い
23. 匿名処理班
>>22
いやってつけるの、相手はかなりイラってくるからやめときw
実は80年代に結構流行ったよ〜〇〇とか。でええんやで。
24. 匿名処理班
人間に応用できれば、息子から輸血しなくて済むかも
25. 匿名処理班
寄生虫て凄い賢いから未知が多すぎる
カマキリ操ったりゴキブリ操ったりまだまだ研究したら応用できるものがあるかもな🤔
26. 匿名処理班
>>8
アステカの方にあったよね
傷一つないようなイケメン捕虜はテスカポリトカ神の様に扱われ、生贄にされるまで凄い高待遇受けるという...
27. 匿名処理班
>>1
問題は、仲間がいれば、だな。
28. 匿名処理班
ビテロジェニン様Aとお呼び!
29. 匿名処理班
チヤホヤされ成分 ビテロジェニン様A を
ビテロジェニンさま、と呼んでしまったのはあたいだけ?
30. 匿名処理班
寄生しているものがまた別のものに寄生されているという可能性をゆめゆめ忘れぬよう…
31. 匿名処理班
これを応用すれば人間用のモテ薬が作れるのか?
32. 匿名処理班
>>15
アレも寄生虫だったね。
モンゴリアンデスワームみたいな。
あの作品では、ゴアウルドそれ自体に高度な知性があったけど、現実の寄生虫もやっぱり頭良いよなぁ。
33. 牛野小雪
人間に喩えると300〜500歳まで女王様扱いされて、最後は宇宙人に食べられる人生
寄生されたい人多そうだな
34. 匿名処理班
すっげ〜
寄生虫っておもしれー
35. 匿名処理班
>>22
冷戦期にあった共産主義者の社会への浸食の恐怖がモチーフになってるんだよね。
あの隣人はもしかしたら…エイリアン?みたいなノリで展開する侵略物SFね。
36. 匿名処理班
進化論の原理。自然選択だけでこんな絶妙な寄生虫が生まれるとは、直感的には信じがたいが、だが、莫大な時間を経てのちょっとずつの変化も、チリが積もればで、劇的な結果になるということだろうか。もしも創造説が正しいならば、神の御心は度し難いということになるが。
今後、さらに科学が先に進むと、今は未発見の生命進化の原理が出てきそうな気がする。
37.
38. 匿名処理班
受けるに値しない扱いをさせて社会の秩序を乱すやつ、人間にもいそう
寄生は怖いだ
39. 匿名処理班
ジュラル星人並に回りくどい戦略
捕食されるのも単に確率上がるだけだし、結局寿命は伸びるわけだし、やはりアリにとってはトータルではメリットのほうが大きい
40. 匿名処理班
>>39
「寄生されたアリ」にとってはな…
そいつの周りの働きアリは、女王アリでもないやつにご奉仕しちゃって寿命縮めるし、
女王アリはネグレクトされて衰弱死するしで、いいこと何一つない
法の穴をついて大もうけした人、そいつに群がるヨイショさん、
結果的にじゅうぶん評価されなくなった本当に社会を維持してきた人(だいたいヨイショさんに不当にバカにされる)の図みたいでやだなー
41. 匿名処理班
>>36
「多くの昆虫の行動や形態はホルモン分泌量の差で制御されている」という事実を知っていたら、そのホルモン分泌量を変化させるか、あるいは寄生虫がホルモン類似物質を分泌するだけでこの現象を引き起こせるということが簡単に予測できます。ヒント分かればむっちゃ単純な話。