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古代の遺物を手にしたことで呪われるというケースは良く耳にする。実際に呪いがあるのかどうかはわからないが、所有したものが不幸な目にあっているのは確かだ。そのひとつに、古代ローマで使われた武器、バリスタ(投石器)の石がある。今年、15年前に盗まれたバリスタの石がイスラエルに戻って来たというニュースが飛び込んできた。
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少年が盗んだ古代ローマのバリスタの石
2020年3月、盗まれたバリスタ(投石器)の石がイスラエル考古学庁に返還されたと報道された。モシェ・マニーズと名乗る仲介者を通じて、匿名の人物から返還された。マニーズによれば、2005年にまだ10代だったこの人物が石を盗んだという。当時、少年は友人と一緒にイスラエル、ダビデの町国立公園の城壁群を見てまわっていて、そこに置かれていたバリスタ石を勝手に持ち帰ったという。
これは、第一次ユダヤ戦争として知られている紀元70年のエルサレム攻囲戦で、ローマ軍がエルサレム市街や神殿などを破壊するのに使ったものとされている。

エルサレムの古代遺跡に残された投石用の石 image by:San Francisco, United States
15年後に返還
この15年で、少年は大人になり、結婚して家庭ももった。だが、古代遺物を盗んだ過去が彼の心に重くのしかかっていた。まるで、自分に"呪い"がかけられたような気がしたという。ある日、過越しの祭りのために掃除をしていたとき、盗んだ石を見つけた。折しも、世界的にコロナが蔓延していて、男性はこの世の終わりを強く意識した。その結果、罪を悔い改めたいと、石を返すことに決めたという。
マニーズがこの話をFacebookに投稿すると、フォロワーのひとりがイスラエル考古学庁の盗難防止ユニットの調査員、ウジ・ロトスタインにタグづけした。
ロトスタインは、仲介者のマニーズから石を受け取り、この返却を感謝した。これを機に、過去に遺物を盗んだ人たちに返却を呼びかけた。

000年前のバリスタ石をイスラエル考古学庁に返還した男性(右)。彼は15歳の
ときにダビデの町から無断で石を持ち去った
image by: Israel Antiquities Authority
幾度も盗まれては返還されるバリスタの石
バリスタ石の返還は、今回が初めてではなかった。5年前にべつの匿名の人物から、ふたつの石がやはり返還されている。これらの石は、イスラエル南部のネゲヴ砂漠最大の都市ベエルシェバにある、イスラム・近東文化博物館の庭に安置された。ふたつの石は袋に入れられ、ヘブライ語で説明がつけられている。
メモによると、この石は1995年7月、ゴラン高原の古代ユダヤ都市、ガムラから盗まれたものだという。この地域は、今日ではイスラエルが占領しているシリアの領土として国際社会に認識されている。
エルサレムと同様、ガムラも第一次ユダヤ戦争のときにローマと戦った都市だ。のちの皇帝ウェスパシアヌス率いるローマ軍が、町を包囲した。ユダヤ歴史家のフラヴィウス・エセファスによれば、町を守ろうとする者たちは包囲されても何ヶ月も抵抗したという。
だが結果的にローマ軍が砦を破り、町は引き渡されることになった。だが、残されたおよそ9000人の住民は町のはずれまで追い詰められながら戦い続け、崖から下の峡谷に身を投げて死んだという。
石を盗んだ者によると、これらの石は、ふもとの住宅街にあったものだという。しかしその後、盗んだ者に災難がふりかかり、バリスタ石を盗んだせいではないかと考えるようになったいう。
泥棒は、この石はトラブルしかもたらさなかった、として、呪われていることをほのめかし、石を返すことにしたというわけだ。そして、古代の遺物は決して盗んではいけないと強調したという。
20世紀後半に、ガムラで最初の発掘が行われ、1989年に終了した。発掘チームは、作業を終えるにあたって、現場で発見したすべてのバリスタ石をきちんと保管した。
ところが1995年、どういうわけかバリスタ石がふたつも盗まれた。しかも、数年間、なくなっていることすら気づかなかったという。こうした遺物は、比較的どこにでもある一般的なものだと考えられていることもあって、それほど驚くことでもないのだという。
イスラエル考古学庁の考古学者ダニー・サイオンによると、ガムラの発掘でおよそ2000ものバリスタ石が見つかったという。ガムラはローマ時代初期のバリスタ石がもっとも多く発掘された場所だ。
いずれにしても、これらの石は考古学庁の国立財宝部に送られた。ここは、遺物を健全に保管、管理する責任を負い、博物館に展示の助言や手ほどきをし、イスラエル国内や海外での展示を担当する。最終的に、盗まれたふたつのバリスタ石は、ガムラで見つかったほかの石と一緒にされた。

モザイクを作るのに使われるタイルやガラスなどの四角い小片、ローマのテッセラは、イタリア、ポンペイの発掘現場からよく盗まれたもののひとつ。これをふたつ盗んだあるカナダ人女性は、やはり呪われたと感じて、返却してきた。
image credit:
罪悪感から呪いが生じる?
このように、盗まれた古代遺物が返されてくることは、珍しいことではないという。例えば、盗難にあった2000年前のユダヤの棺が、テルアビブの住民によって返却された例がある。この男性は、これがなんであるかを知って、慌ててイスラエル考古学庁に返してきたという。また、ニューヨークの聖職者が、10年前にエルサレムから石を盗んだ自分の信徒の行為を恥じて、最終的にそれらを返してきた。
呪われていると信じられている盗まれた古代遺物は、イスラエルのバリスタ石がだけではない。ポンペイでも同様のケースがある。
あるカナダ人女性が、古代ローマ都市ポンペイで遺物を盗んだと告白、それからというもの女性の身に相次ぐ不幸降りかかってきたのだという。
盗んだことによる罪悪感が不幸な出来事を呪いに結び付けている可能性はあるが、古代の遺物を盗み出すようなことはやめたほうがいい。
References:ancient-origins
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コメント
1.
2. 匿名処理班
こういう丸いものをみる見ると…
磨いてツルツルにしたい。
3. 匿名処理班
画家の井上直久氏はインカ時代の頭蓋骨を貰ったら知人に事故が相次いだそうな。そんな呪いはさておき、数が多すぎて考古学的価値はないから放置されてたとしてもその土地の歴史にゆかりのあるものを浜辺の貝殻かなんかのように勝手に持ち帰るのは観光マナーに反するよね。
4. 匿名処理班
呪いは別として、お天道様は見ているぞ的な教えは大事だと思う
色々な誘惑へ踏みとどまる最後の砦になるんじゃないかな
5. 匿名処理班
投石用の石は、もっとその辺の普通の石だと思ってました。
弾(と言って良いか判りませんが)として、
丁寧に丸く加工してるのですね。
6. 匿名処理班
※5
不定形の石では重心の偏りとか空気抵抗とか色々な要素で狙ったようには飛ばずに命中しづらくなりますからね。
7. 匿名処理班
※5
同じく、加工されてるとは思ってなかった。
気になってちょっと調べてみたら、バリスタは投石器というより大型の弩砲で、思い描く投石器とは違ってた。画像検索すると分かるけど、あの形なら加工した石じゃないと飛ばせないね。石の他には金属の玉、極太の矢、火のついた球なんかを飛ばしたみたい。
8.
9. 匿名処理班
こんな重たい石ころ
持ってくの大変じゃね?
何がそうさせるのか
10. 匿名処理班
対馬から盗まれた日本の仏像も・・・ね。
11. 匿名処理班
昔よく物を盗んだからよくわかる
返したこともある
これはただの罪悪感だよ
12. 匿名処理班
盗んだ側がそれを「正しい行為」と確信してたらその意識が
継続しているかぎりにおいては「呪い」もまた自覚される
かたちでは発動しないんだよな。その「正しさ」の前では
ユネスコ条約など何の力ももたない。残念なことだ。
13. 匿名処理班
コスタリカで見付かる大石球も、本当はカタパルトで飛ばす為の兵器だったら凄いと思った。あちらは歴史に記録が残っていないので、用途不明とされているけどね。でももしそうだとしたら、飛ばしたカタパルトは凄く大型の物。。。という事になってしまう。果たして、そんな兵器が必要だったのだろうか?とか考え出すと、夜も眠れなくなる。(たぶん違うかな?という気も凄くする。石造りの強固な要塞でも攻めないと、そんなの不必要だし)まあ小さい物は実用品で、大きい物は儀礼用...とかは有り得るかも知れない。一体アチラは何に使っていたのだろうね?
14. 匿名処理班
弾を丸く加工するのも大変だったろうなあ。
15. 匿名処理班
日本だと荒城で瓦を拾ってくるようなもんだろうか?
昔行ったことがあって案外、昔の瓦って落ちてるもんなんだなと、思った。
さすがに落ち武者みたいなのが出たら嫌だな、そのままにしたけど・・・。
16. 匿名処理班
なんかジョジョのローリングストーンズを思い出した。
17. 匿名処理班
ウェスパシアヌスは据え置きなのにフラウィウス・ヨセフスの読みが聞きなれないもの採用してるのが気になるんじゃが
18. 匿名処理班
流行の言葉でいうと呪物だよね。
敵を倒す祈り(住民以外には呪い)がかかっているのだろう。
鏃のほとんどに同様の呪いがされてるそうだから、拾うときは注意。