
希望者にコロナワクチンを接種し、感染させ効果を確認するヒト感染試験 /iStock
世界中が新型コロナのワクチン登場を待ち焦がれているが、その開発を迅速に進めるべく、イギリスでは来年1月から「ヒト感染試験」が行われる予定だという。ヒト感染試験とは、人間を意図的にコロナウイルスに感染させて、ワクチンの効果を確かめる方法だ。参加を希望するボランティアは、まずワクチン候補とされる薬剤を投与され、その1か月後に新型コロナウイルスに暴露させられる。
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参加者同意のもと、意図的にコロナウイルスに感染させるヒト感染試験
現時点で、少なくとも30種のワクチン候補が人体による治験を行っている最中で、その参加者は数千人に及ぶという。一足先にワクチン候補を接種してもらえる参加者だが、手放しで大喜びするわけにはいかない。接種後もソーシャルディスタンスを守り、あえてウイルスに感染するような行為は慎まねばならないからだ。
その理由は2つある。1つ目は、あくまでワクチン候補なので、本当に効果があるかどうか分からないから。
そしてもう1つの理由は、対照実験の為、治験の参加者の半数が、実際のワクチン候補以外のものを接種されるからだ。
ワクチン候補を接種した人としていない人で、感染率に差が出るかどうかを調べるのが治験の目的だ。そして参加者本人には自分がどちらのグループなのかは知らされない。
ワクチン接種後、ウイルスへの免疫ができたかどうか不確かな状態で、外で感染しやすい行動をとるのは厳禁だ。そのために、ワクチン候補を接種されたグループとされていないグループに違いが出たかどうかを確認するまでにはかなり時間がかかる。
だが事態は急を要する。そこで参加者本人の同意を得たうえで、接種後、意図的にウイルスに暴露してもらい、ワクチン候補の効果をすぐに確認する。これがヒト感染試験だ。

Pixabay
意外と長い、ヒト感染試験の歴史
じつのところヒト感染試験には長い歴史がある。ワクチンの歴史自体がそもそもこれによって始まっているくらいだ。近代免疫学の父、エドワード・ジェンナーは、牛の乳搾りをする人は天然痘にかかりにくいという噂を耳にして、あえて牛痘に感染することで天然痘を予防できるのではと考えた。この仮説を証明するために、使用人の子供である8歳の少年に牛痘を接種。こうして世界初のワクチンが誕生した。
その後もヒト感染試験は行われ、コレラ、チフス、マラリアといった病気の治療薬開発に成果をあげてきた。
新型コロナウイルスに感染した場合のリスク
もちろんヒト感染試験を実施するにあたっては、基礎疾患のない健康な参加者のみに絞られており、万が一に備えて万全の医療体制が整えられるが、それでもなお危険がともなう。病気に対する確かな治療法があればその危険も最小限に抑えられるが、今のところ、新型コロナにそうしたものはない。
ただし、『BBC』によると、新型コロナの場合、これによる死者の10人中9人は何らかの基礎疾患があったのだという。また20代の人の死亡率は3300〜4万4000人中1人の範囲であるらしいが、この年齢層の死者のほとんどは基礎疾患のあった人だそうだ。したがって、若く健康な人なら、生命を落とすリスクはかなり低いと見込まれている。
ケンブリッジ大学の統計学者デイビッド・スピーゲルホルター教授は、健康な20代の死亡率が4万人中1人程度だったとすれば、毎年交通事故で死亡するリスクと同程度だと推測している。

参加希望者が多数殺到
生命の危険をともなうにもかかわらず、ヒト感染試験を推進する団体「1 DaySooner」にはすでに全世界から3万7000人もの人が参加登録をしているそうだ。インペリアル・カレッジ・ロンドンや製薬企業hVIVOによって運営される同団体は、100〜200人規模の検疫施設を助成するよう英議会に働きかけているとのこと。
参加者の1人、アラステア・フレーザー=アーカートさん(18歳)は、BBCの取材にこう答えている。
ヒト感染試験なら大勢の人々の命を救い、パンデミックをより早く終息させられるかもしれません。自分にはすぐに価値のあることだと思えましたReferences:UK To Deliberately Infect Volunteers With Covid-19 In World's First Human "Challenge Trials" | IFLScience/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
死ななきゃいいってもんでもない。
後遺症についてもまだよく分かっていないのに、
率先してボランティアに参加しようという人の心意気には感謝しかない。
2. 匿名処理班
勇気ある人がずいぶんいるものだと驚き、感心します。
自分にはとても真似はできません。
ボランティアの方々の誰一人、重症化したり後遺症が残ったりしませんように。
彼らの勇気のある行動の結果、有効なワクチンが開発されますように。
3. 匿名処理班
虎穴に入らずん場、丹波でルンバ
4. 匿名処理班
参加者殺到か…有り難い事だ
とは言え後遺症の実態をちゃんと説明して貰ってるかが気に成る所だな
日本の場合はどうもその辺の報道が弱いよね
他の国はどうなんだろ
5. 匿名処理班
ここまでの自己犠牲はワイには無理かな…
6. 匿名処理班
ボランティアってことは無償でやるんだよな、すごい
7. 匿名処理班
きちんと告知されている分だけアフリカのエイズワクチンの時よりもずっと良心的だと思う
8. 匿名処理班
そりゃ手持ちのウイルスに対するワクチンなんだから成功するだろうよ
変化してる可能性考えとけ
9. 匿名処理班
※6
ボランティアというのは「自らの意志により志願した者」という意味であって、無償とは限りません。
(元々は「志願兵」という意味です)
有償ボランティアというものも存在します。
日本では、「ボランティア=無償奉仕」という誤解が広まっているようで、いささか問題ではないかと思います。
10. 匿名処理班
ボランティアってマジかよ
一回罹ったら後遺症で全快にはならないとかも言われてるのに
11. 匿名処理班
だからまだ認可されてない薬って、べらぼうに高いんだよ
コロナはもう非常事態だから、囚人を使って
どんどんやって欲しい
12. 匿名処理班
※11
それは戦時中に捕虜を人体実験に使うような発想と、なにひとつ変わりませんよ。
13. 匿名処理班
※12
人間ね、悪いことしたらその分良いことをしないと一生悔いが残る
だから、生きてるうちに救われるようなことをしないといけないのだよ
ただ、強制でやったらおっしゃる通りだな!
14. 匿名処理班
※11
囚人だったら、開発途上のワクチンのために体調不良に陥ったり病気になったりしてもかまわないというのですか?
なんと恐ろしい発想でしょう。全体主義国家さながらです。
そのような強制が人道上も人権上も許されないから、「ボランティア」の治験者を募っているのですよ。
それゆえ、そのような発想・発言は、勇気あるボランティアの人たちに対する冒涜でもありますよ。
15. 匿名処理班
※14
悪いことをしたんだから、罪を償ってる
刑期を減らすなどして人の約にたってもらった方が
効率がいいと思う
囚人には選ぶ権利を与える
16. 匿名処理班
>>9
たしかに日本ではなぜ無償奉仕として広まったのでしょうね、どうせ耳障りがええからだと思いますが…
17.
18. 匿名処理班
治験はボランティアっていっても無償ではないよ。
危険性の高い試験ならそれ相応の謝礼が出る。
海外では知らないけど。
19. 匿名処理班
>>15
理屈としては間違いない。けど仮に実際にデータを取る立場にあると考えて下さい。
まず被験者は志願者である事が必須。次に一般社会人と同様の社会的距離が取れるような施設での服役囚であること。そして必要な医療体制に支障のないこと。
さらには、いったん下った司法判断に修正を加える手続き。対象者がかなり限定される上に、これら煩雑な処理を一人ひとり行うくらいなら、一般からボランティアを募るほうがいい。非常時だから尚更、その方が理にかなっています。
もちろん贖罪の意志は尊重されるべきで、それは司法制度に則った別の奉仕活動などに委ねるものです。
20. 匿名処理班
インフルエンザならまだしも風邪の免疫って三ヶ月で消えるそうだから無理にしなくても
新型コロナに感染して実際に症状が出て重症化して後遺症が出る確率と副作用のどっちが確率高いのやら
21. 匿名処理班
日本だと全然クソ雑魚な風邪なんだが、海外だと脅威度が桁違いだな。
22. 匿名処理班
※14
使用人の子供に……。
おいらの子供の頃読んだ偉人伝では、自分の子供にだったけどさ。
23. 匿名処理班
※15
そういうのを、弱みにつけ込む、と言う
24. 匿名処理班
※15
何でワクチン開発の人体実験に協力すると罪を償ったことになるのかがわからない
全然関係ないことじゃん