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脳の疾患がもとで起きた奇妙な現象:死んでいると思い込む、自分と他人の区別ができないなど5つのケース

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(著)

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 脳の異常が我々の思考や人格形成に大きな影響を与えるというのは前回記事にした通りだ。ここではさらに、脳の疾患がもとで引き起こされた、5つのケースを見ていくことにしよう。

1.自分自身の顔がわからない

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 人間の顔を識別する能力はすばらしい。わたしたちは、いたるところに顔を見つけ出す。これは「シミュラクラ現象」と呼ばれるもので、相手が敵か味方か識別するため、あるいは相手の行動や感情を予測するため、本能的に点線に顔を見いだそうとし、それを覚えるる専用のメカニズムのようなものを持っているのだ

 ところが、紡錘状回と呼ばれる脳の底部にある組織が卒中などで損傷すると、このメカニズムが失われ、顔の区別がまったくできなくなってしまう。もはや、顔を覚えるのが苦手といった域ではなく、社会的に深刻な問題になる可能性がある。ある患者は、ほかの男性を自分のパートナーと間違えたり、昨夜デートした相手と翌日にすれ違ってもわからなかったりといったことがあるという。

 また、映画を観ていても、どの登場人物がどの人なのか一致せず、理解するのに忙しすぎて、ちっとも楽しめないという人もいる。

 こうした症状がある人たちは、歩き方や服や髪型、会った時の状況などから、相手を識別するという次善策を講じて、混乱を回避している場合が多い。約2.5%の人たちが、顔の識別ができないこの相貌失認(失顔症)に苦しんでいると言われているが、自分で気がついていない人も多い。オリバー・サックスは、著作『妻を帽子とまちがえた男』の中で、自分が診察した失顔症の患者のことを書いている。

2.自分の夫が別人だと思い込む女性

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 1923年、フランスの精神科医ジョゼフ・カプグラらが非常に奇妙な患者について報告した。この患者マダムMは、自分の夫が別人と入れ替わっていると主張した。夫だけでなく、家族や友人や隣人がすべて別人になっているという。

 失顔症と違って、マダムMは彼らの顔をよく覚えていたが、彼らは“にせもの”だと思い込んでいるのだ。それ以来、医者の名前をとってこの症状はカプグラ症候群と呼ばれるようになった。ミセスDは、“偽”の夫とベッドを共にするのを拒み、寝室のドアに鍵をかけて、息子に銃を持ってくるよう頼んだという。

 これは統合失調症のような精神疾患や特定の脳損傷とよく結びつけられる。神経科学者のヴィラヤヌル・ラマチャンドランによると、この問題はふたつの脳システムの異常が関わっているという。人の顔を認識する役目を担う紡錘状回と、人に対する感情反応を担当する辺縁系と扁桃体という脳の部位がある。普通なら、夫や母親のように自分が愛している人を見ると、感情反応が起こるが、顔認識システムと感情反応システムの間のリンクが損傷すると、愛する人を見てもなんとも思わなくなる。

 ラマチャンドランは、この損傷したリンクがカプグラ症候群を引き起こしているという仮説をたてている。カプグラ症候群の患者は、自分の母親を見ても、母親に似ていると思うだけで、通常の温かな愛情を感じない。この人が本当に自分の母親なら、なんの感情もわかないのはどうしてだろう? だから、きっと母親ではないに違いないと思ってしまうのだという。

3.自分は死んだと思い込んでいる男性 

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 2012年に報告された日本人の患者の場合はかなり深刻な症状だった。彼は医者に、どうやら自分は死んでいるらしいので、意見を訊きたいと言ったのだという。ありえない話なので、医者は可能性のある原因を調べ、脳の右半球で酸欠による細胞組織の壊死である梗塞が起こっていることを発見した。

 こうした錯覚は何例か報告されているが、単刀直入に自分は死んでいると信じるケースはない。多くの場合、患者は自分の体の一部がないとか、自分の体に関して虚無妄想を抱いたりする。初めてこの症状が報告されたのは1788年、スイスの哲学者シャルル・ボネによるもの。自分は死んでいるとあくまで断言する年輩の女性が、家族に喪に服するよう強要した。結局、家族は折れて、喪に服するふりをしたという。

 それから1世紀ほどしてから、フランスの神経学者ジュール・コタールが、内臓がまったくなく、自分は不死だと信じている女性の症例を報告し、彼の名にちなんでコタール症候群と名づけられた。血液がない、何年も排泄していないなどと主張する患者もいたという。死んでいるのに、まだ埋葬されていないことをとても心配する88歳の男性や、脳や腸が消えてしまったとか、体が透けていると言い張る者もいた。シャワーを浴びないのは、自分が溶けて排水溝に流れてしまうのではないか不安だからという女性もいた。

 カプグラ症候群のように、コタール症候群も感情反応が知覚器官から分離してしまったことが問題で、紡錘状回と扁桃体の損傷に関連しているようだ。この場合、患者は家族に対する親しみや感覚を失うのではなく、自分自身または自分の体の一部に対する感覚を失ってしまうのだ。

4.1単語しか話せない男性

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1861年、ルイス・ヴィクター・ルボルニュは51歳で死んだ。彼は30歳から亡くなるまでの21年間、実質的にしゃべることができなかった。まったく言葉を話せなかったわけではなく、”tan”というような1音節だけは発することができた。何度もtanとしか言わないので、言語学の専門家であるピエール・ポール・ブローカは、彼の症状に興味を抱いた。

 ルボルニュは知性的な人間で、周囲のことがわかっていて、自分がどこに、どれくらいの間いたかということを伝える能力はあったが、言語を使うことをまったく忘れてしまっているのだという。

 彼は1音節しか発することができなかったため、なにを訊かれてもたいてい同じ言葉を2回繰り返すだけだった。彼はさまざまな仕草を交えて「タン、タン」と答える。だから、彼は「タン」というあだ名で呼ばれていた。

 ルボルニュが亡くなった後、ブローカは遺体を解剖し、脳の前頭回の後下部に損傷を見つけた。その部位は、今ではブローカ野という言語に関係する場所だということは知られている。

 のちの研究で、ブローカ野は単なる言語中枢というより、もっと複雑なシステムであることが判明した。まわりのたくさんの部位が言語を生み出すのに多く関わっているのだ。ブローカは言語は脳の特定の場所に集中していることに初めて気づいた人間だった。彼の研究によって、わたしたちの心は万能知性ではなく、高度に特殊業務をこなすたくさんのパーツで成り立っていることを初めて示すこととなった。

5.目が見えないのにそれを否定する人たち、またはその逆(アントン症候群)

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via:.buzzfeed・原文翻訳:konohazuku

 アントン症候群の人たちは、脳の視覚中枢が損傷していて、ものを見ることができない。だが、本人たちはそのことに気づいていない。見えないことを否定し、見えているふりをする。

 患者が家具などにつまずいたり、ひとりで出歩けなくなったりして、初めてまわりは患者の目が機能していないことがわかる。行く手にある壁や閉まっているドアを通り抜けようとしたり、実際にはそこにいない人や物のことを描写しようとし始めたら疑いはさらに強まる。

 この障害は後頭葉の損傷によるもので、有線皮質の損傷が原因の盲視(光源や他の視覚的刺激を正確に感じ取る盲人の能力)とは逆のパターン。盲視の患者はたいていまったく見えないか、片方の目が見えないと主張し、見えていることを否定する。これは、脳の視覚野と言語を司る部位の連携不全が原因ではないかというのがひとつの説だ。

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この記事へのコメント 33件

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  1. 5の症状の人は実際に接したことがある
    見えないのを認めるのが辛いという心の問題かと思っていたけど、脳の異常だったのか

    • 評価
  2. 奇妙すぎる…もう今夜は眠れそうにないor2

    • +8
  3. 結局のところ、脳は物凄く複雑なだけの情報処理装置でしかないんよね
    だから物理的に壊せば簡単にバグる・・・・・・

    • +1
  4. 脳梁実験の奴みたいだな
    「認識」と、認識したものを自分の知識と「照合」すること
    どちらか一つでもできなくなったら大変

    • +21
    1. ※4
      バグり方が奇妙すぎてわけわからん

      • +6
  5. 全盲なのにテーブルの上のコップを手探りもせず持ち上げ、牛乳を注いで飲める人を知っています。
    何十年も見えていないと、周りの反響音の変化や気配から「見えているのと同じくらいに」何処に何が有るかが分かるそうです。そちらの方が凄いってば

    • +6
  6. 私は1だわ
    年々酷くなってるから辛い

    • +13
    1. ※6
      外国では舌打ちの反響で、周りに何があるかわかる人が居るらしいね
      目の情報量は90%だっけ?視覚無くなると他の感覚が研ぎ澄まされるのは本当なんだね

      • +2
  7. 脳を外的に制御して病気とか治せないかな?精神的な病気じゃなくて、肉体的な病気

    • +1
  8. こういう症例もIPSで移植したら治るんかなぁ

    • 評価
  9. 俺も自分の髪の毛がないような気がするんだがこれはただの思い込みでいいんだよな?
    大丈夫なんだよな?

    • 評価
  10. 人の顔を覚えられないのは目が悪いせいだと思ってた
    自分が相貌失認だと知った時は驚いたし、同じ症状の人が50人に1人という多さにも驚いた
    職場には逆にすれ違っただけのすべての人の顔を覚えてしまうので大変という人もいるし脳って不思議だ

    • +8
  11. なあ・・・俺、他人の顔と名前を関連付けて覚えるのがものすごく苦手なんだけど、
    まさか・・・・・。

    • +29
  12. 先天的な相貌失認ならある。毎日顔合わせて仕事してる人の顔も覚えられない。家族はさすがに分かるけど。
    好きな芸能人の写真をどれだけ眺めても、見るたびに「こういう顔だっけ」と違和感がある。思い出そうとすると、のっぺらぼうみたいになっちゃう。
    髪型や服装が似てると区別がつかない。

    • +8
  13. 味覚系が無いのは他人に知られると危ない、毒入れられても分からないから
    医者に話したらアウトだから、事故後用心な

    • +6
    1. ※14
      俺も顔は覚えられるけど名前と一致させられない事が多々ある
      20年来の友人の名前さえすぐ出てこない
      たぶん脳のどっかがおかしいんじゃないかと疑ってたけど、ますます疑いが濃くなってきた

      • 評価
  14. 全盲の少年がバスケをしたり、歩いている子供を避けて自転車に乗る映像を見たことがある。

    • 評価
    1. ※16
      他人に毒盛られる可能性がある方がヤバいわ

      • +7
  15. 『火の鳥・復活羽衣編』の主人公みたいな?
    自分だったら人生観かわっちゃうだろうな

    • +24
  16. 軽い相貌失認あるわ
    家族相手でも、家の外ですれ違うと気付けない(あとから教えられるが心当たりない)

    • 評価
  17. 落語にある、行き倒れを見て友人だと勘違いした人が、友人に会いに行ってお前は死んだぞと力説して、友人は自分は死んだのだと信じてしまうって噺、あれ思い出した。
    記事のとは状況も何も勿論違うのだけど、現実にあり得る話なんだなと思った。

    • +1
  18. そういえば、耳が聞こえてるのに聞こえないと思い込んでる人もいたな
    えーと、誰だっけ?

    • +1
  19. 逆にこういう機械モジュールを作ってやったら感情のあるコンピューターとかカプグラの治療とか出来ないだろうか。

    • +8
  20. たまにテレビに出たりする土やら無機物を食べて生きてるって主張する人たちはコタール症候群なんかな

    • 評価
  21. 「顔と名前が一致しない」や「顔が覚えられない」は検索すりゃでてくるけど、名乗られて一分もしないうちに相手の名前がもうわからなくなるような「名前が覚えられない」はいくら検索しても出てこないんだ。自分だけの残念な個性なのか。

    • +2
  22. ホーダーもブローカ野が壊れていたのか

    • 評価
  23. ホントかどうか疑わしいけど、脳が「あ、これ死んだわ」って認識すると体はなんともないのに死んじゃうって症例があった。確かインドだったかなあ。見たのがオカルトなサイトだったからあんまりあてにならない。
    あと、目に障害があって視界が欠けた状態でも、脳が補正かけてて気が付かないってのもあるらしい。脳って不思議なもんだね。

    • +2
  24. 不思議だ
    不思議だと思うのも不思議だ
    不思議って気持ちがどこからくるのか不思議だ
    なんで不思議だと思うんだろう
    不思議なことなど何ひとつないのに
    いや、おかしくなってないよ
    おかしくなってない

    • +1
  25. おぉ、うちのばあちゃん4と同じだ。脳梗塞の後「と」しかしゃべれなくなった。いろいろしゃべろうとするんだけど「とととーと、ととと。」みたいになってる。

    • +4
    1. ※31
      安心しろ
      私も覚えられないぞ。ちなみに顔も覚えられない

      • 評価
  26. 医学的な判断をしてもらおうとはこの先も思わないけど、人の顔覚えられない
    親しい人も3ヶ月以上会って無いとすぐには判別できない・・・
    最近、兄の一人に2~3ヶ月会って無いからちょっと心配なんだよなぁ・・・
    仕事とかは相手の話を聞き役に徹してヒントに会話を成立させてたりするから、ヤバイかぁ~

    • +4
    1. ※33
      わたしもー。
      あ、ただ単に「興味ない」と判断した瞬間に覚える気がなくなってしまうだけかも・・・。

      • 評価
  27. これらの症状ってどうにもならないのかな。
    完治はしないとしても、改善の余地があるとしたらどれくらいまで望めるのか、どういう処置をするのかとか気になる…。

    • 評価

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