この画像を大きなサイズで見る2011年3月、東日本大震災の大津波が岩手県大槌町を襲った。津波は海にすむニホンイトヨを、引き波は川にすむイトヨを町の中心部にできた池へと運び、近縁の2種の魚の間で交雑が始まった。
国立遺伝学研究所などの研究チームが9年にわたって追跡調査を続けたところ、交雑種が4割近くを占めていた集団から海の種のゲノムがほぼ排除され、集団は川のイトヨに戻っていたことがわかった。
交雑が起きても2つの種は混ざり合わず、種の境界が維持されることが自然の中で確かめられたのだ。
この研究成果は『Nature Ecology & Evolution』誌(2026年9月25日付)に掲載された。
参考文献:
- The 2011 tsunami triggered interspecific hybridization, yet species boundaries were maintained | EurekAlert!
- 2011 年の大津波によって生じた種間交雑から種の境界を維持する仕組みを解明――9年にわたるゲノム追跡で、異種ゲノムが排除される過程を捉える | 国立遺伝学研究所
津波に運ばれニホンイトヨとイトヨが池で出会う
イトヨは北半球の寒い地域に広く分布し、海で育つタイプと、一生を淡水で過ごすタイプがおり、岩手県大槌町のイトヨは、一生を湧き水のある淡水で過ごす。
一方で、ニホンイトヨはサハリンや朝鮮半島東岸、日本の沿岸に分布し、川で生まれて海で育ち、繁殖期には産卵のために川へ戻る。
2011年3月11日、東日本大震災に伴う津波と地盤沈下によって、大槌町の中心部には湧き水がたまる淡水の池ができた。
津波が押し寄せたとき、海からニホンイトヨが、水が海へ引いていくときに川の上流からイトヨが、町の中心部の湧水池へ運ばれた。
本来なら生活する場所が異なる近縁の2種は、津波の影響で同じ池で出会い、交雑を始めたと考えられている。
大槌町では、東日本大震災の前年の調査で2種の雑種は見つかっていなかった。
この画像を大きなサイズで見る10世代で消えた海のニホンイトヨの遺伝子
研究チームが2012年に池を調査したところ、採集された魚の38%が雑種だった。
その後2020年までの9年間にわたり、池の集団のゲノム(その生物がもつ遺伝情報の全体)の追跡調査を続けた。
すると、世代を重ねるごとに、集団のゲノムの中でニホンイトヨから受け継いだ遺伝子が急速に減少していった。
池のイトヨたちは雑種も含めて、生まれてから約1年で卵を産むため、1年ごとに親から子へ世代が入れ替わる。
2020年になる頃には、集団のゲノムはほぼ完全に淡水のイトヨのものとなっていた。
海の種であるニホンイトヨの遺伝子の大部分は、わずか10世代、年数にすると9年ほどで排除された。
研究チームは、ニホンイトヨの遺伝子が池で生き残るうえで不利でなければ、ここまで速くは減らないという。
この画像を大きなサイズで見る海の種の遺伝子を排除した生殖隔離の仕組み
イトヨとニホンイトヨは、「生殖隔離(せいしょくかくり)」と呼ばれる仕組みによって、互いの遺伝子が混ざりにくくなっている。
生殖隔離は、違う種同士で子どもができにくくなったり、生まれた子どもの生存率が下がったりして、遺伝子が混ざるのを防ぐ仕組みだ。
研究チームが野外で実験したところ、ニホンイトヨは淡水での生存率が低く、海の方へ移動しやすいことがわかった。
雑種の生存率や移動のしやすさは、2種の中間だった。
さらに2種は配偶相手の選び方が違い、雑種のオスは子どもを残しにくいことが以前の研究から知られている。
研究チームは、主要な生殖隔離が海の種の遺伝子の排除に関わったと考えている。
小さな遺伝的不適合の積み重ねが種の境界を保つ
海の種のニホンイトヨの遺伝子は、最初の数世代で主要な遺伝子がある領域から急速に減り、その後もゲノムの広い範囲で減り続けた。
研究を率いた細木拓也氏と北野潤氏は、主要な遺伝子の領域がここまで速く排除されたことと、その後の世代でも異種のゲノムの大部分が消え続けたことに驚いたと語っている。
研究チームのシミュレーションでは、主要な生殖隔離の遺伝子だけを想定しても、10世代でゲノム全体から海の種の遺伝子が消えた結果を再現できなかった。
ゲノム全体に弱い遺伝的不適合が多数あると想定すると、実際の結果をよりよく再現できた。遺伝的不適合は、それぞれの種の中では問題なく働く遺伝子が、雑種の体内で組み合わさると、生存率や繁殖力を下げてしまう現象だ。
研究チームは、少数の強い生殖隔離と多数の弱い遺伝的不適合が組み合わさることで、交雑の後も種の境界が保たれている可能性があると考えている。
気候変動や人間の活動によって、これまで出会わなかった生物同士が交雑する機会は今後増えると考えられている。
研究チームは次の課題として、同じ仕組みがほかの生物にも共通するかどうかを挙げている。














これ、現生人類とネアンデルタール人にも同じことが言えるのかもね
ミトコンドリアDNAが交雑以前の単系統である以上、両者は「人(女)×ネアン(男)から生まれた娘」という組み合わせでしか子孫を残せていない
それ以外の組み合わせだと生存力や生殖能力が極端に下がってしまうとか
いまさら検証のしようがないけど
突発的な環境変化や強制的な交雑だと種として残れないということなのかな。
適応し溶け込むのに9年では無理だったか。
>海の種であるニホンイトヨの遺伝子の大部分は、9年ほどで排除された。
>配偶相手の選び方が違い、雑種のオスは子どもを残しにくい。
多様性維持もトライアンドエラーなのですかね。
海生イトヨは淡水生活は不利だから淘汰されていったのだろうと思ったが…
もちろん、結果がわかった上での推測
自然は無駄を嫌う、最もエネルギー効率の高い選択をするってやつ
そういえばイグアナのハイブリッド化はどうなったかな?
子供か生まれないなら元のイグアナから餌と棲家を奪い死んで行くだけの鬼子でしかない
あるいは山椒魚のニーハオ化とかも気になる
交雑する種の近さや悪性因子とか(タイオンは生まれず、ハルダンの法則とかも)色々あるようだね
岐阜には近縁種の淡水魚のハリヨがいます。見たことはありません、、
ハリヨ公園とかあるようです、、
川と海の間を移動する際に環境に合わせた体質に変化させているんじゃないかな?
自由にできるわけじゃないから不利だよね
体質が変化しても中立的な遺伝子の差は残り続ける。今回はそれすら残らなかった。中立的な遺伝子の変異も、遺伝的な不適合があったから今回のような結果になった。
他の種でもこういう隔離って起こるのだろうか
そもそも同種内で突然変異からこういう隔離が起きて、それぞれ別種になっていくんだと思う
あ、いやそういうことでなくて、他の交雑種ではどうなんかなって。
ライガーとかが子供を作れないとか言う話に通じるのかな
ある場所でA種とB種とが交雑した場合、
その場所の環境がA種に有利でB種に不利だったなら
B種の形質が淘汰されてA種の形質が濃くなっていくだろうね
その場所の環境が特に一方に有利というわけでなければ
双方の形質が同じように受け継がれて定着するかも知れない
遺伝子淘汰ってやつか
交雑して強くなることもあれば弱くなることもあるってことか
そうだよね
環境に適応的な交雑遺伝子型もできればそうでないものもある
交雑の複雑さがわかる良い研究
あ~これ特集番組で見たなぁ。
交雑による冠進化が起こるのかもなぁ、と思っていたが元に戻った環境による選択圧に、種を保持しようとする遺伝的作用の結果が、交雑種を淘汰させたわけか、実に興味深いなぁ。
環境が元に戻らず、河口の様に淡水と海水がころころ変化する汽水域のままだったら交雑種が種として定着したのかもなぁ。
オオサンショウウオなんかは似た環境に生息する種同士の日本種と中国種の交雑だから問題になっているそうだね。
昔は農業用水路でも普通に捕まえることが出来たのに今は宅地化が進んでイトヨを目にする機会もめっきり減った
環境適応がより有利な個体しかその環境では子孫を繋げない、か
雑種はどちらつかずなのかな?体質によって淘汰されやすくなってしまうのはあるんかね
それにしてもよくこんな研究しようと、長々調査をしてる研究者さん達の熱意と行動に感服
イトヨ達が湧水池で出会うとこうなると言うことは、単純に海の潮溜まりみたいなところで出会っても同じ様に淘汰されて今度は川のイトヨはいなくなったりするのかな?