この画像を大きなサイズで見る南米アマゾンの森の水辺で、まるでオレンジ色の絵の具で模様を描いたような、鮮やかな小さな魚が発見された。
体長はわずか3cm足らず。ブラジルの研究チームが体の特徴やDNAを詳しく調べたところ、これまで科学的に記載されていなかった新種であることが判明し、「Laimosemion laranja(ライモセミオン・ラランジャ)」と命名された。
ところが、この美しい魚には発見された時点ですでに心配な問題があった。
今のところ確認されている生息地はわずか3地点で、そのすべてで森林伐採や鉱業、都市化など、人間活動による環境への影響が確認されているのだ。
この研究成果は、学術誌『Zoosystematics and Evolution』に2026年8月20日付で掲載された。
参考文献:
- Vivid orange killifish discovered in the Brazilian Amazon | EurekAlert!
アマゾンの水辺で発見された鮮やかなオレンジ色の魚
今回、新種のLaimosemion laranja(L. laranja)が見つかったのは、ブラジル北部アマパー州南部のラランジャル・ド・ジャリという自治体にある、アマゾン川下流域のカジャリ川水系である。
下はL. laranjaに近縁な魚の分布を指名した地図。星は各種のタイプ産地、丸は標本が採集された地点を示す。L. laranjaはオレンジ色で示されている。
この画像を大きなサイズで見る研究チームは、ブラジルのカダヤシ目リウルス科(Rivulidae)の淡水魚を対象に、その生活史がどのように進化してきたのかを調べていた。
研究を率いたリオグランデ・ド・ノルテ連邦大学のユーリ・ゴメス・アブランテス氏は、研究の目的についてこう説明している。
私たちは、ブラジルのさまざまな生物群系に生息するリウルス科の淡水魚を対象に、生活史戦略の進化を調べる研究プロジェクトを進めています
その一環としてアマパー州のカジャリ川地域で調査を行っていたところ、現地で「イガラペ」と呼ばれる小さな川の周辺で、ひときわ目を引く魚に出会った。
カジャリ川地域で、現地では「イガラペ」と呼ばれている小さな川を調査していたところ、とても目を引く色彩の魚を見つけ、すぐに私たちの注意を引きました
こちらは今回発見された新種、Laimosemion laranjaを採集した研究チームのワルディル・ミロン・ベルベル=フィーリョ氏。袋の中に採集した魚が見える。
この画像を大きなサイズで見る特に鮮やかなのがオスである。体の前半分は淡い灰色で、その上にオレンジ色の斑点が4~5列ほど並んでいる。
後半分は濃い灰色になっていて、その上に鮮やかなオレンジ色の斜めの模様が5~6本入っている。
背びれはオレンジ色に大きな青い斑点、尾びれは淡いブルーに5~6本のオレンジ色の帯が入り、3cmにも満たない小さな体を鮮やかな色彩が彩っている。
下がLaimosemion laranjaのオスである。新種の基準となるホロタイプ(正基準標本)で、標準体長は26.8mm。
種小名の「laranja」はポルトガル語で「オレンジ」を意味しており、鮮やかなオレンジ色の模様が種名の由来のひとつとなった。
この画像を大きなサイズで見るアブランテス氏によると、研究者たちはオスだけでなく、メスの体の色彩にも強く引きつけられたという。
思いがけない瞬間でした。最初に私たちの目を引いたのはオスとメスの印象的な色彩で、この調査地域ではそれまで見たことのないものでした。それを見て感嘆すると同時に、大きな好奇心をかき立てられました
そしてこちらがメスの写真。下の個体は標準体長20.1mmで、メスにも鮮やかな斑点が見られる。
この画像を大きなサイズで見る形態とDNAを調べて新種と判断
もちろん、これまで見たことのない色をしているというだけで、新種と認められるわけではない。
研究チームは2024年3月と2025年6月に採集した標本を使い、体の各部の比率、鱗の数、ひれの位置や条数、椎骨、尾びれの骨格、頭部にある感覚器などを詳しく調べ、近縁種と比較した。
その結果、この魚はライモセミオン属(Laimosemion)の中でも、Laimosemion geayiなど近縁な種からなるグループに属することがわかった。
一方で、横方向の鱗が8列であることをはじめ、ひれの位置や鱗の数、椎骨数など、同じ種群に属する既知の6種とは異なる特徴の組み合わせを持っていた。
さらにミトコンドリアDNAの「cox1」と呼ばれる遺伝子領域を解析した結果、最も近かったL. agilaeとL. strigatusとの間にも、5.3%の遺伝的な違いが確認された。さらにL. dibaphusとは9.2%、L. geayiとは12.3%異なっていた。
こうした形態学的特徴と遺伝学的な証拠を合わせ、研究チームはこの魚を新種「Laimosemion laranja」として、正式に記載したのである。
下はcox1遺伝子の解析から推定されたL. geayi種群の系統関係。オレンジ色の丸が今回新種として記載されたL. laranjaである。
この画像を大きなサイズで見る今回採集され、調査された中で最大の個体の大きさは、オスが標準体長27.8mm、メスが20.6mmだった。
新種の基準となるホロタイプは、2025年6月21日にイガラペ・マサランドゥバで採集された標準体長26.8mmのオスである。
新種であることが明らかになった時、アブランテス氏は、この発見が魚そのものだけではなく、その生息地にも目を向けてもらうきっかけになると考えたという。
特別なことでした。アマゾンの生物多様性についての知識を増やすことに貢献できるだけでなく、まだ十分に調査されていない一方で、強い脅威にさらされている地域の保全にも目を向けてもらえる機会になると思ったのです
「ラランジャ」という命名には2つの意味が
新種につけられた「laranja(ラランジャ)」という名前には、2つの意味が込められている。
ポルトガル語の「laranja」は果物の「オレンジ」を意味し、色の「オレンジ色」を表す言葉としても使われる。これはオスの鮮やかなオレンジ色の模様にちなんだものだ。
もう1つは、この魚が今のところ唯一確認されている地域の自治体、「Laranjal do Jari(ラランジャル・ド・ジャリ)」にちなんでいる。
魚の特徴を表すと同時に、この魚が発見された地域の人々にも親しみを感じてもらえるような名前を選びたいと思いました
魚の鮮やかな色と、その魚が暮らす土地。その両方が「laranja」という1つの名前に込められているのだ。
生息場所は森を流れる小川のそばの水たまり
L. laranjaが確認されたのは、巨大なアマゾン川の本流のような場所ではない。
現在知られている3地点の採集場所は、ジャングルの中を流れる小川の本流に隣接する、水たまりのようなところだった。
こういった水たまりには浮遊性の水生植物が存在しており、水は比較的透明で、中程度の流れがあった。底は砂または泥で、水深は0.5~1mほどだったという。
下の写真は、L. laranjaが見つかった3地点。森林内を流れる小川やその周辺の水たまりが、この小さな魚の生息場所となっている(AとBが採集地点、Cが新種の基準標本が採集されたタイプ産地)。
この画像を大きなサイズで見るリウルス科には、季節的に水がなくなる環境に適応し、胚の発生を一時的に止める「休眠」によって、水が戻るまで生き延びる特殊な生活史を持つ仲間がいる。
アブランテス氏によると、Laimosemion属はリウルス科の中で年周期型生活史が独立して進化した5つの系統の1つだという。
Laimosemion属は、リウルス科の中で年周期型生活史が独立して進化した5つの系統の1つです。
(今回発見された)Laimosemion laranjaは、この地域におけるこのグループの多様性と進化についての知識を広げるという点で、特に興味深い種です
すでに生息地の環境は脅かされている?
新種発見といううれしいニュースの一方で、研究者たちが懸念しているのが、この魚の生息地である。
上で挙げた分布図を見るとわかる通り、L. laranjaが現在確認されているのは3地点だけで、そのすべてで人間活動による環境への影響が確認された。
最も北にある地点は、カジャリ川採取保護区(Reserva Extrativista do Rio Cajari)の境界付近にある。
魚が見つかった場所はその境界からわずか数mのところにあり、焼けた木など森林伐採の痕跡が確認された。
一部の水たまりについては、地元住民が鉱業活動によってできたものだと説明しており、水には多くの懸濁物質が含まれ、強い赤色を呈していた。
こういった調査結果を踏まえ、研究チームはIUCN(国際自然保護連合)の基準に照らした場合、「絶滅危惧(EN)」に相当すると評価した。
研究チームはこの魚を守るため、隣接するカジャリ川採取保護区を広げ、生息地を保護することも提案している。
この画像を大きなサイズで見るカダヤシの仲間には、日本でも観賞魚として人気のある魚も多い。例えばグッピーやソードテール、プラティ、モーリーなんかもカダヤシ科だ。
今回発見された新種も非常に美しい見た目をしているので、もし昔から普通に見つかっていて、飼育や繁殖がしやすい魚だったら、熱帯魚屋に並んでいた世界線もあったかもしれない。
ちなみに「カダヤシ」は「蚊絶やし」から来ていて、蚊の幼虫ボウフラを食べることからこう呼ばれているんだそうだ。
なお、上記で挙げた観賞魚たちは「卵胎生メダカ」と呼ばれることがあるけれど、これは以前、カダヤシの仲間がメダカと同じ分類をされていた名残である。
日本のメダカ(こっちは卵生)とは直接関係ないし、なんならカダヤシ科カダヤシは特定外来生物に指定されていて、メダカの生存を脅かしている。
グッピーも野生での繁殖が問題になっていて、国立環境研究所のデータベースでは「要注意外来生物(生態系被害防止外来種)」として掲載されている。
ソードテールやモーリーも国内で定着している場所があるようで、もしかすると将来的に特定外来生物になってしまう可能性もあるのは、アクアリストとしてちょっと寂しいな。
References: DOI.10.3897/zse.102.187659













