この画像を大きなサイズで見るごはんをよく噛んでいると、だんだん甘くなってくる。唾液の中の酵素がデンプンを糖に変えているからで、住む地域によってこの酵素の量には差がある。
米バッファロー大学とUCLAの研究チームが世界各地の3700人以上の遺伝子を調べたところ、ペルーのアンデス山脈に暮らす先住民は、デンプンを糖に変える酵素を作る遺伝子を、世界中のどの地域の人々よりも多く持っていることがわかった。
アンデスの先住民は、約1万年も前からジャガイモを主食にしてきたことで、自然選択により、デンプンをよく消化できる人が生き残り、その体質が世代を超えて受け継がれてきたのだ。
この研究成果は『Nature Communications』誌(2026年5月5日付)に掲載された。
参考文献:
- Potatoes may have shaped genetic makeup of Indigenous Andeans | EurekAlert!
デンプンを糖に変える消化酵素アミラーゼ
白米をよく噛んでいると、口の中でほんのり甘みが広がってくる。これは唾液にふくまれるアミラーゼという消化酵素が、ごはんのデンプンを糖に分解しているからだ。
アミラーゼはデンプンという大きな粒を、体が使いやすい小さな糖の粒に切り分ける、いわば食事の最初の仕分け係といえる。
アミラーゼを作る設計図にあたるのが、AMY1という遺伝子だが、暮らしている地域によって数に違いがある。
AMY1遺伝子の数が多い人ほどアミラーゼをたくさん作れるので、デンプンを早く分解できる。
アンデス先住民は世界一デンプンを消化できる
バッファロー大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、世界各地の民族や地域ごとに分けた85の集団、合わせて3723人分の遺伝子データを解析し、どの集団がAMY1遺伝子を多く持っているかを調べた。
その結果、すべての集団を合わせた平均は7個だったが、南米ペルーのアンデス山脈で暮らす先住民が平均10個で、どの集団よりも多く持っていることがわかった。
この画像を大きなサイズで見る1万年前からジャガイモを主食にしたことで自然選択が起きた
アンデス先住民がAMY1遺伝子を多く持つ理由は、彼らの食生活にある。
アンデスの人々は世界のどこよりも早い約1万年前にジャガイモを栽培し、主食にしてきたことで、長い時間をかけて体に変化が起きた。
生き物の特徴が世代を重ねるうちに少しずつ変わっていくことを進化という。
進化を引き起こす力にはいくつか種類がある。
アンデスの先住民の体の中で起きたのが自然選択だ。
自然選択は、ある環境で生きのびて子孫を残すのに有利な特徴を持つ個体が、不利な個体より多く子を残し、その特徴が世代を追って集団に広がっていくしくみをいう。
生き物が自分から体を変えるのではなく、環境に合った個体が結果として生き残り、その性質が受け継がれていく。
アンデス先住民の場合、デンプンの多いジャガイモを主食にしたことで、それをうまく消化できるAMY1遺伝子が多い人ほどの栄養を得て健康に子を育んだ。
その結果、AMY1遺伝子を多く持つ人が数を増やし、遺伝子の少ない人は世代を追って数を減らしていった。
研究を主導したバッファロー大学のオメル・ゴクチュメン教授は、このしくみを彫刻家が石の余分な部分を削って形を作る作業にたとえている
粘土を足して形を作るのではなく、すでにある石から余分を削り出すように、自然選択も不利な個体を減らすことで集団の姿を変えていくのだという。
この画像を大きなサイズで見るヨーロッパ人の到来による人口減少と関係はあるのか?
AMY1遺伝子が増えた原因について、研究チームにはもう一つ調べることがあった。
15世紀にヨーロッパ人が南米へ来ると、持ち込まれた病気や飢饉、争いでアメリカ先住民の人口は短期間に激減した。
これだけ多くの人が亡くなれば、たまたまAMY1遺伝子の少ない人が大きく減り、生き残った集団でたまたまAMY1遺伝子の多い人が目立つようになっただけ、という見方もできる。
ジャガイモ食による自然選択なのか、人口減少による偶然なのかを切り分ける必要があった。
研究チームは超長鎖DNA解析という最新技術で、AMY1遺伝子が増えはじめた時期を調べた。
すると遺伝子の多い人が増えたのは、ヨーロッパ人が現れる数千年も前だった。
人口が激減するよりはるか昔からAMY1遺伝子は増えていたことになり、ヨーロッパ人の到来とは関係なく、ジャガイモ食への自然選択で増えたと確かめられた。
裏づけとなったのが、メキシコのマヤとの比較だ。
マヤはアンデス先住民と遠い祖先を共有しながら、ジャガイモを育てる伝統を持たない。そのマヤのAMY1遺伝子は平均6個で、アンデス先住民の10個より明らかに少なかった。
ジャガイモを食べてきたかどうかが、遺伝子の数にそのまま表れていた。
この画像を大きなサイズで見る米を主食にしてきた日本人もデンプンを消化しやすいのか?
特定の食べものに体が適応する現象は、アンデス先住民だけのものではない。
米を主食にしてきた日本人も、デンプンを消化しやすい遺伝子の構成を持つ集団のひとつだ。
農耕を営み穀物を多く食べてきた人々ほどAMY1遺伝子を多く持つ傾向があり、2022年、東京大学医科学研究所を中心とする研究チームが東北地方の日本人を調べた研究でも、日本人は高デンプン食の集団として扱われている。
ただし日本人がアンデス先住民ほど多くの遺伝子を持つわけではない。
その違いを生んだのは、デンプンの多い主食を食べてきた時間の長さだ。
日本で米が主食として定着したのは弥生時代前期、約2400〜2600年前にあたる。
アンデスのジャガイモ食はその4倍ほど古い。主食として食べている時間が長かったぶん、アンデス先住民では遺伝子を多く持つ人がより強く選ばれてきた可能性が高い。
カラパイアではこれまでも、特定の地域の人々だけが持つ体の特徴を紹介してきた。
日本人の腸にだけ見つかる海藻を分解する腸内細菌や、水中でもはっきり目が見えるタイのモーケン族の子どもたちの話だ。
暮らしてきた環境や食べてきたものが、人の体を少しずつ作りかえていく。アンデス先住民のジャガイモも、その一例といえる。
AMY1遺伝子に他のメリットはあるのか?
AMY1遺伝子を多く持つことで他にどんなメリットがあるのかは、まだはっきりしていない。
ゴクチュメン教授は、調理したジャガイモからより多くのエネルギーを取り出せるのかもしれないと考えているが、これを確かめる実験は今も続いている。
腸内の細菌や代謝、免疫のしくみとも関わっている可能性があるという。
研究チームのケンドラ・シェアー氏は、現代の食生活にも目を向けている。
世界中の食べものが手に入り、様々なものを口にする今、人間の体がこの先どう変わっていくのか。アンデス先住民がたどった道のりは、それを考える手がかりになるかもしれない。
まとめ
この研究でわかったこと
- アンデス先住民は、デンプンを消化する酵素の遺伝子を世界一多く持っていた
- 約1万年前からジャガイモを主食にし、消化が得意な人が生き残って集団の大半を占めた
- ジャガイモを食べないマヤは遺伝子が少なく、食生活の差が遺伝子に表れていた
まだわかっていないこと
- 遺伝子を多く持つと具体的にどんな得があるのかは、まだ確かめられていない
- 世界中の食べものを口にする現代人の体が、この先どう変わるのかはわからない
References: DOI.10.1038/s41467-026-71450-8
















人間の場合は消化とかそういう系統だと飢餓対策だろうから、効率が良くなって死ににくいという利益があるんじゃないかな。 結果として淘汰される方には入らなくて生き残ってる感じだと素人考えです。 地域によっての遺伝子差異って面白いですね。
内科系の話なんかだと、血糖値をあげるための人体の仕組みはたくさんあるけど血糖値を下げるほうはインシュリンしかないみたいな。 生きるためには炭水化物が必要(脳とか筋肉とか)なので、蓄積した脂肪から血糖値を上げる方法もあれば最悪は筋肉を分解してさえできるとかあるんですけど、炭水化物を摂って血糖値が上がりすぎたときは膵臓からインシュリンでさげるしかないので食糧事情が劇的に良くなった現代では太りすぎとか糖尿病とかになりがちです。 ま、何にせよジャガイモは火を通しただけでうまい!
イヌイットみたいな遺伝的な適応ってやつなんでしょうね。
それしか頼るもの無かった一番最初の世代の人たちは、相応に苦しんだんだろうか?
ジャガイモはまだいいけど、脂肪とか想像つかん。
カルビーに白黒つけて貰おう
バランスよく色々食べるのと、同じものばっかり食べるの、長い目(進化できるくらい)で見たらどっちがいいんだろうね。
人間って意外とスパルタ食生活の方が向いてる気がするんだよな。