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かつて人間と協力して狩りを行っていたシャチの集団は絶滅してしまったかもしれない

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(著) (編集)

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 最近ではシャチのグループが人間のボートを襲うニュースが相次いで報道されているが、かつてオーストラリアでは、数千年に渡り、先住民の漁師たちとシャチの集団が協力関係を結び、一緒にクジラ狩りを行っていたという。

 シャチと人間と共生関係は非常に興味深い。だがそれはもう二度と起きないかもしれないという。

 シャチの遺伝子を調べた調査によれば、長年人間に協力してきたシャチの子孫たちは全て絶滅してまい、存在しない可能性が高いのだという。

シャチと協力してクジラを狩ったオーストラリアの先住民

 最近の人間とシャチの関係は、どこかギスギスしているようにも見えるが、過去を振り返れば、美しい協力関係が育まれたこともあった。

 オーストラリの先住民「タウア族(Thaua people)」は、アニューサウスウェールズ州外洋のツーフォルド湾で、大昔からシャチと一緒にヒゲクジラの狩りをしてきたことで知られている。

 シャチが人間にクジラの居場所に導き、漁師たちがそれを仕留めると、シャチに歌を歌う。するとシャチは人間に協力した見返りとして、クジラの唇と舌だけをもらっていく。

 『JournalofHeredity』(2023年10月12日付)に掲載された研究によると、こうした人間とシャチの協力的な習慣は、「舌の掟」と呼ばれていた。

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20世紀初頭まで、先住民の漁師たちは、シャチと一緒に捕鯨を行っていた / image credit:Charles E. Wellings/Eden Killer Whale Museum

 記録によると、20~30頭からなる大きなシャチの集団は、定期的にクジラを狩っている漁師たちの存在に気が付いたという。

 その中の1頭である体長7mの大きなオスのシャチ「オールド・トム」が最初に漁師たちに近づき、共同関係を結ぼうと働きかけ、最終的にこの集団は人間と共に狩りをするようになったそうだ。

 シャチたちはまずクジラを見つけると、海を叩いて漁師たちにその存在を知らせたという。

 さらに漁師たちをクジラがいる場所まで案内し(時にはロープで船を引っ張ったという)、漁場では銛のロープをたくみに操ってクジラの動きを鈍らせるなどして、クジラ漁を手伝ったそうだ。

 だが、それも19世紀にヨーロッパ人の入植者たちが、舌の掟を利用して商業捕鯨を行うようになると、状況は変わってしまう。

 そして1930年代、何千年も人間を助けてきたシャチたちは姿を消してまった。

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船のすぐ横を泳いで漁師に協力するシャチの姿 / image credit:Eden Killer Whale Museum

人間と協力して漁を行っていたシャチ集団は絶滅した可能性

 彼らは一体どこへ行ったのか?

 フリンダース大学をはじめとする研究チームは、シャチの遺伝子を分析して、その行方を追ってみることにした。その結果、人間を助けたシャチはすでに絶滅したらしいことが明らかになったのだ。

 1930年「オールド・トム」が打ち上げられて死んでいた。このオスのシャチの骨格は現在、エデン・シャチ博物館で保存されている。

 そこで研究チームは、その骨格の歯とアゴからDNAを採取し、それを現在のシャチと比べてみた。すると、オールド・トムのDNAは現在のシャチとはかなり違うことがわかったのだ。

 オールド・トムはニュージーランドのシャチと共通の祖先を持つ可能性が高い。だが彼の遺伝子変異は、現在のシャチたちにはほとんど残っていなかった。

 このことは、かつてタウア族のクジラ漁を手伝ったシャチたちが、もうこの地球上にいない可能性が高いことを告げている。

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photo by iStock

タウア族とシャチの友情

 タウア族の伝説では、人間が死ぬとシャチに生まれ変わると伝えられているという。そのため彼らは、自分たちを手伝ってくれるシャチたちを兄弟のように思っていたそうだ。

 研究チームの1人で、自身もタウア族であるスティーブン・ホームズ氏は、「私の一族は、漁師たちの町、イーデンのシャチとずっと友情で結ばれてきました。オールド・トムは親友だったのです」と語っている。

 「私の祖母、キャサリン・ホームズの話によると、曽祖父バジンブロは仲間と一緒に、オールド・トムの背びれにつかまって泳いでいたそうです。それで怪我なんて一切しなかった」

 オールド・トムが死ぬ頃には、ほとんどのシャチが姿を消していた。

 タウア族はもともと、自分たちの生活のために捕鯨をしていたが、ヨーロッパ人がやってくると、それがビジネスになった。

 「その関係がビジネスになるまでは、うまくいっていたのです」と、フリンダース大学のイザベラ・リーブズ氏は言う。

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photo by Unsplash

人間とシャチの協力関係はいつ始まったのか?

 この調査ではもう一つ意外なことが明らかになっている。それはオールド・トムが本当にオスだったということだ。

 リーブズ氏によると、じつはオスのシャチは、狩りをもっぱらメスに任せる傾向があるのだという。ところが、オールド・トムはオスにしては珍しく、クジラの狩りに参加していた。

 人間とシャチの協力関係がいつどのように始まったのか、正確にはわかっていない。

 伝承によると、19世紀にヨーロッパ人がタウア族を雇って、商業捕鯨をするようになるずっと以前から、タウア族をはじめとするオーストラリア先住民族はシャチと協力してきたようだ。

何千年も前から続いていたことは間違いありません。ですがどのようにして始まったのかは別の問題です

私がシャチから学んだのは、彼らが好奇心が旺盛で、戦略に長けており、欲しいものがあれば、それを手に入れる方法を知っているということです

 ヒゲクジラを狩り、その舌をごちそうにするシャチもいるが、多くにとって大人のクジラは大変な相手で危険もともなう。だから普通は子クジラを狙う。

 ところが、イーデンのシャチたちは、タウア族と一緒に大人のクジラを狩っていた。それはシャチにとっても、人間と協力するメリットがあったということなのだろう。

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photo by Pixabay

最近の人間とシャチの関係は悪化

 このところシャチが人間の船を襲うケースが続いている。10月31日にも、ポーランドのクルーズ企業が所有する中型ヨットがシャチに襲われ、沈没するという事件があった。

 シャチは船と乗組員をほぼ1時間にわたって容赦なく攻撃したそうで、この地域のシャチが船を沈没させるのは過去2年間で4回目となる。

 ご存じの通りシャチは高い知性を持つ社会的な動物で、海の支配者である。

 シャチがなぜ人間を攻撃するようになってしまったのか?かつてのタウア族のように共生関係を結ぶことはできないのか?

 シャチの置かれている現状について、もっと調べる必要があるかもしれない。

References:Orcas that hunted alongside humans might be extinct | Live Science / Orcas sink another boat in Europe after a nearly hour-long attack | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo

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この記事へのコメント 21件

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  1. 日本の捕鯨に口出しする割によっぽどエグい事やってたんじゃん。
    急に人間に裏切られたオールド・トム達が浮かばれない;;

    • +30
    1. >>2
      南極海を私物化しようとしてた日本が悪い。だから国際司法裁判所の判決で敗訴した。

      • -12
  2. もう何年も前になりますが、エデン・シャチ博物館行ったことありますー(記事中でも表記揺れてますがイーデンのほうが読み的には近いのかな)
    オールドトムの骨格と共に群れとの共生関係についてとてもわかりやすく解説されてましたが
    シャチ様的にはわざわざ人間に捕らせる必要なんてないのに、親切心で海辺の漁師に「鯨がいたよー!」って教えてあげてゲーム感覚で一緒に追い込みをする(そして参加賞としていらないパーツをもらう)という
    余暇を楽しむ強者の生態って感じで面白かったです。

    • +22
  3. >記録によると、20~30頭からなる大きなシャチの集団は、定期的にクジラを狩っている漁師たちの存在に気が付いたという。

    この「記録」は数千年前のアボリジニの記録ということだろうか?
    それとも白人が目撃した事例なのかな。

    • +4
    1. >>4
      本文読むと19世紀から20世紀の話だから結構最近の事ですね。
      それまでもあったかもしれないが、それは記録ないんでしょう。

      • +1
      1. >>13
        19~20世紀の話は「シャチとの関係が無くなった」
        というもので、シャチとの関係を築く話は
        もっと昔のことじゃないのかな?

        • +2
  4. 譲り合う気が無ければ他の種族と仲良くなんてしてらんないでしょ
    商売がデカくなるほど効率重視&利益優先になる訳だし、そんなん夢物語でしょうよ

    • -3
  5. たしかアラスカ先住民でも似たような話があったね
    アリュート族かハイダ族だったと思うけど、それも入植者のラッコや海獣の乱獲のせいでシャチが離れてしまって今はシャチへの信仰だけが残ってるって顛末だったような

    • +19
  6. 心を開かなくなったのは人間の方だったのでは無いか?
    せっかく築いた信頼関係は簡単に動物でも簡単になくなりませんよ
    オールドトムだけが特別に知能が高く友好的だった可能性もありますけど

    • +10
  7. シャチ程頭が良ければ冗談ではなく人間がどれだけ環境や他の生物にとって害悪か理解していてもおかしくない。
    シャチによる人類根絶計画はすでに始まっているのだ!

    • +2
  8. 母船+小型船方式の船団捕鯨で先ずは子供の鯨に銛を撃って苦しめる
    子供の鯨を助けようと戻ってくる親鯨を一網打尽

    って捕鯨を続けていた白人の影響かもね

    • 評価
    1. >>11
      それ日本人も普通に一番よくやってた方法だって判明してる。

      • -1
  9. アイヌや南アメリカでも似たような事例あったような。確か漁業で魚を網に追い込む手伝いしてくれたとかなんとか。

    • +8
    1. >>12
      遊びを楽しむ生き物はこっちが得する遊び方で遊んでくれるとありがたいんだよね
      問題はこっちを害する遊び方で来られたら証言者が残らないってことでね…
      共存できるものならしたいんだけど、相手はあくまで野生だから

      • 評価
      1. >>17
        「共生」に近い関係にならなければ、伝承の段階で警句的に伝わるのよね

        • 評価
  10. シャチも狩りはメスがやるんだな
    ライオン的なノリなんかね

    • +3
  11. ウィンウィンっつーか、ビジネスライクなノリ?っつーか……
    シャチも案外、ほぼ利害の一致で動いていただけの気がする。

    • +2
  12. へぇびっくり…ヤシの実を取る猿は聞いてたけどコレは飼育下の話だし、野生で人間の狩りに手を貸す動物なんて居たんだ

    • +1
  13. いい話で感動してしまった
    ヨーロッパ人よ

    • +2

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