この画像を大きなサイズで見る茨城県の牛久沼で、新種の巨大ウイルス「ウシクウイルス」が発見された。
このウイルスは宿主のアメーバに感染すると、アメーバ自身が持つ細胞核の膜を破壊し、その外側に自身のコピーを作る製造工場を形成する。
その過程でアメーバを通常の約2倍の大きさに膨らませるという、独自の性質を持っている。
東京理科大学などの研究チームによるこの発見は、人間を含む真核生物の「細胞核」がどのように誕生したのかという謎を解き明かす重要な鍵になると期待されている。
茨城県の牛久沼で発見された新種の巨大ウイルス
東京理科大学の武村政春教授らの研究チームは、茨城県にある牛久沼の淡水から新種の巨大ウイルスを発見し、地名にちなんでウシクウイルス(Ushikuvirus)と命名した。
巨大ウイルスとは、一般的なウイルスとは一線を画す大きさを持つウイルスの総称である。
ウシクウイルスの本体(カプシド)の直径は約250nm(0.25μm)だが、表面にある独特なスパイク(突起)を含めるとその直径は約650nm(0.65μm)にも達する。
一般的なA型インフルエンザウイルス(直径約80~120nm)と比較すると、本体サイズだけでも2倍以上の大きさがあり、スパイクを含めた全容はウイルスとして破格のスケールだ。
サイズだけでなく、保持している遺伝子の量も桁違いである。
インフルエンザウイルスの遺伝子数がわずか8個であるのに対し、ウシクウイルスは実に784個(約98倍)もの遺伝子を持っている。
このウイルスは、2019年に京都大学や東京理科大学、自然科学研究機構などの研究チームが日本で初めて分離した巨大ウイルス「メドゥーサウイルス」と同じ、マモノウイルス科(Mamonoviridae)というグループに属している。
この画像を大きなサイズで見るアメーバを2倍に膨らませる独自の「製造工場」を作る
ウシクウイルスは、宿主となる「アメーバ」に対して他のウイルスにはない独特の影響を与える。
アメーバは人間と同じように、細胞の中に「細胞核」を持つ「真核生物(しんかくせいぶつ)」の仲間である。
ウシクウイルスは、池や土壌に広く生息しているヴェルムアメーバ(Vermamoeba)に感染して増殖する。
通常、ウイルスに感染した細胞はすぐに死滅して形が崩れるが、ウシクウイルスに感染したヴェルムアメーバは、死ぬどころか通常の約2倍の大きさにまで膨れ上がる。
これは、日本で初めて発見された巨大ウイルスであるメドゥーサウイルスなど、他の仲間には見られない非常に珍しい現象である。
この肥大化が起きる理由は、ウシクウイルス独自の製造工場の作り方にある。
近縁のメドゥーサウイルスなどは、アメーバに感染しても、もともとある細胞核の中に居座り、核を壊さずに自分のコピーを作る。
対してウシクウイルスは、アメーバが持つ核の膜を完全に破壊し、その外側の「細胞質」まで占拠して巨大な製造工場へと作り変えてしまうのだ。
このように、細胞内の広いスペースを強引に乗っ取って巨大な工場を建設し、そこで大量のウイルス粒子を組み立てる。
その増殖プロセスの勢いがあまりに強いため、宿主であるアメーバの体そのものを内側から大きく引き伸ばし、2倍ものサイズに肥大化させてしまうのだ。
こうして工場で作られた新しいウイルスは、最終的に「エキソサイトーシス(細胞が物質を外へ押し出す仕組み)」によって、ゆっくりと放出されていく。
ウシクウイルスは、アメーバの代謝機能をフル稼働させつつ、パンパンに膨らませたまま生かし続け、この排出機能を巧みに利用して新しいウイルスを効率的に送り出し続けるのである。
この画像を大きなサイズで見るヒトの細胞核の起源を探る「細胞核ウイルス起源説」
今回の発見は、人間を含む真核生物の進化の謎を解く上で非常に重要である。
かつて地球には、細胞核を持たない原核生物(細菌など)しか存在しなかったが、ある時期に細胞核を持つ真核生物へと進化した。
この劇的な変化がなぜ起きたのかについては、いまだに完全には解明されていない。
武村教授が2001年に提唱した「細胞核ウイルス起源説」は、巨大ウイルスの祖先が原核生物に感染して共生した結果、そのウイルスがそのまま細胞核になったという仮説である。
巨大ウイルスが細胞内に作る製造工場は、膜に包まれている点や機能が細胞核と非常によく似ている。
ウシクウイルスのように、宿主の核膜を壊してまで独自の拠点を築く多様な巨大ウイルスの研究を進めることで、大昔にウイルスが生物の進化にどのように関わったのかを突き止める手がかりが得られると期待されている。
この画像を大きなサイズで見る多様な巨大ウイルスの発見が進化の謎を解き明かす
巨大ウイルスは地球上のいたるところに存在しているが、特定の宿主に感染させて分離し、詳しく調査することは非常に難しい。
ウシクウイルスのゲノムを解析した結果、約784個の遺伝子のうち約58%は既存のデータに記録がない、正体不明の遺伝子であった。
これは、巨大ウイルスの世界にはまだ人類が知らない未知の情報が大量に眠っていることを示している。
この査読済みの研究成果は『Journal of Virology』誌(2025年11月24日付)に掲載された。
【追記】(2026年2月27日)
ウイルスの増殖戦略について加筆しました。ウシクウイルスはアメーバの代謝機能を占拠して肥大化させますが、即座に破壊せず「生かしながら利用する」点が特徴的です。この性質が細胞核の起源に迫る重要な観察事実であることを補足しました。
References: Tus.ac.jp / Journals.asm.org
















てっぺんのウシクウィルスのが CG を疑いそうになるほど対称でカッコイイんですけど! でもって、属しているところがマモノウイルス科(Mamonoviridae)って魔物? いちいち引っかかって記事が面白いのに読み切りまで時間がかかりました。 アメーバが巨大化するとかゲームのスライムみたいになるんじゃ?みたいな想像も引き起こされて、この巨大化機構を発現させて生き残ってきたのだと思うとすごく面白かったです
SFなら人類滅亡の序章…
令和の世においていまだ人類の未知が渦巻く土地、茨城
牛久市の大仏な、このウイルスで大きくなったらしいで。知らんけど。
書こうと思ったら既に書かれてた
大仏様の表面が突然ボコボコと波打ったかと思うと、そこから一斉に飛び立った大量の魔物が空一面を覆う…!
魔物ウイルスって思ったら、本当にマモノ(魔物)ウイルス科だった。
にばーいにばーい(あの声)
かつて世界には巨人がいた
その繁栄をもたらしたモノがこれだ
マモノウィルスの仲間でメデューサの近縁というのもなかなか
クリーチャーしか浮かばない
しかし日本は細菌とかウィルスよく見つかるね
さまざまな気候で多種の生き物がいるし環境圧が変化を進めるのだろう
海外でも似たようなところにいるだろうが、観察者がいないて見つからないのかも
極限環境に関心が行きすぎてる感も
でかいのは大仏だけじゃなかった…
集合体恐怖症注意の表記が必要かも
ひょっとしたらだけど
こういうウイルスが
今の多細胞生物の進化と誕生の原因かもね。
あり得る話だよ
細胞核がまさかウイルスにパンパンに膨らまさせられた奇形だったとか
事実ならエグすぎるw 30億年くらい拷問を受けているんだ・・・
いや、意外と身近な所にスゴいのいたなって感じ。
でもまぁ、特別、今日の生態系に影響しているわけではなさそう。
いや、他の方も仰ってるけど、大仏はやはり……?
印旛沼手賀沼にも居るんじゃないのか?
この辺中世は海だし
こいつは今月の日経サイエンスにも出演してるから、興味があったら読んでみてね。
この記事では大きさ0.65マイクロメートルとあるけれど、日経サイエンスの記事および『Journal of Virology』誌(2025年11月24日付)によるとこいつの(表面スパイクを除いた)直径は250nmとあるのですけれども……。
A型インフルエンザウイルスの大きさが直径80-120nm程度で遺伝子数が8個に比べると、こいつの大きさは2倍以上で遺伝子数は98倍ということになる。
それはさておき、侵入してきたウイルスを逆に取り込んで進化するのはなんだかかっこいいストーリー。ヒトの遺伝病に対してウイルス粒子を使って遺伝子を送り込むことで治療する研究もあるし、ウイルスも案外悪いやつばかりじゃないのかもね。