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たった1頭のオオカミが島全体の生態系を復活させる

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 1997年の冬、1頭のオオカミが、カナダから、アメリカのスペリオル湖に浮かぶ島、ロイヤル島にやってきた。

 厳しい寒さによりスペリオル湖が凍結し、ロイヤル島とカナダ本土が氷の橋で一時的につながったのだ。

 この1頭のオオカミがやってきたことによって、病気や近親交配のせいで打撃を受け、減少の一途をたどっていたロイヤル島のオオカミの数が復活した。

 それだけではない。森林の生態系全体の健全性が改善される連鎖効果が起こったという。

捕食者がいなくなると他の全ての種に悪影響

 近親交配によって遺伝的多様性がなくなってしまう問題は、科学者にとって重大な懸念事項だった。

 ミシガン工科大学の生態学者で、この研究を行った論文の筆頭著者でもあるサラ・ホイ氏はこう語る。

こうした遺伝的な問題が、特定の個体群に影響を与え、絶滅のリスクを高めるだけでなく、他のすべての種にも非常に大きな悪影響を与えることを示した、初めての研究なのです

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photo by Pixabay

近親交配で島のオオカミが減少

 ミシガン州に位置するロイヤル島は、豊かな生物多様性で知られているが、ロイヤル島に最初のオオカミ集団が到着したのは、1940年代後半のことだ。

 彼らのおもな獲物はヘラジカだった。

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photo by iStock

 その後、捕食者と獲物のシステムに関する世界最長の研究が始まった。

 だが、犬パルボウイルス感染症の発生で、1980年代までにオオカミの数が最高の50頭から12頭前後まで減少してしまった。

 最終的にウイルスは消滅したが、オオカミの数はすぐには回復しなかった。

 その理由は、深刻な近親交配のせいだ。純血種の犬によくみられる、脊椎変形といった健康の悪化だけでなく、繁殖力の低下など、種の存続に深刻な問題を引き起こしていたのだ。

もしあなたが、野生のオオカミだったとして、自分の体の8倍もあるムースのような獲物を倒さなくてはならない場合、仲間の数が減ってしまったら、生きていくのは相当厳しいものになるでしょう(サラ・ホイ氏)

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photo by Pixabay

氷の橋を渡りやってきた1匹のオオカミ「オールド・グレイ・ガイ」

 このままオオカミたちは絶滅してしまうのかと懸念されていたが、1997年の冬、1頭のオオカミが、ロイヤル島とカナダが一時的につながる氷の橋を渡ってやってきた。

 このオスの侵入オオカミは、研究者たちによってM93と識別され、「オールド・グレイ・ガイ」と愛情をこめて呼ばれるようになった。

 M93は、既存の群れとはまったく血縁関係はなく、並外れて体が大きいという利点があった。これが、ライバルから縄張りを守り、360キロもある大きな有蹄類を倒すのに有利となった。

 すぐにM93は、島にいた3つの群れのうちのひとつの繁殖オスとなり、34頭の子どもを作って、群れの中の遺伝的な健全性と、獲物の捕獲率を大幅に改善した。

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仲間と狩りをするオオカミ / image credit:J. Vucetich/Michigan Technological University/ NPS

外から来た1頭のオオカミのおかげで生態系のバランスが回復

 ヘラジカは大食漢の草食動物で、1日に最大14kgもの植物を貪り食う。数が増え過ぎると、植物が根こそぎ食べられてしまう。

 オオカミがヘラジカを獲物にしてその数を減らすことで、森林のバランスを取り戻すことに貢献したのだ。

 食害によって、もっとも影響をこうむったのは、クリスマスツリーとして一般的に使用される、モミの木だった。

 ヘラジカの数が減ると、ここ数十年で見られなかった速度で、モミの木が成長し始めた。これが、森林とそこに依存する無数の動植物種の再生に不可欠となっているのだ。

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photo by Unsplash

10年後、再び近親交配による個体数の減少

 M93がやって来たことによるこうした恩恵は10年近く続いたが、その後、皮肉なことに、彼の旺盛な繁殖力の結果として、再び状況は悪化した。

 M93の死から2年後の2008年には、オオカミの群れの遺伝子プールの60%が彼から受け継がれていることがわかり、遺伝的な劣化が再び起こっていた。

 M93自身も、もともとの繁殖相手のメスの死後、娘と交配し始めたが、ほかのメンバーも同時に近親交配を始め、急速に個体数を減らした。

 2015年には、異母きょうだいである父と娘のわずか2頭しか残っていなかった。

 幸いなことに、2018年から始まった再生プログラムが、再びシステムのバランスを回復させていて、現在は島にはおよそ30頭のオオカミと、1000頭弱のヘラジカが生息している。

 重要なのは、少数の個体を導入するというこの原理を、同じように近親交配の悪影響で数を減らしている、ライオンやチーターなど捕食動物にも適用して、生態系のバランスを改善できるか、ということだ。

 オレゴン州立大学の生態学教授ウィリアム・リップルは語る。「この取り組みは、遺伝的プロセスがキーとなる種であるタイリクオオカミの生態学的影響を抑える可能性があることを示すことで、理解を進める重要な研究なのです」

 この研究は『 Science Advances』誌(2023年8月23日付)に掲載された。

References:It Took Just One Wolf to Revive An Entire Forest Ecosystem : ScienceAlert / written by konohazuku / edited by / parumo

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この記事へのコメント 55件

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  1. 人間が介入しないと近親交配が起きるとなると
    そもそもこの島はオオカミが生息するには狭すぎるのかも。
    氷上を渡って来た群れが一時的に住むことはできても。

    • +30
    1. >>3
      近親交配を避けるために
      人の手で血縁関係のない個体を投入することを繰り返したら不自然だよな

      • +5
  2. 日本でオオカミ復活させると山が近い住宅街で
    犬猫ニワトリ飼えなくなるし生ゴミをあさる習性は
    ノラ犬と同じだから、今いきなり復活させると
    シカとイノシシ減らすために人間がめっちゃ
    不自由な事になっちゃうから難しいんだよね。

    • +18
    1. >>4
      オオカミ再導入で大成功したイエローストーンって北海道全土より広いからね。
      何百キロも移動する生き物を放して人間と軋轢生まないわけない。

      • +15
    2. >>4
      里山が減ってしまったからなあ
      人間が不自由なことは今でも同じような気がする、別の問題がなくなって別の問題が出てくるの繰り返し

      • +2
    3. >>4
      人間の子供が犠牲になったら大問題だからな。
      オオカミ復活させよう!なんて輩はそんなことも想像できず、自らとは無関係だと思ってるんだろうから。

      • +3
      1. >>38
        自分も安易なオオカミ再導入はいかんと思うけど
        この問題を考える場合はオオカミによる被害だけでなく
        増えすぎたシカやイノシシ等による被害も合わせて考えないと
        公平ではないかな、とも思う。

        あとそういう増えた動物を駆除する為の猟銃の事故で
        割と馬鹿にならない数の死者が出てたりする。
        人的被害なら或いはオオカミの方がマシかも知れない。

        • +1
  3. > 異母きょうだいである父と娘
    どういう家系図?

    • 評価
    1. >>5
      娘視点で言うと
      「父子家庭です。婆ちゃんは二人いるけど爺ちゃんは一人しかいません。父ちゃんと母ちゃんは腹違い(異母兄弟)だったそうです。母ちゃんは亡くなりました」

      • +1
      1. >>46
        それは異母きょうだいの間に生まれた娘とその父

        • 評価
    2. >>5
      娘からみて父と祖母が交配して生まれたのが自分。
      なら父娘かつきょうだいだけど、これだと同母になるよね(祖母と母が同一狼)
      祖父と父は交配出来ないし…
      ???

      • +1
  4. 京都府宇治市でもシェパードの野犬が目撃されてからかなりの数の鹿が減った事があったな

    • +11
  5. 犬とオオカミを交配させれば良いかもな
    オオカミに食われちまうかもしれんが

    • -8
    1. >>8
      猟犬や軍用犬はそうやって作られた血統あるんじゃないっけ。

      そもそも厳密には大陸狼亜種であって犬って種族は無いらしいんだけど……。

      • +1
  6. 近親婚の弊害ってこんな短期間で出るのね

    • +12
    1. >>9
      親の一方から受け継いだ遺伝子に傷があっても、もう一方に無ければカバーできるものは多い。
      近親婚は双方全く同じ場所に傷を持つ可能性があり、カバーできずに病気が顕在化する確率が高くなるので避けるべきと言われている。
      島の群は既に全体が同じ病気の因子を受け継いでしまっていた所へグレイ・ガイがやってきて、彼の子供たちはその遺伝子がカバーしてくれたが次の世代の近親交配は避けられず、もしグレイ・ガイが群とは別の病気の因子を持っていたならそれもいずれ顕在化してしまうことになる。
      定期的に島外から健康な狼を連れてくるしかないけど、逆に増え過ぎて食料不足になりそうだし難しいところ。

      • +6
  7. どっかで繁殖に困っている村はありませんか?
    私が生態系を戻す為に頑張ります

    • -12
    1. >>10
      たまたま日本人が減ってるだけで、人類は増えすぎだか…

      • +4
      1. >>34
        世界中で出生率が激減してるので、今世紀中に人類人口は減少に転ずるよ。
        そして出生率を改善できた国は無い。

        • 評価
  8. 何時も寒くて氷でつながってればいいのにね

    • +2
  9. 一頭だけじゃダメで定期的な交流が必要なのか。人間の活動のせいで全体的に数が減ってるし、偶然に流れ者がやってくる可能性も低い。保護活動がないと全滅しかないとか自然は厳しいな。

    • +1
  10. 広い目で見れば人間も自然の一部だから、人間が介入して上手く回るんならそれでいいんでは?って気もするけどな

    • +10
    1. >>14 外来種の駆除や、絶滅危惧の在来種を育てて定着させたりも、そうじゃないかと思う。

      • +1
  11. オオカミさん あちらこちらで森林の生態系を背負わされすぎじゃないですかね
    強者には責任が伴うってやつだろうか? もちろん我々人間の影響も相当大きいとは思うけれども

    • +2
  12. >異母きょうだいである父と娘のわずか2頭しか残っていなかった。
    異母兄妹ならば、父が同じでなくてはならず、2頭の関係が父と娘はありえない
    父と娘が兄妹であるならば、それは母が同じということ

    • +2
    1. >>19
      句読点が足りない気がするだけで
      異母兄弟と番ったオス(父)と、異母兄弟である両親から生まれたメス(娘)の2頭
      だと思うわ

      単に誤訳で父と娘が同母の可能性はある

      • +1
      1. >>47
        原文
        > there were just two wolves left: a father-daughter pair who were also half siblings.
        誤訳とは言えないけれども、「異父兄弟」のほうを当てなかったため不可思議関係が生じてしまってる

        • +1
  13. 人と鯨の関係と同じ
    沿岸にいる鯨を人が食べることで魚の数が保たれた
    今や沿岸鯨(主食は魚)は化学汚染により法的に流通禁止なので捕鯨やってる土地の人しか食えない
    一般的に食われてるのは調査捕鯨の鯨(主食はオキアミ)
    更に排出規制を厳しくして沿岸鯨を食えるようにしないと、漁獲量も回復しない。
    中国人が食いすぎてるとかは妄想。

    • +6
  14. 外来種の狼を日本に放つべきなんだーい!教ってのがあるけどアライグマを日本にはなった連中と同じレベル

    • -3
  15. セイウチみたいなハレームを作る生物にはなぜこのような事態が起こらないのだろう

    • +1
    1. >>23
      育ったオスは外に出るからだよ
      逆に言えばハーレム外からオスが来るから大丈夫なんだよ
      この話の狼たちは島に閉じ込められて結果的にサラブレッドみたいになってた

      • +2
      1. >>45
        「いつか放浪の旅に出てみたい」「転校生ステキ!周りの男にはいないタイプ!」なんてのも案外そんな本能が働いているのかも
        昔の因習として語られる、高貴又は気に入った旅人に村娘を差し出すなんてのも丈夫な子が生まれるからだと言うし

        • 評価
  16. マイナスつくだろうが言わせてもらう。ここに男性の理想の妄想が全て詰まってる。風来坊がモテまくって世界を救う。異世界ラノベそのもの。

    • -8
  17. 1つのグループにだけじゃなく、すべてのグループにそれぞれ別の家系の個体を入れてあげれば、子孫達同士が子供を作っても遺伝子異常は起きないだろ。

    • 評価
  18. 何なのかなこの記事というか研究?
    というかこの狼がいることに肯定的なだけな見方は何やろ?

    「ロイヤル島に最初のオオカミ集団が到着したのは、1940年代後半のことだ。」
    「1997年の冬、1頭のオオカミが、カナダから、~ロイヤル島にやってきた。」
    「2018年から始まった再生プログラムが、再びシステムのバランスを回復させて」

    つまり島に最初に来た狼の影響で1940年後半にそれ以前の生態系に異変が起こったんじゃないの?
    その後、約半世紀かけて狼は減ったけど、1997年に1頭の狼が来てまた集団の数が増えた
    その後また減ったけど、今度は人間が人工的に狼を入植した?

    狼が島に偶然来るのも自然の柔軟性かもしれないけど、人が人工的に狼を増やしてるのは意味が違う
    人のせいで絶滅しかかってる動物を元のように増やそうとするのとは違って、その地理的条件によって自然が絶滅させていたであろう動物を人が介入して不自然に増やそうとしてるってこと・・・

    ムースが食べてモミの木が少ない森が「不健全な状態」だと誰が決めるのかという問題
    モミの木が減ればムースも減る、木もムースも減った島には他のモミの木が多い陸上とは異なるその島独自の生態系が何世紀後かに生まれるかもしれないのに

    • -7
    1. >>27
      ただムースと植物だけの場合は狼がいる場合に比べて安定性は減るだろう。
      片方の激減と激増を繰り返すわけだから、そしてムースについては飢えに強くなるようにほかの狭い地域に住んでいる生き物と同じように小型化していくはずだ。ただここは寒いのでムースのような巣穴を持たない生き物が小型化しても生きていけるかは不明だ。

      • 評価
  19. 「ロイヤル島からオオカミが消える日」でぐぐるともう少し詳細が出てきますね。
    ヘラジカ(ムース)自体も今のグループが島に居着いたのは1910年頃で、そこからオオカミの群れが来るまでに食料とされた世代のモミの木は壊滅しているとか、オオカミの減少について人間の活動が関与している(イエイヌからのウィルス感染、地球温暖化による氷の橋減少)とか。
    また更に他のサイトではヘラジカはオオカミ来島までモミの木を食いつくし大量繁殖して飢饉に陥っていたレベルだったとか。

    特に保護と保全が求められる国立公園でモミの木がボロボロになってもいいじゃん!って選択肢は無いでしょうし、人間の活動でバランスが一番壊れたのがオオカミ減少でそれをカバーするってことなんすかね

    • +5
  20. かなり昔から人間のせいで生態系めちゃくちゃだね

    • 評価
  21. この記事は島に狼がいつづけて当然のようにも読める内容ですが、しかし「ロイヤル島は本土の人間や動物集団から隔離され、生態系における因果関係の探究」

    が主な目的で隔離されているということです

    ですので、この記事の学者とは異なる意見もあり、狼が絶滅するならとりあえずそれを見守り「同系交配が集団の持続性に及ぼす影響について多くの知識が得られれば、それを絶滅危機種の同系交配集団の回復に役に立てられる」という学者もいるようです

    またロイヤル島国立公園の管理者の言葉によると、選択肢として狼の絶滅があろうと「何もしない」、というものも選択肢の一つとしてあげられています

    まあでも最終的に木を保全することは現世に住んでるこの地域の人類にとっては大事なのでそうしたいという気持ちにはなるでしょう

    ただ長い目で見ると人類の歴史は地球の歴史と比べてまったく長くないので、地球の生態系の研究のために島を人からも隔離しているのであれば、ただ放置というのも生態系の研究には役立つでしょう
    大きな木が少なくなれば太陽の日が当たりだした地面には別の生態系がはぐくまれるのですから人や陸から隔離された島は良い研究対象です

    • +3
  22. 日本は鹿を獲る猟師が減ったせいで鹿が増え過ぎて生態系に影響を及ぼしてる。最近オカシイぐらい増えたマダニもそのせい。

    人間だって生態系の一部であるという意識をきちんと持った上で色々な対策を考えないといけないと、変な方向に行くよ

    • +4
  23. 自然って勝手には調和しないんだよね。人間の目にはそう見えやすいというだけで。
    人間が手を加えることの是非は置いておくとしても、自然の調和に幻想を抱くべきではない。

    • +1
  24. ツキノワグマにすらビクついてる日本で、
    ガチの肉食獣のオオカミ再導入なんてできるわけがない。
    少なくとも登山は全面禁止になりそう。

    • 評価
    1. >>41
      ビクついてる日本て?クマは怖いですよ。
      そんなの当たり前でしょ。
      オオカミを再導入する必要ないし、なんだか論点ズレてる。

      • -1
      1. >>42
        獣害対策として狼を輸入して山に放とうという声が一部で上がっているので、それについての皮肉では

        • -1
    2. >>41
      人を襲うという面ではオオカミよりクマの方が危険。
      オオカミって一般のイメージほど人は襲わなかったりする、

      • 評価
      1. >>48
        狂犬病のワクチンはどうやって打つの

        • 評価
        1. >>50
          オオカミに限らず野生動物にワクチンなんて打ってないでしょ。

          • 評価
          1. >>51
            言われてみればなぜ犬にだけ狂犬病ワクチンを打つんだろう
            人間の側にいて咬む動物というなら猫も相当なのに
            他国は身近な野生動物にキャリアがいるからだけど

            • -1
          2. >>52
            狂犬病の感染源の9割以上が犬だと言われてるからね。
            他の動物と比べて人への警戒心が小さいことが関係してるのかも。

            • 評価

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