
ローマの歴史家タキトゥスによると、西暦64年に町の70%を焼きつくしたローマの大火を、皇帝ネロはこの劇場の舞台から見物していたといわれている。
この劇場は、テヴェレ川西岸にあって、大火の影響からは遠く離れた安全な場所だったことから、ネロの劇場で間違いないと専門家の多くは考えている。
燃え上がるローマをネロが楽しんで見ていた、という話の真偽のほどは怪しい。だが、古代ローマのネロの劇場が、かつてさまざまな娯楽を開催していた、実在の建造物だったことは確かだ。
文献でしか知られていない皇帝ネロの劇場を発見
皇帝ネロ(37年12月15日 - 68年6月9日)の伝説的な劇場は、バチカン市に隣接する史跡の調査中に発掘された。この発掘は、ローマ市の主要な文化遺産保存組織であるローマ監督局が主催している。劇場は、ペニテンティエリ宮殿としても知られるローヴェレ宮殿の、壁に囲まれた庭園の下から発見された。
この宮殿は、15世紀に教会によって建てられ、古代バチカン騎士団である聖墳墓騎士団の本部として、現在でも使われている。
この宮殿内に、将来的にフォーシーズンス・ホテルが建設される計画があるため、広大なルネッサンス時代の建造物を次の世代に確実に保存する、改修プロジェクトの一環として、事前の発掘調査が行われていた矢先、この発見があった。
今、専門家たちは、この宮殿についてこれまで知らなかったこと、少なくとも確証がなかったことを知る結果となった。
この庭園が、14世紀以上も前に皇帝ネロが自分の私設劇場を建設しようと選んだ、まさにその場所だった、ということだ。
1世紀のもうひとりの著名なローマ歴史家、大プリニウスは、最終的に発見されたこの場所に、劇場が建てられたことはほぼ間違いないと書いている。
この遺構の様子が大プリニウスの記述と似ていることから、長きにわたるネロ劇場の探索は、ついに成功の結末を迎えたようだ。

これは、皇帝ネロが自作の詩や歌唱のリハーサルを行っていた場所であることを証明する、極めて重要な発見です。ローマ特別監査官ダニエラ・ポロ氏は語る。
古代の文献に記述されていはいるものの、これまでずっと発見されていなかったわけですから
ネロの劇場では、さまざまな演劇が上演され、たくさんの人間が出演した。
ここを建設し、所有していた皇帝もまた、上手い下手にかかわらず、その芸術的才能に熱狂的な拍手を送るしかなかった観客の前で、自ら舞台に立ち、演じる特権を行使した。
Teatro di Nerone - "Sotto il suolo di Roma"
約2千年の時を経て、再び姿を現したネロの劇場
将来、フォーシーズンスホテルになる庭園の下で、互いに直角に建てられた一対のレンガ構造物が発掘された。最初に現れたのは、劇場そのものの一部で、西に面した舞台と、それを取り囲む半円形のセクションがあった。
もうひとつは、観客が座る場所と思われ、発掘を進めるにつれ、この場所の形状や目的がわかる階段、壁、入口の遺構の輪郭が露わになった。
また、まだらに色のついた大理石の柱や、金箔が貼られた漆喰の破片も見つかった。
これらは、この劇場がどのように設計され、装飾されたのかについて、大プリニウスの記述をはっきりと裏付けるものでもある
劇場の正体を示す最終的な証拠として、建設に使われたレンガの刻印から、この劇場がローマ帝国のユリウス・クラウディウス時代(紀元前27年から紀元68年)に作られたものであることが判明した。
この時期は、ローマ帝国の最初の5人の皇帝の治世で、ネロはそのうちの最後、第5代皇帝だった。
次に発見された構造物は、衣装やセットを保管するための補助的な建物だった。
これは目立たない遺構だが、芸術の筆頭パトロンとして、自らも卓越した演技者としての名声を得ようと願った皇帝によって建設された劇場施設に必要なものだった。

徐々に明らかになるローマ帝国の歴史
ネロ劇場の発見は、ローヴェレ宮殿での最近の発掘のハイライトだが、重要な発見はそれだけではない。この発掘で、帝国の誕生から15世紀までの歴史の詳細が明らかになる遺物や遺構がたくさん出てきた。
中でも注目すべきは、10世紀の色のついた珍しいガラスのゴブレットや陶器の破片だ。この当時の遺物はほとんど見つかっていないため、当時のローマでの生活はあまり知られていない。

2020年に宮殿の発掘が始まったときに、もっとも驚くべき発見があった。
ネロに匹敵する、第3代ローマ帝国皇帝カリグラ(ガイウス・カエサル・ゲルマニクスのこと)の豪奢な宮殿遺構が出てきたのだ。
巨大な邸宅だけでなく、敷地内には広々とした庭園や私設の野生動物公園もあり、当時も今も、町のまさに中心部だった。
ネロ劇場から発掘された遺物は、博物館に移送されることになるが、遺構は調査が終了した後、最終的には再び埋め戻される予定だ。
これにより、確実に永遠に保存されることになるだろう。
References:Long-Lost Legendary Theater of Nero Finally Excavated in Central Rome | Ancient Origins / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
タキトゥスのような偽歴史書を書く人は信用できないな
なんで当時ローマに居なかったネロが火事見物できるねんな
個人のルサンチマンを歴史改竄で発散するなんてもってのほかだわ
2. 匿名処理班
こういうのが好きな人には、最近完結したプリニウス(ヤマザキマリ、とり・みき共著)がお勧め。
そりゃまあ創作物だけど、細部に最新の発掘結果を織り込んでいるので息子スティックペンダントやらポンペイのニワトリやら軽石やらアマビエまで登場するぞ!
3. 匿名処理班
ネロは構造的に考えて悪行が誇張がされてるのは確実
神君アウグストウスが始めた王朝の最後の皇帝だから
物凄い悪行があったことにしないと神君の血統を断つということができない
元老院階級の多数は敵にしたことは確実だが市民には人気があったぽいしね
4. 匿名処理班
そこでサテュリコンですよ。
5. 匿名処理班
ネロも研究されるにつれて「暴君と違くない?」てことになってきたらしい。彼の詩吟のつまらなさに観客が寝落ちしそうになった、というエピソードも実は……いやこれは実際に聞かないとわからんか。
6. 匿名処理班
👨「俺はネロだ!」
👩「はい寝ます。」
7. 匿名処理班
画像で思わず拭いたら直ぐネロよwww
8.
9. 匿名処理班
遺構は埋めて、ホテルを作るんだ。 もっと全体を掘ったりするのかと思っていた。
10. 匿名処理班
>>3
>>5
ネロ「僕は冤罪を否定するのにもう疲れたよパトラッシュ・・・」(違)
11. 匿名処理班
黄金劇場の一部ってこと?
12. 匿名処理班
水害がある度に埋めて建物作ってるみたいだから
ちょっとした穴からカメラを通すと地下に家屋っぽいのと壷が転がってるの映像をテレビで見たことあったな
13. 匿名処理班
>>5
居眠りすると鞭打ちされるんだろ?おっかねー
14. 匿名処理班
>>1
信用するしないの問題ではないんよ
偽史だとしてもそこから様々なことが読み取れる、
それが歴史というもの
15. 匿名処理班
>>9
キリがないからな。災害や戦争で街が壊されたら埋めて作り直して、を繰り返してきた歴史が長い都市で、今回も比較的近いとはいえ年代の違うネロの時代とカリグラ(カリギュラ)の時代の遺跡が出てきちゃったし。
16. 匿名処理班
>>2
漏れは講談社のやつをおすすめするぞー
加藤元浩氏のQEDシリーズの中にあるやつだったかな?
プリニウスみたいにガチなやつではなくて、これはちょっと知っとくといいかな?という感じの知識が得られるぞー