働きアリを女王アリに変えるタンパク質
 動物の脳はとても柔軟な器官で、その構造や機能を変化させることができる。その顕著な例が明らかとなった。

 インドクワガタアリは、女王アリが死ぬと、働きアリのメスたちがお互いに争い合い、その勝者が次の女王アリとなる。

 女王アリに変身した働きアリは、産卵が大きくなり、脳の一部が失われるのだが、次世代の女王アリはどのようにして決定づけられるのか?

 そこにはある1種のタンパク質が関与していることが新たな研究から明らかとなった。この研究は『Cell』(21年11月4日付)に掲載された。
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アリ社会における女王アリの役割

 社会性昆虫の代表格であるアリは、はっきりと役割が区別されている。

 たとえば「女王アリ」は、巣の仲間に身の回りの世話をさせながら、もっぱら卵を産むのが役割だ。一方「働きアリ」なら、その名の通り働くことが役割で、普通なら卵を産んだりはしない。

 最近では、多摩動物公園で女王アリが死亡した後のコロニーの様子を一般公開した「滅びの展示」が行われたことが話題となった。女王アリの死後も淡々と働いていたアリたちだが、徐々に群れは衰退し終焉を迎えた。

 だが一部の種には、女王アリの死後、働きアリの中から新たな女王が誕生するタイプがいる。

 働きアリから選抜され、女王アリに昇格し、産卵能力を持った個体は「ゲーマーゲート(gamergate)」と呼ばれている。

 インドに生息する体長2.5センチほどのクワガタのようなアゴを持つ「インドクワガタアリ(Harpegnathos saltator)」も、ゲーマーゲートによりコロニーが維持されている。
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インドクワガタアリ(Harpegnathos saltator / image credit:Kalyan Varma/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0

女王アリに変身した働きアリは卵巣が拡大し脳が縮小する

 インドクワガタアリのコロニーでは、女王アリが死亡すると、次世代女王をめぐって後継者争いが勃発する。メスの働きアリの大半が1か月以上もお互いに攻撃しあい、最後まで耐え抜いた働きアリが女王アリに昇格するのだ。

 米ペンシルベニア大学のロバート・ボナシオ氏は、「ゲーマーゲートは、女王アリの社会的役割を奪った働きアリです」と説明する。

 ゲーマーゲートの外見はほとんど働きアリと変わらない。しかし次世代の女王アリに選ばれし働きアリの体は大きく変化する。

 卵巣が大きくなり、脳の容積が2割程度小さくなる。これは繁殖行動に専念する為、脳に費やすエネルギーを縮小して卵巣を拡大させる為と考えられている。
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インドクワガタアリ(働きアリ)の戦闘モード / image credit:Karl Glastad(Berger Lab)

女王アリに変身する働きアリは何が違うのか?

 過酷な戦いを勝ち抜き、女王アリとなった働きアリたちは、負けていったアリたちと何が違うのか?

 この謎を解くために、ボナシオ氏らはインドクワガタアリの脳から生きたままの神経細胞を採取し、これを培養しながら変身を引き起こす分子メカニズムを探った。

 その結果、働きアリとゲーマーゲートでは、2種類のホルモン(「幼若ホルモン」と「エクジソン」)の濃度に差があることが明らかになった。

 どうも、この差によって、脳内で活性化する遺伝子のパターンに違いが生まれているようなのだ。

1つのタンパク質が活性化することで女王化

 2つのホルモンは、「Kr-h1」というたった1つのタンパク質を活性化させることで、神経細胞に影響を与えていた。

 これはボナシオ氏にとって予想外だったという。というのも、彼の考えでは、働きアリとゲーマーゲートにはそれぞれ専用のスイッチがあるはずだったからだ。

 ところが実際には、たった1つのタンパク質がどちらのアリの中でもスイッチとして機能していたのである。

 Kr-h1が、クラスチェンジを起こす唯一のスイッチとは限らない。それでも「両クラスで機能するタンパク質が見つかったのは、興味深いことです」と、ボナシオ氏は語る。

 この発見を人間などの動物にそのまま当てはめるのは難しいが、脳の構造や機能の変化のメカニズムについて理解を深めるヒントになるとのことだ。

 「哺乳類の脳でも、アリのようなホルモンやタンパク質が見つかれば、スゴイことですね。」

 戦国時代、下剋上で台頭していった戦国武将たちや、カリスマ的存在となった人物も、実は何らかのタンパク質が関与している可能性もなきにしもあらずなのか?

References:Single molecule controls unusual ants' switch from worker to queen-like status / written by hiroching / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 08:40
  • ID:oZmnE6er0 #

ただし効き目は12時の鐘が鳴るまでだ

2

2. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 09:34
  • ID:IADn6Mot0 #

※1
魔法の効果が切れてもガラスの靴の片方がずっと残っていたのはなぜなのか、子供の頃から疑問だった。
今でもわからない。
どなたか、教えてください。

3

3. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 10:02
  • ID:lxBNMOdS0 #

>彼の考えでは、働きアリとゲーマーゲートにはそれぞれ専用のスイッチがあるはず
これがわからない、ひとつで十分ですよ、いや足りると思う。
まあこちらは女王アリの姿を見てないから何だが…
一つのホルモンでも様々な効果があるからそれを出すだけで変身は可能では?

4

4. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 10:45
  • ID:eR534Rrb0 #

👦K「おかねちょうだい。」

👧M「女王さまとお言い!」


5

5.

  • 2021年11月11日 11:20
  • ID:VEnjeTgb0 #
6

6. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 11:41
  • ID:9Bku6Nlb0 #

エイリアンのデザインが割とそのまんまだよな

7

7. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 11:46
  • ID:XueJLmPu0 #

ロイヤルゼリーという食べ物によって女王アリに変化するなんて話は一般人でも知っていぐらいの知識だぞ、、、

8

8. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 12:06
  • ID:Q2jwcaqV0 #

女王っていうけど、役割が産卵するだけで、お外で自由にキャリアを積むタイプとひたすらこもって産卵し続ける母ちゃんになるかってことなんだよね。アリは女性社会

9

9. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 12:43
  • ID:OzS31ev50 #

※1
そしてまた始まる女王決定戦…

※2
シンデレラが魔法を信じたおかげで舞踏会へ行けたのと同じく、王子もまたシンデレラの存在を信じてガラスの靴を拾い手に取ったから靴が消えなかったのだ。どういう形でも信じる心がある限り魔法は消えないのだ!

10

10. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 12:57
  • ID:Kwtt6b5l0 #

>>2
身につけていなかったからとか?

11

11. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 13:04
  • ID:kJuUcWHI0 #

>だが一部の種には、女王アリの死後、働きアリの中から新たな女王が誕生するタイプがいる。

なんかこう、トーナメント制みたいで凄いね。w

12

12.

  • 2021年11月11日 14:40
  • ID:rLLhApm80 #
13

13. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 15:25
  • ID:.1jpCYnW0 #

※2
ドレスや馬車は魔法で姿を変えた物だけど、
ガラスの靴は魔女が別に用意して持ってきたからと違うん?
少なくともワイが読んだグリム童話ではそうやったで

14

14. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 15:26
  • ID:.1jpCYnW0 #

※7
それ作るの蜂やで

15

15. 匿名処理班

  • 2021年11月11日 17:39
  • ID:JWTg24.p0 #

>>11
虫の場合、血統と言って良いのか分からないが、皆同じ女王から生まれているよね?(寿命的に世代があるのか分からないけど)と、考えると感慨深い。

16

16. 匿名処理班

  • 2021年11月12日 03:33
  • ID:xIPLR1G70 #

※2
魔法が解けたのではなく、『0時に魔法を消す』魔法がシンデレラにかけられていて、
落としたほうの靴は発動時に効果範囲外へ出ていたから説を唱えてみる。

17

17. 匿名処理班

  • 2021年11月12日 08:30
  • ID:CE9XCIPR0 #

女王アリより働きアリの方が楽しそう

18

18. 匿名処理班

  • 2021年11月12日 11:03
  • ID:C1roTSTQ0 #

※2
現代の一般的なシンデレラのストーリーの
基礎となっているペロー版では、
魔法の杖で、かぼちゃを馬車に
マウスを白馬に、ラットを馭者に、トカゲをお供に
労働用のボロ着を煌びやかなドレスへ「変えた」、
最後に靴を「与えた」と表現してある。

そして、魔法が解けると、それぞれの物は「元に戻る」。
靴は、何かを変化させた物でなく貰った物なので、そのまま。
服がボロ着に戻っても、靴の片方だけは手元に残っている。
(最後に足が嵌まった後、答え合わせで自持ちの片靴も出してる。)

なんで靴だけ別途あげたのかよく分からんが、
そもそも「変える」材料が無く、屋内労働で裸足だったのか…??
(ペロー以外だと、靴は亡母の遺品だとするバージョンもある。)

19

19. 匿名処理班

  • 2021年11月12日 16:02
  • ID:ofzPIIpq0 #

女王アリになると脳の一部が萎縮するって何か怖いな

20

20. 匿名処理班

  • 2021年11月12日 19:37
  • ID:r8NjuXIp0 #

(-_-)/~~~ピシー!ピシー! 女王様とお言い!!

21

21. 匿名処理班

  • 2021年11月13日 11:38
  • ID:9u1HKysh0 #

女王と名付けられてるけど実態は産む機械なんやね…
脳みそも一部なくなっちゃうとか尊厳としてどうなの…
いや虫に尊厳問うても無意味だけど

22

22.

  • 2021年11月13日 12:36
  • ID:CnsNyhLW0 #
23

23. 匿名処理班

  • 2021年11月13日 17:17
  • ID:5UMZcm6y0 #

※21
自分は逆に、たまたま王台の位置に産み落とされた卵が
勝手に次の女王候補に選ばれる蜜蜂なんかは
今まで「産む機械」のイメージが強かったけど、
「女王アリが死ぬと、働きアリのメスたちがお互いに争い合い
その勝者が次の女王アリとなる」というこのアリは
能動的に他を蹴落として女王の座をゲットしてる感じがして、
(たとえ本能のインプットだとしても)自ら望んでその座に
就くだけのインセンティブはあるのか、と印象が変わった。

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