
カナダ、マクマスター大学の数学者グループは、そのことを感染症モデルによって証明してみせた。感染症の広まりを説明する数理モデルを、音楽が流行するプロセスに応用してみたところ、きわめて類似していることがわかったのだ。
『Proceedings of the Royal Society A』(21年9月22日付)に掲載された結果によると、ウイルスの種類によって感染力が異なるように、音楽の種類によっても感染力がに違いがあることという。
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ウイルス感染症の数理モデルで音楽のダウンロードデータを分析
この研究では、音楽ストリーミングサーピス「MixRadio」からダウンロードされた14億曲分のデータを、「SIRモデル」という標準的な感染症数理モデルで分析している。SIRモデルとは、感染症の短期的な流行過程を決定論的に記述するモデル方程式だ。
その結果、感染症の拡大を記述する数理モデルで、ダウンロードの傾向をきちんと分析できることが明らかになったという。

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基本再生産数=感染力を音楽に置き換えて算出
SIRモデルではウイルスなどの感染力を「基本再生産数(R0)」 で表す。これは感染した1人の感染者が、誰も免疫を持たない集団に加わったとき、直接感染させる人数の期待値であるたとえばR0 = 2ならば、感染者1人は2人に病気をうつすので、感染症は拡大する。反対に1未満なら、感染症は収束する。
ある音楽を聴いている人(リスナー)の影響で誰かがそれを聴くようになったら(例:勧められて聴いた)、これを感染とみなす。1人のリスナーから2人のリスナーが生まれれば、R0 = 2となる。
感染症も音楽も社会的な関わりで感染拡大する
分析の結果、調査された曲のダウンロード数の時系列変化と、感染症の時系列は類似した形状を持っていることがわかった。研究に携わった数学者のドラ・ロザティ氏はこう語る。
感染症の拡大をうながす多くの社会的プロセスと同様のことが曲の流行をうながしている可能性が示唆されました。
具体的には、音楽も感染症も、集団の中で広がるために社会的なつながりが必要であるという考えを裏付けるものです
感染症の場合、感染者と接触すれば、一定の確率でその病気にかかることになります。歌の場合もそれに似ています。
大きな違いは、歌の場合、必ずしも物理的な接触が必要ではないということです。例えば、友人がInstagramのストーリーでクールな曲を使っていたから、私も探しに行ってみよう、というようなことです

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音楽のジャンルによって感染力が異なる
また、ウイルスの種類によって感染力が異なるように、音楽の感染力(流行)がジャンルによって異なるは興味深い。たとえば一番感染力が弱かったのは、「ダンス」と「メタル」で、それぞれのR0は2.8と3.7(中央値)だった。
もっと広く聴かれている「ポップス」は35。「ロック」と「ラップ/ヒップホップ」はそれぞれ129と310だ。
そして最強の感染力を持つのは「エレクトロニカ(電子音楽)」である。そのR0は3430。1人のリスナーから3430人のリスナーが誕生する。
世間を騒がせているデルタ株のR0は5〜8と言われている。ウイルス界最強クラスとされる麻疹ウイルスなら12〜18だ。だがエレクトロニカは圧倒的で、後者の190倍も感染力が強いのだ。

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SNSが音楽の感染力を強化
音楽にこれほど強い感染力があるのは、病気と違って物理的な接触がなくても感染するからだ。SNSがそれに拍車をかけている。かつてはラジオが音楽の宣伝に大きな役割を果たしていた時代があった。しかし今ではTwitterで誰か1人が呟くだけで、一気に大勢の人に音楽が伝えられる。
そのおかげで、これまであまりメディアに取り上げられなかったジャンルやアーティストたちも注目されるようになったようだ。
さて次はどんな音楽が流行するのか? 一度聴いたらクセになる、しゃべる猫や歌う犬と人間のコラボ音楽かもしれないし、そうでもないのかもしれない。
References:Modelling song popularity as a contagious process | Proceedings of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences / Mathematicians discover music really can be infectious – like a virus | Science | The Guardian / written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
音楽だけでなく、"流行"の感染力も同じじゃないのかな?
昔のキリスト教、仏教とかもそうやって感染していったり
今ならば鬼滅の刃とかもそうかな?
結局人間は社会性の強い生物だから、「共通の話題」を流行させることで
知らない人、新しい人ともコミュニケーションを取ろうと図るのかも
2. 匿名処理班
特に西洋音楽の様なロジック、秩序をもった音楽を生まれた時から耳にしているから
秩序の無い音楽をバイアス無しで聞いた事が無い
もしもバイアス無しで秩序を持たない音楽しか聴いたことなかったら自分の音楽観がどう変化していたのか興味はある
3. 匿名処理班
エレクトロニカの感染率が最も高いなら2019年のフジロックのレポートで平沢進師匠の影響力はパンデミック級と言われたのもうなづけるし24曼荼羅から今年のフジロックまでにフォロワーが27万人まで増えたことから見ても明らか
4. 匿名処理班
ミームってやつだね
5. 匿名処理班
仲がいいほど接触機会が増えて感染の可能性も高まることも考えられるし
嫌いなやつとは接触したくないし、嫌いなやつが聴いてる音楽なんて聴きたくもないという
この研究とは違うけど共通性は見出せるような気もする
6.
7. 匿名処理班
一番感染力の弱い「ダンス」と「メタル」に感染している俺。
8. 匿名処理班
神経ネットワークと宇宙の構造が似てる。
と同じで、シンプルで無駄のないパターンがあると思う。
黄金率は人が感じるもので、人間主体と思われるが、
巻貝の成長など効率という点でも優れている。
ハニカムやダイヤの構造、折り紙パネルも同様。
9. 匿名処理班
※1
「変異」や「収束」の概念を取り込めば分離の垣根を超えた統一的学問になりうるね
10. 匿名処理班
若い人は知らんだろうけど、昔はレコードに始まり楽器や音楽一般のアレコレを売っている独立店舗は外に向けて音楽を流していたんだよね。あれって市中に感染を広げていたわけですね。おそらくそういうのは著作権使用料を払うかしないといけなくなってみんなやめちゃったのかなと。
ちなみに、駅前の遊戯施設では軍艦行進曲が大音量で流れていたw 1990 年代になると T-SQUARE の TRUTH がかかるようになった。その後は郊外店舗化して駅前から姿を消したのでよく知らん、スマヌ うまく店舗で流してもらえば曲の感染者を増やすことができたんじゃないかと、今回の記事を読んで思いましたことよ
11. 匿名処理班
あーこれ体験してるからわかるわ
竜とそばかすの姫でそうだった
12. 匿名処理班
なんでメタルだけロックからハブってんねんハブってんねんハブってんねん(リフレイン
ていうかB’zの「LOVE PHANTOM」とかメタルとポップスとラップとエレクトロニカが混じっとるが、あれはどれになるねん
13. 匿名処理班
終息も同じようになります
14. 匿名処理班
デカルチャー!!
15. 匿名処理班
すると、「ロックなんぞ悪魔の音楽じゃ!」とか言って反対したかつての爺さん世代は、さしずめ抗体ってところか。
16. 匿名処理班
確かに「沈むように溶けてゆくように♪」
で、瞬時にパンデミックだった。
17. 匿名処理班
>音楽が流行するプロセスに応用してみたところ、きわめて類似していることがわかったのだ。
人と人とのつながりで流行するのだから類似するのは当たり前
むしろ、類似しない部分ってあるの?
18. 匿名処理班
メタルは感染力こそ弱いけど重症化するんだよ(*´ω`*)
もう40年患ってるけど一向に回復の兆しはないですね
たぶん死ぬまで聴いてます
19. 匿名処理班
「一番感染力が低いのがダンスとメタル」って
日本で言ったら演歌みたいなもん?
20. 匿名処理班
※1
「口裂け女」などの都市伝説の類も、似た感じだと思う。
21. 匿名処理班
トロニカわかるわあ〜。媒体少ないから一回何かで情報露出したら聴かずにはいられないもん。
22. 匿名処理班
※7
蓼食う虫も好き好き。
あなたは物事の良い所を探すのが上手いんだよきっと。
23. 匿名処理班
つまりは周波数。