
一見矛盾した特徴を持つ褐色矮星の正式名称は「WISEA J153429.75-104303.3」。幸運な偶然によって発見されたことから「アクシデント(The Accident)」というニックネームで呼ばれている。
『The Astronomical Journal Letters』(21年6月30日付)に掲載された分析結果によると、アクシデントの年齢は100億年から130億歳。天の川が誕生した初期に形成された、非常に古い星であるそうだ。
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冷たく熱い。矛盾した特徴を持つ褐色矮星、アクシデント
アクシデントというニックネームがつけられたWISEA J153429.75-104303.3は「褐色矮星」というタイプに分類されている。褐色矮星は、質量が小さく、軽水素の核融合が起こらずに主系列星になれなかった天体のことだ。主系列星と惑星の中間的な大きさで、そのどちらにも分類されない。重水素の核融合は起こるため、赤外線を放つが長続きしないという特徴がある。
だがアクシデントは、普通の褐色矮星とはまるで違っている。これまで発見されてこなかったのもそれが理由だ。
褐色矮星は歳をとるにつれて冷えて、光の波長ごとの明るさが変化する。これは熱した金属が冷えるにつれて、明るい白から真っ赤になるとの同じような感じだ。
アクシデントが不思議なのは、ある波長では非常に冷たい(したがって古い)ように見えるのに、また別の波長では明るく温度が高いように見えるからだ。
褐色矮星―恒星でも惑星でもない星
偶然の発見、ゆえにアクシデント
アクシデントを最初に捉えたのは2009年に打ち上げられたNASAの宇宙望遠鏡「NEOWISE」で、発見者はアマチュア天文学者のダン・キャセルデン氏だ。彼は自作のプログラムとNEOWISEのデータを使って褐色矮星を探していた。宇宙には赤外線を放つ天体がたくさんあるが、これらは地球から遠く、大抵は静止しているように見える。
だが褐色矮星は暗い星なので、地球の近くにあるものしか見つからない。だからその移動する様子を観察することができる。
キャセルデン氏のプログラムは、遠くにあって動かない星は除外し、褐色矮星の特徴をそなえた移動する天体を強調して表示するように作られていた。
そうやって星の候補を探していたとき、偶然にも既知の褐色矮星の特徴にそぐわないために強調されていないアクシデントを見つけたのだ。

矛盾した特徴があるのは何故なのか?
一体なぜアクシデントは冷たいように熱いようにも見えるのか?その秘密を明らかにするために、米カリフォルニア工科大学の天体物理学者デイビー・カークパトリック氏らは、ハワイのW・M・ケック天文台からまずその赤外線を観測してみた。だが赤外線は暗すぎてアクシデントを観測することができなかった。
そこでアクシデントが暗いのは、想像以上に遠くにあるからではないかと仮説を立てた。これも違っていた。
ハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡で距離を測定したところ、たったの50光年しか離れていなかったのだ。
そのかわりに時速80万キロという高速で移動していることが判明した。同じ距離にあるほかの褐色矮星よりもずっと速く動いていたのだ。
そしてこのことは、おそらくアクシデントが”長い間”天の川を疾走していただろうことを示唆している。その間、巨大な天体に遭遇し、その重力によって加速されてきた。だからやたらと高速なのである。
”長い間”とは100億年から130億年のことだ。これは一般的な褐色矮星の2倍の年齢だ。アクシデントは天の川が形成された初期に誕生した、非常に古い星であるようなのだ。

天の川が形成された初期に誕生
136億年前に天の川が形成された頃、そのほとんどは「水素」と「ヘリウム」によって構成されていた。「炭素」のようなほかの元素は、後になって星の中で作られ、超新星爆発によってばら撒かれたものだ。アクシデントと同じような温度の褐色矮星は、水素と炭素で構成された「メタン」を多く含んでいる。ところがアクシデントの光の波長を観察しても、そこにメタンが含まれている様子はほとんどない。
ほかの分子と同じく、メタンもまた特定の波長を吸収する。そのためメタンを多く含む褐色矮星は、その波長が弱くなる。しかしアクシデントの場合、そうした特徴が見当たらない。
そして、こうしたアクシデントの光の特徴は、天の川にまだ炭素が少なかった頃に誕生した非常に古い星のものと一致する。だからアクシデントも生まれたての天の川で誕生したと考えられるのだ。

photo by Pixabay
同じような星はまだまだある?
これほど古い褐色矮星が存在すること自体は以前から予測されていたという。だが同時にきわめて珍しいものであるとも予測されていた。今回そんな褐色矮星が地球の近くで見つかったのは、幸運な偶然のおかげかもしれない。だがそうではなく、じつは思った以上にたくさんある可能性もあるそうだ。
References:An Accidental Discovery Hints at a Hidden Population of Cosmic Objects / written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
彗星意外にも走り屋がいるのか…
2. 匿名処理班
メトシェラの仲間かな?
3. 匿名処理班
熱いのに冷たい星ってなぁ〜んだ?(ガチ困惑
4. 匿名処理班
銀河の歴史がまた1ページ
5. 匿名処理班
人間が立てた仮説に合わない現実か。
最近は生命の痕跡を探すのに躍起になってるみたいだけど、
え、こんなところに!?って所で見つかるかもね。
6. 匿名処理班
ここでトップランキングを見るとは!
7. 匿名処理班
ええとつまり実際には古いせいで温度がかなり低いんだけど
より新しい同種の星だと含有するメタンが吸収しちゃう波長で観測するとメタンが殆どないせいでめっちゃ明るく(熱く)見えるということでOK?
8. 匿名処理班
:::
9. 匿名処理班
※3
水星
10. 匿名処理班
ただでさえ解らないのに
更に矛盾してるんじゃ、バカな私に解る訳が無い
11. 匿名処理班
宇宙年齢問題の一つですね。
12. 匿名処理班
50光年ってすぐそばだな
13. 匿名処理班
>矛盾した特徴があるのは何故なのか?
どこにも解説されていない件
>一体なぜアクシデントは冷たいように熱いようにも見えるのか?
どこにも解説されていない件
14. 匿名処理班
おそらくこういう発見の難しい主系列未満の星もダークマター候補の一つだと思う。
つまり初期銀河では爆発的に巨大な星が数十万〜数百万年で出来ては散りを繰り返すウチに力学的に振り回されて恒星になりきれなかった「余り」がたくさん存在するのはないかなぁ。
15. 匿名処理班
こんなドットのノイズみたいなものを星だって判別できるのがすごいな。
16. 匿名処理班
もうちょっと話をまとめて書いてもらいたい
赤外線では観測できないので冷たくなった古い褐色矮星なのは確定したけど
褐色矮星なら存在するメタンをほとんど持たないので
メタンに吸収され観測できない筈の波長では逆に明るく熱い星であるかのように見えてしまうって事かね
17. 匿名処理班
褐色矮星 昔ホットジュピターって呼ばれてた希ガス
18. 匿名処理班
※3
シリウスの伝説
思いだしたわ
19. 匿名処理班
アクシデント「何人たりとも、俺の前は走らせねえ!」
20.
21. 匿名処理班
こんな近距離にファーストスターとまではいかなくても原始の星があるなんて、本当だったら奇跡ですね。天文野郎垂涎の天体です
22. 匿名処理班
天文学は受け取った情報でしか判断できないので、ほとんどが見当違い。
23. 匿名処理班
>>13
解明できてたら困惑してないやろが
24. 匿名処理班
デス・スター基地だったりw
25. 匿名処理班
妖星ゴラス
26. 匿名処理班
※22
言わんとしていることはわかります。
まぁ、極論言えば科学の理論も実験等で予想にだいたい近似した結果が出ているから正しいとされているけど、ニュートン物理(古典物理)が相対性理論を反映した現代物理から見れば間違っているのと似たような感じで、今の宇宙関連の理論が将来の理論から見れば間違っているのに似てるかな。
小学生(から高校生まで)に時間と空間が強い重力下(加速度中)や速度を上げたりする静止系とは違うなんて言われても混乱するばかりだから、ニュートン物理を教えるわけで。
ある意味、アクシデントは新しい理論のチャンスなんですね。期待しちゃうな〜
27. 匿名処理班
>>22
それって、天文学以外でも当てはまり
そうだけどな
28. 匿名処理班
無学な俺にわかったのは
アクシデントがめっちゃお年寄りだということだ
29.
30. 匿名処理班
※22
知識の蓄積と観測技術の発達で常に進展し続けている天文学を、”ほとんど見当違い”と言い切れるとは驚き
たしかに、観測結果に見合う法則を割り出すという形から立てられて過ちだった理論はあるけど、世代を超えた長年の観測と探求と理論発展によって、その過ちを乗り越えてより事実に近い形へと進展してきた
今回の事に関しても、天文学を発展させるための新たな試金石になるだろうと言う話に過ぎない
大体、アインシュタインの一般相対性理論も、天文学による観測によって最初にその理論の是非が確認された
自分が精査も理解もしたくないからと、”見当違い”の一言で済ませるのは見識を疑う
31. 匿名処理班
要するに赤いフィルターで字を消す勉強法と一緒かい?