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ナマコから切断した組織が3年以上生きていた。ベニクラゲとは別の不死性を確認

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(著)

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不死性を持つナマコの一種「スカーレットプソルス」 Image credit:Rebecca Evans/Wikimedia Commons/CC-BY-SA 4.0
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 体から切り離された肉片が、死なずに生き続ける。まるでホラー映画のようだが、実際の海底生物の話だ。

 カナダの研究チームが、ナマコの一種から切り取った組織片を自然の海水の中で観察したところ、口も胃もないにもかかわらず海水から栄養を吸収し、傷を自分で修復しながら3年以上生き続けることがわかった。

 個体まるごとが若返るベニクラゲとは異なる、切断組織そのものが持つ不死性の発見は、医療研究に新たな可能性をもたらすものだ。

 この研究成果は『Science Advances』誌(2026年5月27日付)に掲載された。

参考文献:

ちぎれたナマコの断片が生き続けていることを偶然発見

 スカーレットプソルス(Psolus fabricii)は、北極海から大西洋北西部にかけての冷たい海に生息するナマコの一種だ。

 体長は約7cmで、枝分かれした触手を広げてプランクトンを捕まえて食べる。東京・葛西臨海水族園でも展示されている。

 カナダ・ニューファンドランド州のメモリアル大学では、スカーレットプソルスを水槽で飼育しながら研究を行っている。 

 スカーレットプソルスは、管足と呼ばれる器官で水槽のガラスに強く吸着している。

 管足(かんそく)とは、ナマコやヒトデなどが持つ小さな足のような器官で、岩や壁面に吸い付いて移動するために使う。

 研究に必要なとき、研究者は水槽からナマコを取り出すが、その際に管足が引きちぎれて、ガラスに残ってしまうことがある。

 切り離された管足は、そのまま死んで消えていくはずだったが、数日が過ぎても、管足はガラスに張り付いたまま生きていた。

 数週間経っても、まだそこにあった。数ヶ月が過ぎても、管足は消えなかった。しかも傷ついていたはずの切断面が、いつの間にか塞がっていた。

 博士課程学生のサラ・ジョブソン氏は、この偶然の観察を見過ごさなかった。

 切り離された組織の断片が死なずに生き続けているとしたら、それは生物学の常識を覆す発見になる。研究チームは本格的な調査に乗り出した。

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ナマコの一種、スカーレットプソルス(Psolus fabricii) Image credit:Sue Carnaha/Wikimedia Commons/CC-BY-SA 4.0

管足と触手の組織片は3年以上生きていることを確認

 研究チームはスカーレットプソルス3個体から、管足、本体、触手など複数の部位の組織を切り出した。

 それぞれの組織片を、滅菌処理をしていない自然の海水が流れる環境に置いて観察した。

 自然の海水には細菌や微生物が無数に存在する。

 体から切り離された組織をそのような環境に置けば、すぐに細菌や微生物に分解されて腐敗していく。

 ところが、管足と触手の組織片は、自然の海水の中でも腐らなかった。

 切断から約6日後には傷口が自然に閉じ、細胞は活動を続け、免疫の働きも確認された。

 1年間の正式な実験期間が終わった後も、組織片は生き続けた。研究チームが論文発表のために観察を打ち切った時点で、すでに3年以上が経過していた。

 研究チームは、切り離された組織片を「ゾンビ」と呼ぶようになった。

 死んでいるわけでも、かといって完全に生きているとも言い切れない、不思議な存在だったからだ。

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切り取った管足を細胞分裂を確認するための染色試薬で染色した顕微鏡画像。細胞の分化が確認でき、緑色が濃い部分ほど細胞活動が活発な領域を示している。Image credit:Sara Jobson

口がなくても栄養を取り込み、傷を修復

 組織片の内部では、いくつかの重要な変化が起きていた。

 まず傷の修復だ。切断直後、傷口では表皮が破れ内部組織が露出していた。

 ここから微生物が侵入すれば組織は崩壊する。しかし組織片は、傷んだ部分を自ら取り除いたあと、周囲の表皮が巻き込むようにして傷口を塞いでいった。

 細胞の活動も続いていた。

 組織片では、新しい細胞を作る細胞分裂と、傷んだ細胞を処理するアポトーシスが交互に繰り返されていた。

 アポトーシスとは、体にとって不要になった細胞や傷んだ細胞を、自らの仕組みで取り除く働きのことだ。

 細胞分裂とアポトーシスが協調して働くことで、組織は積極的に自分を作り直していた。

 免疫細胞も機能していた。

 ナマコが持つ体腔細胞(たいくうさいぼう)と呼ばれる免疫細胞が、人間の白血球のように傷口を守り、外部からの細菌や異物を処理し続けていた。

 細菌だらけの自然海水の中でも組織が崩壊しなかったのは、体腔細胞が働き続けていたからだと考えられる。

 栄養の取り込み方も、通常の生物とはまったく異なっていた。

 切り離された組織には口も胃もない。食べ物を消化する手段がない状態だ。

 研究チームの実験から、組織片が海水中に溶けたアミノ酸を体の表面から直接吸収していることがわかった。 

 組織の内部では時間が経つにつれて筋肉の組織が徐々に減り、かわりに結合組織が増えていった。

 その理由として、移動する必要のなくなった組織片が筋肉を分解し、自分自身を栄養源として活用した可能性があると研究チームは考えている。

 組織は生き延びるために、自分の構造を作り替えていたのかもしれない。

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管足の組織を切り取った1年後(上)と数年後(下)の経過を比較した画像。時間とともに傷口が閉じ、治癒が進んでいる様子がわかる。赤から白やピンクへと色が変化しているのは、色素を持つ細胞が健康な組織の集合体を形成・凝集し、透明な結合組織へと移行していく過程を反映している。Image credit:Sara Jobson

すべてが生き残ったわけではなかった

 スカーレットプソルスのすべての組織が同じように生き残ったわけではない。

 体の内側にある体壁の組織片は、傷を修復できずに比較的早い段階で崩壊した。長期間生き残ったのは、外部の環境にさらされやすい管足と触手の組織だけだった。

 ウニやヒトデなど他の棘皮動物(きょくひどうぶつ)の組織でも、切断直後に傷を修復しようとする動きは確認されている。

 棘皮動物は、もともと高い再生能力を持つことで知られるが、ほかの種ではスカーレットプソルスのように3年以上組織が維持されることはなかった。

 スカーレットプソルスが持つ特殊な化合物や免疫細胞の働き、栄養を吸収する能力などが長期生存を可能にしている可能性があるという。

 なぜこの種だけがこれほどの能力を持つのか、詳しい仕組みの解明はこれからだ。

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スカーレットプソルス(Psolus fabricii) Image credit:Lara Gibson / commons.wikimedia/CC-BY-SA 4.0

ベニクラゲの不死性との違い

 不死性を持つ海洋生物として、ベニクラゲはよく知られた存在だ。

 ベニクラゲは、命の危機を察知すると死ぬ代わりにポリプと呼ばれる幼生の状態に若返り、再び成体へと成長するサイクルを繰り返す。

 個体そのものが生活環を逆回転させることで、理論上は何度でも若返ることができる。

 スカーレットプソルスの切断組織が示した現象は、ベニクラゲとはまったく異なる。

 若返るわけでも、新しい個体に育つわけでもない。体から切り離された組織の断片が、そのままの状態で自律的に生き続けるという現象だ。

 ベニクラゲの不死性は個体レベルの話だ。

 今回確認されたのは、切り離された複雑な組織の断片が自然環境の中で自律的に3年以上も維持され続けるという現象で、世界で初めての報告となる。

 個体という枠の外でも、生命活動が維持されうることを示した発見だ。

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ベニクラゲ 鶴岡市立加茂水族館の飼育展示個体 Image credit:Totti / commons.wikimedia / CC-BY-SA 4.0

組織再生・老化研究への応用できる可能性

 スカーレットプソルスの組織は、医療研究への応用が期待されている。

 現在、医学の世界でよく使われる細胞株のひとつに、HeLa細胞(ヒーラ細胞)がある。

 1951年にアメリカで、子宮頸がんを患っていたヘンリエッタ・ラックスのがん細胞から採取されたもので、実験室で半永久的に増殖し続けることが可能だ。

 がんやウイルスの研究など、数多くの医学的発見に貢献してきた細胞だ。

 しかし採取は本人の同意なく行われており、倫理的な問題を今も抱えている。培養には無菌で厳密に管理された環境が必要で、維持にコストもかかる。

 スカーレットプソルスの組織は、微生物だらけの自然海水の中でも3年以上生き続けた。

 無菌環境が不要であれば、維持コストは大幅に下がる。

 ナマコは無脊椎動物であるため、ヒトや脊椎動物の細胞を使う際に生じる倫理的・法的な制約も受けない。

 組織の再生、傷の修復、老化の抑制など、幅広い分野での活用が期待される。

 米バイゲロー海洋科学研究所のレイチェル・シプラー氏は、「科学における大きな進歩は研究対象の自然の類似物を見つけたときに生まれる」と話す。

ただし本当に不死かどうかはまだわからない

 研究チームは現時点で、スカーレットプソルスの切断組織が完全に不死であるとは断言していない。

 細胞が本当に不死かどうかを確認するには、細胞分裂のたびに短くなるDNAの末端部分、テロメアが老化しているかどうかを調べる必要がある。

 テロメアとは染色体の端にある保護構造のことで、細胞が分裂するたびに少しずつ短くなっていく。

 テロメアが短くなっていなければ、細胞が老化していないことを示す。この解析は次のステップとして予定されており、結果が出るのはこれからだ。

 研究チームが論文発表のために観察を終了した時点でも、組織片はまだ活動を続けていた。

 切り離されたナマコの断片が、どこまで生き続けられるのか。海が持つ生命の可能性は、計り知れないものがある。

 しかも海洋生物の約90%はまだ未発見なのだから、さらなる驚きの発見が待っているかもしれない。

まとめ

この研究でわかったこと

  • ナマコの一種の体から切り取った管足と触手の組織片が、自然の海水の中で3年以上生き続けた
  • 口も胃もない組織の断片が、海水に溶けたアミノ酸を表面から吸収して栄養を得ていた
  • 切断された組織が自ら傷を修復し、免疫細胞を働かせ続けることが確認された

まだわかっていないこと・今後の課題

  • 切断組織のテロメアが老化しているかどうかはまだ調べられておらず、本当に不死かどうかは確認されていない
  • なぜスカーレットプソルスだけがこれほどの長期生存能力を持つのか、仕組みが解明されていない

References: DOI:10.1126/sciadv.aeb1394

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この記事へのコメント 11件

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  1. 海の底はナマコの足でいっぱいだー!

    • 評価
    1. わたしはナマコ
      管足を切られたの

      • 評価
  2. ナマコさん意外にも強かった。

    • +2
  3. 切り離された自分の腕が生き続けてたら…愛着湧いちゃうな…。
    コミュニケーションは流石に無理かな…?

    • 評価
    1. 右腕だったらやっぱりミギーって名前にするの?

      • 評価
  4. ナマコと同じ棘皮動物門に属するヒトデも、ちぎれた腕(足?)の一本から全身が再生する
    またクラゲの属する刺胞動物門のヒドラという生物は1細胞レベルまでバラバラになってもそこから再生する

    • +3
  5. 寿司屋でこれが起きたら、と不気味なことを想像してしまった

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  6. ヤツは多細胞生物だったのに切り刻んでみたら細胞群体として活動しだした
    な、なにを言ってるかわからねーと思うが、おれも何を見たのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった

    • +1
  7. 本来寄生を目的としているのですよ。
    食べられバラバラになるけど、それが捕食者の体内のあっちゃこっちゃにくっ付いてね。
    捕食者が死に、残骸を分解する者の体内にも。
    結果海どころか、私達もこの赤ナマコが。

    気晴らしに皆さんの頭にくっ付けたら面白いかもしれないですね。

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  8. エマノンの登場人物 思い出した
    スーパーガン細胞の持ち主(持ち主っていうのか?)

    • 評価

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