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おしりかじり魚?コバンザメは危険を感じるとマンタのお尻の中に逃げ込んでいた

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マンタのお尻に逃げ込むコバンザメ Image credit: Bryant Turffs, Marine Megafauna Foundation
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 コバンザメがマンタのお尻に潜り込む瞬間が、初めて映像でとらえられた。

 ダイバーの接近に驚いたコバンザメが、一直線に「総排出腔」と呼ばれる肛門のような器官へ飛び込んだのだ。

 マンタは違和感を感じたのか、身震いしながらもそのまま泳ぎ去った。

 米マイアミ大学を中心とする研究チームが15年分のデータを分析したところ、こうした行動はフロリダ、モルディブ、モザンビークの3海域で、3種すべてのマンタで計7例確認されていた。

 コバンザメとマンタの関係については長年議論が続いているが、今回記録された行為は少なくともマンタに何の利益もなく、コバンザメだけが一方的に得をしている可能性が高い。

 この研究成果は『Ecology and Evolution』誌(2026年5月11日付)に掲載された。

参考文献:

大型海洋生物に吸いついて旅するコバンザメ

 コバンザメは漢字で「小判鮫」と書き、名前にサメとついているがサメの仲間ではない。

 スズキ目コバンザメ科に属する硬骨魚類で、世界中の温暖な海に生息する8種からなるグループだ。

 体長は30cmから110cmほどで、最大の特徴は頭部にある小判型の吸盤だ。

 背びれが変化してできたこの吸盤を使い、マンタやサメ、クジラ、ウミガメといった大型の海洋生物の体表に張り付いて移動する。

 自力で長距離を泳ぐ必要がなく、宿主の食べ残しや体表の寄生虫を食べて生きるこの戦略は、長い進化の歴史の中で獲得したものだ。

 宿主との関係については、長年にわたって研究者の間で議論が続いてきた。

 コバンザメが宿主の体表についた寄生虫を食べて掃除してくれる場合は双方に利益がある相利共生(そうりきょうせい)だ。

 移動手段として張り付くだけなら、宿主に利益も不利益も与えないため、片利共生(へんりきょうせい)となる。

 しかし近年、吸盤が宿主の皮膚を傷つけたり、張り付いたコバンザメの重さや水の抵抗が宿主の遊泳の負担になる可能性を指摘する研究結果も報告されており、宿主が害を受ける「寄生」に近い側面もあるのではないかと議論されるようになっていた。

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マンタとコバンザメ Image by Istock / jcnavarrogo

マンタのお尻の中にコバンザメが飛び込む

 マンタは熱帯・亜熱帯の海に生息する大型のエイで、翼のように広がる胸びれの幅が最大約8mにも達する。

 プランクトンを食べる温和な性格で、ダイバーに人気が高い海洋生物だ。

 コバンザメにとってはその大きな体が格好の移動手段となっており、体表に張り付いて世界中の海を旅する。

 そのマンタの体内に、コバンザメが潜り込む瞬間が初めて映像で記録された。

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マンタの総排出腔に入り込むコバンザメの映像 Image credit: Yeager et al., Ecology and Evolution, 2026: doi.org/10.1002/ece3.73548

 マイアミ大学海洋生物・生態学部の博士課程研究者エミリー・イェーガー氏らの研究チームが発見したのは、コバンザメが総排出腔(そうはいしゅつくう)と呼ばれる器官に潜り込む行動だ。

 総排出腔とは排泄・交尾・出産をひとつの開口部でまかなう器官で、簡単にいえばマンタのお尻の穴にあたる。

 サメやエイをはじめ、鳥類や爬虫類など多くの動物が持つ構造だ。

 研究チームは、海洋大型生物の保護と研究を行う国際団体(Marine Megafauna Foundation)と、マンタの保護・研究に特化した国際NGO(Manta Trust)が2010年から2025年にかけて、アメリカ南東部のフロリダ、インド洋の島国モルディブ、アフリカ南東部のモザンビークで収集した調査データを分析した。

 その結果、現在知られる3種すべてのマンタで計7例、コバンザメがお尻から潜り込む行動が確認された。

 ちなみにマンタはこれまで、オニイトマキエイ(Mobula birostris)、ナンヨウマンタ(Mobula alfredi)の2種のみが知られていたが、2025年7月26日にモブラ・ヤラエ(Mobula yarae)が正式に3種目に認定された。

 どのマンタも幼体・成体を問わず記録されていた。

 コバンザメの体幅は総排出腔の開口部とほぼ同じ幅で、潜り込むと開口部をほぼ完全に塞いでしまうほどだという。

 撮影された写真の中には、コバンザメの尾だけがマンタのお尻からのぞいているものもある。

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マンタの総排出腔にコバンザメが潜り込んでいる様子を記録した写真。モルディブ、モザンビーク、米フロリダで撮影された。赤い矢印がコバンザメの位置を示している Image credit:Yeager et al., Ecology and Evolution, 2026

コバンザメがマンタのお尻に入り込む理由

 では、なぜコバンザメはマンタの体内に入り込むのか。

 イェーガー氏が注目したのは、観察された映像のある場面だ。

 フリーダイバーがモブラ・ヤラエに近づいた瞬間、近くにいたコバンザメが一直線にマンタの総排出腔へ飛び込んだのだ。

 マンタはその後身震いしながらも、コバンザメを体内に入れたまま泳ぎ去った。

 この映像からイェーガー氏は、コバンザメが外敵や脅威を察知した際に、とっさの避難場所として宿主の体内を使っている可能性が高いと判断した。

 コバンザメは総排出腔のほかにも、マンタのえらの隙間に潜り込む行動も確認されており、複数のえらに損傷が生じている観察例もあった。

 体の外側に張り付くだけでなく、マンタの体内を究極の隠れ場所として使うこの行動は、コバンザメが長い進化の歴史の中で身につけた生存戦略のひとつだと考えられている。

 マンタはコバンザメを振り落とそうと、水面からジャンプしたり海底の砂に体を擦り付けたりする行動が観察されているが、体内に入られた場合は取り除くことができない。

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マンタの総排出腔に入り込むコバンザメの映像 Image credit: Yeager et al., Ecology and Evolution, 2026: doi.org/10.1002/ece3.73548

生物の世界は「共生か寄生か」だけでは語れない

 今回の発見が科学的に重要な理由は、生物の関係を「相利共生」「片利共生」「寄生」という3つの型に当てはめて分類してきた従来の考え方には当てはまらないケースがあるという点だ。

 コバンザメとマンタの関係は、場面によってまったく異なる顔を見せる。

 寄生虫を食べてマンタの体を掃除するときは双方に利益をもたらし、体内に潜り込むときはマンタに一方的な負担を強いる。

 今回の研究に参加していないニュージャージー工科大学の生物学者ブルック・フラマン氏も、体の他の部位より敏感な総排出腔の内壁でコバンザメが吸盤を使えば非常に深刻なダメージを引き起こし、長期的には繁殖や排泄にも影響を与えかねないと指摘する。

 イェーガー氏は、こうした関係を家族に例える。

人間だって仲良く過ごす日もあれば、ぶつかり合う日もある。それと同じように、生き物同士の関係も固定されたものではなく、状況や時間によって絶えず変化するものなのかもしれない

 生き物の関係を3つの型に無理やり当てはめるのではなく、もっと柔軟に捉え直すことが、海の生態系の実態をより正確に理解することにつながるのではないかと、イェーガー氏は考えている。

まとめ

この研究でわかったこと

  • コバンザメは危険を感じると、マンタのお尻の穴(総排出腔)に逃げ込むことがある
  • コバンザメに体内に潜り込まれたマンタは、取り除く手段をほとんど持たない
  • コバンザメとマンタの関係は「共生」とも「寄生」とも言い切れない複雑なものだ

身近な例に例えるなら?

仲のいい友達でも、いつもいい関係とは限らない。助け合う日もあれば、一方が迷惑をかける日もある。コバンザメとマンタの関係もそれと同じで、場面によってまったく異なる顔を見せる。

まだわかっていないこと

  • コバンザメが体内に潜り込む行動が、マンタの繁殖や健康に実際どの程度影響を与えているか
  • この行動は広く起きているとみられるが、めったに目撃されないため全容はまだわかっていない

References: https://doi.org/10.1002/ece3.73548

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