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コバンザメの吸盤にヒントを得て、体内に張り付き薬を効率的に届けるデバイスを開発

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(著)

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コバンザメ科 Photo by:iStock
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 アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、サメなどにくっついて泳ぐことで知られるコバンザメの構造をもとにした医療用デバイスを開発した。

 この魚の吸盤構造を応用して、消化器官の内部にぴったりと張り付き、薬をゆっくりと放出し続ける「貼りつく薬用デバイス」が誕生したという。

 電力不要で長期間にわたり働くこの仕組みは、医療だけでなく海洋観測機器としての応用も期待されている。

 この研究成果は、科学誌『Nature』(2025年7月23日付)に掲載された。

吸盤で大型生物にしがみつく、コバンザメのしくみ

 コバンザメは、名前に「サメ」とあるが、実はサメの仲間ではなく、スズキ目に属する硬骨魚類である。

 頭の背面に小判状の吸盤を持ち、これで大型のサメやカジキ、ウミガメ、クジラなどに吸着することで知られている。

 コバンザメ科(Echeneidae)は世界で3属9種が確認されており、日本近海にはそのうち8種が分布する。種類によって吸着対象となる動物は異なり、自由に泳ぎ回ることもある。

 宿主の移動に便乗し、食べ残しや寄生虫などを食べて生活するため、片利共生とされてきたが、寄生虫を除去することで宿主にも利益をもたらす例もあり、相利共生の可能性もある。

 一方で、えらに入り込んで害を与えるような寄生的な行動も報告されている。

 吸盤は本来の背びれが変化したもので、内部の隔壁が接触時に立ち上がり、水圧差と滑り止め構造で強力に吸着する。

 このように、生態的にも構造的にも非常にユニークなコバンザメだが、MITの研究チームが着目したのは、この吸盤構造そのものだった。

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コバンザメ科の頭にある特徴的な吸盤  / Image credit:Dave Johnson, Smithsonian

動力不要、体温で張りつくスマートデバイス「MUSAS」

 この新しいデバイスは、「MUSAS(Mechanical Underwater Soft Adhesion System)」と名付けられている。

 特徴は、電力やバッテリーを一切使用せず、水中や体内でも安定して張り付き続ける構造にある。

 デバイスの内部は、ステンレス製の骨格にシリコーンゴムと温度応答型のスマート素材を組み合わせて作られている。

 表面には「ラメラエ(lamellae)」と呼ばれる小さな薄板が並び、コバンザメの吸盤にあるすのこのような構造を再現している。

 さらに、そのラメラエには極小の針が多数付いており、これが体温によって柔らかくなって相手の組織に食い込むことで、高い吸着力を実現している。

 この極小の針は、コバンザメの皮膚にある微細なトゲ状の突起に相当する。

 吸盤、ラメラエ、極小の針の三要素が連動することで、体内の柔らかい組織にも長時間しっかりと張り付くことが可能になった。

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MUSASデバイスのクローズアップ。ラメラエの列が上向きになっている / Image credit:MIT researchers

魚や豚での実験で効果を確認、胃酸の逆流検知にも成功

 研究チームは、まずMUSASに温度センサーを取り付けて魚に装着し、水槽内で高速で泳がせる実験を行った。

 結果として、装置は水中でも外れることなく、魚の体に安定して張り付いたままだった。これは、水中ロボットや海洋生物観測機器への応用を見据えた重要なステップである。

 次に、豚の食道にMUSASと小型のインピーダンスセンサー(電気的な変化を計測する装置)を取り付け、胃酸の逆流を検知する実験が行われた。

 現在、胃食道逆流症(GERD)のモニタリングには、鼻や口からチューブを挿入し、センサーを設置する方法が主流だが、MUSASのように自然な形で体内に装着できるデバイスは、患者の負担を大きく軽減する可能性がある。

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MITの新しい接着システムは、水中でも柔らかい表面にしっかりと接着できる / Image credit:MIT researchers

薬をゆっくりと放出、1週間かけて体に届ける

 MUSASは、薬をあらかじめ素材に組み込んでおくことで、体の中に張り付いたまま、少しずつ薬を放出し続ける仕組みになっている。

 研究チームは、HIVの治療薬やRNA(リボ核酸)を使ってこの仕組みを検証したところ、MUSASが胃や腸の内部に張り付いた状態で、約1週間にわたり薬を体に届け続けることに成功している。

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MUSASがカプセルに入れて体内に送り込まれる様子を示す図 / Image credit:MIT researchers

 これにより、毎日薬を飲む必要がなくなり、飲み忘れのリスクを減らせると期待されている。

 さらに今後は、体内で特定のホルモンを刺激する微弱な電気信号を送ることで、食欲の調整や代謝のコントロールなど、新しい医療技術への応用も見込まれている。

編集長パルモのコメント

パルモの表情、普通

自然界の仕組みを模倣して技術に応用する「バイオミメティクス(Biomimetics)」という分野がある。これは、生き物が持つ構造や能力を観察し、それを人工的に再現して人間の暮らしに役立てるという発想だ。

 今回の研究もその一例だね。コバンザメの吸盤に着目し、それを体内医療に転用した発想力と、それを実際に機能させた技術力が素晴らしいね。自然はまだまだ、未来のアイデアの宝庫なのかもしれない。

 

References: Nature / News.mit.edu / Newatlas

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この記事へのコメント 10件

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  1. 「バイオミメティクス!」って叫ぶと昭和スーパーヒーロー物の変身シーンみ

    • 評価
  2. バイオミメティクス、すごいなぁ。
    面ファスナーもゴボウの実が繊維に引っ付く仕組みを使って作られたそうだけど、思い付きそうで思い付かない発明って好き!

    • +4
  3. めっちゃのどにひっかかってどうしようもなくなりそう

    • -1
  4. 「そんなの役に立たないだろ」に対するカウンター
    世間に気付かれるかは知らぬ

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  5. 食欲減衰する飲み薬(機械?)になってほしい~

    • 評価
  6.  薬の飲み忘れ対策にもなるし、血液中の濃度の変動(飲む直前の低い状態から飲んで吸収さてしばらくの濃度のピーク)があまりなくなって身体への負担も小さくなりそう。 なんか画期的な治療法の予感!

    • +1
  7. 腮に入り込むって、まるでカンディルじゃん

    • 評価
    1. そのうちはがれるか、とけるかするように作るのではないでしょうか。 腕にばんそうこう貼っていても、新陳代謝で皮膚の細胞が死ぬと皮がむけてはがれるように内臓の中の表面も新陳代謝ではがれるんじゃないかな。 あるいは薬は一週間分でこの部品は二週間くらいで溶けてなくなるように作るとか。 私が設計するならそんな感じに作ると思います

      • +1
  8. どんな感じなのかいっぺん吸い付かれてみたいんだよね

    • 評価

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