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遺伝子は親から子から受け継がれる。そんなことなら誰でも知っている。では血のつながりがない赤の他人はおろか、ときには種が違う生物間でもそれが受け渡されることがあるのは知っているだろうか?こうした現象を「遺伝子の水平伝播」という。これが知られるようになった当初、細菌に限られた現象とされていたこともあったが、現在ではさまざまな動植物で確認されている。
それはあなたの足元に生えている草も行っていた。他の草からDNAを奪い、自ら遺伝子組み換えを行っていたことが判明したという。
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草も他種から遺伝子を奪っていた
種が違う生物間で遺伝子が受け渡しされる「遺伝子の水平伝播」は、細菌の他、捕食されないよう菌類の赤い色素を合成するアブラムシ、向精神作用のある化合物をつくるための遺伝情報を共有するキノコ、植物の防衛機能を中和するためにその遺伝子を奪ったコナジラミなどで確認されている。そして今回、草にも遺伝子の水平伝播が行われていることが確認された。普段見向きもしない草だが、陸地の2〜4割が草原で占められており、米・トウモロコシ・小麦といった作物も含まれていることを考えれば非常に重要なグループだ。
『New Phytologist』(4月22日付)に掲載された研究では、英シェフィールド大学のグループが世界各地から集めた草17種の遺伝子をさかのぼり、その起源を探ってみた。
その結果、多くは親から子へと垂直に受け継がれたものだったが、進化の歴史が異なるケースが100以上も特定されたのだという。それはつまり、過去のどこかの時点で、その遺伝子が遠く離れた別種からもたらされたということだ。

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種の垣根を越えた遺伝子の移動
研究グループのルーク・ダニング氏によれば、自然が種の垣根を越えるのは案外たやすいのだという。近縁種同士が交配すれば雑種が誕生する。だが遺伝子の水平伝搬は交配によるものではない。それゆえに、より遠く離れた種の間でも遺伝子が移動できるようになる。
草同士で水平伝搬された遺伝子は、エネルギー生産、ストレスへの抵抗力、病気への抵抗力などに関連しており、より大きく、高く、強く成長することで有利になる可能性があるものだ。

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遺伝子の水平伝搬の経路の謎
ただし、それが一体どのようにして伝搬したのかは不明だし、今後もわからないままかもしれないという。それを可能にする仕組みはいくつかあり、複数が関与している可能性もあるからだ。しかしダニング氏によると、このところよく確認されているのは、地下に張り巡らされる根のような茎。すなわち「根茎」を介した水平伝搬であるという。
根茎が地下で相手と接触したとき、そこに相手のDNAが進入する。するとそこから無性生殖によってクローンが誕生し、その細胞の中で他種のDNAが複製される。
それはやがて「生殖細胞系列」にも伝わる。するとクローンが花を咲かせ、種を実らせることで、普通に親から子へと受け継がれるようになる。
Widespread lateral gene transfer among grasses
自然界で行われていた天然の遺伝子組み換え
ダニング氏によれば、このことは遺伝子組み換え作物について新しい視点をもたらすものだ。遺伝子組み換え作物に反対する人たちは多い。だがじつは人間が手を加えるまでもなく、ある意味、植物は自ら遺伝子組み換えを行っていたのだ。
またこの研究は、遺伝子組み換え作物に組み込まれた遺伝子は、いずれはほかの植物にも自然に拡散されるということをも示唆している。
こうした水平伝搬の仕組みを解き明かすことができれば、自然なプロセスで植物を改変し、温暖化が進んだ世界にも強い作物をつくることができるかもしれないとのことだ。
References:Natural GM: how plants and animals steal genes from other species to accelerate evolution/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
まじかよ遺伝子組み換え食品と同じぐらい危ないじゃん
2. 匿名処理班
遺伝子組み換え自体が悪なんじゃなくてその変異速度に自然界というか周囲の生物がついてこれるかが問題なんじゃろ
3. 匿名処理班
最近、遺伝子の水平移動の話題が多いねー。
キノコについては菌糸間で遺伝子を交換するの前から知られていて品種改良に利用されてる。
ダニは自ら血液を持たないのに抗凝血酵素を持ってる、吸血で遺伝子を取り込んだ可能性がある、動物は捕食で取り込むことがあるようだ。
接ぎ枝のところから生えた新しい枝は両方の遺伝子が混ざっているから新品種になることがある(江戸の園芸本に記載があるとか、遺伝子は知らないだろうが)。
などなど思い出した。
さて怖いのは「遺伝子改造されたとうもろこしと普通のトマトの根が出会ったら、トマトにも改造遺伝子が移動する可能性がある」ってことかな。
もちろんとうもろこしやトマトは例に過ぎないけど、あえて毒性を上げたものから食用野菜へ、とか問題になるんじゃねー。
工場での隔離栽培しか防げないだろうしね、今まで言われていた花粉が飛んで云々は同種のものだけだけど、これは全ての植物におこるかもしれないから。
4. 匿名処理班
普通に考えて根っこの菌根菌じゃね
5. 匿名処理班
※2
ライバル種がついてこれないぐらいに変異して生存競争を勝ち抜くことを「進化」っていうんじゃないの?
6. 匿名処理班
>それはやがて「生殖細胞系列」にも伝わる
ここが少しわかりにくいです。この表現だと体細胞から生殖細胞に遺伝子が移動するみたいに読み取れるけど、原著論文をざっと読むと、著者が「体細胞突然変異」のようにとらえている気がします。ようは「枝変わり」の大掛かりなもの。
地下茎を介して異種の細胞が出会い、一方のDNAが他方のゲノムに取り込まれる(ここが枝変わり)。そしてその細胞がたまたまクローン繁殖をして、十分成長すると種子繁殖を始めるが、その時点でゲノムにはすでに異種DNAが組み込まれている。ってかんじで読み取りましたが、斜め読みなので間違っているかもしれません。間違ってたらごめんなさい。
7. 匿名処理班
なんかのバグで違う種類の受粉したとか?
8. 匿名処理班
※2
人間のやってる遺伝子組み換えが危険視されてるのは
虫が付かない、病気にならない、簡単に増やせる
みたいに都合の良い作物を生み出したとして
それが何かの間違いで野生化したら生態系壊すよね、ってのもある
9. 匿名処理班
遺伝子組み換えが問題なんじゃなく、バランスが取れてない遺伝子が人為的に組み込まれることが問題
10. 匿名処理班
ライ麦ってすげーなと思う
11. 匿名処理班
農業マフィアのモンサントが悪用してそうで怖い
12. 匿名処理班
難しいから美少女に擬人化して説明してくれ
13. 匿名処理班
人間的な感性と生物として見るから奪いって言葉が出てきて嫌らしいけど、群体としての存在であり、生存と統合みたいなものじゃないの?
14. 匿名処理班
上でも言われてるけど花粉以外でも伝わるわけだから遺伝子組み換え植物はより危険て事になるんじゃないかな
15. 匿名処理班
※1
その一文だけで「遺伝子組み換え」について全く無知なことを他者に理解させるとは、素晴らしい文章表現力だと思います
16. 匿名処理班
草
17. 匿名処理班
※15
無知ではなく「遺伝子組み換えは危険」という声に対する皮肉では?
18. 匿名処理班
知ってた
19. 匿名処理班
遺伝子組み換えが危ないって脳死で思う人はカラパイア読者には少なそう
今はたった数年で新しい能力を持ったタンパクを生成する微生物とか見つかってて、そこから得られる有用な遺伝子を別種に組み込んだり、新しい制御系を構築して扱いやすくする様な研究も進んでる。
遺伝子扱ってる研究者ならその突然変異の少なさ、実験室進化系の大変さは分かるけど、一般の人からしたら怖いことなのかな?
20. 匿名処理班
自然界の遺伝子変異は偶然が起こす限られたものだけど、遺伝子組み換えは意図して起こし、大量に生産されるから自然への影響が問題視されてるんじゃないの?
他の種の遺伝子を吸収するしないに関わらず遺伝子変異なんて当たり前な話だし。
21. 匿名処理班
そもそも植物の葉緑体自体が別の生き物を取り込んだ結果だし
22. 匿名処理班
ウイルスが他種の遺伝子の運び屋になって生物の遺伝子を組み替えるとか言う仮説があるんだって。人間も遺伝子ドレインしてるかもしれないんだよね。
23. 匿名処理班
※5
自然界の相互作用で勝手に起こる競争と、
人間が遺伝子工学で意図的に操作して
特定の形質を生み出していくのとは、速度が段違いな気が。
例えば、同じクローンでも、
数百人に1組 偶然に一卵性双生児が生まれていくのと
「ウサイン・ボルトのコピーを1万人作ろう」で産ますのとは
全然違うと思う。
そして、ハブ対策で「天敵になるだろう」と
マングースを導入したら、蛇とは戦わず現地の希少動物を食う、
みたいに人間の浅知恵で自然を操作したら
取り返しがつかない状況になった例は今までも多々あるし、
※8が言うように、遺伝子組み換え作物が、開発時に意図してなかった不測の弊害をもたらすリスクはあると思う。
24. 匿名処理班
草ァ!w
25. 匿名処理班
※19
不安は知らないことから発生し、知ることによって恐怖になりますね。私は ※17 の説を支持します。
植物はけっこうエゲつないことをやりますから、これくらいも当たり前かなとも思います。
26. 匿名処理班
遺伝子組み換え食品が健康に〜とか言っている人たちはキメラれた食事以外を摂ったら死ぬんですかね?
「知らないということは恥ずかしいことではない。無知でい続けることこそが恥ずかしいことだ」と、昔の偉い人が言ったとか言わなかったとか
27. 匿名処理班
遺伝子組み換え植物は危険だから排除しないとなー(棒
28. 匿名処理班
まぁなんだかんだ言って草本の歴史は一千万年ぐらいはあるだろうから、そんな草たちが100個の遺伝子を水平伝搬で獲得していると言っても数万年に一回ぐらいの頻度でしか起こらないんだろうから、「遺伝子組み換えが〜」とか言っている人たちが遺伝子水平伝搬にお目にかかるためには仙人にでもならないといけないかな。
29. 匿名処理班
※23
マングースでも不測の事態が起きるなら、遺伝子組み替えは関係ないね。別に継代品種改良でそういうことが起きないこと保証だって同様にないし。単に「人の手を加えたらリスクがある」という話で、遺伝子組み換えがダメな理由ではない。あなたが言っていることは、「人類は文明を放棄せよ」というのと同じことだよ。
30. 匿名処理班
自然界への影響がってのがおこがましいと思うけどね
人間が操作して起きた自然の変化はイレギュラーであって
自身が起こしたことでの自然の変化はそれは自然であるって
結局何が起きようが自然でしかないってことだよ
今が完成された世界の有様なわけではなく常に自然は変化してるんだから
31. 匿名処理班
天然の遺伝子組み換えと自然の遺伝子組み換え
コントロールされてない方が脅威度は高いと思うけどね