
新たな電脳化技術は血管を介したアプローチ / Pixabay
脳をコンピューターに接続する電脳化技術――それは人類の次なる進化を予感させる未来的なテクノロジーだが、いざ自分の脳に電極を移植しなければならないとなったら、躊躇することなくできるだろうか?電脳化に興味はあっても、頭蓋骨に穴を開けて、剣山のようなデバイスを脳に挿入するなどという恐ろしい手術は避けたいところだ。
研究者もそうした人体にかかる負担のことを承知しているようで、この度新しいアプローチが発表された。それは血管を通じて、脳とコンピューターを接続するというやり方だ。
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血管を介して脳とコンピューターを接続
脳とコンピューターを接続するための装置を「ブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI)」という。『Journal of NeuroInterventional Surgery』(10月28日付)に掲載された研究で紹介されているのは、頭蓋骨に穴を開ける代わりに、血管を経由するBCIだ。
新開発の「ステントロード」は、血管などの人体の環状の部分を内側から広げられる「ステント」という医療器具の先端に、脳のシグナルを読み取る「電極」(エレクトロード)が取り付けられた構造をしている。
これを首の血管から挿入し、脳の一次運動野の血管にまで押し進め、そこでステントを展開。すると電極が血管の壁にピタッと押しつけられて、血管壁に越しに脳のシグナルを感知できるようになる。
これと併せて、胸に赤外線式の送信機を移植。これを経由して電極で読み取ったシグナルを無線で外部のコンピューターへ伝える。

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思考でカーソルを操作
この技術を開発する米企業「Synchron(シンクロン)」は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)によって体が動かなくなった患者2名に、実際にステントロードを試し、思考でコンピューターを操作させることに成功している。患者は移植手術を受けて2、3日で退院。しかしこれだけでは脳によるコントロールはできず、患者の脳で生じるシグナルの意味をAIに学習させねばならない。
移植手術を受けた2名の患者は、どちらも数週間のトレーニングの後、アイトラッカーで画面のカーソルを動かし、考えるだけでクリックできるようになったという。
現時点で、ステントロードが検出できる情報は1ビットの情報だけで、マウスクリックの有無を区別することぐらいしかできない。だが、たったこれだけの操作でも、メッセージの送信からオンラインでのショッピングまで、さまざまなデジタルライフを楽しむことができる。

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様々なアプローチで開発されているBCI
一方、現時点でより一般的なBCIは、「ユタアレイ(Utah array)」という電極の針が剣山のように突き出したものだろう。これを脳に差し込んで、脳の電気シグナルを読み取り、それを外部のコンピューターに送信する。個々の神経細胞の活動を検出できるユタアレイは精度という点では優れているが、やはり電極を移植するからにはリスクがあるし、長期的に利用するうえで問題点もある。
まず電極の針がどれだけ細く柔軟であっても、傷を付けられる以上、脳はそれから身を守ろうとする。そのために電極は「グリア細胞」におおわれてしまい、うまく脳波を検出できなくなる。
また柔らかい脳は微妙に揺れるものなので、その衝撃で電極が少しずつ劣化していく。そもそも脳のシグナルが意味する内容の解明も、まだまだ発展途上の技術である。
Faculty profile: Richard Normann and the Utah electrode array
こうした問題点を克服するためにさまざまなアプローチが試みれられている。
たとえば「皮質脳波記録法(ECoG)」というものがある。これは脳に電極を差し込むのではなく、脳の表面に網(メッシュ)のような電極を貼り付ける。
これによって「硬膜下皮質表面電位」という電気活動を検出する。運動野の唇・あご・舌を制御する領域を読み取って、メッセージやスピーチを作れるだけの精度があるという。
精度の点では、侵襲型BCIには敵わないかもしれないが、手術をしないでより安全に利用できるBCIもある。
電極が埋め込まれたヘッドギアのようなものをかぶって、脳波を検出するやり方(EEG)は以前から使われてきた。
より最近では、2019年にフェイスブックが10億ドル(約1000億円)で「CTRL-labs」というスタートアップを買収。同社の技術は、手首につけたリストバンドで神経細胞の運動シグナルを読み取ることができる。
This Wearable Allows You To Control Machines With Your Mind
BCIの未来
今回のステントロードは、こうした侵襲型BCIと非侵襲型BCIの中間、どちらかというと前者寄りという位置づけになる。考えられる問題点としては、電気パルスを伝える脳組織ではなく、血管細胞を通じてそれを検出するタイプであるために、電極を直接移植するものに比べれば精度が劣る可能性があることだ。
そのために神経科学の研究用にはあまり向かないかもしれない。それでも頭蓋骨に穴を開けるような大手術に抵抗のある患者にとっては、1つの選択肢になることだろう。
またウェアラブルなBCIのように、決死の覚悟で手術を受けなくても手軽に使えるものが登場すれば、脳波コントロールが爆発的に普及することだってあるかもしれない。
References:arstechnica/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
太ももの太い血管に穴を開けなきゃ
2. 匿名処理班
ただでさえ狭い血管にそんなもの通すよりは頭蓋骨開いて電極指す方がいいけどな。
反応もよさそうだし。
血管通すとか脳卒中になりそう。
3. 匿名処理班
健康に支障が出ない範囲で頑張ってくだせぇ
4. 匿名処理班
なんでもいいから手軽かつ安全で認証のすぐおりる手法はよ
5. 匿名処理班
昔聞いたところでは、脳内カテーテルは太ももの動脈から入れると途中にある心臓への負担が大きいので年寄りや体力の落ちてる人にはやらないそうだ(今は可能かも)。
この場合も脳の部位によって首の血管4本を使い分けるのだろう。
おそらく今の技術だと耐久年数は10年を超えないのでは?
だからALSで自発呼吸(?)ができない人が被験者なのかな。
期待したい技術ではあるが後頭部か額にトレパネーションして入れるのが最終形態になるだろう。
単純な行動なら後頭部にソケットするのが邪魔じゃないし拡張しやすい。
複雑な思考なら前頭葉に繋げてWi-FiやBluetooth「来年は20G」とかで再手術する世の中に。
6. 匿名処理班
これは・・・危険だと思う
たぶん緊急カテーテルで発想したんだろうけど
血管が詰まるだろうし感染症の心配もある
脳に電極差し込むのも無理だろしな
携帯型のバンドテープみたいな
使う時に頭につけて
脳波スキャンと入力ができる機械とかが
開発されないと無理じゃないかね
7. 匿名処理班
何かをコントロールするだけなら情報量が多すぎる脳からより、肢体の神経からの方が信号が整理されてて安全性が高いから向いてると思うけどなあ。
8. 匿名処理班
>>3
攻殻機動隊
9. 匿名処理班
つまりザイアスペック方式のやり方と
10. 匿名処理班
いやん。あたい、あほでもいいから、最後まで、人間でいたい。
11. 匿名処理班
少佐「そんな面倒なことは全身義体化すれば不要だ」
12. 匿名処理班
ゴーストが囁きだしそう
13. 匿名処理班
「JM」(記憶屋ジョニー)「重力が衰えるとき 」に繋がる世界の扉が開かれたね。
14. 匿名処理班
電脳化と義体化はよ(´・ω・`)
15. 匿名処理班
心疾患の治療に使われるステントと同じやつかな?それなら、脳内血管にステントを設置した場合は『血液をサラサラにする薬』を毎日摂取しなきゃいけなくなるね。
それでも血栓リスクは高いし、侵襲型デバイスと比較してどちらが安全なのかなんともいえないし、難しい問題だね……。
16. 匿名処理班
ナノロボットはまだかな?
微細ロボを脳の中に送り込み、通信すれば良い。
17. 匿名処理班
すこしずつ未来が開かれていく