
金属を食べる細菌が発見される / Pixabay
アメリカ・カリフォルニア工科大学の微生物学者ジャレッド・リードベター氏は、フィールドワークから数ヶ月ぶりに帰って、妙なものを見つけた。
シンクに浸しておいたガラス容器に金属元素「炭酸マンガン」が付着していたのだが、本来クリーム色のはずなのになぜか黒くなっていたのだ。
その黒い物質は「酸化マンガン」で、イオンが電子を失い、酸化したときに形成されるが、そのためにはきっかけが必要だ。
電子を盗み出した泥棒がいるに違いない。
「もしかしたら、100年以上前に予言されていた”細菌”の仕業かもしれない」そう思ったリードベター氏。果たしてその予感は的中する。
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犯人捜しがはじまった
まず本当に生物学的なプロセスによって起きた現象なのか確かめるために、炭酸マンガンを塗ったフラスコをいくつか用意して、その一部は蒸気で熱消毒した。
消毒したフラスコの炭酸マンガンは1年が経過しても黒くはならなかった。ところが、消毒しなかったものは黒くなったのだ。ならば、電子泥棒は熱い蒸気で破壊されるということだ。
そこで今度はフラスコに付着している何者かを培養してみることにした。RNA解析からは70種の細菌がいることが判明し、さらに調査を続けて犯人候補を2種にまで絞り込んだ。
それが「Ramlibacter lithotrophicus」と「Candidatus Manganitrophus noduliformans」だ。どちらの仲間も地下水や水道水の中に潜んでいる。
Ramlibacter lithotrophicusを単離して調べてみると、炭酸マンガンを酸化したりはしなかった。となると、Candidatus Manganitrophus noduliformansが真犯人か、あるいは共犯である可能性がある。
じつは後者は前者から単離されておらず、単独犯なのかどうか今のところはっきりしない。学名の「Candidatus」は、培養に成功していない原核生物の暫定的地位を示す名称だ。

Candidatus image by:Hang Yu/Caltech
細菌は金属元素マンガンのエネルギーを利用
だが、犯人がマンガンから電子を盗み出す理由は何なのだろうか?
これにについて細菌が「炭素13」という炭素同位体を取り込むことが確認されている。このことは、細菌が「独立栄養細菌」であることを示している。つまりエネルギー源を使って自分のエサを作り出せるということだ。
細菌は金属元素のマンガンの電子から得られるエネルギーを利用して、二酸化炭素を利用可能な炭素に変換していたのだ。ちょうど植物が日光を利用して、二酸化炭素と水を糖と酸素に変える光合成のような感じだ。
細菌によるプロセスは「化学合成」という。他の金属で化学合成を行う細菌なら知られているが、マンガンを使ったケースが確認されたのは初であるとのことだ。

金属元素 マンガン/iStock
なぜか水道管をつまらせる不思議なマンガン
マンガンは人間にとっても不可欠な栄養素だ。ナッツや葉物野菜などに多く含まれており、人体はそれを使って脂肪やタンパク質を処理したり、骨を形成したりする。
じつはマンガンは地球上でもっとも一般的な元素の部類でありながら、その性質や地球での循環については謎が多い。
たとえば、なぜか水道管をつまらせる。一体どのようにしてそんなところにマンガンが溜まるのか今のところミステリーだが、これをエネルギーとして利用する細菌の仕業ではと疑う科学者はいた。ただ、その仮説を裏付ける証拠がなかった。
またマンガンは、どういうわけだかグレープフルーツ大の塊となって海底に転がっていることもあるし、炭素・窒素・鉄・酸素といった元素の相互につながりあった循環にも関与している。
今回発見されたマンガンから電子を盗む泥棒の存在が、さまざまな現象を説明できる可能性があるのはそうしたわけだ。

iStock
地球でのマンガンの循環に関与している可能性
リードベター氏らによると、この細菌の細胞の倍増期間と酸化させる速度なら、地球上に存在する酸化マンガンに匹敵する量をわずか2年で作り出せるだろうという。
この種の近縁種はいたるところに存在してるように思われる。そうだとすれば、地球におけるマンガンの循環に、彼らがとんでもなく大きな影響を与えていたとしてもおかしくはない。
この研究は『Nature』(7月15日付)に掲載された。
Bacterial chemolithoautotrophy via manganese oxidation | NatureReferences:zmescience/ written by hiroching / edited by parumo
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2468-5
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コメント
1. 匿名処理班
エイトマン、危うし!
2. 匿名処理班
沈んだタイタニックから初めて発見されたハロモナス・ティタニカエという
細菌の一種も鉄が大好きな奴だ
現在のところ真鍮はどの菌も食わないようなのでもしこいつも食うようなら
学会がえらいこっちゃ状態だろうな
3. 匿名処理班
やっぱりグズラとアパッチ族は居るんだ!!
4. 匿名処理班
僕の関節が錆び付いて動かないのも細菌の仕業なんですよ
5. 匿名処理班
マンガンライフの細菌畑〜
6.
7. 匿名処理班
???「くっぴっぽ〜!」
8. 匿名処理班
MnCO3→MnO+CO2 酵素の力で分離し
2MnO+O2→2MnO2 +2e- 酸化させて電子獲得
酸化マンガンは中間生成物で黒いのは二酸化マンガンだと思う
9. 匿名処理班
金属が好物でおまんがん
10. 匿名処理班
チェッチェッコリ♪
11. 匿名処理班
ペロッ これは…細菌かも!?
12. 匿名処理班
チェッチェッコリ チェッコリッサ
13. 匿名処理班
どんなところにも何かしらおるんやな。他の惑星にも当たり前にいそう。
14. 匿名処理班
古代の製鉄に利用されてた鉄バクテリアとかもいるよね
日本でも縄文時代にはこれで原始的な製鉄が行われていたが
大陸から砂鉄を利用したたたら製鉄が伝わって駆逐されたという説がある
15. 匿名処理班
科学的知識ある人のこういう発想の展開かっこいい
16. 匿名処理班
うちの洋式便器の水面の位置に便器壁から黒い石か金属的な塊ができるんだがもしかしたらこの細菌とマンガンの仕業か!?
17. 匿名処理班
世界には発見できないと言うか「培養できない細菌」がかなり居る。
腸内細菌、皮膚常在菌にもいるし、最近話題の地下深くの細菌も培養が成功したことで報告された。
これでマンガン塊も予想通り細菌由来だったことが証明されたわけだ。
18. 匿名処理班
鉛とかの有害物質も分解できるなら水質改善に使えるかも?
19. 匿名処理班
※10
二酸化マンガン、酸化マンガン♪
20. 匿名処理班
宇宙には水も空気もない場所で生きてる生物もいるかもしれんね
21. 匿名処理班
盗んだ電子で走り出す〜
22. 匿名処理班
※7
たしか電撃も出来たよな?
23. 匿名処理班
※18
化合物にしてからの濃縮だから分解とはちょっと違うけど、
水質改善と資源回収が同時にできて、
ひいては人類の宇宙進出にかかる惑星改造とかにも関わってきそうな科学ではあるな。
24. 匿名処理班
光合成をする前の生物や今も存在している原始的な生物は
二価の鉄イオンを電子供給源として利用していたから
大きな発見なのかは疑問。
まだ論文を読んでいないから何とも言えないけど
二価のマンガン化合物って物によっては空気中の酸素で
酸化されてしまうものもあるから、その確認もしているか気になる。
25. 匿名処理班
どうりでマンガン電池の寿命が短いのかと
26. 匿名処理班
地球外生命にこういうのが居てもなんら不思議じゃないってことか
27. 匿名処理班
>>16
それはサボったリングでは?w
正体はカビだったはずw
28. 匿名処理班
※22
たしかソフトクリームも作れたよな?
29. 匿名処理班
噂だと金も最近の生成物だとか
30. 匿名処理班
フィールドワークで数ヶ月家空けるのにシンクに浸しっぱなしっていう、優秀なのにズボラな研究者のおかげで発見されたのか
31. 匿名処理班
知らなかった…金属を食べる細菌そのものは結構いるもんなのか…
32. 匿名処理班
マンガン鉄コバルトニッケルどうやっても亜鉛♪
33. 匿名処理班
そういえば何年も前に、カビに関する一般向け科学本で「アルミを食べるカビがいる」という記事を読んだな。
自衛隊が発見したんだよ。何故か自衛隊機のアルミが溶解する事件が起きて。
それ以来自衛隊機のアルミはコーティングされているんだって。