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全身麻酔で意識が失くなる理由が175年以上の時を経てついに解明(米研究)

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(著) (編集)

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全身麻酔の謎がついに明らかに torwai/iStock
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 1846年、ボストンにあるマサチューセッツ総合病院において、世界で初めて”硫酸エーテル”を使用した「エーテル麻酔」による公開麻酔手術が成功した。(エーテル以外での全身麻酔の世界初は後述するが日本の医師)

 実行したのは歯科医で、エーテル麻酔の発明者とも称されるウィリアム・T・G・モートン。手術は首の腫瘍の切除であった。以来、全身麻酔は医療の現場で欠かせないものとなった。

 にもかかわらず「なぜ人は麻酔で意識を失うのか?」という根本的な理由は不明だったのだ。人類は、なぜその効果が発揮されるのか分からないものを使用して、長い間手術を行っていたのだ。

 しかしついに、長年にわたる医学の謎がついに解明されたそうだ。『PNAS』(5月28日付)に掲載された研究では、ナノスケールの観察技術によって、麻酔が細胞膜に働きかける様子がはっきり観察されたそうだ。

仮説はあったが裏付ける技術がなかった

 麻酔が人の意識を消失させる具体的なメカニズムは不明だったが、それについての仮説は存在している。

 1899年までにドイツの薬理学者ハンス・ホルスト・マイヤーが、次いで1901年にイギリスの生物学者チャールズ・アーネスト・オーバートンが、脂質の脂溶性が麻酔の効き目を左右することに気がついた。

 ここから、おそらく麻酔は脳細胞の膜にある脂質に何らかの形で作用することで、その効果を発揮するのだと推測されていた。

 その後1世紀以上にわたり、さまざまな科学者が同じ結論に達している。しかし、彼らには、それをはっきり裏付ける技術が欠けていたのである。

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photographer/iStock

超解像顕微鏡で見えた脂質クラスターの拡散

 その謎に迫るためにアメリカ、スクリプス研究所の研究チームは、2014年にノーベル化学賞を受賞した超解像顕微鏡「dSTORM」を利用することにした。

 dSTORMは、従来の可視光顕微鏡の限界を超える解像度を実現し、それでいて高エネルギーを照射する電子顕微鏡のように細胞を殺すことのない、生体を生きたまま観測することができる画期的な技術だ。

 研究チームは、細胞を麻酔効果のあるクロロホルムに浸し、dSTORMでガングリオシドの「GM1」という、脂質クラスターを観察してみた。

 すると、きれいに密集していたクラスターが突然広がり、バラバラに散らばる様子が観察されたとのこと。それは、まるでビリヤードのブレイクショットのような感じだったという。

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image by:Hansen lab, Scripps Research

カリウム・イオンチャネルの活性化が意識を消失させる

 脂質クラスターが拡散される際、GM1から中身がこぼれ、「ホスホリパーゼD2(PLD2)」という酵素が放出されていた。

 このPLD2を蛍光薬でマーキングし、その動きを追跡してみると、PLD2はまるでビリヤードの球のようにGM1から離れ、「PIP2」という別の脂質クラスターへと向かったという。

 PIP2には、「TREK1」というカリウム・イオンチャネルがある。これは細胞膜を通過しようとするカリウムの出入りを制御し、細胞内のシグナル伝達を変化させる。また活性化すると神経細胞が発火しなくなり、意識が消失することでも知られている。

 このことから、研究チームは、麻酔を吸い込むと、PLD2を介してイオンチャネルが活性化されるために意識が消失すると結論づけた。

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iStock

ショウジョウバエの実験でも裏付け

 この仮説はキイロショウジョウバエを使った実験でも証明されているそうだ。

 PLD2が発現しないようにしてしまうと、ハエにさまざまな麻酔に対する耐性を持たせることができたのだ。

 ただし、麻酔を大量に使えば、最終的にはハエの意識を消失させることができたので、PLD2以外にも麻酔効果を生み出す要因があるだろうことがうかがえるという。

 なお、この発見は麻酔のメカニズム解明だけでなく、たとえば人を眠らせる分子など、脳にまつわる他の謎を明らかにするヒントにもなるかもしれないそうだ。

 硫酸エーテルは意識の問題の解明を手助けしてくれる贈り物だと、研究チームの1人はコメントしている。

Studies on the mechanism of general anesthesia | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/05/27/2004259117

 ちなみに、記録に残されている中で、世界初の全身麻酔手術は、江戸時代の日本人医師、華岡青州が1804年に行ったものだ。

 その際に使用したのは「通仙散」というチョウセンアサガオやトリカブトなどの薬草を配合した薬で、取り扱いが難しく、非常に危険が伴うことから、華岡は通仙散を秘伝としたそうだ。

References:iflscience / medicalxpress/ written by hiroching / edited by parumo

本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。

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この記事へのコメント 46件

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  1. うーん、そんな仕組みが…なるほど分からんw

    今まで二回大手術で全身麻酔を受けた事あるけど、あれは眠るという感覚では無い。突然「無になり気を失う」だ。夢すら見ないし記憶にも残らない。自分の記憶からすっぽりその時間が抜け落ちる感じで自分は全身麻酔ってのは仮死状態になるのではないかと勝手に思ってた。

    説明を読む限り眠るとも仮死状態ともメカニズムが違いそう。

  2. 麻酔かけてもらうと(ネット接続が切れてオフラインになるように)意識がぷつっと途切れるけど、あれは「普段閉まってるTREK1(カリウムイオンの出入り口)が開いて、カリウムイオン出入りし放題になって、電気信号を出せなくなる」からなのか

    本当に(細胞間の)ネット接続が切れてたんだな…なんだか感動してしまう

  3. 華岡さんは、母親と奥さんが自ら実験台になると申し出て、母親の死や奥さんの失明と言った不幸と苦労の末に麻酔効果のある薬を作った方ですね

  4. 一度全身麻酔やったことあるけど注射打たれて3秒くらいでいきなり意識がなくなった
    目覚める時も突然覚める

    徐々に意識が遠のき、徐々に覚めてくのかと思ったら突然なんだよね

    夢もまったく見ないし無の世界だった

  5. 麻酔から明けたときは、普段の眠りから覚めたという感覚と違って、手術前からいきなりそこへ飛んできたように感じた。やはり生理現象としての睡眠とは別物の、強制的に電源を落とされた感覚だった。

  6. 後漢時代の華陀は麻沸散と言われる麻酔薬を使ったといわれますね。

  7. 麻酔導入の時「数を数えて」て言われたけど数え始めたかさえ覚えがないほどスコーンと意識が途絶えた。麻酔明けは深い眠りから無理やり起こされる感じ、と説明を受けていたけど、自分は猛烈な吐き気に襲われてICUにいる間中ゲロゲロ吐いていたのでもう二度とやりたくねえ(たまにそういう事になるらしい)。

    1. >>10
      自分は1回目は2時間、2回目は5時間30分の全身麻酔を経験したけど吐き気や嘔吐は無かった。あの吐き気って副作用で、30パーセントくらいの確率で起こるらしいね。

    2. >>10
      私も吐きまくった!
      手術前は勿論断食だから胃液ばかりでつらかった!ほんとにもうやりたくない

    3. >>10
      手術は2桁はやってるが、数回はゲロゲロ吐きっぱなしだった。
      聴覚が残っていたのが1回・(あ、血が流れてんだな)とか(うわぁ、皮膚引っ張ってる)と痛みはないけれど感覚が残っていたのが2回。

  8. へー睡眠とは仕組みが違うのか
    神経伝達出来なくなって脳は意識を失って、部位麻酔では脳に情報を伝えられなくなると
    コメントででてる「意識失うのも突然で、戻るときも突然」っていうのも面白い

  9. 読んでも良く分からなかったが、今まで分かっていなかった事は分かった。

    以前肘の手術で全身麻酔やったけど、他の人も書いてる感じで突然「完」が来て、突然目が覚めた。
    最初は効かなかったみたいで、麻酔医の先生と「どうですかー」「いやー特に何も」みたいな会話していて、「フフフ、俺は世界初の全身麻酔の効かない男かも知れん」とか考えていたのだけど、本当にあれは突然来た。

    メカニズムは分からなくても使えるものなんだね。ちょっと怖くなったけど。

  10. 初めての全身麻酔に緊張していたけど、ほかの方と同じくすとんと切れた感じ
    ただ私の場合、なかなか起ききれなくて気がついたらお尻が平面になっていた
    一晩中血圧と体温を測られて、看護師さんの「まだ戻らない…」の呟きがほんと怖かった

    1. ※16
      うちの母は、戦後その県の赤十字病院の耳鼻科で
      初めて小児麻酔で鼓膜の手術をする子らの一人だった。
      (手術中に大人しくしておける、ある程度
      物分かりのする年齢の子供なら部分麻酔でいけるが、
      母はまだ小さかったので全身麻酔になった。)

      当時まだ体重の軽い幼児それぞれに応じた麻酔量の調整
      といったノウハウの経験蓄積が乏しく、担当医らも手探りで
      結果、手術が終わっても長い時間なかなか目覚めず
      付き添いの祖母はだいぶ気を揉んだそうだ。

      昭和の間は、記憶に残らない赤ちゃんのうちだと
      下手に麻酔して後遺症や死亡のリスクに晒すことを思えば
      (昔の麻酔だと乳児は心不全を起こすことも多かったらしい)、
      親や看護婦が押さえ付けてる間に無麻酔でザクッと切開したり
      鎮痛効果のない弛緩剤のみで動かなくさせて手術していた
      と聞いたことがある。

  11. 大腸カメラで何度か麻酔(鎮静剤?)を打ったことがあるけど打たれるときに「10数えてくださいねー」と言われて一度も10まで数え切れたことがない。
    目の前が真っ暗になって気付くと別室に寝かされてる、すごいわあれ。

  12. 「175年もかかった」か「175年しかかからなかった」かどうか感じるかは人によるだろうけど、私は後者だな。
    世の中「仕組みはなぜかわからないけどそうなってる」という事は驚くほど多い。

  13. この研究にdSTORMとある波長限界を超える顕微鏡って何気に凄いなと思う。局在化顕微鏡PALMと同じものだと思うのだけど

    蛍光蛋白をただ光らせるだけじゃなくて点滅させて、時間変調を使うことで空間分解能の限界を突破する感じ、時間と空間が一体化したような、時空顕微鏡て感じがするよ

  14. 麻酔マスクをつけられて、はい麻酔しますよという声っが聞こえて、目が覚めたら術後だった
    目が覚める瞬間は凄く性的に気持ち良かった

  15. おお華岡青洲、地元の偉人だ
    すごい人なんだよ~

    なのに杉田玄白とか緒方洪庵みたいに有名じゃない…orz

  16. ほんでカリウム・イオンチャンネルが活性化されると意識がなくなるのはなぜなんだってばよ?

    1. ※26
      細胞は、何も刺激がない状態では、ナトリウム・カリウムポンプの作用により、Na(+)を外に排出し K(+)を中に取り込んでいる。そして、細胞膜にあるナトリウムを透過させる経路(チャネル)は閉じているのに対し、カリウムを透過させるチャネルは開いているので、取り込まれたK(+)の一部は濃度が低くなっている細胞外に向かって流れ戻り、細胞内はプラスのイオンが減って-70mVぐらいのマイナスの静止電位に保たれている(「分極」)。

      ここで、刺激が伝わるとNaチャネルが開き、Na(+)の濃度が低い&マイナスに帯電していて引き寄せられる細胞内へ一気に流れ込む。これにより瞬間的に逆転したプラスの「活動電位」が発生、すなわちパルス(発火)が生じた状態になる(「脱分極」)。このパルスが隣接する神経細胞へ次々と伝わることにより、脳内の意識が起こる。
      瞬間的に発生した活動電位は、一定値に達するとまた素早くNaチャネルが閉じ、開いたKチャネルからK(+)が流出してマイナスの電位に戻る(「再分極」)。このとき、ぶりで一時的に静止電位よりも更にマイナスに下がる瞬間がある(「過分極」)。過分極の間は、次の活動電位が起こりづらく、いったん閉じたNaチャネルも少しの間は不活性化していて、隣へ伝えた細胞の興奮で再刺激される逆流を防ぎ、活動電位を神経の一方向にのみ伝達するのに役立っている。

      つまり、Naによる活動電位を打ち消す働きのKチャネルを強く活性化すれば、活動電位(=神経細胞の発火)は起きなくなり、意識が生じなくなる、という事ではないかと。

      1. ※36さん 

        かみくだいた説明をありがとう!
        素人知識しかない私だけど大まかな作用はわかった!

        睡眠とはちがうのは認知意識の喪失だからか。
        麻酔は迷走神経反射起こした時の落ち方とも似てる気がする。

  17. もし現代に「仕組みはわからないけれど人体に有益な技術」が開発されたとしても、お役所から「仕組みがわからないかぎり絶対に人間に使うな」って規制されるのだろうね。

    1. ※28
      作用機序が完全には不明であっても、新薬に一定の効果があって副作用も抑えられ、安全性が一定の基準に達していれば承認されますよ。特に今回の新型コロナのように緊急性が重視される場合などは、機構の解明より供給の方が優先されるので。

    2. ※28
      されないよ。
      薬って使われてるものでもぶっちゃけなんで効くのか良くわからないものが無数にある。
      仕組みがわからなくても、効果が確認できて副作用がなければ承認される。

  18. そういや全身麻酔した事のある母は麻酔効いてる間変な夢を見たと言ってたわ
    狭くてモノクロな幾何学の世界の坂道をものすごいスピードで滑っていく夢で怖かったらしい

    そして不思議なことにネットで調べてみると全身麻酔でこういうジェットコースターみたいな夢を見た人って他にもいるんだよね
    麻酔の種類なのか個人差なのかよくわからないし必ずしも同じような夢を見るわけではないだろうけど…
    この謎もいつか解明されないかなぁ

  19. 全身麻酔のメカニズムを解明したらノーベル賞ものと聞いてたがどうなんやろ実際

  20. 正確には2000年だぞ。
    三国志時代の医者華佗が全身麻酔を使った記録がある。

  21. 麻酔の効きやすい人とそうでない人もいるので、そこら辺をもうちょっと突っ込んで解明してくれたら、とても嬉しいです。

  22. 寝る筈の無い局所麻酔で3回寝たヘンな奴が参りましたーっ!
    医者『医学的には寝ないはずなんですがねぇ』
    怪訝な顔され捲りで赤っ恥ッ!何でじゃー!

  23. 麻酔が普及して信頼性が担保されてる時代に生まれてよかった
    仮に麻酔のない時代や国に生まれていたら・・

  24. 局所麻酔では意識が飛ばない様に、あれは人工的な神経麻痺。
    意識は脳のシナプスに流れる電流現象の様に思ってる人も居るが、電流の元の電子も他の素粒子同様、意識的な観察に従って粒子化する確率波・量子で有り(二重スリット実験他)、意識の方が脳を構成する物質に先立つ。

  25. 全麻は10回以上、意識あったのは1回。
    術後暫くして
    ・私「先生、学生時代は○○部だったんですね~。手術中に流れていた曲、部活中に⋯」
    ・麻酔科医「え?」
    ・看護師「は?」
    ・私「ん?何か?」
    ・麻酔科医「意識があったらマズイんだけど⋯」
    ・看護師「そんな話ししてたんですか?」
    ・麻酔科医「してたよ。次から麻酔の量を増やすわ」

    次の手術が怖い

  26. 2~3時間予定の全麻手術やったけど、
    数数えて5くらいではもう落ちてて、
    肩叩かれてハッと起きたら手術室の廊下だった。
    ちょっと起きるのが遅かったみたい。
    てかほんとに電源オンオフみたいな感覚だよね。
    みんな同じなんだね。

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