
酸素を必要としない多細胞生物の発見 image by:Stephen Douglas Atkinson
地球上には不変のルールというものがある。太陽は東から昇り、りんごは木から落ちる。そして、生物は生きるために酸素を吸う...はずだった。だがこちらは不変ではなかったかもしれない。今年初め、クラゲに似た寄生虫が発見された。それは多細胞生物でありながらミトコンドリアDNAがなかった。
つまりは呼吸をしない。生存する上でまったく酸素に頼っていないのだ。知られているものとしては初めての酸素呼吸をしない多細胞生物である。
地球上に存在する生命の活動メカニズムについての理解が根本からくつがえるわけではない。しかし、地球外生命の捜索にとっては、大きな含みを持つだろう大発見だという。
もともとは別個の生物だったミトコンドリア
14億5000万年以上前、生命は酸素を代謝する能力、すなわち呼吸を発達させ始めた。きっかけは大きな古細菌が小さな細菌を飲み込んだことだ。どういうわけか、それが両者にとって都合のいい結果になり、それ以降共存することにした。
両者はともに進化を遂げ、やがて中に潜む細菌は「ミトコンドリア」という細胞小器官に変化した。

ミトコンドリアの電子顕微鏡写真 image by:wikimedia commons
多細胞生物は酸素なしで生きていけるか?
今、人体の中にある赤血球を除くあらゆる細胞には、大量のミトコンドリアが含まれており、呼吸に欠かせない役割を果たしている。その役割は、酸素を分解して「アデノシン三リン酸」という分子を作ることだ。多細胞生物はこれを利用して細胞を機能させている。ゆえに「生体のエネルギー通貨」と呼ばれることもある、生物にとっては重要な物質だ。
生物の中には、酸素が乏しい環境に適応したものもいる。たとえば一部の単細胞生物は、ミトコンドリアが関係する細胞小器官を酸素を使わない代謝(嫌気的代謝)のために進化させた。
だが、同じことを多細胞生物もできるかどうかについては、ちょっとした争点であった。
それもテルアビブ大学(イスラエル)の研究者が、「ヘネガヤ・サルミニコラ(Henneguya salminicola)」という寄生虫を発見したことで決着したようだ。

image by:Stephen Douglas Atkinson
身近なサケの体内にきわめてユニークな生物
寄生虫が発見されたのは、食材としてごく身近な存在であるサケの体内からだ。それは刺胞動物であり、サンゴ、クラゲ、イソギンチャクと同じ門に属している。
サケの肉に少々グロテスクな嚢胞を作り出すが、特に害になるようなことはなく、一生をきわめて酸素に乏しいサケの体内で過ごす。だが、一体どのようにして極端な低酸素環境で生きているのかこれまで不明だった。

サケの体から発見されたヘネガヤ・サルミニコラ Michal Maňas/wikimedia commons
このほど研究チームがDNA情報を解析してみたところ、ミトコンドリア・ゲノムが消えていることが判明。ミトコンドリアを転写・複製する核遺伝子はほぼすべて失われ、酸素呼吸する能力までもがなくなっていることが分かった。
嫌気性の単細胞生物と同じようにミトコンドリア関連細胞小器官を進化させていたが、これもまた奇妙なもので、内膜の中に折り畳まれていたという。
比較のために、近縁種である「ミクソボルス・スクアマリス(Myxobolus squamalis)」の遺伝子を解析してみたところ、こちらにはミトコンドリア・ゲノムがあったそうだ。
遺伝子がシンプルになる傾向
今回の研究結果は、多細胞生物もまた酸素なしで生きられるということを示している。それでは具体的にどのようにして生きているのかは、ちょっとした謎だ。もしかしたら宿主であるサケからアデノシン三リン酸を吸い取っている可能性もあるが、今のところはっきりしないようだ。

image by:Stephen Douglas Atkinson
酸素呼吸を捨て去るなど奇妙なことにも思えるが、こうした生物にみられる一般的な傾向とは完璧に合致しているという。彼らには遺伝的に単純化する傾向があるのだ。長い年月をかけて、海中を漂うクラゲのような生物からずっとシンプルな寄生虫へと退化したわけである。
なお彼らからは祖先のゲノムのほとんどが失われてしまったが、刺胞に似た複雑な構造は残っている。今日、それは刺すためではなく、宿主にぴったり張り付くために使われている。写真に写っている目のようなものがそれだ。
この研究は『PNAS』に掲載された。
A cnidarian parasite of salmon (Myxozoa: Henneguya) lacks a mitochondrial genome | PNASReferences:Scientists Find The First Animal That Doesn't Need Oxygen to Survive/ written by hiroching / edited by parumo
https://www.pnas.org/content/117/10/5358
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コメント
1. 匿名処理班
また発見されたのか
archives/52288518.html
2. 匿名処理班
そのオタマジャクシみたいなのが1つの個体なのか、それともそれが集まってるのが1つの個体なのかどっちだろう?
3. 匿名処理班
ATPを宿主から奪ってるのなら、酸素がない環境での生命が発達してる可能性とかとは無関係ですね。もっと大きい宿主の中でなら発達できるだろうけど所詮それまで。
それより、酸素を使わない呼吸が可能な硫黄呼吸細菌のほうがよほど参考になりそうです。
4. 匿名処理班
酸素呼吸しなくてええんやたっら
コロナは心配無用や
5. 匿名処理班
2.5ヶ月ぶり2回目の発見
6. 匿名処理班
カラー画像がエイリアンのオタマジャクシ(なんだそれ
7. しろくま教授
オッカムの剃刀
8. 匿名処理班
だよね。
聞いたことある。
9. 匿名処理班
闇にま〜ぎれって生きる♪
10. 匿名処理班
そういうのも踏まえれば
細菌とかウィルスレベルの小さい生き物なら宇宙のどっかにそこそこ居そう
11. 匿名処理班
ドラえもんの銀河超特急に出たヤドリの本体みたいな形だな
12. 匿名処理班
おいらもシンプルな生き方を目指すことにした。
明日から酸素をやめる!
13. 匿名処理班
※12
常世の住人になってまうでww
14. 匿名処理班
酸素を吸わなくてもよさんそう・・・なんてね☆
15.
16. 匿名処理班
あれ? チューブワームは?
17. 匿名処理班
シンプルで美しい動物だ