我々がまだ生まれる以前、人類にどのようなことが起きていたのか?
過去を知るには、残された記録や伝聞を分析した歴史家の考察に頼らなければならない。だが時に、当時を記録した写真の中には捏造されたものもある。
当時は、画像加工技術が今のように誰にでもできる時代ではない。写真は重要な事実の証拠の1つだったのだ。写真を信じる人が多いのもうなずける。
ここでは歴史を象徴する有名な5枚の写真に隠された真実を見ていくことにしよう。
5. ヘラジカに乗るセオドア・ルーズベルト
第26代アメリカ合衆国大統領セオドア・ルーズベルト。彼のもっとも象徴的な姿は、ヘラジカの背にまたがり、川を渡ろうとしているこの写真のものだろう。
ヘラジカの巨体を眼の前にして、それにまたがろうなど、よほど豪胆な人間にしかできないことだろう。
これをやってのけたとされるルーズベルトは、カウボーイのような男性的リーダーシップで知られていた。だがこの写真、じつはフェイクだったのだ。
写真が作られたのは1912年、彼がブル・ムース党(進歩党)に擁立されて、大統領選を戦っていたときのこと。
ニューヨーク・トリビューン紙が、各党のシンボルである動物に乗り、ホワイトハウスまで競争するイメージになぞらえて大統領候補者たちを揶揄するために掲載したものだ。
なお、このときの勝者はウッドロー・ウィルソンで、ルーズベルトは落選した。
4. 存在を消し去られたロシアの宇宙飛行士
狭い宇宙船に乗って、目的地に着くまで粛々と任務に励む――宇宙飛行にはそんなイメージがあるが、そうでない者もいた。政府に楯突いたばかりに、哀れ表舞台から追い出される羽目になる。失ったものは大きい。なにしろ、それは人類で初めて地球軌道に到達したメンバーの1人という栄誉だったのだから。
彼の名はグリゴリー・ネリューボフ。「飲酒と風紀を乱した罪」でソ連政府にクビにされて以来、若者のなってはいけない見本と言われるまでに身をやつした。
彼が関与していた記録は一切が破棄され、栄光の集合写真もご覧の通りだ。
もしかしたら、素行不良はただの目くらましで、もっと深い理由があった可能性もある。ソ連に消された人間は彼が最初ではないのだ。
数年後、ネリューボフが自殺していることも、案外根が深いことを示唆しているかもしれない。
3. パリ・コミューンの虐殺写真のウソ
1870年に起きた普仏戦争での敗北によって、パリ市街は瓦礫と化した。混乱の中、反王党派が独立を宣言し、街にバリケードを張り巡らすと、ヴェルサイユ側はこれに武力で対抗。状況は緊迫していた。当事者はそれほど悲観していなかったが、写真家のウジェーヌ・アペールは、そうであるべきだと考えた。
事件から数週間後に彼が発表した一連の写真は、タイトルを「コミューンの犯罪」という。これは完全にでっち上げだ。
彼はセットをしつらえ、役者を呼ぶと、まるで今まさに処刑される、あるいはしようとしている者のように立たせて撮影。その写真に適当な頭部や背景に切り貼りして修正して、それらしく仕立て上げた。
確かにコミューンは人質を幾人か処刑した。しかし、それは一部の人間が望んでいたほどに凄惨なものでもなかった。
だがコミューンの敵である立場の人間にしてみれば、相手のイメージなど悪いに越したことはなかったのだ。
2. 世界に衝撃を与えた息吹き込み式飛行マシン
肺活量に物を言わせ、息を吹き込むことで空を飛べる画期的なマシン――それがこの1934年、某ドイツ紙に掲載された写真だ。
ただのエイプリルフールのネタだったのだが、大西洋を渡り、ニューヨーク・タイムズ紙をはじめとする数々の一流紙に取り上げられ、間もなく自力で空を飛べるようになると報じられた。
なにせ、インターネットなどなかった時代だ。国際通信写真(INP)に取り上げられたものをネタと思えというのが無理な相談なのである。
このパイロットの名前がドイツ語である種のシャレになっていたり、燃えにくい二酸化炭素を燃やすと説明されていたり、本来はネタであるとわかるようになっていた。
だがINPはそのことに気がつかず、おかげで誤解が広まることになってしまった。
1. 南北戦争後のユリシーズ・グラント第18代アメリカ大統領
南北戦争で血に染まったアメリカの大地だが、さすがは資本主義の総本山。その混乱の最中であっても、どうやって一儲けしようかと考える者たちもいた。戦場に群がった写真家たちもそうした類の輩である。
「シティ・ポイントのグラント将軍」と題された写真は、南北戦争での熾烈な戦いに勝利した直後に、当時北軍の将軍だったユリシーズ・グラント第18代アメリカ大統領を写したものだとされている。
馬に乗ってカメラ目線の彼だが、表情は冷静沈着そものも。むしろ、どうでも良さそうな仏頂面なのが気になる。
写真は1902年以降、市役所や博物館で掲示され、女たちにキャーキャーと黄色い嬌声あげさせ、また男たちはこれを見て愛国心を鼓舞してきた。
だが、これは現実には起きなかった場面だ。
これは20世紀前半に従軍兵の姿を本物よりも勇壮に演出した写真で一儲けしたL・C・ハーディの手によるものとされ、戦時中に撮影された3つの写真を合成したものだ。
本当にグラント自身なのは頭の部分だけである。華々しい勝利の後だというのに、便秘にでもなったかのようにムッツリと不機嫌そうなのはそういうわけだ。
グラントの力強さを演出するためのものだとすれば、あまり上手くいっていない。
アメリカ写真博物館のウィリアム・B・ベッカーが指摘するように、兵士たちは自分の指揮官であるはずの将軍にまったく注目しておらず、まるで彼がいないかのごとく振舞っている。
またグラントの顔が貼られたアレクサンダー・マクドウェル・マコック少将は、グラントよりもずっと恰幅のいい男だった。
References:5 Iconic Photos From History (That Are Totally Fake) | Cracked.com/ written by hiroching / edited by parumo
あわせて読みたい
宇宙写真からねつ造、コラまで。カメラがとらえた歴史の瞬間、初めての写真
コラの歴史を見てみよう。フォトショップ以前、20世紀のねつ造写真
あの写真は嘘だった。ネット上に広まった11の偽写真
あれも嘘、これも嘘とな?うっかり拡散されてしまった15のフェイク画像
偽霊媒師が作り上げた降霊の様子を写した奇妙な古写真とその種明かし
コメント
1. 匿名処理班
SCP-240じゃないか!?
2. 匿名処理班
硫黄島の星条旗も加えてください、、、
3. 匿名処理班
わ、ワイの頭も捏造やで
ホントは禿げてないから
4. 匿名処理班
※2
あれは、「実はなかった」ではなく「映える写真になるようにもう一度やった」ものだから、ここで扱ってる捏造写真とは違うんだよね
5. 匿名処理班
悔しいことだが、毛沢東は本当にうまく写真の力を活用したよ
6. 匿名処理班
フェイクニュースは今に始まったことじゃないのね。
7. 匿名処理班
※2
正確にはあの写真は、広報のために写真家が撮影した擂鉢山2枚目の星条旗だね。
擂鉢山1枚目の星条旗は掲げられた翌日に、日本軍決死隊の手によって日章旗(日の丸)に変わっていた。
その日章旗を焼き払ってから、兵士にポーズを取らせて掲げたのが擂鉢山2枚目の星条旗。
……その2枚目の星条旗も、翌日には再び日章旗に変わっていたとされている。
昨日よりも小ぶりな、白地の布に血染めの赤によって描かれた日の丸に。
8. 匿名処理班
フォトショップなかったのにクオリティー高いな。
9. 匿名処理班
昔の合成技術もけっこうやるじゃん!
10. 匿名処理班
真実を知る、真実を伝えるという事がどれだけ難しいかの証明だなこれは
何事も判断するには常に冷静で客観的であるように自分を戒めないといかんな、簡単なことじゃないけど
11. 匿名処理班
※4
それもちょっと違うぞ
硫黄島の上陸5日で星条旗立ったけど日本軍が奪回して日章旗を立てた
だからまた攻略して二回目立ててその時に撮られた写真がアレ
で、その二回目の旗もまた日章旗に代わって再々攻略してる
つまり軍事作戦の必要上で揚げられた星条旗は3枚ある
12. 匿名処理班
キャパの崩れ落ちる兵士の写真
13. 匿名処理班
>> 5. ヘラジカに乗るセオドア・ルーズベルト
でもクマに乗るプーチンは事実でしょう?(無垢な瞳を向けながら)
14. 匿名処理班
日本にも明治くらいにはいろいろ修整してる写真あるよね
15.
16. 匿名処理班
※10
冷静で客観的であるように自分を戒めても無駄
個人が得る情報のほとんどは
他人の利益誘導のために与えられた一部の情報に過ぎない
真実なんてものは自分の目で見たものだけだ
17. 匿名処理班
現在までの加工写真は全て現代の技術で真偽を見破ることができるのか気になる
18. 匿名処理班
>>5
南京のも取り上げて欲しいよね
19. みあきち
パリ・コミューンの虐殺の、ナチのホロコーストは実際にはなかったという陰謀論がなんか真実味を帯びてきたように感じる・・・
20.
21. 匿名処理班
南京やナチスの虐殺については実は中国兵が殺しているものや
ドイツ兵が埋められているものをユダヤ人だと言って説明を変えてるものだから少し違うかな
22.
23.
24. 匿名処理班
※18
あれはこの記事のような合成や加工どころか全く無関係な写真を南京のものだって言ってたものだからなあ…
まあ元写真とその詳細があるのになんでバレないと思ったのかも謎なんだが
25. 安心院なじみ
いくら面識を大事にしても、
AIが作り出すARの幻術で騙されるような時代じゃ、
何が真実かはやっぱりわからないぜ。
かなC時代だぜ。
26. じょん・すみす
”ソ連には太陽が二つある”
なんて言葉がありましてね、当時のソ連公式写真は
ある程度修正が加えられてる、と考えた方が良さそうですね。
27. 匿名処理班
「 やらせではない、演出です。」
28. 匿名処理班
飲酒という事は、宇宙飛行記念祝賀会とかで、ソビエト共産党のお偉方になにかしちゃったのかな
宇宙飛行士というのは、強靭な精神と健康な肉体が必須だから、普段からストレス溜めまくりだったんじゃないかな
29. 匿名処理班
※27 そして もう一つの真実です
30. 匿名処理班
※28
酔ってその辺の憲兵と乱闘騒ぎしちゃっただけです。
少なくとも、表向きの事実としては。
spacesite.biz/ussrspace10.htm
31. 匿名処理班
某工や某婦みたく全然関係ない写真のキャプション芸を歴史根拠にする国もあるからなぁ
これ以上は政治絡みでやめとこう
32. 匿名処理班
※3
真実が白日のもとに曝される日は近い
33. 匿名処理班
※18 ※19
それらの事件は「写真をもって実在したと言われているわけではない」という
ごくごく基本的なことを押さえた上で言わないと話にならないから気をつけてね
大規模な事件だと、写真は「補強」にはなるけどそれ以上にはなりづらいんだよ
34. 匿名処理班
>>6
これはフェイクニュースじゃなくプロパガンダなので…
35. 匿名処理班
※19
虐殺とか凄惨とかそういうのを抜きにしても、体制側の地位のある人間だからという身勝手な理由で何人も殺してるんだから弁護の余地はない
パリ=コミューンはただの暴徒だ、という意見は正しいよ
36. 匿名処理班
※1
元ネタが存在するSCPは「上手く膨らませてお話を作ったなあ」って楽しみがあるね