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現代の魔法使いに聞いた魔法素材としての「マンドレイク」の歴史と使用法

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(著)

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 「ちっちゃな相棒を訓練して、私専用のマンドレイクにしているところです」

 自称、現代の魔法使いであるレイブン・グリマッシはそう話す。

 彼と妻のステファニーは魔術を実践している。グリマッシ夫妻がマサチューセッツの自宅で20数本のマンドレイクを栽培している。

 そもそもマンドレイクとは何か?

 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』にも登場したのでご存知の方もいるだろう。地面から引き抜かれる瞬間に断末魔の悲鳴をあげる、人型の茎を持つあの植物だ。魔術や薬草の分野においては非常に重要で、古い歴史を持つ素材である。

マンドレイクの歴史

 旧約聖書の創世記では、ラケルがヤコブの子を身ごもるためにマンドレイクの根を使用している。またギリシア神話では、キルケーとアフロディテがこれを媚薬として使用したと考えられている。だが、その力は何も神話の中だけの話ではない。現実でも幻覚作用や麻酔作用を持つアルカロイドを含んでいるからだ。

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マンドラゴラのオスとメスの木版画

 1世紀のギリシア人医師ディオスコリデスによれば、マンドレイクの根をワインで煮出したものが、古代ローマにおいて麻酔薬として使用されていたようだ。同時に大量に服用すれば命を落とす危険があるとも注意を促している。

 ディオスコリデスは、マンドレイクに関する初の重要な記録を残した人物である。彼はオスとメスが存在すると記述しているが、これはマンドラゴラ・オフィシナルムとマンドラゴラ・オータムナリスという別種を指したものである。

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ディオスコリデスの『医薬の材料について』の7世紀の写本

中世のマンドレイク信仰

 数世紀にわたって、人型で性別があるとされたマンドレイクは様々な言い伝えを残してきた。言い伝えは、人体を象った植物はその部位の病を癒すとした中世の象形薬能論と相まって、一層強く信じられるようになった。

 様々な形のマンドレイクの根は、その形によって愛情や妊娠を促し、幸運、富、力をもたらす。その根が赤子のような形ならば、毎晩枕の下に置いて寝ることで、女性は身ごもりやすくなる。根が女性のような形ならば、懐に忍ばせておくことで、男性は意中の女性を射止めることができる。ヨーロッパ全土では誰もがマンドレイクの根を求め、詐欺師たちはブリオニアを彫って、その紛い物を売り出した。

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メスのマンドレイクを記載した中世の挿絵

マンドレイクを引き抜くと悲鳴を上げる?

 また、言い伝えの1つには、マンドレイクは土から引き抜かれる瞬間に耳をつんざくような悲鳴を上げ、それを聞いた人間を殺すというものがある。安全にマンドレイクを手に入れるには、ろうで耳を塞いだ上で、その根と犬の尻尾をロープで結びつけることだ。遠くに餌を投げれば、犬が駆け出しマンドレイクは引き抜かれる。気の毒な犬は命を落とすが、人間は無事これを手に入れることができるだろう。

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犬を使って安全に引き抜く方法を説明した挿絵

 レイブンとステファニーは、ヨーロッパの魔女や魔法使いたちがこうした伝説を広めたのは、違法業者や一般人の手から守るためだったと考えている。魔女はマンドレイクの根、実、葉をお守りや薬草や油として使用して、子供や友人、あるいは依頼主たちの愛情や財産を叶えた。口から摂取したり、皮膚に塗ることで、アルカロイドによる魔法がもたらされ、興奮や幻覚、あるいは眠り、時には死が与えられた。

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15世紀の写本『健康全書』の挿絵

 とは言え、魔女たちは人々を殺めるのではなく、主に癒すために使用したのだとグリマッシ夫妻は強調する。彼女らはどの程度調合すれば危険なのか熟知していた。あらゆる薬が人にとって癒しにも、毒にもなることは薬剤師には常識だろう。

魔女狩りの時代のマンドレイク使用禁止令

 中世後期には、キリスト教は教理主義的になってしまい、それに従わぬ者を迫害した。マンドレイクのような伝統的な薬草の処方は、悪魔的で危険なものとみなされ、魔女や魔法使いはその使用を禁止されるようになる。

 レイブンとステファニーはこうした伝統の継承者なのだという。「それは決して失われませんでした」とレイブンは語る。彼らが行うのは再発明や再発見ではない。伝統を実践し、ヨーロッパ魔術に関する題材を本に記し、講演してきた。

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19世紀に描かれたマンドラゴラ・オフィシナルムの挿絵

現代のマンドレイク

 ここ数年、有機植物や薬草療法への関心が高まり、マンドレイクも注目を集めるようになってきた。だがグリマッシ夫妻の関心は、ヨーロッパの魔術の歴史についての研究から生まれたものだ。彼らは書物で読み知った理論を実践したいのだ。「私たちは祖先が手にしていたものを物理的に目にしてみたかったのです」とレイブンは説明する。そして、それに成功した。

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グリマッシ夫妻が育てた2年目のマンドレイクの根

 種を購入し、南カリフォルニアの菜園に蒔くと、マンドレイクは見事に芽生えた。マサチューセッツへ引っ越した後、丁寧に収穫し、袋に詰めると、国中に送った。

 「もちろん悲鳴をあげたりはしませんよ」とステファニー。だがそれなりの手間暇もかかる。毒性がある上に、ヨーロッパ南部の固有種であるため、寒い地方では育たない。グリマッシ夫妻は、それを克服する方法を考案し、現在20本以上のマンドレイクが、自宅の南向きの温かい窓から太陽へ顔を向けている。

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15年目のマンドレイクの根

 夫妻は、その葉や油をオンラインストアで販売しているが、その取り扱いには細心の注意を払っている。顧客には葉を燃やしたり、食べたりしないよう厳重に注意し、さらにアルカロイドを大量に含む根の部分を売ることもない。

 ハリー・ポッターがきっかけでマンドレイクを求めるようになった人もいるそうだが、主な顧客は魔術を実践する人や、古代の風習に源流を持つとされる自然宗教ウィッカの信者だという。

Repotting a Mandrake ハリーポッターでマンドレイクを引き抜くシーン

 夫妻は丹念にマンドレイクを栽培し、年に一度、大抵はハロウィンに収穫する。根を洗い、聖油を塗り、自身の血液とマンドレイクの緑の血液(クロロフィル)とを数滴ばかり交換する。また定期的にマンドラゴラに伺いを立て、地球の秘密を聞き出すという。

 冒頭で、レイブンが小さな相棒がいると話したのはそういうわけだ。

 「マンドレイクがいかに強力で神秘的な存在とみなされていたかということや、魔女や魔法使いが彼らのために一所懸命木々を集めてきたといったことを語りかけます」とレイブンは教えてくれた。「子どもを持つような感じですよ。自分の子供に、彼らがいかに大切な存在なのか伝えるでしょう。それと同じです」

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via:atlasobscura・written hiroching

 もちろんマンドレイクはきちんと応えてくれる。「入り用なとき、彼に聞いてみます、『助けてくれるかい?』って。きちんと関係が作れていれば、手助けしてくれますよ」

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この記事へのコメント 52件

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  1. これは西洋だったから、そういう伝承になったんだな
    もし中国なら漢方薬の原料となり、日本に伝来したら神道の思想や武家社会の影響でまた違う伝承が出来てたかもしれない

    • 評価
  2. この際事実関係などうでもいい
    不思議な気持ちがキモチイイー
    こういう記事最高だわ

    • +10
      1. ※9
        混乱した大蝙蝠がマンドレイクごとこちらに落ちてくるかもしれないからね。

        • 評価
    1. ※3
      中国だと西遊記に人桃果っていう赤ん坊の形をした桃が出てくるのを思い出した
      日本にはそういうのないのかな?

      • 評価
  3. 犬飼いの俺は認めんぞ
    蝋で耳を塞いだ人間が自ら抜けばいいだろ!

    • +14
  4. パンズ・ラビリンスのマンドラゴラのおまじない思い出した

    • +23
    1. なんか※5のコメが目から鱗だった。
      確かにその場に居るんだから自分で抜きゃ良い話だよな。

      • 評価
    2. ※5
      大丈夫、GS美神ではウォークマンで音楽聞かせた丁稚に抜かせてた。
      つまり、犠牲ゼロで行けるって事だ!

      • 評価
  5. 「魔界医師メフィスト」でこの植物の事を知ったわ。実在するのね。

    • +2
  6. マグロ状態でぐいぐい鵜呑みにしていく感じが良いなこの記事。「では」とか「ところで」ってのがどこで出てくるのかなぁって慎重に進んでったら出口から出ててキツネに化かされたみたいw

    • +8
  7. 昔から飼い犬は大事にされていただろうから、
    引っこ抜いて自分が逝くのも、かわいい飼い犬にさせるのも
    嫌だろうから、乱獲防止にはなったんじゃね?
    絵には色々ツッコミどこあるがw足首と首輪とか

    • +1
  8. 杭なり木なりにロープを回して、片方をマンドレイクに縛って、もう一報を引っ張って抜けば犬も死なずに済むであろうに。
    まぁストーリーとしての味付けなんだろうけどさ。

    • +3
  9. 一度失われた伝統技術や知識を復活させるみたいなの凄くロマンを感じる
    大っきくなるのに15年もかかるんだね
    人型の15年モノを乾燥して飾っておきたい!
    でも毒だから無理なのか(笑)

    • +2
  10. マンドラゴラと聞いてまず思い出すのが菱沼さんだったりする

    • 評価
    1. ※21
      似ているけど違うんよ。
      マンドレイクはナス科植物。
      アルカロイドを含んでやべえ植物ってので有名。
      ざっと調べたけど、ナス・ジャガイモ・トマト・タバコ・ハシリドコロ・ベラドンナ・チョウセンアサガオといろいろある。
      朝鮮人参はキキョウ類セリ目ウコギ科。
      ウド・タラノキが入る。

      • +3
  11. アラサー世代はハリポタよりぬ~べ~で知ったって人が多そう
    かく言う自分がそうだしw

    • +5
  12. ぬーべーで知ったなぁ
    男の小便掛けるといいんだっけ

    • 評価
    1. ※25 ※27
      アラヒフの自分は漫画『エコエコアザラク』です(笑)!

      • +13
      1. ※26
        恥ずかしながらそのコメントを読んでやっと実在する植物なんだって実感できた
        フィクションの世界でしか見ることないだろうっていう先入観にとらわれてたわ
        手をかけて植物を育てている夫妻に申し訳ないことをした…

        • +2
  13. 朝鮮人参も30年ものは高値になるからな
    根が太くなるには時間がかかるんだろうな

    • 評価
  14. 誰もヒトニグサには触れないのか
    …あれはちょっと違うか?

    • 評価
  15. そもそも聖書に恋なすびとして出てくるがな
    絞首刑の罪人の遺精から生まれてくるとかなんやら
    このほかにもに三種あって
    そのうちの一種は中国産 

    • 評価
  16. こういうのはドイルドシャーマンの民間療法だな
    経験則から薬とかを作ってたヨーロッパ全域にいた昔のお医者さん兼宗教者
    キリスト教の普及と共に廃れていったけど

    • 評価
  17. 余りにも漫画とかのファンタジー物語に出てくるから実在する植物だったとは思わなかった
    なぁ

    • 評価
  18. 幻覚作用や麻酔作用を持つアルカロイド
    つまり麻薬性のアルカロイド含まれてるんだろうけども栽培は合法なんだろうか
    日本でも栽培してる人がいるみたいだが

    • 評価
    1. ※36
      それたぶん人参果。
      人形劇の「ニンジンカ ニンジンカ ニンジンカ カヤ」という歌を思い出した。

      • 評価
  19. 絶叫!!マンドレイク 2
    配給:カラパイア 

    • +2
  20. ゲームのDEMENTOに出てくるマンドレイクがなかなか良い。

    • 評価
  21. キリストの善悪の教えは大衆コントロールのためだと言われてるけど
    罪なき魔女(男)達が言われなき悪人に仕立て上げられて
    良いものが廃れていったっていうのは大いにありますね。

    • 評価
  22. マンドレイクはともかく
    もしかしたら内部にある空洞から空気がぬけ、抜くさいに音をだす植物もあるかもしれないな
    あるいは発酵してたまったガスの抜ける音とか

    • +2
  23. フロム・ソフトウェアのGC用ソフトRUNEシリーズで度々お世話になりました、飲用ではなく待機トラップ要員としてw
    どっちかっていうとアルラウネやバロメッツのほうが好きだな

    • 評価
  24. で、味はどうなんだ?
    チョウセンニンジンみたいな感じか?
    どうなんだ?

    • +1
  25. 植物の根を薬などに用いるという考えは漢方と基本一緒だと思うが、アジアでは「植物の効能」だがヨーロッパでは「なんかしらないけどたぶん魔法」
    なんとなくヨーロッパ人の方がアホ……もとい、ロマンティックだな……

    • 評価
  26. 高麗人参とかモロマンドレイクだよね(´ヮ`;)最近の大根とかも。
    黄金樹ユグドラシルなどもファンタジーのなかの話にも見えるけど、植物は話しかけたり気持ちの良い音楽をかけることでそれに応えるということは科学的にも判明してるとのこと。意外とファンタジーは事実であって、僕達の庭先や部屋の中にもいるのかもしれないね

    • 評価
  27. 解説がマンドレイクとマンドラゴラを混同してるので、やり直しwww

    • 評価
  28. マンドレイクとやらが、ヴォイニッチ手稿に描かれているイラストと酷似しているように見える。

    • 評価
  29. スターオーシャンで、調合に使うアイテムで売ってました。

    • 評価

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