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無人島で猫と共に16年間暮らした男、トム・ニールの物語

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(著)

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 生存者はたったひとり。というフレーズは、飛行機事故や鉱山爆発、火山噴火といった大惨事で町や住民が根こそぎ破壊され、ひとりだけが残ったというシーンを思い浮かべる。

 生存者の恐ろしい体験は、その話を聞いた人たちにトラウマ的な印象を植えつける。91人が亡くなったペルーの航空機事故で生き残ったある女性は、負傷してジャングルの中を何日も歩き回り、蛆虫を30匹探し出して、それをぱっくり開いた腕の傷口にあてがわなくてはならなかった。2005年、サゴ鉱山の爆発で、有毒メタンガスや一酸化炭素が発生し、11人の同僚が愛する者に遺書を残してじわじわと死んでいく中、奇跡的にひとりの男性が生還した。

 これらは皆、悲劇的な生還の例だが、中にはあえてひとりぼっちを選択する者もいる。太平洋の小さな環礁にたどり着いたトム・ニールは、自らの意思で16年もの間無人島で生活したのだ。2匹の猫のパートナーと共に。

 元ニュージーランド海軍兵で、その後小売店主となったニール(1902年11月6日- 1977年11月27日)は、単身で無人島に降り立ち、粗末な丸太小屋で激しい嵐を乗り切り、魚やココナッツを食べ、腰巻ひとつで生活していた。難破船で流されたわけではない。ひとりでシンプルにこの島で暮らそうと自ら決めて、自分の意思で率先してやってきたのだ。

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 1943年、当時41歳だったニールは、作家で旅行家のロバート・フリスビーから、クック諸島にあるスワロー環礁はこの世で最高に美しい無人島だという話を聞いてから、どうしてもそこに行きたくなった。ラムのグラスを傾けながら、フリスビーの話に大いに魅了された午後のことをニールは書き記している。

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クック諸島 スワロー環礁

 1945年、時は第二次大戦中の最中である。、輸送船が駐留していたニュージーランドの沿岸監視員に荷物を運ぶ為スワロー島の近くを通るというので、ニールは交渉してその船に乗せてもらった。

 スワロー島のやさしく風にそよぐヤシの木、誰にも踏み荒らされていない砂、心和む透き通るようなブルーの水を目の当たりにして、さらに魅せられたニールは、ここに住まなければならないと改めて思った。

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無人島に住むことを決意。連れていったのは親子の猫

 長年住むことを想定して、ニールは食糧など必需品を備蓄し始めた。クック諸島のラロトンガ島で、小麦、砂糖、灯油、コーヒー豆など、あらゆるものを買い占めて、店のオーナーを当惑させた。ニールの壮大な計画を聞きつけた村人たちが、さまざまな物資を提供し、中には一緒についていきたいという女性も何人かいた。しかし、ニールはこの申し出を丁寧に断って、人間でない同行者を選んだ。ミセス・シーバリーとミスター・トムトムいう名前の親子のネコだ。

 食糧の缶詰と道具、種、さまざまなペーパーバック(本)を持って、ニールは6日間の航海の末、スワロー島にたどり着いた。島にはまったくひと気がなかったが、第二次大戦中の沿岸監視員が使っていた水のタンクつきの小屋が残されていて、それがニールの家になった。

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 ニールの島での魅力的な生活は、彼のAn Island to Oneself(島をひとりじめ)に詳しく記されている。昼は小屋を建て直し、掃除をし、庭の手入れをする。夕方は浜辺に置いた木の箱に座って、夕日を眺めながらお茶を飲む。嫌なこともあった。庭を荒らすブタを6頭殺さなくてはならなかったのだ。これはニールにとってとても辛いことだった。殺したときの叫び声に心底憂鬱になったと書いている。殺したブタは食べずに埋葬した。

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 ニールのロビンソン・クルーソー生活が始まって10ヶ月がたったとき、最初の訪問者が現れた。ヨットに乗ったカップルで、彼らはニールの住まいがきちんと整頓されているのに驚いた。ニールは毎週シーツを煮沸し、部屋をきれいにしていたし、食事をするときはテーブルクロスをちゃんとかけていた。数日後、カップルはラムのボトルを半分空にして、元気でと励まして帰っていった。

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奇跡的に命拾いし2年間の無人島生活は一旦終わる

 それから、ニールは新しい計画に着手した。壊れた桟橋を修繕することだ。次の半年は、毎日5時間かけてサンゴを引っ張ってきて水際に運び、壊れた桟橋の土台に据えた。ニールは根性と忍耐と重労働だけでこの果てしない作業を完了させ、たったひとりでしっかりした桟橋を再建した。しかし翌日、激しい嵐が島を襲い、完成したばかりの新しい桟橋を破壊してしまった。

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 その後、不運が続いた。タバコの在庫を切らしてしまい、ニールは猛烈な禁断症状に襲われた。夜毎にタバコ、チョコレート、牛肉、ジューシーな丸々したカモ肉の夢をみるほどだった。やがて、こうした精神的な苦しみは、今度は肉体的な苦しみへと変わった。ある日、ビーチで錨を投げていたとき、背骨に刺すような痛みを感じ、急に動くたびに苦しむようになった。そのときのことを、ニールはこう書いている。

立ってじっとしていると痛みはないが、少しでも体を動かそうとすると、全身の筋肉に痙攣が走る。背骨が脱臼したような状態になってしまったに違いない。これに屈したら、もう終わりだ、と自分に言い続けていた。

 ニールは4時間かけて自分の小屋に戻り、ベッドに横になったが、痛みの発作と意識不明が交互に襲ってくる中、ニールは奇跡を祈っていた。ちょうどそのとき文字通り奇跡的に、ペブとボブというふたりのヨット愛好家がサモアに向かう途中でこの環礁に立ち寄った。(ペブはアメリカでもっとも裕福な王朝を築いたひとり、ジェームズ・ロックフェラー・Jrだということがのちにわかった)

 ふたりは無人島にニールがいることに驚き、食事をさせて、背中をマッサージし、ある程度回復させると、迎えの船をよこすと約束して去って行った。2週間後、約束の船がやってきて、ニールをピックアップするとラロトンガ島へと運んだ。こうしてニールの無人島生活は2年で一旦終わりを告げた。

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比較的にぎやかなラロトンガ島

文明世界になじめずまた無人島へ

 しかし、ニールは便利な文明世界にはなじめなかった。時計はうっとおしく、車の騒音もうるさくて慌ただしい。腰布の快適さに比べたらスボンも気に入らなかった。とにかく、ニールはスワロー島に戻りたかったが、政府がそれを許さなかった。落胆したニールは倉庫での仕事に就いた。

 それから6年がたって、船を持っている友人がニールを愛する環礁へ連れていってくれることになった。いちおう、ニールはラロトンガ島の弁務官のところに出向いて、自分の計画を伝え、非公式に許可をもらった。

 ニールの二度目のスワロー島滞在は、2年半続いた。それが終わったのは、真珠採りのダイバーの数が増え、ニールが耐えられなくなったためだ。また、ラロトンガ島で3年過ごす間に『An Island to Oneself』の続きを執筆し、みたびスワロー島の生活に戻ってきた。

 これが最後になったが、10年以上続いた。1977年、胃ガンにみまわれたニールは、ラロトンガ島に移送され、75歳で死んだ。

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 長きに渡ってひとりだったにもかかわらず、ニールは決して孤独を感じなかったと書いている。もちろんそれは猫の親子のおかげだろう。

 人間の誰かがそばにいてくれればと思ったことも何度かあったが、それは連れが欲しかったからではなく、この美しい環礁があまりにも完璧すぎて、それを自分だけでひとりじめにすることが、とてもできなかったからだ。

via:Tom Neale And The Suwarrow Atoll (Anchorage Island)・written konohazuku
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この記事へのコメント 53件

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  1. あこがれる~!!!
    でもある意味引きこもり?
    大きな怪我とかした時には不安だろうけど・・・。

    • +9
  2. 沖縄で無人島暮らししてるおじさんいるよね
    わずらわしいこと無くていいなぁ

    思うけどさすがに一人で何年もははさびしくないかなぁ?
    とも思う
    あと
    沖縄のおじさんは年金とか税金は払ってるのかな?
    日本の法律では浮浪者は罪だったよね?(たしかそうだったはず)

    • 評価
  3. 私は、東京での一人暮らしの孤独で精神を病んでしまったので、
    あと2週間で、地元の四国に戻ります。
    18年間くらした東京、さようなら。
    この人みたいに猫と暮らしてたら、違ってたのかもだけど。

    • 評価
    1. ※4
      うどん県の田舎住みです(`・ω・´)
      今週来週はお祭り期間ですけど、それとはズレちゃうかな?
      でも夜の虫たちはとても賑わっています。
      ちょっと不便だけど、気候がとても穏やかなので気持ちを休めるのに適してると思います。
      なんだったら猫でも飼いませんか?w
      今までお疲れさまでした。
      どうぞゆっくりなさってください。

      • +28
      1. ※9
        友達いない、肉親いない、若くないで上京してきちゃった私が通りますよ。
        あなたのこれからの生活が心安らぐものでありますよう。
        だいじょうぶきっといいことあるよ。

        • 評価
      2. ※9
        私はたった5年だけれど都会で暮らして、結局心を病んで田舎に帰りました。
        18年も一人悩んでこられたのでしょうか。
        だとしたら、あなたの日々の努力と忍耐力に本当に頭が下がるばかりです。
        本当にお疲れさまでした。
        私は、田舎に帰ってきて本当によかったと、やっと思えるようになってきました。
        あなたにも、安らげる日々が一日でも早く訪れますよう。

        • +8
      3. ※9
        あなたと、あなたを気遣う心あるひとにどうか雨が降りかかりませんように。

        • 評価
  4. 中盤から後半猫はどうなってたのか気になる!

    • +1
  5. 連れて行かれた猫にとってはいい迷惑だなと思ったが、
    飼い猫ってみんなそんなもんか。
    野良猫であっても街の暮らしが良いとも限らないし。

    • 評価
  6. 野暮なことを言うと、人の手が入っていない無人島に猫を連れ込むことは島の生態系を壊しかねないのでNG

    • +1
  7. いいねぇ。こういうサバイバルのスキルがある人を尊敬する。

    • -6
    1. ※8
      仕事ない人が用事もなくうろつくと捕まることも法律上はあるけど、無理やりでも捕まえたいときじゃないとつかわない(余談だけど、散歩は海外から明治期に入ってきたらしい)

      • 評価
  8. 慢性的な頭痛とか胃痛、虫歯とか軽い頚椎ヘルニアとかそういう身体的不安がなかったら同じような生活してみたい

    • +77
  9. ヌコと一緒ならさっみしくはないだろうな
    ただものすごく不便そう
    病気とかの時はほんと覚悟せなあかんやろなあ

    • 評価
  10. Into the Wild は悲惨だったが、これはハッピーエンドっぽい

    • 評価
  11. ヨットでたまたま立ち寄った島で自給自足している男と出会い酒を飲む
    こんな冒険してみてぇ まるで桃源郷伝説みたいだな

    • 評価
  12. 大勢の中で浮くぼっちはきついけど、周りに誰もいない孤独は心地良さそう
    宝くじが何億か当たったら国境なき医師団に半分寄付して引きこもりたいです

    • +6
  13. 目を閉じて耳を塞げば、都会の個室も熱帯の無人島も変わらない。
    肉体が移動しなくても、意識だけワープさせられればいいねw

    • +1
  14. 豚は食ってやれよ。せっかくの命なんだからよ。
    殺したら食う、それが野生の掟ってもんだろ。

    • +2
  15. アイ・アム・レジェンドの前半みたいだ
    ある意味うらやましい
    猫と一緒に居る写真も見たかったな

    • +2
  16. 偶然島を訪れた二人がいなかったら二年で死んでたかもしれないんだな。
    やっぱり人間は自然の中では弱い存在なんだなぁ…。

    • 評価
  17. 無人猫島になったのか、それとも有猫島になったのか?
    それが問題だ。

    • +13
  18. 憧れる!南国の夕日を見ながらお茶を飲むなんて素敵だろうな。大変なことも多いし俺には無理だけど

    • 評価
  19. 筋肉隆々ですこ
    意識がなくなるくらい痛いのにマッサージで治る痛みってなんだろ

    • +9
  20. 文明社会に慣れきってからこーゆーとこ行くと不便さや無力感を味わうんだろうね。初めから未開の地に生まれた人(一人ぼっちじゃないとはいえ)もいるわけで、生きてく術を本から得るのか、体験や言伝で得るのかの違いだよね。もう一度人生があれば、やってみたいとも思う

    • 評価
    1. ※33
      >ミセス・シーバリーとミスター・トムトムいう名前の親子のネコだ。
      ってことは繁殖したと考えるほうが普通じゃないかな?

      • +1
      1. ※22
        島で繁殖したんじゃなくて元々親子だった猫を二匹連れてったみたいだから平気じゃない?
        それはそうと猫の話少ない…

        • +1
  21. マインクラフトで景色のいい島からスタートすると出たくなくなるからわかる

    • 評価
  22. ブタの件とか変人ではあるけどそれなりの文明的な生活はしたいんだな
    俺もネットとアマゾンが来てくれるならやりたい

    • +2
  23. ぬこの写真がないだと…⁉
    つか、この人の無人島移住計画きいて、私も一緒にとかいう女性って…イケメンだったってことかwww
    自分は沖縄の人なんだが、20代前半のころ、色んな事に嫌気がさして、半年季節労働で名古屋に行ったことがあったけど、離れてみてわかる故郷の良さや、中学校時代に千葉に住んでたときにいじめに遭ったことを思い出したりして、心病んで沖縄に帰ってきましたわ…
    ちょうど9・11のときだったかな。
    沖縄本島は結構都会だけど、北部とかは田舎くさいので、老後悠々自適にという人はいるね。
    ただ物価は安くないので、安易に考えて移住して、経済的にやってけなくて戻る人も多い。本土で色々あって逃げてきてホームレスになる人もいるし。
    移住するのはいいけど、この人のようにちゃんと計画も準備もやって、色んなスキル持ってて、健康的じゃないと厳しいかもね。
    あとは運か( ̄▽ ̄;)

    • 評価
  24. タバコみたいな嗜好品が好きだと、
    結局どこまでいっても文明社会から離れられないのかもね

    • +1
  25. 俺も猫に邪魔されながら引きこもっていたい

    • +1
  26. 誰にも邪魔されずに生きていくための労働だけして猫と一緒に引き籠れるなら
    それがたとえ綺麗な無人島じゃなかろうが天国だよ

    • 評価
  27. おれら年金大幅払い損世代、
    将来年金で月数万しか収入が無くなったら
    南方の無人地帯に住むなんてのもアリだね。

    • -1
  28. タバコなんていつかしけてダメになっちゃうだろうに・・・(葉巻は知らん)。
    吸い尽くした後に禁断症状が起きることを予想しなかったのだろうか?
    そして、
    猫はどうなったのだあああ!!

    • +13
    1. ※41
      この人別に自給自足の生活がしたい訳じゃないみたいだからね。大量に物資持ち込んでるし
      理屈では解っていても現代人が経験もなく豚捌こうって気にはならないだろうな
      殺したのも後悔してるぐらいだし

      • +4
  29. 魚は何匹もブッ殺してるのに豚は食べないで埋めてあげてるのが何だかなぁ

    • 評価
  30. ふと思ったんだけれど
    豚を食べなかったのは単純に血抜きが上手く行かなかったとか
    寄生虫が怖かったとかの可能性もあるのかな
    彼の本を読めばそのへん詳しく書いているんだろうか

    • -2
  31. >蛆虫を30匹探し出して、それをぱっくり開いた
    >腕の傷口にあてがわなくてはならなかった
    どゆこと!?
    壊死した部分を食わせて治療とか殺菌とかそゆこと!?

    • 評価
  32. 無人島なら誰かに制限されずに伸び伸び暮らせる代わり原始的な生活を余儀なくされる。
    自分の部屋という無人島に閉じこもり、必要な時だけ世の中の恩恵に預かるというベストな暮らし。 無人島に行かない人も街にいながらにしてこういうスタイルだよな。
    文明は良くも悪くも人間の許容量を超えて進化し過ぎた。
      

    • 評価
  33. みんな帰れる田舎があっていいなぁ。
    親のせいで病んでしまった私はどこへ帰ればいいの。

    • +9
  34. みんな猫成分足らなくて不満そうだな
    と言う私も必死になって猫の写真を探した…

    • +1
  35. 無人島に行きたい、もう人間の世界は嫌だ

    • 評価
  36. 小さい飛行機から物資を受け取って暮らすか、その飛行機を運転する人になって無人島でコミュニケーションしたい(語彙力)

    • 評価

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