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ニューヨークのヘドロまみれの運河では、微生物が汚染物質を食べる進化を遂げていた

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(著) (編集)

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ゴーワナス運河のヘドロ CREDIT: Elizabeth Henaff
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 アメリカ、ニューヨーク市を流れるゴーワナス運河は、150年以上にわたり、工場排水や下水が垂れ流されており、全米屈指の汚染された運河として悪名高い。

 だが最新の研究によれば、この有毒ヘドロまみれの環境の中で、微生物たちは、汚染物質を食べて生きる能力を獲得したという。 

 微生物は生きるために、有害物質を分解し、重金属を隔離するという驚異的なスキルを進化させたのだ。

 その力を利用すれば、世界各地に存在する汚染地帯を浄化する秘密兵器にもなる可能性がある。

ヘドロまみれ、汚染物質に満ちた運河に生きる微生物

 ゴーワナス運河は、1800年代半ばに貨物輸送のための水路として、湿地や河川を改修して作られたものだ。

 かつてその両岸は製紙工場・石油プラント・皮なめし工場など、さまざまな産業施設で埋め尽くされ、有害な廃棄物が垂れ流されていた。

 そうした光景はすでに過去のものとなったが、当時に流された汚染物質は今も川底に沈んでおり、時折あふれた下水が流れ込むこともある。

 ニューヨーク大学の生物学者エリザベス・エナフ氏によると、その川底には3〜6mの汚染物質が堆積しているという。

 そこは防護服で完全武装せねばならないほど危険な場所だが、エナフ氏らがカヌーで運河を渡って採取したヘドロのサンプルには、生きた微生物が潜んでいたのである。

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ゴーワナス運河で集められた有害な堆積物には、驚いたことに藻類や微生物が潜んでいた/NY. Photo Credit: Elizabeth Henaff

進化によって汚染環境を生きる力を獲得

 研究チームはサンプルに含まれていたDNAを解析し、そこに潜む種とその遺伝的特徴を調べた。

 その結果、耐塩性・耐高温性など極限環境に適応した455種の微生物が確認され、それらが有機汚染物質(フェノールやトルエンなど)を分解する64の代謝経路、さらに重金属の取り込みに関わる1,171の遺伝子を持っていたことが明らかになった。

 こうした微生物たちは、運河のヘドロに含まれる重金属を封じ込め、有害な化合物を分解し、汚染物質を栄養源として生き抜く能力を、進化の過程で獲得してきたと考えられている。

 ラトガース大学の環境微生物学者、マックス・ヘッグブロム氏(研究には未参加)によれば、こうした極限環境に適応した微生物の存在は、さほど驚くべきことではないという。

 なぜなら多くの微生物は、突然変異だけでなく遺伝子を交換し合うことで進化できるからだ。

 有害な物質に囲まれ、酸素などの一般的なエネルギー源が得られない環境でも、彼らはPCB(ポリ塩化ビフェニル)や炭化水素のような化学物質を呼吸に利用し、その能力を他の微生物と共有することがある。

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回収されたヘドロ/CREDIT: Elizabeth Henaff

汚染環境の浄化や新たなる資源としての可能性

 ゴーワナス運河でたくましく生きる微生物たちは、人間社会にとっても有用かもしれない。その汚染物質を分解する力を活かせば、世界中の汚染地域を浄化できるかもしれないのだ。

 たとえば、バイオリアクター(微生物を大量に培養する装置)で微生物を増殖させて、それを汚染された川や土壌に投入すれば、汚れを取り除く手助けになる可能性がある。

 あるいは、運河そのものに適切な栄養を与えて、自然環境の中で微生物の力を引き出す方法もある。

 とはいえ、それも万能な解決策ではない。

 たとえば、コバルトやヒ素などの重金属を微生物は隔離することはできても、完全に除去することはできない。微生物が封じ込めた重金属を人間が物理的に取り除かねば、運河を完全に浄化することはできないのだ。

 ただし、こうした重金属の多くは技術や産業で必要とされる資源でもあるため、微生物を使ったリサイクルにも応用できる可能性がある。

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汚染されたヘドロの表面に形成されたバイオフィルム(微生物が表面に集まって形成するぬめり状の膜)/Photo Credit: Stefan Hagen Stefan Hagen

ゴーワナス運河の不都合な真実

 だが、それも今のところすべて可能性の話で、解決すべき課題は多い。

 たとえば、ゴーワナス運河の微生物は、確かに有機汚染物の多くを無毒化できるが、そのスピードも規模にも難がある。

 ヘッグブロム氏によると、そのまま何も手を加えなければ、完全に汚染が浄化されるまでには、数世紀か、下手をすれば何千年もかかると予測されるという。

 さらに今回の研究で明らかになった不都合な真実の一つは、運河の微生物の多くが薬剤耐性を生み出す遺伝子を持っていたことだ。

 そのような微生物を不用意に環境に放出するわけにはいかない。

 だからこそ、米国環境保護庁は運河に溜まった汚染物質の浚渫工事や覆土処理を進めている。そしてエナフ氏もまた結局はそれが正しいのだろうと考えている。

 この研究は『Journal of Applied Microbiology』(2025年4月16日付)に掲載された。

References: Metagenomic interrogation of urban Superfund site reveals antimicrobial resistance reservoir and bioremediation potential / Pollution-eating microbes are thriving in infamous NYC canal

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この記事へのコメント 16件

コメントを書く

  1. ”腐海”みたいな事になってるのか。

    • +17
  2. このまま浄化の細菌が進化したらゴーワナス運河もやがて腐海に沈む

    • +2
  3. 強い! 微生物ってやつはいったいどこまでポテンシャルがあるんだろう

    • +9
  4. 微生物からしたら生存戦略
    人間からしたら怪我の功名…?

    薬剤耐性はまずいな。生命を刈り取る何かが完成する危険性がある

    • +7
  5. 日本も負けじと「鶴見川」をほじくって、ヘドロ時代の微生物を探してみたら良さそうだな

    • +5
  6. 微生物は反応性の高い有害な金属イオンをキレート化したり酸化物に変えて安定性を高くしている。根本解決ではないので汚染物質を人から遠ざけるのに埋め立てや浚渫はやむを得ないのか。

    • 評価
  7. なんか……こんな進化をしなければ生きていけなかった微生物たちに申し訳ない気持ちがわき上がるわ……
    人間はもっと色々な事物を大切にしないといけないね

    • +8
  8. 【立入禁止の活火山から流れる「硫酸の川」】酸川 猪苗代湖 安達太良山
    という動画があります
    安達太良山から流れでる酸川は硫酸が金属を溶かしこんだ猛毒の川です
    それが、猪苗代湖の透明さを保つ仕組みとかを説明しています
    これは自然がうまくいった例ですが
    そうでない場合もあります
    有用な金属があれば人間が掘り返し
    人間のいる場所に有害なものを含めて移動させてしまうのです
    神通川流域でのイタイイタイ病とかですね

    • +3
  9. ゴジラ対ヘドラを思い出した(歳がバレるw)

    • 評価
  10. きれいな水と土では、ヘドロの微生物も、毒を出さないってわかんだ

    • 評価

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