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孤児となったカナダツルのヒナを自然に帰すため、親鳥に扮してお世話をする鳥類学者

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(著)

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Image credit:: Foxfeather Zenkova / Facebook
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 親鳥を車にはねられ孤児となったカナダヅルのお世話をしているのは、アメリカ・ミネソタ州の鳥類学者フォックスフェザー・ゼンコヴァ氏だ。

 彼女は灰色のフサフサの衣装で身をまとい、手には赤い頭に黄色い目のテープを貼り付け、クチバシの代わりには黒い2本の棒をつけ、かいがいしくヒナ鳥に餌を与えている。

 鳥のヒナは、最初に見た動くものを親だと信じ込んでしまうため、人間になついてしまえば二度と野生には戻れない。

 ゼンコヴァ氏は人間であることを隠したまま、ヒナが独り立ちできるまで、この姿で育てているのだ。

親が車にひかれ孤児となったカナダヅルのヒナ

 カナダヅルはツル目ツル科に分類される鳥で、体高120cmほど、翼を広げた幅は2mを超え、北アメリカでもっとも背の高い鳥の1つに数えられる。

 全身は灰色で額だけが鮮やかな赤に染まっていて、日本にもまれな冬鳥としてほぼ毎年1羽から2羽が飛来している。

 カナダヅルは観察力が鋭く、記憶力にも優れていて、鳥類の中でも知能の高い種として知られている。

 知能が高いということは、生きるために必要なことの多くを、本能ではなく学習で身につけるということでもある。

 餌の探し方も、仲間とのつきあい方も、数千kmにおよぶ渡りの道すじさえ、幼いツルは親や周囲の成鳥を観察しながら覚えていく。

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カナダヅル Image by unsplash / Richard Sagredo

 春に地面の巣で生まれたヒナは、数時間のうちに目を開いて歩き出し、数日後には親と一緒に1日数kmを移動しはじめる。

 初めて空を飛べるようになるのは孵化から2か月半ほど後だが、飛べるようになってからもヒナが親から離れることはない。

 「ヒナは親のそばにぺったりとくっついていて、ほぼ成鳥サイズになって秋の渡りの時期を迎えるまで、親から数m以上離れることはありません」と、アメリカ・ミネソタ州の鳥類学者フォックスフェザー・ゼンコヴァ氏は語る。

 それほど親と密着して育つヒナが1羽きりで取り残される原因は、道路を横断中に親の片方または両方が車にはねられて死ぬことがほとんどである。

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通常親鳥はヒナのそばから離れない Image by Istock / jocrebbin

 ゼンコヴァ氏はミネソタ州南東部で、州と国の免許を持つ野生動物リハビリテーターとして活動を続けている。

 リハビリテーターとは、傷ついた野生動物を保護し、治療や看護、リハビリを経て自然に帰す活動を行う人のことだ。

 彼女は現在、孤児になったカナダヅルのヒナ4羽を育てており、5羽目の受け入れも決まっている。

 今年運び込まれたヒナの1羽は、ある民家の鳥の餌台の下に2週間もひとりぼっちでいたという。

 住人は親が戻ってくるのだろうと考えていたが、カナダヅルのヒナが1羽きりで同じ場所にとどまり続けるのは普通ではない。

 やはり親鳥は車にはねられ死んでいたのだ。

人間と悟られないよう親鳥になりきりヒナのお世話

 ヒナの世話をするとき、ゼンコヴァ氏は灰色の房で全身を覆った衣装を身につける。

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衣装を身に着けカナダヅルの親鳥になりきるゼンコヴァ氏 / Image credit:: Foxfeather Zenkova / Facebook

 手には赤い頭に黄色い目のついたカナダヅルをかたどった模様が付けられていて、ゼンコヴァ氏はくちばしを模した黒い棒で餌をつまみ、ヒナの口に運ぶ。

 ゼンコヴァ氏がここまで手をかけるのは、ヒナに「刷り込み(インプリンティング)」と呼ばれる性質が備わっているからである。

 鳥のヒナは、親を見失えばそのまま命を落とす危険があるため、生まれて間もない時期に最初に見た動くものを親だと覚え込み、後をついて歩く性質を生まれつき持っている。

 あっという間に刷り込みが行われ、一度覚えた相手をあとから覚え直すことはきわめて難しい。

 しかもヒナは、親だと覚えた相手の姿を「自分と同じ仲間の姿」として記憶し、成長してから繁殖相手を選ぶときの基準にする。

 人間に育てられたカナダヅルは、野生に放されても同じカナダヅルを仲間だと認識できず、繁殖相手を見つけられないまま一生を終えることになる。

 「幼いツルは周囲の成鳥から社会的なふるまいを学ぶため、人間への刷り込みが起きると、野生で普通に暮らすことが難しく、あるいは不可能にさえなってしまうのです」とゼンコヴァ氏は説明する。

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餌もくちばしを模した黒いスティックで与える / Image credit:: Foxfeather Zenkova / Facebook

鏡と里親のツルを頼りに、秋の空へ帰る

 ゼンコヴァ氏は衣装のほかにも、ヒナに自分をツルだと思わせるための工夫を重ねている。

 ヒナの前に鏡を置いて自分の姿を確認させ、飼育されている成鳥のカナダヅルを里親役として引き合わせ、ヒナが手本にできる本物のふるまいを見せている。

 食事が終われば、真夏の暑い最中でも、この衣装をまとったまま屋外へ出て、ヒナに餌探しと運動をさせる。

 脚の折れたカナダヅルのヒナには水泳療法も行う。

 他のツルと社会的に過ごす方法を学ばせ、ミネソタ州では秋に野生へ放される。

 ゼンコヴァ氏はヒナが無事に成長し、放鳥した後、再び仲間と合流して、野生の暮らしに戻る瞬間に立ち会うことが生きがいだと語る。

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保護しているヒナは秋に自然に帰される予定だ / Image credit:: Foxfeather Zenkova / Facebook

野生の鳥のヒナを見つけたらどうすればいいのか?

 1羽きりのヒナを見つけたときは、まず距離を取ってほしいとゼンコヴァ氏は呼びかけている。

 親がヒナを見捨てることはまれで、草むらに隠れていたり、近くにいても姿が見えなかったりする場合が多いからである。

 善意で連れ帰った人がヒナを人間に慣らしてしまえば、野生へ帰る道を閉ざしてしまいかねない。

 日本でも同じことが起きている。

 日本野鳥の会と日本鳥類保護連盟、野生動物救護獣医師協会は、環境省の後援を受けて30年以上前から「ヒナを拾わないで」と呼びかけ続けている。

 巣立ったばかりのヒナは、まだうまく飛べないまま地面に降りて、親から飛び方や餌の取り方を教わっている最中にある。

 人がそばにいると親鳥は警戒して近づけなくなるため、羽が生えそろって自分で立てるヒナなら、拾わずにその場を離れるのが正しい対応になる。

 明らかにケガをしていて動けない場合は、住んでいる都道府県の鳥獣保護を担当する部署に連絡し、指示を受けてほしい。

 野鳥は鳥獣保護管理法によって守られていて、一時的な保護のつもりであっても、許可なく捕まえたり家で飼ったりすれば法律に違反することになる。

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