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初期のヒト属「ホモ・ハビリス」は捕食頂点者ではなく、ヒョウの獲物だった

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(著)

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ヒョウに追われるホモ・ハビリスのイメージ図 Photo by:iStock Composite created by Karapaia
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 240万年前から140万年前まで存在していたというヒト属の一種「ホモ・ハビリス」は狩猟や肉の加工に石器を使った最初の人類だと考えられてきた。 現在の人類へとつながる進化の流れのなかで、捕食者に立ち向かい、食物連鎖の頂点に立った先駆けとも言われている。

 だが実は、彼らは捕食者ではなく「獲物」だった可能性があることが、最新の研究によって明らかになった。

 AIによる歯型分析が示したのは、ホモ・ハビリスがヒョウに狩られ、食べられていたという衝撃の事実だった。

人類が食物連鎖の頂点に立つまでの道のりは、想像以上に厳しかったようだ。

この研究成果は『Annals of the New York Academy of Sciences』誌(2025年9月16日)に発表された。

最初に道具を使ったヒト属として知られているホモ・ハビリス

 ホモ・ハビリス(Homo habilis)は、タンザニアのオルドヴァイ峡谷で発見された人体化石と石器によって、「狩猟と道具使用を始めた最初のヒト属」として広く知られている。”habilis”はラテン語で器用な人を意味する。

 しかしその身体的特徴を見ると、腕が長く、肩関節も木登りに適した構造をしており、完全に地上生活に移行していたとは言いがたい。

 脳容量は平均して600〜700cc程度で、アウストラロピテクスからの移行期にある特徴を色濃く残している。

 食性も多様で、植物の根や果実のほかに、肉や骨を石器で加工して食べていたとみられるが、積極的に狩りをしていた証拠は少ない。

 他の捕食動物が仕留めた獲物の残骸を横取りしていた可能性があり、研究者の間では「スカベンジャー(腐肉あさり)」的な生活をしていたとする見方もある。

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ホモ・ハビリスのイメージ図 / Image credit: r/Naturewasmetal

化石の分析で、捕食者ではなく獲物だった証拠を発見

 スペインのアルカラ大学の研究チームは、オルドヴァイ峡谷で発見されたホモ・ハビリス、2体の化石、個体番号OH 7とOH 65の骨に着目した。これらの骨には、肉食動物による歯型のような痕跡が残っていた。

 これらの化石は、かつてはハイエナによって死体が漁られたと解釈されていた。

 そこで研究チームはAIを用い、ライオン、ハイエナ、ヒョウ、ワニなどの捕食動物が残す歯型のデータベースと照合した。

 その結果、これらの骨に刻まれた歯型は90%以上、当時生息したヒョウの先祖のものと一致した。

 OH 7では、下顎骨と後頭部にヒョウの歯が食い込んだ跡が残っており、頭部を直接噛まれてい。また、指の骨にも噛まれた痕跡があり、OH 65の顔の骨にも同様の歯型が確認された。

 つまり、ホモ・ハビリスは死んでからヒョウに食べられたのではなく、ヒョウに狩られて命を落とした可能性が高いことがわかったのだ。

 もしこの2体が、当時のホモ・ハビリス全体を代表する個体だとすれば、彼らは肉食動物の脅威に対抗するには不十分な身体的・行動的能力しか持っていなかったということになる。

 となるとホモ・ハビリスは最初に食物連鎖の頂点に立ったヒト属ではなく、実際には、肉食獣の獲物だった可能性が高いという。

OH 7の下顎骨に残されたヒョウの歯が食い込んだ跡 / Image credit: Vegara-Riquelme et al., Annals of the New York Academy of Sciences (2025) 

最初に食物連鎖の頂点に立ったヒト属は?

 では、オルドヴァイ峡谷で見つかった石器は一体誰が作ったのか?食物連鎖の頂点に立ったヒト属は誰だったのか?

 その有力な候補として挙げられているのが、ホモ・エレクトス(Homo erectus)だ。

 ホモ・エレクトスは、およそ190万年前から10万年前まで生息していたヒト属の一種で、ホモ・ハビリス(約240万年前〜140万年前)とおよそ50万年にわたり、同じ東アフリカの地域で共存していたと考えられている。

 ホモ・エレクトスは、より現代人に近い体型を持ち、完全に地上生活に適応していた。脚が長く、持久走に適した骨格を備えており、長距離の移動や集団での狩猟が可能だったとみられる。

 また、石器の使用に加えて火を扱っていた痕跡や、仲間と協力して行動していた証拠も発見されている。

 こうした身体的・行動的な特徴から見て、ホモ・ハビリスよりもホモ・エレクトスのほうが、肉食動物に立ち向かい、場合によってはその獲物を横取りするような行動ができた可能性が高い。

 つまり、オルドヴァイ峡谷で発見された石器も、実際にはホモ・ハビリスではなくホモ・エレクトスが作ったものである可能性が浮上している。

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ホモ・ハビリス(左)とアフリカンホモ・エレクトス(右)のイメージ図 / Image credit:r/Naturewasmetal

 ヒトが頂点捕食者になるまでの長い道のり

 今回の研究は、ホモ属がすぐに頂点に立ったわけではなく、むしろ長い間「弱者」として自然界に存在していたことを示している。

 今回の研究が示したように、ホモ・ハビリスをはじめとする初期のヒト属は、ヒョウやライオンのような捕食動物に怯えながら生き、時にはその餌となる運命も避けられなかったようだ。

 それでも彼らは、火を操り、道具を工夫し、仲間と協力することで、ゆっくりと捕食上位者になるべく進化していったのだ。

References: Onlinelibrary.wiley.com / The First Humans Were Hunted By Leopards And Weren’t The Apex Predators We Thought They Were / Early Humans Weren’t Apex Predators—They Were Eaten by Leopards

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この記事へのコメント 36件

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  1. まさに自然界でウホウホして猛獣に怯えてた頃の俺たちかな?いまだに脳みそのどこかがあの頃のままだなって気がしている。

    • +10
    1. たまにウホウホしたくなるって事?
      わかる

      • +3
  2. ジャガーの語源も「オレたちを食べるやつ」だし、ご先祖様たちはちょいちょいその土地の地域猫にかじられていることが多い

    • +26
  3.  初期人類スカベンジャー説を支持しているから、牙も爪も腕力も高速走力も持たないヒト種は今でもたいていの中型以上の動物と比して弱いのでそうだろうなという感想ではあります。 他の動物に勝っているのは脳の力(言語、協力、道具等)と持久力くらいなので仮に狩りを行っても罠、あるいはオオカミのように長時間追いかけて仕留めるみたいでしょうからネコ科には世変わったでしょうね。 だからヒョウよりもずっと小型のイエネコの下僕なんですw←ヨタ説

    • +4
  4. ピンと来ないな
    人食いトラとか1900年ぐらいの出来事だし、ある程度の自然があって猛獣が生きられる環境なら今でも人間の方が弱そう
    1vs1なら銃があっても難しいと思う
    しかも捕食ということは飢えた動物でしょ?

    • +4
  5. 別に今だって一人で武器なしで豹狩れる人はおらんやろ。
    狩られるなら当たり前にありそうだけど。

    • +14
  6. ホモ・ハビリスは宇宙から来た恐竜に変身するロボット生命体から石器の作り方を教わってホモ・エレクトスになったんだよ……。

    • -9
    1. ビーストウォーズw

      • 評価
  7. 人間が捕食頂点者ではないのは、今の時代も同じ?
    人は、クッマの「獲物」です。

    • +2
    1. 人間は今でも捕食される側だとも言えるわな
      ジャガーと生息域が近い人が襲われるリスクは今だって高いんじゃないの

      • +2
  8. そらそうだろうとしか言えんわな。現在の人類も武器使えれば狩れるってダケだし、今時の子なんか武器持たせても怪しいレベルだし。

    • +9
  9. 「食物連鎖の一番下の人」
    正確には生態ピラミットだとか。

    • -5
  10. そりゃまぁ…今でも野生動物の餌になることありますし
    ホモ族は単独or道具なしでは雑魚ですわ…

    • +13
  11. だからこそ、走ること投げることが発達したし、それに合う関節・骨格・ボディバランス(比率)になるし
    より昼行性になり視力が遠方まで見えるようになったのでは?
    豹は環境圧だよ

    • +3
  12. ヒョウって動きが早くても行動の遅い奴なので似たような動きのワニが主食であり
    ワニすら食べれないときはカピバラを狙うくらいしか食事できないほどだ
    人間様も当時似たような環境にいたので、多分食べてたと思うけど
    メインはやっぱり普段はワニだったと思う

    • -7
    1. いやいや豹はとんでもないスペックの持ち主で、本来大型哺乳類を狩っていたとか
      動きが遅いのは待ち伏せ型の捕食行動だからで追いかけて襲うわけではないから
      猫科の多くのように噛みついてそのまま死ぬのを待つ(頸椎切断と窒息)ため、牙と顎が発達してる
      実際、亀を丸かじりしてる豹の映像を見たことがあるだろう、あれこそ豹の最大能力だそうだ

      • +8
      1. 君らが言ってるのはもしかしてジャガーじゃない?

        • 評価
        1. 私は一緒方で話してます
          まだ両者の分岐がはっきりしてないだろうし(南米に行ってないかも)
          かつ獲物も大きかった頃だから
          言い換えるなら今より「大型古代豹」が人を食べていたと思います

          • +4
  13. 記事読んでてツァラトゥストラはかく語りきが脳内再生
    「頂点捕食者になるまで」でジャジャーーンが響き渡った

    • +3
  14. 高い知能を持っているのに一部の人間が富を独占して
    それを止めることもできないの?

    • -12
  15. ウホッ…
    ホモ・エレクトす、名前がえちちンゴ…

    • -18
  16. ,∧ ∧ 「今もお前たち人間は俺たちの食い物だ、
    (=゚ω゚)ノ  早くモンプチを持って来い」

    • -1
  17. 森の素材だけで火を起こせる現代人の数は少ないよ、文明が無ければ現代人だって餌だわな

    • +1
    1. そういえば着火しやすい檜は日本と台湾しかないらしい
      そうなると外国だと杉、松、竹(これも分布が少ないが広がりつつある)でなんとかしないといけない
      イギリスなんか薄い林ばかりらしいし
      植生がサバイバルに与えるものは大きい

      • +4
  18. 人生と同じだね。
    生まれた時は皆弱い。
    その後何を手にしたかで頂点に行くか、食われ続けるだけかが決まる。
    しかし、その武器を無効化されたら頂点捕食者も結局は無力。

    • +1
  19. 群れで行動している限りは一方的な獲物では無かったろうな
    現代の野生生物でも群れから脱落した個体は捕食獣の獲物なんだからさ

    • +2
  20. 狩られる側から本気出せば自分ら含めあらゆる生物を絶滅させる事も出来るようになった上、文明発展させて宇宙に進出出来れば、地球と運命を共にし、どんだけ強くても絶滅するだけだった生物全てに生きる道筋を与えられる様になれるかも知れないんだから人間すごいよね。

    • +1
  21. だからこそ今でも群れで行動してるんやね
    周囲に他人しかいなくても捕食動物からしたら人の群れだろうし

    • +2
    1. なので孤独が好きとかぼっちで友人もいないとかは人類即ち社会的生物としてはおかしいんだよね
      群れを作り多くと交わることこそが正しい

      • -3
      1. 好き嫌いが無いと超遅効性の毒とかで全滅しかねないとかと一緒で、ある程度個体差として群れたくない人も必要だとは思うよ?そういう人にしか任せらんない仕事もある。
        当然種としては増えなきゃなんないのである程度の関わりは無いといかんけど。

        うつ病と独りでいるのが好き・ネガティブな性格は別なんで、独りになりたい理由が病気なら医者行かせた方が良い。

        • +1
    2. そして群れで行動してるからこそコミュニケーション能力を発達させて、そのコミュニケーション能力で仲間や先人の知恵を利用し技術を発展させて、文明を築くに至ったんだろうね
      群れで行動しない生き物が文明を築くのは難しいのかもしれない

      ケモナーの俺は泣き崩れた

      • +2
  22. 大型猫と一緒に檻に入れられて生存できる人類居ないと思う

    • +1
    1. サーバルやボブ先輩でも無理だね
      マヌル姉さんでギリかな?

      • 評価

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