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古代メソポタミアの魔神「パズズ」、恐怖と守護を併せ持つ悪霊の王

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(著)

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魔神パズズの彫像(ルーブル美術館所蔵) / Image credit:WIKI commons CC BY-SA 3.0
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 紀元前1000年紀頃、古代メソポタミアの神話に登場した風の悪霊「パズズ」は、熱風や病をもたらす恐ろしい存在として知られていた。

 邪悪な冥界の魔神として人々に強く恐れられていた一方で、「パズズ以上に強い悪魔はいない」とも信じられており、悪霊の王として崇拝の対象にもなった。

 そのため、パズズの護符や彫像は、他の悪霊を退ける「最強の魔除け」として使用されるようになったという。

 ここではパズズに関する生い立ちや現在のサブカルチャーに与えた影響を見ていこう。

パズズの生い立ち

 ルーヴル美術館に展示されているパズズ(Pazuzu)像は、高さ15cmほどの青銅製で、翼を持ち、右腕を高く掲げて立っている。その背中には、恐ろしい刻印が彫られている。

我はパズズ、ハンパの子。山から激しく吹き荒れる風の悪霊たちの王である。我が現れしとき、大地は震える

 この一文が示すとおり、パズズは古代メソポタミア神話において「風の悪霊」として知られる存在だった。

 とくに南西の熱風と結び付けられ、干ばつや疫病の象徴とされていた。

 文中に登場する「ハンパ」とは、冥界に属する悪霊の長であり、パズズの父とされる存在だ。

 資料によっては「ハンビ」や「ハンバ」とも表記される。悪霊にも血統があると考えられていた当時、ハンパの子であるパズズは正当な血を引く悪霊として特別視されていた。

 一説には、古代メソポタミア文学の代表作『ギルガメシュ叙事詩』に登場する森の守護者フンババ(フンババは森を守る怪物で、神々の命を受けて人間の立ち入りを拒んだ存在)は、パズズの兄弟ともされることがある。

 もしこの説をとるなら、パズズは冥界における格の高い悪霊の一族に属していたことになり、その神格や役割の由緒がうかがえる。

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紀元前1000年初期に作られたアッシリアの青銅製の高さ15cmのパズズ像(ルーブル美術館所蔵) WIKI commons / CC BY-SA 3.0

恐怖の象徴としてのパズズの姿

 パズズの姿は異形そのものだった。獅子の顔に大きく突き出した目、牙をむき出しにした口、猛禽類のような鉤爪の足、背中には4枚の翼。サソリの尾とヘビの頭を持つ生殖器を備えている。

 古代の人々は、畏れを抱いた動物の特徴を集め、災厄や恐怖そのものを視覚化した存在としてパズズを形づくったと考えられている。

 パズズは風と熱風を操り、その力で干ばつをもたらし、飢えで人々を苦しめるとされた。さらに、彼の吹き出す熱風には熱病の原因となる毒、病原菌が含まれていると考えられ、人も家畜も命を落とす災いの元凶とされた。

 また、パズズはバッタを大量発生させ、農作物が壊滅する蝗害(こうがい)現象を擬人化した存在だとも言われている。

 人々は自然の猛威を姿ある霊的な存在として捉えることで、その力に対する畏れや戒めの意識を持とうとしたのである。

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青銅製のパズズの頭部。ネックレスに通してお守りとして身に着けられるループが付いている(大英博物館所蔵) / WIKI commons CC0 1.0

その強さゆえに「悪霊の王」となり守護の存在に

 パズズは他の悪霊たちを圧倒する強さを持ち、「悪霊の王」として恐れられていた。その力ゆえに、人々はパズズの像や護符を身につけることで、より邪悪な存在から守ってもらえると信じていた。

 なかでもとくに恐れられていたのが、パズズの妻とされる女悪霊ラマシュトゥである。ラマシュトゥは妊婦を襲い、流産や死産を引き起こし、新生児をさらうと考えられていた。

 こうした災厄に対抗する手段として、人々はラマシュトゥを抑えることのできる存在――すなわちパズズを、あえて味方につけようとしたのである。

 恐ろしいからこそ頼りになる存在。パズズはそのような二重の意味で崇拝される、特異な悪霊だったのだ。

 パズズの像は青銅や粘土、石などで作られ、家庭内に置かれることが多かった。特に頭部だけを模した護符は人気が高く、壁に埋め込まれたり、首にかけたりと、実用的な魔除けとして用いられていた。

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銅合金製のパズズの護符(大英博物館所蔵) britishmuseum / WIKI commons / CC BY-SA 4.0  

畏れと信仰が共存する世界観

 パズズ信仰が示すのは、恐怖を抱きながらもそれにすがろうとする人間心理だ。干ばつや疫病、蝗害など、理由のわからない災いを、悪霊という存在として描くことで、祈りや護符といったかたちで向き合おうとした。

 これは日本の御霊信仰や疫病神信仰にも通じる。恐ろしいものを敬い、怒りを鎮め、味方に変えるという考え方は、時代も文化も超えて人々の心に共通するものなのかもしれない。

現代に受け継がれるパズズのイメージ

 1973年(日本では1974年)に公開された映画『エクソシスト』では、少女に取り憑く悪霊としてパズズが登場し、世界的にその名が知られるようになった。

 原作はウィリアム・ピーター・ブラッティによる1971年の小説であり、彼自身が映画の脚本も手がけている。

 2017年にはアニメ『ザ・シンプソンズ』にも登場し、家族に災いをもたらす像として描かれた。

 さらに近年では、ぬいぐるみキャラクター「Labubu(ラブブ)」がパズズに似ていると海外のネット上で話題になった。制作者は関連を明言していないが、巨大な目と牙を持つ不気味な姿に、共通点を見出す声は少なくない。

 このように、パズズのイメージは、サブカルチャー全体に影響を与え続けているようだ。

References: Pazuzu / Pazuzu figurine: An ancient statue of the Mesopotamian 'demon' god who inspired 'The Exorcist'

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この記事へのコメント 42件

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  1. こんなのがたくさん埋まってるって考えるとワクワクしちゃう

    • +14
  2. タイトル見た瞬間にメガンテしか思い浮かびませんでしたごめんなさいパズズ様

    • +24
  3. これはアウト、不審者案件ですな
    せめて隠そうよソコ

    • -12
  4. 全身像を見ていかりや長さんを思い出した
    もう一度おいっすーを聞きたかった

    • +4
  5. ある文化圏で悪霊や魔神とされる存在が、実はその地方の先住民が信仰していた神であったという事例がいくつかある
    パズズも、歴史の中から完全に姿を消してしまった、メソポタミア文明以前の人々が信仰していた正真正銘の神であったのかもしれない

    • +12
  6. 最強の悪霊でも日本人にかかると女の子にされてしまう

    • +8
  7. エクソシストで一瞬写されるバズズ

    あのシーンは映画を飛び越えた芸術の域

    • +12
  8. ウィザードリィのマイルフィックはコレがモデル

    • +10
  9. ドラクエⅡのバズズと女神転生シリーズ、ゴッドサイダーも思い出すなあ

    • +17
  10. 自分もメガテンで知りました
    4枚の羽根の造形が現代でもセンスを感じる

    • +14
  11. 現代でも宗教に心酔して見た事無い物を崇拝して有り金全部つぎ込むのが人間の性、紀元前1000年紀頃なら流行り病や病気全般悪魔のせいにして恐怖して形にして敬い逃れようと思う思想も理解できるでしょ、3000年経って科学が発展しても人の本質が変わらない事の方が怖いよ、悪魔の仕業かな

    • -11
  12. シンプソンズに出てきても別に怖くないや

    • 評価
    1. どうせ誰も知らんと思って書き込まなかったら
      知ってる人が2人いたw

      • +5
  13. 典型的というかもの凄くわかりやすい「祟り神」
    「畏怖の対象」から「崇拝の対象」への変容も理解しやすい。

    日本でもよくあるパターンの神様なんだけど、西洋的な「神は絶対的な善」という考えの元では新鮮に感じるのかもしれない。

    • +3
    1. 一神教だと神は唯一の存在の固有名詞なので、神という名を無視したらキリスト教でも教会や城を悪魔に守らせてるし(ガーゴイルは本来雨どいの意味で鬼瓦と同じ様に魔除けとして悪魔や怪獣の姿にしてる)、イスラム教圏ですらジンという存在がちゃんと居る。

      一神教だと神は主神の固有名詞扱いなダケ。

      • 評価
  14. 第七王子の魔人ってちゃんと元ネタあったんだ
    しかも結構顔が似てて芸が細かいw

    力の強いものを畏怖し崇めて味方になってもらうっていうのは神社の縁起にもよくあるから親近感湧く
    原始的な感覚なんだろうな

    • -1
  15. 黒蝗の王よ 太陽の子よ
    恐れと怖れを従えて 風に乗りて参いられよ

    • 評価
  16. 鬼瓦的な扱いをされていたのか。日本の屋根にこの顔が飾ってあっても違和感がない厳めしい顔つきでおられる。

    • +6
  17. ラピュタのパズーの元ネタやな。昔パズスvsラピュタの戦いがあってパズスは負けたけど病原菌バラまいた。その病原菌で滅んだのがラピュタ。パズスの子孫がパズー。最後に始末付けるのはシータだけで良いはずなのにパズーもバルスったのは「先祖が無しえなかったラピュタを滅ぼし着る事」の実行だったから。

    • -9
  18. >サソリの尾とヘビの頭を持つ生殖器を備えている。
     
    えっ???
    さらっと書いているけど、どんなだよ

    • +1
  19. キリスト教に汚染される前からちゃんと悪神だった例かな
    あいつらは土着の神を全て悪魔に変えたがるから

    • +3
    1. >あいつらは土着の神を全て悪魔に変えたがるから

      それだけじゃないよ。
      聖人として取り込んだり色々してるよ。

      • +1
    1. 自分はメガテン3のイメージ
      何やねん「湿った風」って何か匂ってきそうなスキル…と思ってたけど風の悪霊だからなんだね

      • +3
  20. エクソシストシリーズではほぼレギュラーキャラだけど、キリスト教よりもずっと昔の古代神なのにキリスト教の説法が結構効くという

    • +8
  21. パズズのポーズがどこかで見たなと思ったら、ダイの大冒険の真・大魔王バーンの天地魔闘の構えじゃないか。

    • 評価
  22. 初見はプラモ狂士郎でした・・・

    いつ見てもライオンの頭に見えない

    • +1
  23. メガテン一作目だと精霊で善の属性だったな

    • 評価
  24. 記事でも書いてある通りエクソシストの映画でメジャーになったんだよな。
    ただ悪霊の守り神の要素もあるから知ってる人からすると
    なんか「違くね?」って感じだったと思う。

    • +1
  25. 一神教が席巻する前までは、どの国でもほぼ神は八百長でこういう神様も含めて自然にたいしてごく当たり前の畏怖を感じてたんだと思うんだよなあ。

    • -5
    1. 悪魔に命じて災いを起こさせ人間が自分に祈り始めたら災害を止めさせて信仰を集めてそう

      • 評価
  26. るるる~るるるる~ 「行くよ」「ええ」 パズズ!
    目が~目が~!

    • -8
  27. 週刊少年ジャンプに連載してた作品に出てきて、そこで初めて知りました。

    • 評価
  28. ドラクエだとバズズ、メガテンやゴッドサイダーだとパズス。
    出てくる作品によって濁点の位置が変わる人

    • +1

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