
最近発見された世にも珍しい吸血鬼のようなウイルス「MiniFlayer(ミニフレイヤー)」は、「MindFlayer(マインドフレイヤー)」というウイルスの首に牙をたててしがみつき、そのまま細胞に感染するとこの哀れな獲物を喰らって増殖するのだそうだ。
その恐るべき力は「サテライトウイルス」と「ヘルパーウイルス」というウイルス同士の激しい内部抗争によって進化したようだ。
それはホラー映画さながらのウイルスだが、その力をうまく利用できれば、これまでの抗ウィルス剤とはまったく違う新しい感染症治療につながる可能性を秘めているという。
ウイルスを捕食するウイルス
ウイルスを捕食するウイルスなら、ずいぶん前から知られていた。こうしたウイルスのことを「サテライトウイルス」という。1973年、大腸菌のウイルス「P2ファージ」(ファージ/マクロファージとは細菌に感染するウィルスのこと)を調べていた研究者は、これに感染された細胞から「P2ファージ」と「P4ファージ」の2種類のウィルスが現れることを発見した。
P4ファージは潜伏ウイルスというタイプで、細胞に感染すると、その染色体に紛れ込み、眠りにつく。そこに後からP2ファージがやってくると、パッと目を覚ましてP2ファージに襲いかかり、その遺伝物質を利用して自分のコピーを作る。
何も知らないP2ファージは、せいぜいほんの数回程度しか自身のコピーを作れない。こうしたサテライトの餌となるウイルスを「ヘルパーウイルス」という。
その後の研究では、ほとんどの細菌にP4とP2のようなサテライト・ヘルパー関係にあるウイルスがいることがわかっている。

photo by iStock
しかもそれは細菌だけの話ではない。2003年に発見された当時最大のウイルスとされた「ミミウイルス」でもサテライトが見つかっており、「スプートニク」と呼ばれている。また植物の細胞内に潜むサテライトも数多く見つかっている。

ミミウイルスのイメージ図 photo by iStock
ウイルスの内部抗争
じつのところ、こうしたサテライト・ヘルパー関係にあるウイルスは、生命のほとんどあらゆる領域で見つかっている。そして両者の終わりなき内部抗争は、進化の原動力でもある。サテライトはヘルパーを搾取する新たな策略を進化させる。それに負けじと、ヘルパーはその対抗策を進化させる。
その結果は、人間にとっても重要かもしれない。感染症治療をはじめ、ウイルスが進化させた新しい力を私たちのために使える可能性があるからだ。
たとえば、まるでハサミのように機能して遺伝子を編集することができる「CRISPR-Cas9」など、抗ウイルスシステムの多くは、これまで細菌で進化したと考えられてきた。
だが最近の研究によると、それらはファージやサテライトで生まれた可能性があるという。
サテライトとヘルパーは、回転率も突然変異率の高さも非常に高く、お互いがお互いをどうにか出し抜こうとしている。それゆえに、ウイルスに対抗するための機能が次々と誕生しているのだ。
新たに発見された吸血鬼ウイルス
『The ISME Journal』(2023年10月31日付)に掲載された研究では、そうした内部抗争の産物と思われる、ユニークで不気味な「吸血鬼ウイルス」が発見されたと報告されている。それはある土壌細菌から発見された「MiniFlayer(ミニフレイヤー)」と呼ばれるサテライトだ。そして、そのヘルパーを「MindFlayer(マインドフレイヤー)」という。
ミニフレイヤーは、ただのサテライトではない。サテライトでありながら、細胞の中で眠る力を失っているのだ。
サテライトは普通なら感染した細胞の中で、じっとヘルパーがやってくるのを待つ。だが休眠できないということは、それができないということだ。
彼らはヘルパーがいなければ増殖できない。ゆえに、この状況はサテライトにとって死活問題であるはずだ。
そこでミニフレイヤーは、ホラー映画のような創造性を発揮することで、この難局を打開したようだ。辛抱強く待ち構えるのではなく、自ら打って出ることにした。
ミニフレイヤーは短い附属器を進化させており、まるで吸血鬼のようにヘルパーの首に牙をたて、しがみつく。
そのままヘルパーと一緒にターゲットとなる細胞を探し、無事感染すれば自分を運んでくれたヘルパーを食らい、増殖する。

新しい感染症治療の鍵を握る可能性
恐ろしくも魅惑的な吸血鬼ウイルスだが、ミニフレイヤーがどうやってヘルパーを制圧するのか、ヘルパーの側は何か対抗策を進化させたのかなど、いくつもの謎に包まれている。だが、こうしたウイルス同士が互いに相剋しようとする熾烈な抗争は、私たち人類がウイルスに対抗する手立てをもたらすかもしれない。
新型コロナの世界的流行で明らかになったのは、抗ウイルス薬の供給はかなり限られているということだ。
ならばサテライトとヘルパーが進化させた対ウイルス兵器を利用してみてはどうだろう。それは、ウイルスを利用した感染症治療に新しい道を開く可能性があるかもしれない。
References:Vampire viruses prey on other viruses to replicate themselves − and may hold the key to new antiviral therapies / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
人類の歴史をひもとくと、ウイルスが原因のパンデミックが唐突に終息したり、その病気に感染する人がその後一人も現れなかったりするのだが、
こういうウイルスが病原ウイルスを殺し尽くしたから、だったりするのだろうか
2. 匿名処理班
映画の導入で、ある研究者が偉業を成し遂げたぞとか言ってバイオハザードさせちゃうやつでしょこれ
3. 匿名処理班
終わりが始まりそうw
4. 匿名処理班
我々は自分達より小さく数の膨大なものに振り回されているに過ぎないのか
って思うと悩みなんてちっぽけな気がしちゃうね!
5. 匿名処理班
こういう食物連鎖(?)で無制限な感染が抑制されているんだろうか。うまくできてるなあ。
6. 匿名処理班
ウイルスの構造は生命を創り出した存在によるミドルウェアみたいなもんかもね。
その存在に近づこうとする人類は、その存在にとってのAIなのかもしれない。
7.
8. 匿名処理班
生物兵器に使われたら終わりじゃね
9. 匿名処理班
こういうのを利用しようとDNA編集とかでいじってるとマジで人類絶滅ウイルスが出現してもぜんぜん不思議じゃないな
10. 匿名処理班
>>6
特異点の進化はウイルスによる遺伝子書き換え(バグを引き起こす)によるものともされてるものね
11. 匿名処理班
>>1
どっちかっていうと、致死率高くて感染力も高すぎると、宿主いなくなっちゃうから、致死率か感染力のどちらかがマイルドになる
一応、共生関係ではある
12. 匿名処理班
>>2
画期的な治療法を発明!ヴァンパイアウイルス!→感染したら血を欲する吸血鬼になることが判明!→人類全員吸血鬼化→みんなでスリラー踊って終幕
13. 匿名処理班
ウイルスのウイルスは、皆ウイルスだ
14. アユラ
毒には毒を……的な発想ですね💧
15. 匿名処理班
>>11
それは「これまでの定説」だろう。新しい発見があれば新しい仮説が生まれるものだよ。
16. 匿名処理班
>>12
F先生の流血鬼がまさにそんなんだったな笑
17. 匿名処理班
なんだろな、機具を使わなければ見ることが出来ないものは、ヒトは見なくていいんじゃないかとか思っちゃう。神が与えた本来のヒトの能力以上のものは、むしろ見ない方がいいのかも。
地球の、自然のサイクルに抗ってる生き物はヒトだけなんだし…。
18. 匿名処理班
>>12
A「・・・という夢を見たんだ」
B「HAHAHA、まったく荒唐無稽な話だな(振り向くと目が赤い)」