
その凄いところは見た目でなく、もっと深いところ、すなわち遺伝子や細胞レベルにある。
この実験室で生まれたオスのサルの赤ちゃんは、受精卵から作り出した幹細胞の一種、ES細胞(胚性幹細胞)を、別の受精卵に移植して作られたキメラなのだ。
だからその組織や内臓には、遺伝情報が異なる細胞が混ざり合っている。
サルのキメラが作られたのはこれが初めてではない。だが今回の赤ちゃんは、キメラ度が圧倒的に高く、脳では9割の細胞が移植されたES細胞からのものだったという。
異なる二つのES細胞から誕生したサルのキメラ
「キメラ」とは、1つの体に遺伝情報が異なる細胞が混ざっている個体のことだ。その名前は、ライオンの頭・ヤギの体・ヘビの尻尾を持つというギリシャ神話の怪物から取られている。今回生まれてきたキメラの赤ちゃんは、「カニクイザル(Macaca fascicularis)」の受精卵から取り出したES細胞(胚性幹細胞)を、別のカニクイザルの受精卵に移植することで誕生した。つまり同一種の異なる二つの胚から発生した細胞から構成されているのだ。
ES細胞は幹細胞の一種で、初期胚(胚盤胞)から将来胎児になる細胞集団(内部細胞塊)の細胞を取り出し、あらゆる細胞に分化できる能力(多能性)をもったままシャーレの中で培養し続けることができるようにしたものだ。そのために万能細胞とも呼ばれている。
サルのキメラの脳・心臓・腎臓・肝臓・消化管・精巣といった組織には、受精卵本来のものと、移植されたES細胞に由来するものの、遺伝情報が異なる2種の細胞が混ざっている。

キメラサルが作られたことは以前にもあるが、今回の赤ちゃんはES細胞由来の細胞(ドナー細胞)の割合が21%〜92%だ。
これまでのキメラでは0.1%〜4.5%だったと言えば、その凄さがわかるかもしれない。ちなみにドナー細胞がもっとも多く含まれていたのは、脳の組織だった。
だがキメラの赤ちゃんは、生後10日で体調を崩し、結局安楽死となった。キメラの健康という点では、まだまだ課題が残されているようだ。

遺伝子工学や種の保存のための研究モデルに活用
こうしたキメラの研究については、倫理的な批判が寄せられることもある。だが、研究チームによれば、病気や治療を研究するより忠実なモデルを作れるようになるため、キメラの研究は大切なことなのだという。
例えば、受精卵に移植する多能性幹細胞は、遺伝子を編集しておけるため、いずれはキメラを観察することで、調べたい病気を調べられるようになるかもしれない。
その時、遺伝子編集した幹細胞由来の細胞が多く含まれているほど、その経過はより実際の病気に近いものになる。
今回のキメラサルの体には、最大9割ものドナー細胞が含まれていたが、卵子や精子ならば、10%程度でも有用なモデルになると考えられるという。
2012年に初めて誕生したキメラサルでは、ドナー細胞の割合は多くても4%程度でしかなかった。
また、その体でキメラだったのは、肝臓・脾臓・胎盤のような血液が多い臓器だけだった。このことから、臓器自体がキメラだったというよりも、むしろ血液が関係していた可能性もある。
なぜ目と指先が緑色に光っているのか?
誕生した赤ちゃんが緑色に光っていたのは、移植されたES細胞が緑色蛍光タンパク質でマーキングされていたからだ。こうしておけば、緑色に光っている部分を探すだけで、キメラの赤ちゃんのその場所にはES細胞由来の細胞があるとすぐにわかる。
なお、今回の研究では、40匹の母ザルに合計74個の受精卵が移植され、6匹の赤ちゃんが生まれた。
だが、キメラだったのは、1匹のオスだけ。混ざり方は少なくても、キメラであることが確認された胎児も1匹いたが、それは結局生まれなかった。
研究チームによると、キメラサルの誕生率は低い(キメラではない胚を体外受精で作るときの半分の成功率でしかない)ものの、正しい方向への有望な一歩であるという。
成功率の低さは、幹細胞や胚の培養方法に原因があるかもしれない。
例えば、細胞の多くには死がプログラムされており、ES細胞を受精卵に移植しても自ら死んでしまう。そのため細胞の生存率を上げることができれば、より効率的にキメラを作れるようになるかもしれない。
こうした研究は、病気の研究だけでなく、霊長類の幹細胞で起きる初期段階の分化を理解するうえでも有用であるとのことだ。
この研究は『Cell』(2023年11月9月付)に掲載された。
References:First live birth of a chimeric monkey using e | EurekAlert! / Glowing Fingertips And Green Eyes: First-of-Its-Kind Monkey Chimera Born in China : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
倫理的に間違っているが、医療の研究には役立つ。
すべては人間のため。難しいね。
2. 匿名処理班
中国はなんでもありだな……
3. 匿名処理班
遺伝子操作したいならまず自分や自分の子供で試してほしい
それぐらいの倫理観を持って研究しないと大事故を起こしそう
4.
5. 匿名処理班
科学のためにキメラを作るのはわかるけど、そのために
安楽死させるのは許せんな
別にPC内でエミュレーションさせて実験させてもいいだろうし
本物で再現するときは最終的なものだけにしてくれ
6. 匿名処理班
人は業が深い生き物だなぁ
7. 匿名処理班
人間を憎んでいる目やで
やがて人類は猿に報復されるんや
8. 匿名処理班
先日、実験施設で育ったチンパンジーだかが、初めて外の世界を見た記事を読んだ。
初めて見る空を仰いで、嬉々として表に走りだし、仲間のチンパンジーに駆け寄るみたいな動画もあった。
あんな姿見ちゃうと、お猿さんを実験に使うのは複雑に思う。
他の動物ならいいと言うわけではないけれど…
出来ることなら、動物実験ではない方法を考えて欲しいけれど、遺伝子操作をして生き物を「作る」という研究者の好奇心は…原爆を作った研究者のそれと似ている気がする。
9. 匿名処理班
可哀想すぎる
10.
11.
12.
13.
14.
15. 匿名処理班
人の為に本当に役立つ研究なのかね
なんだかやってる事がマッドにしか見えんわ
16. 匿名処理班
浅田飴みたいな眼をしてる
17. 匿名処理班
汝ら罪なし…
18. 匿名処理班
アウトブレイクという映画を思い出した
19.
20. 匿名処理班
よっぽど多くの家畜やらラットやらが人間のために死んでんだから誤差未満
21. 匿名処理班
やっぱり中国だったか
22. 匿名処理班
倫理だ言うのは分かるが、何気なく飲んでる薬
それもアホ程マウスや猿を殺して出来てると知ってるのだろうか
上の方に自分や子供を実験に使えとか言ってヤベェ倫理を説いてる子とかさ
人類の為に研究してる奴は家族ごと人柱になれ、そして出来た薬は俺が飲む。まずは自分の倫理感を見直して下さい
罪悪感を一番背負ってくれてる研究者に感謝の気持ちくらい持ってもいいんじゃないかな
23. 匿名処理班
中国で研究したい人が多いのはこういう倫理観が欠如した研究を行えるから
24.
25. 匿名処理班
※22 ありがとう
26. 匿名処理班
家畜、害獣害虫と見做された者たち
人間と関わりを持ったばかりに、殺されるために生まれてきた命のおかげで
捕食者の頂点として生きていられる人間
・・・自覚を持って日々感謝して生活すれば良いんじゃないの?
わたしたち、もうこの世に生まれちゃってる訳だしさあ
27. 匿名処理班
いや……これは笑えなくね?…怖いとしか思わん。
やっちゃいけないことはやっぱりあるんですわ。
28. 匿名処理班
>>23
他に色々やってるだろうね
何年か前に遺伝子改変でHIVに感染しないんだか発症しないんだかの双子の女の子が誕生してた
それ以外は健康なら幸運な生まれとも言えるけど、当然生まれて来なかった子供たちが沢山いるわけだし、一生実験台の人生だと思うとね
少なくとも進学や留学や就職等で研究所から遠い場所に住むことは制限されるだろうし
29. 匿名処理班
>>22
視野狭窄的な動物愛護思想は置いといて、今のところこの研究が具体的にどう役立つのかの説明がされていないから好奇心のみの産物に見えるんだと思う
歴史上には何の意味も無い胸糞悪くなるような研究の例もあることだし
自分は100年前に生まれていたら6歳まではなんちゃらの側だっただろうし、どうしても必要な犠牲については食肉と同様に感謝して生きていくわ
30. 匿名処理班
>緑色に光っている部分を探すだけで、キメラの赤ちゃんのその場所にはES細胞由来の細胞があると分かる
記事に書いてあるけどなぁ。
通常の場合、普通の細胞と実験で生まれた細胞を見分ける必要があるなら、
コストと時間のかかる精細なDNA測定諸々のテストが必要。
「光る」ってだけで見分けられることで、1秒で見分けがつく。
瞬時に該当の細胞を見分けられることで、実験の飛躍的な時間短縮と、ミスの低減ができる。
31. 匿名処理班
>>23
単純に待遇がいいからってのが一番大きい
倫理が重要だということは研究者自身が一番痛感してることで、
だからこういう実験の時にも問題を指摘する声が同業の研究者から一番多く出る
非人道的な実験がしたい研究者なんて科学コミュニティではごく一部で、
そんな理由で中国に殺到するほど母数は多くない
32. 匿名処理班
そのうち光るハムスター作ってピカチュウって名前で売りそう
33.