
アフリカハネガヤの葉を編んで作られたこの履物は、ヨーロッパ最古のものだという。これらは、19世紀後半に鉱山労働者が見つけて略奪した大量の遺物の一部だが、22足のサンダル、最古のサンダルよりもさらに古い籠細工品など、考古学的に魅力的なものばかりだ。
放射性炭素年代測定の結果、これらのほとんどは、これまで考えられていたよりも、少なくとも2000年以上古いことが確認された。
冷たい風や低い湿度のおかげで、こうした有機物が朽ちることなく保存されるのに役立ったと考えられる。
コウモリの洞窟は古代人類のお宝の宝庫だった
木材、葦、アフリカハネガヤ(地中海地域原産の硬くて耐久性のある多年草)から作られたこれら遺物を含む、76のアイテムを綿密に分析する研究が行われ、その結果が『Science Advances』誌に発表された。出土品の中には、籠、紐、敷物、木槌などもあるが、編み籠類は9500年前のもので、この地域の狩猟採集民族や初期の農耕民族の間で、籠を編んで物を作る技術がすでに確立されていた証拠だ。
「ムルシエラゴス洞窟から発見された、アフリカハネガヤで作られた遺物は、南ヨーロッパでこれまで知られている最古の出土品で、植物繊維素材で作られたものとしてもっとも保存状態がいいものです」バルセロナ自治大学のマリア・エレーロ・オタル氏は語る。
「ここでわかった技術の多様性と原材料の扱い方は、少なくとも9500年前には、先史時代の人たちのコミュニティが、こうした職人技をすでに持っていたことを示しています」

6200年前のヨーロッパ最古のサンダルを特定
ここで見つかったサンダルは、ふたつの異なるタイプのものだった。まずは、"履物を靴紐で結んで足に固定する"という基本的な概念が見られないシンプルなデザインのもの。
もうひとつは、センターコアスタイルという、サンダルの穴の底から材料の繊維をわざとはみ出させているもの。
この繊維は、履いている者の足の第1指と第2指の間にフィットさせるためのものと思われ、サンダル中央にとりつけられた編みこみのバンドにつなげるものだったのかもしれない。
このバンドは、着用者の足首に履物を固定するために使われた可能性がある。
研究チームは、シンプルなサンダルとセンターコアサンダルの両方を分析してみた。
結果は、以前の放射性炭素年代測定の結果を裏づけ、このサンダルが新石器時代にさかのぼるものであることを確認できた。

考古学的タイムライン
この研究では、加速器質量分析(AMS)放射性炭素年代測定というより高度な技術をベイズモデリングと組み合わせて利用した。このやり方により、洞窟で発見された籠細工の一部が、中石器時代にまでさかのぼることが明らかになった。
この時代のサンプルは、紀元前7500年〜4200年頃の完新世初期の狩猟採集民族集団と、完新世中期の農耕民族という、異なるふたつの時期のものと一致している。
精密な年代測定法によって、洞窟の考古学的タイムラインと、数千年にわたってそこに住んでいた人間のコミュニティの進化について、より深い理解が得られた。
「ムルシエラゴス洞窟から出土した植物で編まれた籠細工の新たな年代測定は、完新世初期の最後の狩猟採集民族の社会を理解するための入口を開いた」と論文の共著者であるアルカラ大学のフランシスコ・マルチネス・セビリア氏は書いている。
「これら籠細工の質と技術の複雑さは、南ヨーロッパで農耕が始まる前の人間社会についての私たちの単純な思い込みに疑問を投げかけるものだ」

アルメニアの洞窟で発見された、紀元前3627年から3377年にさかのぼる革と草でできた履物のように、古代の履物は世界中さまざまな場所で発掘されている。
ドイツ、アレンスバッハで発見された靭皮(じんぴ)繊維でできたサンダルや、紀元前3350年のアイスマンことエッツィが履いていた、靴下のような履物などがあるが、ムルシエラゴス洞窟で見つかったサンダルは、そのユニークさで際立っている。
アフリカハネガヤの草を砕いた材料を使って、柔軟性と履き心地をちゃんと考えているだけでなく、ほかのどの古代の履物よりも遥かに古いという点も注目に値する。
「この2種のサンダルは、イベリア半島とヨーロッパ両方において、ほかの緯度地域では類を見ない、先史時代の履物の最古かつもっとも広範囲な遺物群を表している」

ムルシエラゴス洞窟の数奇な歴史、ユニークな地質
コウモリの洞窟として知られるムルシエラゴス洞窟が、地元の地主によって初めて発見されたのは1831年のこと。最初、洞窟内のおもな部屋は、農地を肥沃にするためのコウモリの糞化石を集めて保管しておくために使われていた。
その後、ヤギの避難所として機能したが、鉱山労働者たちが方鉛鉱の鉱床を見つけて採掘活動が行われるようになると、その重要性が変わった。
労働者たちが鉱脈にたどりつこうと掘り進んでいるうちに、偶然、ミイラ化した人間の遺体や籠細工や木製の道具など、さまざまな遺物を発見することになった。
残念なことに、植物でできた遺物のほとんどは、火災で消失したか、地元の村人たちに分け与えられてしまった。
それから10年たってから、考古学者のマヌエル・デ・ゴンゴラ・イ・マルチネス氏が、これら発見物について労働者たちから情報を収集して散逸した残りの遺物を集め、保存し始めた。
彼はおよそ68人分の遺体があったことを記録し、遺物は彼らの埋葬に関係していると仮定した。
回収された遺物の中には、籠類やサンダル、木製のアイテム以外にも、陶器の破片、火打石の刃や破片、石英、きれいに磨かれた斧の頭、骨で作られた錐、装飾品の貝、イノシシの歯、金の冠まであった。
この洞窟内は、湿度が非常に低く、アンゴストゥラス渓谷のせいで、洞窟上部の狭い入口から乾燥した風が集中して流れ込むという特殊な環境で、遺物の保存に適していたといえる。
この風が洞窟内を吹き抜けると、遺物の冷却と乾燥の速度が増す。結果的に、自然な空気の流れが、通常なら有機物を分解するバクテリアの増殖には適さない環境を作り出した。
この偶然の条件の組み合わせが、本来なら朽ちてしまうはずの植物でできた古代の遺物の保存に重要な役割を果たしたというわけだ。
「考古学的なことはなにも考えていない採掘活動が行われていたにもかかわらず、これらは、南ヨーロッパ最古かつもっとも保存状態のいい、狩猟採集民族の遺物群のひとつといえよう」研究チームは結論づけている。
追記(2023/10/23)誤字を訂正して再送します。
References:Oldest hunter-gatherer basketry in southern E | EurekAlert! / 6,200-Year-Old Sandals Found in Spanish Cave are Europe’s Oldest Shoes | Ancient Origins / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
日本の藁草履と変わらないのが不思議
2. 匿名処理班
6200年前とのことだけど、もっとず〜〜〜〜〜っと昔のサンダルや靴もいつかは見つかると思う。
古くから人類が地球上を移動してたわけだから足に履く靴の類の道具の発達・発展は太古の昔からしてたに違いないと思うし。
3.
4. 匿名処理班
>>1
収斂進化というか、草履に求めてる形を植物で作るとそうなるてことなんでしょうね。今ならソール部分は一枚のゴムなどの一枚モノが得られるからビーチサンダルみたいな作りもできますけど、結局形はあんまり変わらないわけで当時の人が作ったものを現代人も履けるし、現代のビーチサンダルを渡しても当時の人たちは違和感なく履けるでしょう。
5. 匿名処理班
人類がもっとも労力をかけてきたエンジニアリングが編み物である!
9000年以上も工業技術を引き上げてきたのだ!
6. 匿名処理班
編み方が結構しっかりしてるのを見るに、かなりの年月の試行錯誤があったんだろうと思う
7. 匿名処理班
コレは貴重な歴史的資料だ
偶然に偶然が重なった結果なわけだね
まさに奇跡
8. 匿名処理班
>>1
西洋のサンダルって甲バンド方式のイメージがあったけど、
これは鼻緒式なんだな。
ただ、これは鍋敷きみたいに縄を円形にグルグル巻いてて、
日本の草履は縦糸の藁に対して横に編み込む感じなのは
形式が異なると思う。
9. 匿名処理班
自然素材が数千年も形を残すものなのか、と首をかしげたが洞窟が「暗いくて風通しのいい低温」という保存のお手本のような場所だったのね。偶然に感謝だ。
10. 匿名処理班
縄文人が、編んだ物と思いました。