
これは米ニューヨーク大学グロスマン医学部をはじめとする研究チームが、心停止後に心肺蘇生を受けている患者を対象にした調査で明らかになったことだ。
常識的には、酸素が供給されなくなった脳は、10分もすれば回復不能なダメージを受けるとされている。
だが、そうした人の脳では高次の精神機能に関係する活動が続いており、1時間が経過してもその間の記憶があるという。
意識不明から回復した人の中には、臨死体験を語る人がいるが、今回判明した事実に、その不思議な体験の秘密を解くヒントが隠されているかもしれない。
心臓が止まった後、脳はどうなるかを調査
この研究は、心停止し、心肺蘇生を受けている患者の脳波と脳内の酸素をモニターし、死の瀬戸際にある脳で何が起きているのか解明を試みたものだ。調査対象となったのは567人。そのうち脈拍が回復したのは213人。うち退院できたのはわずか53人。さらにその後、追跡調査として話を聞くことができたのは28人だけだった。
心臓が止まってしまえば、その瞬間に血圧が大きく下がり、二酸化炭素のような有害な老廃物が溜まり始める。その一方で、細胞が活動するために不可欠な酸素の供給はストップしてしまう。
その結果、細胞は次々とダウンする。真っ先に機能不全になるのは、とりわけ大量の酸素を必要とする脳だ。
心肺蘇生は、どうにか心臓が回復できるよう、人工的に血液と酸素を流してやる処置だ。だがどんなに上手に心臓マッサージをしても、心臓の鼓動の代わりにはならず、段々と回復のチャンスは薄れていく。
このような状況が脳にどのような影響を及ぼすか、ほとんどわかっていない。

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ラットや瀕死の患者を調べた過去の研究によるなら、心臓が止まってから脳が完全に沈黙してしまうまで、時間がかかることが明らかになっている。だが、そのことと臨死体験のような不思議な出来事をどう結びつければいいのか? 今回の研究は、それを知るヒントになるかもしれない。

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意識不明の間の記憶が存在することが判明
今回の研究では、脳波を計測しただけでなく、心肺蘇生を受けている患者にタブレットで画像を見せたり、ヘッドホンで音を聞かせたりしている。そうした患者は意識不明で、外からの刺激にまったく反応しなくなっていた。その間も脳が活動を続けているのなら、そうした刺激を覚えているかもしれない。
だが無事に回復し、退院後に話を聞くことができた28人のうち、タブレットの画像やヘッドホンの音を覚えていた人はいなかった。
それでも、彼らの脳が完全に活動停止していたとは限らない。というのも心肺蘇生中の心臓マッサージや皮膚にはられた電極の感触、そばにいた医師の声を覚えていると語った人がいたからだ。
またリアルタイムで計測された脳波からは、心臓が止まり、意識がなくなっていても、脳が活動していることが裏付けられている。それはガンマ波・デルタ波・シータ波といった、高次の精神機能と関係するものだ。
しかも生存者の40%は、心肺蘇生を受けてから最大1時間も経過していたというのに、脳波がほぼ正常かそれに近い状態にまで回復したのだ。
心臓からの酸素が止まって10分もすれば、脳は回復不能なダメージを受けると考えられてきました。ですが私たちの研究では、心肺蘇生を受けている間にも脳が電気的な回復の兆候を示すことがわかりましたと研究の主執筆者サム・パーニア氏はプレスリリースで語る。

心停止後も脳が活動していることで臨死体験を作り出している可能性
パーニア氏によれば、今回の研究は、心停止後の脳波の変化や記憶が、いわゆる臨死体験を作り出している可能性を示した世界初の大規模研究であるとのこと。もちろん決定的な証拠とは程遠い。それでも今回の結果からは、心臓が止まったあとも、脳は外部の刺激・記憶・感情といったものを処理しているだろうことがうかがえる。
それは大ピンチに陥った脳が、まずどの機能を優先して実行しているのかを知るヒントでもあるそうだ。
この研究は『Resuscitation』(2023年7月7日付)に掲載された。
References:Patients Recall Death Experiences After Cardiac Arrest | NYU Langone News / Study: Near-Death Patients Reveal Brain Activity After Heart Stopped : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1.
2. 匿名処理班
そのまま覚醒しないのであれば
正直、死んでるのと変わらんと思うが・・・。
3. 匿名処理班
「私がクビをはねられた後で歩いた数と
同じ人数分の部下の命を助けてやってほしい。」
4. 匿名処理班
うちのかーちゃん。家の中でドタバタしていた俺のことをきいていたのかなぁ
5. 匿名処理班
死ぬことを決めるのは、脳そのものが判断しているような気がする。
6. 匿名処理班
90年代だったと思うけど、救急車の中で心停止した男性がそれまでは蘇生不可能とされていた時間を過ぎてから蘇生してニュースになったことがあった
本人は「心停止と言われて自分は死んだのかと残念に思った」みたいなことを言っていたから本当に暫くは聞こえているんだと思う
7. 匿名処理班
脳死じゃないんだから、記憶が残っているのは当たり前
むしろなぜ記憶が残らないと考えるほうが意味不明
8.
9. 匿名処理班
でも心臓マッサージと空気の送り込み(最近は余程でなければマウス・トゥ・マウズはしない)をするし、病院みたいに点滴、薬(エピネフリン)と酸素が供給できるのと路上でAEDを使っているのとは条件が全く違うし、一概に1時間まで大丈夫とか10分を過ぎると駄目と言うのは言えないわな。
10. 匿名処理班
死後に臓器提供の意思があるなら、意思表示欄に「死後1時間経過するまで待ってください」と明記しておいたほうが安心という事になるのかな
11. 匿名処理班
臓器移植で記憶転移の話もあるから、全ての臓器を調べよう
12. 匿名処理班
動けるうちは動くって話だね
割とシステマチックな事なのでは
13. 匿名処理班
まぁそりゃそうだろとしか思わないんだが
14. 匿名処理班
つまり統合された意識と言うネットワークはダウンしても、各部位は残ったエネルギーが尽きるまで活動してると言う感じか。
そして各部位の基幹部分は結構しぶとくて、再起動したら回復も可能と。
15. 匿名処理班
そりゃ、機械じゃないんだからプッツリ停止とはいかんやろ
16. 匿名処理班
耳は死後も聞こえていると聞いたことがある。
憎たらしいジジババが臨終された瞬間悪態ついたりすると聞いてるとか。
それを聞いて「今死んでたまるか!」と思って蘇生するかも?
究極のショック療法。
17. 匿名処理班
意識がなくなっても聴覚や臭覚は情報伝達を続けてるのかな
その情報をもとにして記憶を補正してるのかな
18.
19. 匿名処理班
>>16
死んで 死んで たまるかよぉぉ〜〜 トぉ〜〜せんぼ〜♪〜♪
20. 匿名処理班
>>9
病院でポンプ使って"空気"を送り込むのと、路上で人工呼吸として"呼気"を送り込むのじゃぁ、送られる酸素量は段違いだろうしね。
薬剤的な擬似覚醒状態に置かれるかどうかも大きい気がする。
病院で心停止したら心マと同時に血圧上げようとするだろうし。
21. 匿名処理班
手元に2019年刊行のナショジオ別冊『科学の謎』って本があるんだけど、
「心停止により脳が機能停止に陥ると、人の意識は「冬眠状態」になるものの、
そのあとも数時間は無傷で保たれている」という考えが紹介されてて、
その後の数時間を過ぎるとアウト、てのは通説らしい。
脳を無傷で復活させるには、心停止したらできるだけ早く体温を4℃に保つのが肝心だそう。
22. 匿名処理班
これ利用の仕方次第では死んだ人の人格のバックアップをとる最後のチャンスともとれるな
23. 匿名処理班
臨死と死亡は違うから当たり前じゃない?
24. 匿名処理班
自分が死ぬのを理解してから脳で何かを考えるのは怖いな…なかったことにできんか?