
まったくの無実の罪で非難されたら、あなたはどう反応するだろうか? おそらく腹をたてるだろう。
だが、たとえその怒りがもっともなものであっても、あまりに怒りを露わにするのは良くない。それにより、まわりの人はさらに疑惑の目を向け、あなたに罪があるという思い込んでしまう結果になるのだという。
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無実の罪でも怒るとまわりからは有罪に見えてしまう
これは『Psychological Science』誌に掲載された、2021年の論文「Anger Damns the Innocent」の要点だ。この発見は、まるで逆説的といえる。冤罪を責められた人が怒るのは、その人が無実である表われでもあるが、怒ると却ってその人が有罪であるようにまわりからは見えてしまうのだ。
なぜ、こんなことが起こるのか?
この研究は、私たちが社会的な状況を理解する上で、他人の感情を参考にしていることを指摘する。これはとくに、誰かを信頼すべきかどうかを判断するときに当てはまる。

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怒りが信頼性を失う
例えば過去の研究でも、その人が有罪であるか否かを判断するために、信頼性を利用していることがわかっている。さらに、怒りが信頼性を損なう可能性があることも示されている。このふたつの発見を念頭に置いて、研究者たちは次のような提案をした。
知覚者が容疑者の怒りを察知すると、彼らは容疑者は信用できない人物とみなし、有罪判決を下す傾向がある。
知覚者は、容疑者が怒りを露わにするのは、道徳的な憤りを装うことで、無実であるように見せかけようとしていると解釈することさえある。
これは、知覚者が(非)真正性の知覚を通して、怒っている容疑者を有罪だとみなす説明となる
もしも濡れ衣を着せられたら?まずは落ち着くこと、でも沈黙はNG
ではどうしたらいいのか?研究者たちは、濡れ衣をきせられた人が怒っているときに、一般人や専門家がどのように有罪を判断するかを、6つの実験を通して調査した。
ひとつの実験では、実験参加者に、法廷もののドラマ『ジャッジ・フェイス』で、軽微な犯罪で告発された人々が弁明する場面を視聴してもらった。
その結果、参加者は被告が怒っていると、有罪だと判断する傾向が強いことがわかった。
別の実験では、アンドリュー・スミスという架空の人物が武装強盗の罪で告発されたという話を、参加者に読んでもらった。
ここでは、仮想の証言の最中、告発に対してスミスが見せる、怒り、冷静、沈黙、苛立ちといったそれぞれ違う4種の反応が提示される。
沈黙の条件に関しては、スミスは憲法修正第5条(自分に不利な証言をすることから身を守る)を行使した。
その他の条件の反応は下記のとおり。
・冷静:私がこんな罪で告発されるなんて、本当に信じられません参加者は、スミスがなにも言わずに黙っているとき、もっとも有罪だと判断した。
・苛立ち:私がこんな罪で告発されるなんて、イライラします
・怒り:私がこんな罪で告発されるなんて許せない、激怒しています
さらに、怒っているときも有罪だと思い、イライラしているときは、冷静なときよりも有罪だと考えた。
同じような実験で、ネイサンという架空の人物が非難されたふたつのシナリオのうちどちらかひとつを参加者に読んでもらった。
ガールフレンドを裏切って浮気した、雇用主から金を盗んだというふたつの罪で非難されたが、はっきり有罪だと決まったわけではない。
それに対するネイサンの2通りの反応を、参加者はランダムに知らされる。ひとつは怒りの反応。「ネイサンは、"私がそんなことをするとあなたがたに疑われるなんて、とても怒りをおぼえる"と、声を荒げて怒り、罪を否定して叫んだ」
もうひとつは冷静な反応。「ネイサンは冷静に罪を否定し、"私がこんなことをしたと思われるなんて、とても信じられません"と言った」
この実験でも、参加者は怒りの反応を見せたほうがより有罪だと判断した。

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怒りを有罪のサインとみなすのは、一般人だけなのだろうか?この考えを検証するために、今度は同じ実験を、不正調査員や監査役など、他者の罪について正式に重大な判断を下さなくてはならない専門家を対象に行った。
専門家でも、やはり怒りの反応のほうが有罪だと判断した。興味深いことに、専門家は沈黙を続けるのも有罪の兆候だと考えていた。

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濡れ衣をきせられた者はより怒りを露わにする
ここまでわかったことは、冤罪に対して怒りを露わにすると、他人は一般的にその人が有罪だとみなす傾向があるということだ。だが、その怒りは本当に有罪の表われなのだろうか?
この疑問を検証するために、べつの参加者に、ふたつのタスクのうちひとつをこなしてもらうよう頼んだ。
どちらのタスクも、文章の編集を伴うものだが、ひとつは簡単で、もうひとつは難しい。この行為に対して、参加者には報酬が支払われるとされた。
ところが、タスクが終了すると、やり方が間違っていたと非難され、報酬は支払われないとされた。
簡単なほうをこなした参加者たちにとっては、ほとんどが正しくタスクを行っていたため、不当な非難だった。
一方、難しいほうのタスクを行った参加者たちは、概してミスを犯していたため、非難はもっともなことだった。
それから、両方の参加者に、この非難に対してどれくらい怒りを感じたかを訊ねた。
その結果、不当に非難された人たちは、非難を納得した人たちよりも、激しい怒りを感じたことが報告された。

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人間はいいかげんな嘘発見器のようなもの
この実験結果から、概してほとんどの人間が優れた嘘発見器にはならないことが浮き彫りになった。濡れ衣を着せられたことによる怒りは、ある意味無罪の証拠であるのに、第三者には有罪のように映るのだ。
こうした欠陥は、対人間だけでなく、冤罪の原因にもなっていると言える。
この発見は、ごまかしを発見する分野に重要な洞察をもたらし、怒りは必ずしも有罪のサインでなく、無罪のサインであることを示している。
ごまかしがわかる感情的な手がかりについてのほとんどの研究では、その他の個別の感情と有罪との間の関連はほとんどないことがわかっているため、これはとくに重要な点だ。と研究者は書いている。
怒りの心理学という学問では、怒りが表す社会的情報は、「責めを負う誰かがいる」というものであると仮定しているが、この文脈における怒りは、有罪とは正反対のものを誤って描いていることがわかる
この研究は、「不正行為を非難されて怒る理由はたくさんあるが、身に覚えのない罪で非難されている時の怒りは最も強いものだ」と結論づけている。
無実の罪を着せられたら、怒りを感じることは当然のことだ。
だがその怒りが他者に誤解を与えてしまう。ぐっとこらえて冷静に対応することが、無実を証明する上で非常に重要となるだろう。
References:Falsely accused? Stay calm—anger makes you look guilty - Big Think / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
証拠も提示せず犯人扱いする隣人とか地獄の家すぎるな
1つ問題があるけど
それは逆上して撃たれる危険があるってのを忘れないほうがいいね
2. 匿名処理班
要は、感情よりも事実を裏づける物証こそが大事だから、粛々と物証を集めて反訴すればいいということかな?
3. 匿名処理班
真実として完全に被害者だろうと、第三者の警察がその場で判断できない状況だと、アンノウン扱いされる。つまり何者か正体不明であると判断された場合ね。警察からすると今制圧したテロリストの仲間が被害者ヅラしてるだけかもしれないってって感じのシチュエーションあるからね。
その時自分がアンノウンである事に気づかずに警察の指示に従わなかったら下手したら撃たれる‥って事ありえるみたいだから尚更慎重にならないとね、手を上げろ!そして床に這え!と言われたらおとなしく従うくらいじゃないと、海外じゃ特に。
4. 匿名処理班
集団によっては始めから犯人(にするべき人間)が決まっている事も多い
その場合は怒ろうが冷静に反証しようが全くの無駄
5. 匿名処理班
簡単なことじゃないけど冷静にならないとね
6.
7. 匿名処理班
まずは落ち着け。
話せばわかるんじゃなくて、話すことでわからせる。 やな
8. 匿名処理班
慥かにどんな状況であれ感情で話を進めようとする人は信用しないな
自分がどう思ったとか人がどう思ってるとか、そんなんどうでも良いから起きた事実を話してくれと
9. 匿名処理班
こういうときどうすればいいのかわからないの
歌えばいいと思うよ
わーたーしーはーやってないー、えーんざーry
10. 匿名処理班
>身に覚えのない罪で非難されている時の怒りは最も強い
これで犯行の真偽を見つけているとドラマで見たけど
>その怒りが他者に誤解を与えてしまう
なら、見る側、陪審員(とその制度)に問題があるのでは???
私はまだAIを信じていないが、いつかは裁判をAiに委ねる時代が来ると思う
とりあえずは陪審員制を止めることだね、日本でやってるのはぐだぐだみたいだし(友人が陪審員やった)
11. 匿名処理班
>>4
基本、これなんだよな
だから法律があるし「疑わしきは罰せず」であるべきなはず
しかしサイバンチョどもですら心証がどうこう証言の信ぴょう性がどうこおうで有罪に持っていきがちだからな
疑われた時点で終了よ
12. 匿名処理班
被害者が誤解して非難してくるのは誤解を解こうとするのは当然やが、誤解しとる無関係の第三者は自分の非を認めんよ。
13. 匿名処理班
説教もそうですよね。叱ってる相手がキレたら、それを押さえつけるためにボルテージが上がりますから。
14. 匿名処理班
>>8
ほほほ…犯罪心理学じゃ淡々と感情を伴わず事実だけを羅列させてくるような時は、予め作られた話である可能性が高い。真実を話している時は感情が伴う。作り話はまるで箇条書きにしたストーリーのように無機質なものとなる
心理学では、相手の感情は本心を探る重要な手がかり。感情的にさせるのが本音を引き出す第一歩なのだよ(´・ω・`)
15. 匿名処理班
こういう時の為に認知プロファイリングスキルが必須になるっていうね
認知プロファイリングスキルがあれば根拠や証拠を出して相手を黙らせることができるから
16. 匿名処理班
怒ってはいけないとはいえ嘘ネタゴシップおばさんの迷惑っぷりにイライラ
かといってまともに反論、相手するのも面倒
ほんと嫌な存在
17. 匿名処理班
だいじょぶ、警察は「怒り狂ってる奴はシロ」て判ってるから
18. 匿名処理班
四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事件思い出した
19. 匿名処理班
最初から激怒すると逆ギレに見え、説明に努めると無実の人が誤解を解こうとしているように見える
でも誠実に生きてきたからこそ自分が犯罪を犯すような人間だと思われたことに激しい怒りを覚える人もいると思うんだよね
20. 匿名処理班
松本サリン事件の最初の容疑者が証拠不十分だったにも関わらず長期間拘留されていたのは「落ち着き過ぎで怪しい」という心象が理由
21. 匿名処理班
いくら冷静に対応しても、「反論ができないからそうやって平静を装ってるだけ」叩かれ続けるのが現実だろ。
冗談とか一切抜きで、こういった理不尽には暴力で訴えるしかないと思う。
「話せばわかる」なんて阿呆の戯言に過ぎない。
22.
23. 匿名処理班
怒ってる人見るとキャーコワーイなるから
好感度とか信頼度が下がるんだろうな
あと何も言わないのは
「沈黙は異議なき証」で反論出来ないんだと思われる
24. 匿名処理班
学校でも家でも犯人探し案件が始まると
いつも第一容疑者にされてたなぁ…
25. 匿名処理班
証言しか有罪の根拠となるものがない時、本来は当然釈放されて然るべきだけどそうはならないのが怖いよね。
友達の友達だけど、痴漢冤罪で何年も争って友達や大学の時の先生と協力して本人がいた位置からは痴漢出来ないのを示して無罪になったけど、学校教師の職は失ったし、それでキャリアがもとにもどるわけでもなくて辛かったの覚えてる。
26. 匿名処理班
おそらくは科学捜査などがない時代は怒ってねじ伏せるのが事実に関わらず無罪を勝ち取る最善の方法だったんで、その名残なんだろう
今となっては本当に事実がある人と見分けが付かない悪手になったと