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少数精鋭か?大量配置か?本物のアリたちと戦略ゲームを使って軍事理論を検証

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(著) (編集)

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 戦争で勝つためには、強力な兵器や手練れぞろいの”少数精鋭”で戦うべきか、それとも個々の力は弱くても大量に兵を配備して”数の力”で圧倒するべきか?

 これはストラテジーゲームが好きな人だけでなく、第一次世界大戦の戦略家たちも真剣に考察した軍事上の問題だ。

 じつは同じ問題にアリの研究者も取り組んでいる。自然界で有利に生きるためには、個の力と数の力、どちらを重視するべきなのか?

 西オーストラリア大学の研究チームは、この疑問を人気ストラテジーゲーム『エイジ オブ エンパイアII』と、本物のアリたちで検証してみることにした。

 すると 驚いたことに、アリの世界でも現実の軍事理論と同じ結論が得られたという。

戦争における個の力と数の力、どちらが有利か?

 個の力と数の力、どちらが重要なのか? この問題に対し、第一次世界大戦期の理論家はこう答えた。

個の力と数の力の最適なバランスを見るつけるには、戦場の「環境」が重要になる。

もしも環境が複雑なのであれば、そのときは少数精鋭で重要地点を占領してしまうのが得策だ。

一方、環境が単純ならば、個々は弱くとも数の力で圧倒するのが有利になる。

 だが実際にこの仮説を検証するにはどうすればいいだろうか?

 今回、西オーストラリア大学の研究チームが考案した方法は、人気ストラテジーゲーム『エイジ オブ エンパイアII』と、生きたアリで試すというものだ。

ゲームの世界では仮説上の軍事理論と同様だった

 ゲームを利用するのはユニークだろうが、シミュレーションで現実世界の問題を解明するという方法は、研究の世界ではありふれたものだ。

 とりわけ『エイジ オブ エンパイアII』のようなゲームは、個々のユニットの力を客観的に把握しやすく、また現実の生き物と違って、渋ることなく素直に戦いをしてくれる(もちろん倫理上の問題もない)というメリットがある。

 今回の研究では、力で圧倒する強いユニットとして、ゲーム内最強の「エリート チュートン ナイト」(以下ナイト)が採用された。対する数で圧倒するタイプのユニットは、一般的な戦闘ユニット「重剣剣士」(以下、剣士)である。

 性能から予想されるように、ナイトと剣士が1対1で戦った場合、すべてナイトの勝利に終わった。だが剣士が5人以上になれば、さしものナイトも絶対に勝てなかった。

 これがわかったところで、ナイト9人の騎士団に剣士の大群を相手取らせてみた。すると理論通り、勝敗に環境が左右することがわかったのだ。

 単純な環境では、騎士団は相手が50人以上の剣士になると負けるようになった。ところが複雑な環境では、70人近くも相手をすることができたのだ。

 逆の立場から言うなら、環境が単純になるほど、少ない数の剣士で騎士を倒せ、生存率も上がるということだ。

 どうやら、少なくともゲームは軍事理論の則っているようだ。

体の大きさの違う2種のアリを戦わせてみた

 では現実のアリはどうなのか?研究チームは次に、本物のアリを使ってこの軍事理論を検証してみることにした。

 剣士役(数で圧倒するタイプ)は、「アルゼンチンアリ」だ。

 体長2mmほどの小さなアリだが、複数の女王アリを持つ大きなコロニーを形成し、環境の変化に適応するため恒久的な巣を作らない。

 繁殖力が高く攻撃的で、世界最悪の侵略的外来種としても悪名高い。

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アルゼンチンアリは、腹部を曲げ刺激性のある化学物質を敵の体に塗る / image credit:University of California, Riverside

 対するナイト役(力で圧倒するタイプ)は、オーストラリア固有種の「ミートアント」だ。その名前から想像されるほど凶悪なアリではなく、主に植物を食べる。

 だが体は 6~12mmと大きく、仮に両者の体長と体重の比率が一般的なアリのものだったとすれば、ミートアントの体重はアルゼンチンアリの40倍近くにもなる。

オーストラリア固有種のミートアント

実際のアリでも仮説上の軍事理論は成立する

 だが、ゲームとは違って、このアリの無差別級マッチは案外難しいことが判明した。1対1で戦わせようとしても、なかなか戦おうとしないのだ。

 そこで研究チームは、バトルロイヤル形式で実験してみることにした。5~200匹のアルゼンチンアリがいる中に、20匹のミートアントを入れてみたのだ。

 すると数に関係なく、24時間後にはアルゼンチンアリは必ず全滅した。アルゼンチンアリを200匹に増やしても、20匹のミートアントにはかなわない。

 では何もわからなかったのか? そんなことはない。それでも環境の効果はしっかり確認されている。

 このバトルロイヤルでは、全勝したミートアント側にも犠牲者が出ている。だがその犠牲者の数に注目してみると、環境が複雑になるほど少なくなることがわかったのだ。

 つまり複雑な環境であるほど、もともと力の強いミートアントがいっそう無双できるようになるということだ。

 このことからアリの世界でも、環境の複雑さは個の力と数の力の最適なバランスに影響を与えると、研究チームは結論づけている。

 まさに第一次世界大戦で提唱された軍事理論とピッタリ一致していたのである。

 この研究は『PNAS』(2023年8月28日付)に掲載された。

References:Age of Empires and live ants used to test theoretical ideas on combat | Ars Technica / written by hiroching / edited by / parumo

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この記事へのコメント 33件

コメントを書く

    1. >>2
      数だけで勝てるなら戦略も戦術も作戦も兵士の練度も士気もいらないのだ
      数は重要ではあってもファクターの一つでしかない

      • +1
      1. >>9
        でもKV-1戦車1台にドイツ軍は多数の砲撃を加えて、最後には88mm砲で撃破してるから、やっぱり数が重要だよ

        • +1
      2. >>9
        ただし最も重要なだよ。
        正しくは数的戦力を支える兵站力の差だけど。

        • 評価
  1. 硬くて攻撃力はあるけどコストが高くて足が遅い、使いにくいけど愛されていたチュートンナイトが研究で役立つとは……AOE2に嵌っていた身としては感慨深いなあ。
    実際、平地で多数のユニットが相手だと最後は削りきられて負け、そもそも弓には手も足も出ない。でも狭い地形で待ち構えて防御しながら戦えば、生きた城壁ってくらい頼もしかった。

    リアルタイムストラテジーも遡れば兵棋演習にたどり着くし、よくできたゲームだったんだなあ。

    • +6
  2. この理論から言えばウクライナのような平坦で遮へい物が少ない土地では”数の力”が有利って事なのかな?
    逆に日本の環境は山や森林が多く街も密集してるので”少数精鋭”が有利って事?

    • +7
  3. ハマったなぁAOE2…イノ引きとか。チュートンは城の方が強かった記憶
    ゲーム内だと逃げ回られて接近戦を拒否されるか散兵の引き撃ちで死ぬから、閉所で強いのは確かなんだが
    研究チーム内にSLG好きがいたんやろなぁ

    • 評価
  4. 逆に
    人間が知らないアリの戦法から
    新しい学びはないだろうか

    • +4
    1. >>6
      人間も大概なんだけどアリの場合、
      個々の命が水素の如く軽いから
      高確率で人間捨てる覚悟が求められそう。

      • +4
      1. >>17
        歳取ると自爆する生態の蟻さんもいるもんね…

        • +2
  5. 守る側は複雑な陣地を組んで準備できるから少数精鋭
    攻める側は相手の陣地を攻撃してから多数で攻めた方が良いって感じなのかな

    • +2
    1. >>7
      守るも攻むるも安物のアンチユニットぞ頼みなる
      畑の土より湧き出づる肉の壁こそ正義なれ

      • 評価
  6. よくわからない。
    環境が複雑とはどんなことをしているのだろうか?
    気温? 大きな石を入れる? 池をつくる?
    ちょっと説明があればなぁ

    • 評価
    1. >>8
      PNASのリンク先を見ると、
      単純な環境を「開放的(open environments)」と表現し、
      複雑な環境の例示として
      「トンネル、隘路、その他 狭い空間(such as tunnels, narrow corridors, or other tight spaces)」を挙げている。

      • +6
  7. 資本主義の構造が複雑になっていくのは、「富裕層が国の政治(ここでいう環境)に間接的に手を加えることでより多くの富を得られるから」なのか。

    彼らは資本主義の形状をわざと複雑にすることで大衆より有利に振る舞うことができる。
    彼らは自分達に有利になるよう息のかかった政治家に複雑な制度をどんどん作らせる。

    この資本主義の戦場においてただの一等兵である自分にできることとは何だろう。

    • +1
    1. >>10
      口で言っても聞く耳持たない、議論にすら応じてくれないとなれば、数の暴力の理論で行動に移すしかないでしょうね

      • 評価
    1. >>11
      ジオンの栄光!俺のプライド!やらせはせん!やらせはせん!やらせはせんぞ!!

      • +1
  8. 地形が複雑になるほど、精鋭を多勢が囲むのが難しくなり、各個撃破される率が多くなって不利になるのだろう。
    逆に真っ平の障害物無しの環境なら取り囲むのは容易で遊兵が減る。

    • +5
    1. >>12
      それは逆で各個撃破じゃないの
      地形を利用して少数が多数を分裂させて、各個撃破は歴史上よくあるよ。

      • -3
      1. >>18
        普通にそういうこと言っているんだと思ったが
        多分精鋭視点と多数視点でごっちゃになってるんだな
        同意見で反論が来るパターンのお手本や

        • +3
      2. >>18
        精鋭”を”多勢”が”囲む

        ちゃんと日本語を読め。

        • +3
  9. チュートン使う奴は舐めプ
    重剣剣士も舐めプ
    ジャガーウォリアーはガチ

    • +2
  10. ゲームのユニットは疲労しないからなぁ。
    まぁ、それはそれとして近接ユニットは数を集めても遊兵化してしまうからだね。地形が複雑であるほど敵と戦っていないユニットが増える。
    戦いは数ってのは乱用されがちな警句で、決戦時点で戦ってる数を最大化し、それをできるだけ長く維持することが肝要。そのために展開するし機動するし包囲する。敵にはそれをさせない。戦術家は皆そこに知恵を絞った。
    戦史上良い例をあげればカンナエ(劣勢でありながら機動力を活かして包囲。一度に戦っている人数を最大化し、かつ敵のそれを抑え込んだ)
    悪い例で有名なのはワーテルローのグルーシーかな(決戦時点で3万を超える騎兵が遊兵化して参戦できなかった)
    つまり戦いは数ってのは「戦っている数」ってこと。武器の発展や兵站が重要なのも全てこれ。いくら兵がいても素手だったり、飢えていたら数が数になれないでしょ。

    • +4
  11. 実際の軍隊は、精鋭と平凡の混在じゃないのかな。それもやってくれ。

    • 評価
  12. スーパーファミコンでシムアントって
    あったなあ、遊んだことは無い、、

    • 評価
    1. >>29
      懐かしい。
      子どもの頃に家族がプレイするのを隣で見てたよ。
      シムピープルの会社が作ったやつだよね。
      エサを見つけたら笛を鳴らして仲間を呼んだりとか、結構アリの生態に則してて面白かった。
      YouTubeにもプレイ動画上がってた気がする。

      • 評価
    2. >>29
      ファミコンには、大戦略ってソフトもあるよ

      • 評価
  13. 質も量も確保しようね
    国民に迷惑をかけない範囲で

    • 評価

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