
強力な磁力(磁気パルス)で頭皮から脳を刺激して、治りにくいうつ病を治療する「経頭蓋磁気刺激(TMS)」治療法は以前から存在し効果を上げていた。だが、そもそもなぜこの治療法が効くのか、これまで謎に包まれていた。
今回『PNAS』(2023年5月15日付)に掲載された研究では、そのメカニズムが明らかにされている。
うつ病患者の多くは脳内信号が、誤った方向に流れているのだそうで、磁力刺激でその流れを逆転させることで効果が発揮されるという。
これは重いうつ病の根本的な治療につながるほか、その診断に役立つバイオマーカー(生物学的指標)としても利用できる可能性があるとのことだ。
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うつ病患者は脳内信号が逆転している
今回の発見は、2つの最先端ツールの成果だ。1つは、「スタンフォード神経調節療法(Stanford neuromodulation therapy)」。これは、高性能な脳イメージング技術が組み込まれており、個人の脳にあわせて磁気刺激をすることができる。
もう1つは、そうしたfMRIで撮影された脳の活動を詳細に分析する数学的ツールだ。このツールは、脳の各領域が活性化するわずかなタイミングのズレを手がかりに、脳内信号(シグナル)の流れを明らかにすることができる。
今回の研究では、治りにくい大うつ病と診断された患者(33名)の一部にスタンフォード神経調節療法を受けてもらい、その時に起きた脳内の様子を治療を受けていない人たちと比較した。
ここから明らかになったのが、正常な脳とうつ病の脳のとある重要な違いだ。
正常な脳では、「前島皮質」から「前帯状皮質」へと信号が送られている。つまり身体の感覚をまとめている領域から、感情を司る領域へとメッセージが流れている。
たとえば、心拍数や体温が上がったとする。するとその情報が前島皮質から前帯状皮質に送られて、感情が決まる。
ところがうつ病患者の多くは、この流れが逆だったのだ。前帯状皮質から前島皮質へと信号が送られており、重症の人ほどこの傾向が強かった。
研究チームのアニッシュ・ミトラ氏によるならば、「どう感じるかを最初から決めている」ような感じなのだという。すると普通なら嬉しいことでさえ、ちっとも嬉しく感じられなくなってしまう。
だがスタンフォード神経調節療法で1週間も治療すると、脳内信号の流れが逆転して正常に戻り、うつ病の症状がよくなったのだ。
とりわけ重症で、脳内信号の流れが大きくズレている人ほど、治療効果が高い可能性があるという。

うつ病のバイオマーカー(生物学的指標)としての活用
この発見は、うつ病の根本的な治療につながるだけでなく、診断という意味でも重要なものだ。というのも、うつ病の「バイオマーカー」として使える可能性があるからだ。バイオマーカーとは、疾患の有無や、進行状態を示す目安となる生理学的指標のことである。
たとえば、あなたが熱を出したとき、医者はさまざまな検査をして、その原因が細菌なのかウイルスなのかといった具合に客観的に診断し、それにあった治療がなされる。
うつ病の場合、これに相当する検査がこれまでなかった。
だが、今後は2つの脳領域間の信号の流れという生物学的な変化から、症状を客観的に診断することができる。このようなバイオマーカーは、そもそも精神医学の分野では初めてのことであるそうだ。
ただし、うつ病患全員の脳内信号が逆流しているわけではなく、症状が軽い場合にはあまり見られないかもしれない。
それでもうつ病の治療を選別するための指標としては役立つ可能性があるとのことだ。
References:Researchers treat depression by reversing brain signals traveling the wrong way / Researchers treat depression by reversing brain signals traveling the wrong way | News Center | Stanford Medicine / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
ニューロフィードバック技術の1つの研究成果でしょうね。
1950年代くらいから研究されてた技術なんだけど80年代に抗うつ剤のプロザックが発明されて精神医学界に薬理学革命が起きてから廃れかかってたんだよな。
PTSDの研究が進んだおかげで再び日の目を見るようになってこういう研究もされて成果が出て来た。
2. 匿名処理班
TMSあまり効かなかったなー
結局時間が必要だったのかもしれん
3. 匿名処理班
美容機器で肩につけびりびりする機械使えたら
家でもできそうだな
4. 匿名処理班
頭にエレキバン貼ったらスッキリする
って言ってた友人のナゾの生活習慣は
キチンとした理由があったのか。
5. 匿名処理班
常時頭に電極付けてビリビリするようになるのか
未来だな
6. 匿名処理班
この治療やりたい
7. 匿名処理班
悪用して磁気刺激麻薬とか作られそうだな
8. 匿名処理班
サヨナラ満塁逆転ホームラン
9. 匿名処理班
>>7
それは悪用とは限らない
10. 匿名処理班
m_ECTがよく効いて救われた。このあたりの治療法はどんどん進化して欲しいな。電磁波とか電子とかいうとすごく拒否感を示されることがあるし、しょんぼりするけど仕方ない笑
11. 匿名処理班
もしかしてどこぞのヘッドギアはマインドコントロールに有効だったのかもしれないな
12. 匿名処理班
>>10 よかったね。
自分は双極2型でもう生きてられないほどウツがつらいんだけど、受けてみようかな。。。
13.
14. 匿名処理班
エースとか電パチとか呼ばれた
電気刺激を頭部に与える機械が
昔精神科にあったそうで
けっこう効果もあったらしい
15.
16. 匿名処理班
正常な人逆転させればうつ病になるのかな
パッチぐらいの器具で簡単にできちゃうなら本庄保険金殺人みたいなのを警戒しなきゃいけなくなるね
17. 匿名処理班
>>14
電気痙攣療法
まだ現役だけど
18. 匿名処理班
ピップさん!ビッグビジネスの匂いがっ!
19. 匿名処理班
天使の囀り
が実用化?
20. 匿名処理班
ブラックジャックにこんな話があったような
21. 匿名処理班
進めて欲しい研究だし基準を作れるのは良い事だけど、正常じゃない脳は正常じゃないだけなんだと言ってはおきたい。
22. 匿名処理班
>>4
エレキバンのサイトによると「頭部や顔には使用しないでください。取扱説明書を参考にして首から下の部位でご使用ください。」だそうです。
23. 匿名処理班
どハッピーな馬鹿に転じられても困るよな
24. 匿名処理班
>>4
それは「こめかみに梅干しを貼ると頭痛が治る」というやつに近いのでは
25. 匿名処理班
当初は革命的な治療だと言われて広まったものの
後に問題が発覚してしまったロボトミー手術を思い出した
そういえば脳内チップを埋め込む技術開発をイーロン・マスク氏は発表していましたが
米食品医薬局FDAから認可が降りたそうですね
26.
27.
28. 匿名処理班
磁気治療の有効性はさておいて、うつ病の人はどんな刺激を受けても「これつまらないよ」が先に前置きされてしまうために喜びが出てこない、というのは興味深い説だと思う。
このアプローチの有効性を調べられるだけのデータがとれたら、治療の研究が一歩進むはず。
29. 匿名処理班
先日、この治療で救われた人の話を聞いたばかり。
でも自費診療になるから偉い高いそうな。
早く取り入れられるといいね。
薬が売れなくなるけれども。。。
30. 匿名処理班
>>12
>>10です。私は医者ではないし迂闊なことは言えないんですが、そんなにひどいならお医者さんに相談してください。受けてみる価値は絶対あると思います。
出来る病院は全国で増えてます。私が受けたECTは保険適応でしたし、加えて高額医療費制度が使える場合もあります。
回復をお祈りしてます。
31. 匿名処理班
うつ病って何なのか?ってのが少し分ったのか。頭の中は直接見ても良く分からないから凄いな。
32. 匿名処理班
本当に苦しんでいる人にこういう治療が届くようになってほしい
33. 匿名処理班
これ、もっと発展したら、パーキンソン病とか統合失調症にも使えるようにならないだろうか。。