
この地域には、ウイスキーの老舗ブランドで有名な「ジャックダニエル」の本拠地となる蒸留所が複数ある。
そこで作られているウイスキーの熟成プロセス中に発生する、いわゆる“ウイスキー菌”が、近くの民家や道路標識、車両などを真っ黒に覆ってしまうという事態に見舞われているのだ。
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Jack Daniels under fire for ‘whiskey fungus’ plaguing Tennessee town
ウイスキー菌の蔓延で真っ黒なカビに覆われた町
テネシー州リンチバーグの小さな町の住民は、以前からジャックダニエルの蒸留所から漏れ出る“ウイスキー菌”に悩まされてきた。このウイスキー菌は、バウドイニア・コンプニアセンシス(Baudoinia Compniacensis)と呼ばれる真菌で、2007年に初めて発見されたという。
「天使の分け前」としても知られる熟成プロセス中において、この真菌はウイスキー樽の気孔からアルコールが蒸発した後の酒で成長する。

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それが、蒸留所から空気中に蔓延しているのだ。空気中に放出されるエタノール蒸気によって助長されたカビは、民家や車、道路標識、樹木などあらゆるものに付着し、周辺の町は黒くすすけた状態になっている。

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ジャックダニエル蒸留所の近くに住む人々の多くは、この真菌が健康に影響を与え、周囲の空気の質を破壊しているのではないかと懸念している。というのも、ウイスキー菌による汚染は今回が初めてのことではなく、2018 年にジャックダニエルの工場から最初に排出物が漏れ始めて以来、テネシー州の小さなコミュニティを覆い続けてきたからだ。

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真菌による汚染は、複数の郡にある各蒸留所から1.6km以上広がっているとされている。しかし、ジャックダニエルは、すでに6つの蒸留所を持つリンカーン郡の蒸留所をさらに増やしていく計画を立てているようで、住民らはその建設に断固として反対の声をあげているところだ。
現在は訴訟問題に発展中
今年1月、蒸留所の近くに住み汚染の被害を受け続けている住人たちは、蒸留所に換気システムを設置しない限り、今後の14の蒸溜所の建設を阻止すべきだと、地元の都市計画事務所を訴え、町への損害の責任を負うよう求めた。妻と一緒に蒸留所の向かいに住んでいるパトリック・ロングさんは、3月1日に訴訟に勝ち、裁判所はジャックダニエルにリンカーン郡での新しい蒸留所の建設を一時的に中止するよう命じた。
リンチバーグのコミュニティは、ジャックダニエル蒸留所に支配されていると主張するロングさんは、真菌が町を荒廃させ続けているため、家の価値も急落していると話す。

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真菌は、空気中にあるのです。誰もカビを吸い込みたくなんかないでしょう。ロングさん夫妻が2020年にリンチバーグの家を購入した時には、ウイスキー会社が2つの蒸留所しか使用していなかった。
ですが、ウイスキー菌が実際に有毒であるかどうかを判断するための検査を行った人は誰もいないのです。
私の妻は、呼吸器系に問題があるので、とても心配しています。隣人の一人は、ガンになりました。住民の手の爪や指全体は、すぐに黒い真菌で覆われます。
カビをこすり落とすことができるのは、水とクロロックス(消毒漂白剤)の強力な混合液だけです。
私たちは、黒いカビが張り付いた家を年に4回も高圧洗浄しなければならず、その費用に約10,000ドル(約138万円)も払わなければならなかったのです。(ロングさん)
そのため、当時は真菌がそれほど蔓延していなかったが、現在施設の数が 6 つに増え、それ以来カビは制御不能になっていると、怒りをあらわにしている。
ロングさん夫妻は、訴訟を起こしたのは、ジャックダニエルが蒸留所の数を「違法に」拡大したと考えたからだと明かし、2人は計画された建設を永久に中止するつもりだと語っている。

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また、地元住民のベッキー・キャロルさんは、2018 年の公聴会で、ウイスキー菌が自分自身と家族に癌を与えるなどの深刻な健康問題を引き起こしたと主張し、この問題を当局に知らせようとした人々の 1 人だ。生活の質を懸念して不安を抱えるキャロルさんは、このように話している。
私は従来、丈夫で健康な人間でした。健康が損なわれた原因がウイスキー菌だという確たる証拠はありませんが、それならば、逆に「絶対にウイスキー菌によるものではない」と誰かが証明する必要があると思います。地域住民らは、蒸留所からエタノールの排出を防ぐために、約30万ドル(4100万円)の費用がかかる空気ろ過システムを、蒸留所に設置することを要求しているほか、真菌による健康へのリスクが懸念されることから、環境への影響に関する研究も求めている。
ジャックダニエル側は住民の主張を否定し反論
ロングさん夫妻の訴訟で主張している、施設が違法に建設されたという件について、ジャックダニエル側は「規則に従っている」と否定した。蒸留所のメルビンキー・ブラー副署長は、論争の的となった2018年の公聴会でも、このように主張し、業界大手の事業を擁護した。
健康被害を抱えている住民の方々への「同情と共感」はありますが、蒸留所の建設について、当社はすべての適切な規制に準拠しています。

image credit:Svetlana Gumerova/Unsplash
さらに、ジャックダニエルの広報担当者は、次のような長い声明を発表した。
立地と建設の過程で、私たちはリンカーン郡と緊密に協力し、地元の役人から求められたすべての情報を提供するだけでなく、規制要件、厳格な業界ガイドライン、および倉庫を構築する際に従う厳格な内部基準を順守しました。ジャックダニエルの声明では、換気の微調整の実行可能性についても言及されている。
ジャックダニエル蒸留所や熟成中の蒸留酒を扱う他の蒸留所を訪れたことがある人なら、誰でも、微生物叢(そう)の存在に気付いたでしょう。
微生物叢は、蒸留所や倉庫の周りの木、建物、その他の構造物に生えています。
熟成中に樽から放出されるエタノールは、「天使の分け前」とも呼ばれ、微生物叢の多くの食料源の 1 つにすぎません。
暖かく湿気の多い環境でより一般的ですが、食品加工会社やパン屋、水域に隣接するダムなど、蒸留とは関係のない地域やその周辺でも見られます。
私たちは微生物叢に慣れていますが、見た目や不便さを好まない人がいることも理解しています。
入手可能な情報に基づいて、個人やその財産に害はないと考えています。
解決策として一部で提案されている空気ろ過技術については、言うのは簡単ですが、実行することはできません。
蒸留所には換気が必要なのは周知で、施設では自然に喚起できるように設計されていて、熟成プロセス中にウイスキーが新しい焦げたオーク樽に出入りできるようになっています。
既存の独立機関および政府の調査によると、ジャックダニエルまたはその他の熟成ウイスキーの味と品質に重大な悪影響を与えることなく、エタノールの放出を防止する合理的に利用可能な制御技術は、現在では存在しないことが示されています。

pixabay
このように結論付けたジャックダニエル側だが、ウイスキー菌が長年にわたり周辺の住人にとって苦痛となっていることは否めず、早急になんらかの解決法が必要だろう。References:Shocking new DailyMail.com images show Tennessee town completely SMOTHERED by black whiskey fungus caused by local Jack Daniel's distillery/ written by Scarlet / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
工場の排気を
微生物研究所と同じ様に
燃えてる管を通って排出するシステムにすれば
ええんちゃう
既にカビだらけになった家屋等に
どれだけ効果があるかはわからんけど
2. 匿名処理班
オレはジャックダニエル一生分いいよ
3.
4. 匿名処理班
かつて東京都には残飯による養豚業があったけど
戦後に来た新住民が昔からある業者をくせーと喚き
移動させるまで追い込み、更に移動先でも同じように
追い込み、結局茨城でようやく営業できた企業ある
それに似たもやもやする気持ち思い出すぜ
5. 匿名処理班
健康問題に関しては働いてる社員が1番接してるはずだから、それを調べれば結果が良かれ悪かれ一応説得力のある回答になると思う。美観に関しては他者の財産の毀損だから、何らかの対応をしないと駄目だろうね。
6. 匿名処理班
「水に入れたら一週間でウイスキーが出来上がり」なんて菌じゃねーのかよ!
7. 匿名処理班
小豆島の醤油の製造蔵なんて、敷地の建物は夜の帳が張り付いたかのように真っ黒だけど、別に周辺の人たちは困ってなさげだけどなあ。車も黒くなるって中の人は言ってたし。
醤油とウイスキーじゃ、後者に関係した菌類は人には脅威なのかねえ。
8. 匿名処理班
こういう現実を見ると、綺麗にしてくれるスライムのいる異世界が羨ましい。
9. 匿名処理班
なんかお金のための訴訟な気がする
世界中にどんだけ醸造所、蒸留所があるって思ってんだろう
お酒が買いづらくなるなら、アルコール中毒者が減っていいことかもしれないな
10. 匿名処理班
>2007年に初めて発見された
それ以前は何も問題はなかったのかな?
餌が少なかったから被害規模が小さかったか
菌が変化して汚染が広がったのか
エタノールが拡散されなければこれらの菌は減るのだろうが
会社は空調機器を導入する気はないと言う
国が介入しないといけないレベル
あとは世論を動かしての不買運動でも
日本の酒かすと偉い違いだ
11. 匿名処理班
まずは因果関係の調査と被害の実態の調査だよね
双方が信頼できる専門家を選出してチームを作って調査するしかないね
問題は誰が金を出すかだねー
12. 匿名処理班
バイオハザードやん
13. 匿名処理班
>>1
それだと、除害塔に吸い込む分空気の流れが増えてしまうので、樽熟成に影響が出てしまう。エンジェルズ・シェアが増えるとウイスキーの収量が減るので、メーカーにとっては死活問題。
14. 匿名処理班
天使の取り分
悪魔の残り香
15. 匿名処理班
>2020年にリンチバーグの家を購入した時には、ウイスキー会社が2つの蒸留所しか使用していなかった。
蒸留所が2から6に増えたせいで急に酷くなったとかはありそう
癌になりやすいカビもあるけどこれがそうなのかは研究進まないとわからないだろうな
16.
17. 匿名処理班
地域住民が集団訴訟を起こそうと準備してるのであれば、酒造メーカー側の対応が不味かったという事だな。
18. 匿名処理班
人体に害があるか調査するべきでそれは最低限自治体が行わないと問題だろ
その上で基準値作って濃度の管理するべきで建物建ててから跳ね上がりましたじゃお互い不幸だ
一か所に大量に建てないようにしたら良いだけなのに意地はるほどなのかな
19. 匿名処理班
イーサンウィンターズ助けて
20. 匿名処理班
>>4
それとこれとは国も状況も経緯も問題点も全然違うだろうに
地域住民が地元企業に物申したという部分だけで大雑把に言いがかり扱いしちゃう安直な考え方はどうかと
21. 匿名処理班
>>17
そこそこ知られた話だとは思うんですが、ジャック・ダニエル蒸留所の存在するテネシー州ムーア郡(リンチバーグはムーア郡の郡庁所在地)自体がドライ・カウンティ(Dry county)という酒類の販売を禁止している地区で、おおよそ100年前からアルコールに厳しい土地なんです。
テネシー州は現在でも住人の半数以上が福音派のプロテスタントという、ま、いわゆるマジメな土地です。禁酒法以前の1905年には全面禁酒運動を始めていて、1909年には郡内で一切のアルコール製造を禁じる条例までできてるくらいなので…(1937年に廃止)
郡内にあったジャック・ダニエルを含む15の蒸溜所はもちろん全てそれら禁酒法関連の裁判を勝ち抜いて現代まで続いて(あるいは負けて倒産して)います。
アメリカ国内の大手酒造メーカーにとってはこの手の訴訟はかなり日常茶飯事と言えます。
またその過程で何度も蒸溜所の移転と統廃合を経験してもいますし、創業者ジャスパー・ニュートン・"ジャック"・ダニエルの甥で第2代社長のレミュエル・モトロウは行政側から働きかけるためにテネシー州上院議員にまでなっています…。
22. 匿名処理班
ジャックダニエルってテネシー州リンチバーグ「ケーブ・スプリング」の湧き水しか使用しないんよ。だから移設は無理になる。
それなのに、蒸溜所を2つから6つに増やして排出物のコントロールも昔のままはじゃ問題も出るわなあ。更に蒸溜所を増やす予定だし…
難しくとも金がかかろうとも、空気ろ過技術を備えないと解決にならんよ。
23. 匿名処理班
>>21
いや、上院議員とか関係ないでしょう。
上院議員になった人がいるから、地域住民で集団訴訟をすると書いてあるのかな?
24. 匿名処理班
>>7
その醤油の製造蔵が昔からあるものなら近隣住民は感覚が麻痺してるのでは
昔は工場が色々タレ流したり民家の庭でゴミ焼いたりが普通だから、周囲を汚染するのはお互い様で文句も出なかったとか。
これは2018年に最初に排出物が漏れ始めたってあるし、そりゃ近隣住民も突然のことで困惑するし住環境の目に見える悪化に訴訟もするだろう
25.
26. 匿名処理班
世界中の蒸留所で同じようなこと起こってそうなものだけど。
ちゃんと環境配慮してるかの差?
27. 匿名処理班
コニャックとかも黒いとこあるの有名だけど、これはレベルが違うみたいだね…
突然ひどくなったものみたいだし、標識も信号も家も木も真っ黒でもはや洗うのが間に合わないほどだとか。
真菌はどんな害があるかまだ分からないことが多いし、触れ方や触れる量によっても違う。
それにしても、水とか樽とか木炭とか限られてるのに、ここまですさまじい増産ができるものなのか。質の維持や商品イメージ、需給の見通しは大丈夫なのかな…世界的な銘酒だけど、黒いのはラベルだけにしておくのがよさそう。
28. 匿名処理班
健康被害(あってほしいという願望)ですね
ちょっと黒ずみでムカついたので理由つけて金を取りたいだけです
蒸留所側が完全対策するなら、巨大な工場の建設となるので現実的ではなさそう
29. 匿名処理班
>>13
いやいや、「この工場は汚染物質が発生しますが浄化装置付けるとコスト・品質的に死活問題なのでこれからも周囲にばらまき続けまーす」じゃ済まんだろ。
ジャックダニエルだけじゃなく、国内の民家周辺にある熟成させるタイプの蒸留酒の蒸留所全てに義務づければ条件は一緒だし、
その分酒税を軽減するとか関税を増やして外国産のウイスキーも牽制するとかやりようはあるんじゃない?
30. 匿名処理班
取り分をアダで返す天使たち
31. 匿名処理班
>>4
そりゃ家畜の糞便臭きついもの仕方ない
そこに住まない人があれこれ言ってもねえ
32. 匿名処理班
蒸溜所だけ移せば良いのでは?
醸造所と熟成所だけ現在地に置けば問題ないのでは?
33. 匿名処理班
ジャックダニエル飲んだこと無いけれど安くなるかな〜
それとも無くなっちゃうかな…
34. 匿名処理班
>>29
そもそもそれは汚染物質かというところからだからな
そんな離れた場所で健康被害があるのなら敷地内で働いてる人はどうなるのさ
そして蒸留所で働く人のこの手の健康被害とか聞いたことない
35. 匿名処理班
地域全体の空気のカビ汚染ってどうやって調べるんだろう?
日本の高度経済成長期の公害とかでもそうだけど、汚染と企業の因果関係を調べるのも難しそうだなー
36. 匿名処理班
ふつうに、煙突ではいけないのだろうか
37. 匿名処理班
>>34
そりゃ、調べてもいないものは知りようがない
聞いたことがない(からない)、かのような物言いは単に自分の無知にあぐらをかいてるだけよ
38. 匿名処理班
まじかよ、ジャックダニエル最低だな
俺が全部処分してやる
ゴクゴク…
39. 匿名処理班
排気処理が無理なら無理としても、蒸留所から漏れ出た成分で家が汚れて洗浄に金かかってるっつーんならせめてそれの保証はある程度しなきゃダメじゃね?
少なくとも黒ずむことに関しては因果関係認めてるみたいだしな
黒ずむことわかった上で後から引っ越してきたとかならともかく、前から住んでいた人に関してはなんとかしてやれよと思うわ
40. 匿名処理班
>>37
そもそも樽ってオーク材なわけで
敷地外で凄い事になるのなら貯蔵庫内の樽なんてヤバすぎて使えないレベルになってないとおかしいわけだが
41. 匿名処理班
>>8
そういえば異世界物でこっちの世界の酒とか出てくるのは多いけど、廃棄物の処理をちゃんと描写してるのってとんスキの他はあまりみかけないよな。
42. 匿名処理班
とはいえ、仮に「住民の健康に配慮してこの地域の工場全部閉鎖して他所に移転します。地元従業員の皆様さよーなら」ってなったらそれはそれで問題になるだろうし難しいのう。
43.
44. 匿名処理班
要はお金ちょうだい♪
なんだろうなぁ。さてどうするよ?サン鳥ーHDよ?傘下の蒸留所が困ってますぞ?
45. 匿名処理班
この「ウイスキー菌」がどんなものかよね。
有害となれば公害になるだろうし、昨今の異常気象も影響してるのかな。