
ジョンズ・ホプキンズ大学の研究者たちは今、人間のミニ脳によって動作する「バイオコンピュータ」の開発に取り組んでいる。
人間の幹細胞から人工的に作られた「ヒト脳オルガノイド(ミニ脳)」は、脳神経の発達や障害を研究するモデルとして利用されているが、それをコンピューターとして使用しようという試みだ。
『Frontiers in Science』(2023年2月28日付)で紹介されている「オルガノイド・インテリジェンス計画」によれば、脳オルガノイドを組み込んだバイオコンピュータで既存のコンピュータの限界を克服することができるという。
人間の脳の主要な部分が備わった脳オルガノイド(ミニ脳)
研究室の試験管内などでつくる人間の3Dミニチュア臓器「オルガノイド」は、実際の臓器よりも小型で単純ながら、本物そっくりの解剖学的構造を持っている。オルガノイドをつくり出す技術は、2010年代初めから急速に進歩しており、ミニ脳と呼ばれる脳オルガノイドも目覚ましい進歩を遂げている。
それはペン先ほどの大きさでしかないが、ニューロンをはじめとする脳の特徴があり、学習や記憶といった基本的な機能が備わっている。
オルカノイドなら、人間や動物実験に頼ることなく、臓器の理解を深め、新薬の開発や移植の応用などに利用することができる。研究者にとっては夢のような研究モデルだ。
その最大のメリットは本物の人間では絶対に許されない実験でもやれることだ。

脳オルガノイドをバイオコンピューターに
ジョンズ・ホプキンズ大学のトーマス・アルトゥング教授らは、そんな脳オルガノイドを研究し、未来のコンピュータを開発するという夢を描いている。それが「オルガノイド・インテリジェンス計画」だ。
その始まりは2012年のこと。同教授らは、人間の皮膚細胞から幹細胞を作り出し、それをきちんと機能する脳オルガノイドに成長させた。
小さくても1つの脳オルガノイドには約5万個の神経細胞がつまっており、ミバエの神経系に匹敵する。
こうした研究を続ければ、今後10年以内に脳オルガノイドをベースにした最初のバイオコンピューターが登場したとしてもおかしくはないという。

人間のミニ脳が動かす持続不能なスーパーコンピューター
アルトゥング教授らが人間の脳細胞を使ったバイオコンピューターの開発を目指すのは、それで現代のスーパーコンピューターの欠点を解決できるかもしれないからだ。スーパーコンピューターは、膨大な計算を瞬時にやってのける。だが、その代償として莫大なエネルギーを必要としており、それはだんだんと持続不能になりつつある。
一方、確かに単純な計算能力では劣る人間の脳だが、犬と猫を見分けるような複雑な判断となると、脳の方がずっと得意だ。
それゆえにスーパーコンピューターの省エネを図れる可能性がある。
アルトゥング教授は、「脳はまだ現代のコンピューターにかないません」と声明で説明する。
そうは言っても、最新スーパーコンピューターの規模を知れば、比較するのもおかしいと思うはずだ。
6億ドルかけてケンタッキー州に建設されたスーパーコンピューター「フロンティア」は、およそ2平方キロの広さがある。フロンティアは史上初めて人間の脳1つ分の計算能力を超えることに成功したが、消費されるエネルギーは100万倍だ。

つまり私たちの頭蓋骨に収まるくらいコンパクトな脳には、巨大なスーパーコンピューターに引けを取らない大きな可能性が秘められているということだ。

数十年後の未来に向けて、今からすぐにスタートすべき
ネズミ程度の賢さでしかないシステムですら、脳オルガノイドで作ろうとすれば何十年もかかる可能性がある、とアルトゥング教授は言う。だが、脳オルガノイドの生産規模を拡大し、AIで訓練してやれば、高速な演算速度や処理能力にも対応できるようになるかもしれない。
「あらゆる種類のコンピュータに匹敵するものを作るには、何十年もかかるでしょう」とアルトゥング教授。だが、そのためには今から準備と資金調達を始めることが大切なのだそうだ。
またオルガノイド・インテリジェンス計画は、バイオコンピュータの開発だけでなく、脳の障害や病気の治療薬研究にも革命をもたらすと期待できる。
たとえば、今回の研究チームのレナ・スミルノワ助教は、「普通のドナーから培養した脳オルガノイドと自閉症の人のそれを比較してみたいです」と声明で語っている。
彼女によると、今回のバイオコンピュータ開発用ツールは、自閉症特有の神経ネットワークの解明にも有用なのだという。
これを使えば、動物実験をしたり、人体にメスを入れることなく脳を調べられるので、自閉症の人が認知に問題を抱えている理由の解明に役立てられるとのことだ。
References:Will future computers run on human brain cell | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
『歌う船』計画かと思った〜…ら、ちょっと違ってたわ
2. 匿名処理班
サボりなワタシの脳細胞から作った補助脳コンピュータだと、
同じようにサボりになるのかな?
3. 匿名処理班
犬の脳みそを積んだ宇宙船の小説有ったっけ
空間転送や船動かすには必要不可欠な方法みたい
ある日酔っぱらって犬PCを船内にあった酒を
注入しぶっ壊して怒られてた
しかも交換方法は犬を捕まえ取り出すという犬にとって
悲惨な世界。小説とはいえ最悪過ぎなので最低限度
遺伝子育成で脳だけ作れよ
4. 匿名処理班
本当に偏見なのはわかってるし失礼なんだろうけどアルトゥング教授のマッドサイエンティスト感がすごい
5. 匿名処理班
劣化が早そう
6. 匿名処理班
世界仮想現実論がどんどん現実味を帯びていくなぁ
7. 匿名処理班
カレンデバイス、ワイズマン、マモーその他、好きなの選んでね。
8. 匿名処理班
陽電子頭脳だな。アシモフって凄いわ
……おっと、マモーなんてものもいたな
9.
10. 匿名処理班
コンピュータが夢を見ちゃったらどうなるの
11. 匿名処理班
ヒト脳なんて言わずとも有機コンピューターとか言っとけば良いんじゃないかな
培養なら最早人じゃないし
人権ある誰かの脳使うとかじゃ無ければ問題ないのでは?
12. 匿名処理班
案外と人間の脳細胞よりもタコの脳細胞を使ったほうが高速高機能なコンピューターが実現できたりして
13. 匿名処理班
コンピュータ「やっべ、うっかり間違えちゃった。ま、いっか、黙ってよう」
14. 匿名処理班
脳細胞を使うにしてもどうやって維持するつもりなんだろう。血液に代わる何かを循環させるのかな?
15. 匿名処理班
スペースサタンはマイナーすぎかな
16. 匿名処理班
ガタピシ車で行こうの山本マサユキの漫画で2人の女の子の脳が取り出されて、スペースコロニーの環境制御の為の生体脳コンピュータとして使われるってのが過去にあったよね
17. 匿名処理班
アメリカ映画の「スカイライン -征服-」で、地球を侵略しに来たエイリアンが人間から洗脳した脳と脊髄を引っこ抜いてアンドロイドに移植して人間を襲わせるというのがあったな。
ちょっと昔のSF映画が現実のものになって行くのも怖いものがあるよ。
18. 匿名処理班
>>2
性格が反映されるかはさておき、
外から電気信号送られて強制労働されるんじゃないかな?
19. 匿名処理班
>>15
あの映画、子供の頃にテレビで観てトラウマなんやわ
あの目がねぇ・・・・
20. 匿名処理班
あらゆる技術は悪用されるという点を踏まえると
人工脳が実用可能になった時点で
実際の人間の脳を使う奴が現れるだろうな
21. 匿名処理班
後のDG細胞である
22. 匿名処理班
ヒューマンエラーの部分はコンピュータにとってはバグだと思うけど
人間の好き嫌いみたいな感覚も数値化できるようになるんかな
23. 匿名処理班
この件に限らないけど、本物の人体でダメなことでも脳オルガノイドやミニ臓器ならやり放題!というのが当たり前になると、むしろ生身の人間の尊厳に対するハードルが下がりそうな気がしてならない
24. 匿名処理班
オルガノイドインテリジェンス計画とか、自閉症の人に移植したいとか、ここら辺は倫理的に問題ないのかしら?
臓器移植や義手義足とは違う、何て言うか、ヒトとしての尊厳みたいなものはどうなんだろう?
25. 匿名処理班
ゲームの「フォールアウト」シリーズには人間の脳をそのまま移植してプロセッサーにしたロボブレインというやつが出てくるぞ。まんま頭のドームに脳が入ってる。
シリーズ自体が、現実の戦後から冷戦時の倫理観を無視したような様々な実験や研究を基にしたブラックなネタであふれているので他にもいろいろあるよ。
26. 匿名処理班
確かに発熱の問題ひとつ取っても今のコンピューターでは効率が悪い面がある。人間の脳に似たコンピューターがあればなあと思ってたら本当に実現しそうとは。
27.
28. 匿名処理班
そのうちボケてきたりしてね
29. 匿名処理班
>>15
出演者3名のスペースホラー 恋するロボちゃん
30. 匿名処理班
(|)「これは興味深いですね」
31.
32.
33. 匿名処理班
逆に
未来の人間の脳内は
USBメモリに収まる。
34. 匿名処理班
コレ、生命倫理問題があるから
研究しても採用されないだろうな
35. 匿名処理班
臓器としての脳全体の機能と性能はともかく、脳細胞(神経細胞)の働きなんてどんな生物でも大した違いはないんだから「人間の脳細胞を使った!」なんてセンセーショナルな表現しなくてもいいと思う。
そもそも、人間の脳細胞を人間の脳と同じように使ったら、人間と同じような性能しか出ないだろ。人間の脳とは違う使い方するなら、人間の脳細胞である必要はない。
すでに100億個近い生きた人間の脳がこの地球にあるのに。
36. 匿名処理班
死亡宣告された人の脳をコンピュータに再利用しよう
37. 匿名処理班
囁くのよ、私のゴーストが
38. 匿名処理班
どちらにしろ「脳細胞構造に似た自立展開構造群」のような半導体に置き換わって、脳細胞が直接使われるような未来は来ないだろう
現状の光速度と比較できる電子処理系の速度を以ってすら1クロックの間に1cm程度しか進めないのに、マッハ程度の伝達速度しか出せない神経細胞の情報伝達速度では絶望的に遅すぎる
39. 匿名処理班
>>15
アレ見たあとしばらくは、プラグ状のものを見ると首筋がぞわぞわしてましたw
40. 匿名処理班
>>36
ロボコップMk2みたいになるのがオチかと。
41. 匿名処理班
黒い幽霊団(ブラックゴースト)の首領を忘れるな。
42. 匿名処理班
後のマザーブレインは、このときはじまったのであった (メトロイド)
43. 匿名処理班
これ普通に用途を考えるとしたら、オーダーメイド医療として患者の皮膚細胞から脳オルガノイドつくって治療方法を試すって感じじゃないかな?
で、効いたら患者に薬投与。効かなかったらってやってたら時間かかるから、培養の段階で一気に100個ぐらい脳オルガノイド育てて全部別の治療を試すってするかな?
薬を変えたり、投与量を変えたりとか。一人一人に最適な治療法を確立する。
44. 匿名処理班
ああ、あれだ
これ認知症の治療には画期的効果を発揮するんじゃね
45. 匿名処理班
私はこの脳としては生まれたくはないかもしれん。