
あまりの衝撃的な内容は、子供たちの夢を打ち砕き、悪夢のどん底に陥れた。映画評論家はこの作品をこき下ろし、全米のキリスト教団体やPTAから非難が集まり、一部の州では、公開禁止に追い込まれたほどだ。
だがこの騒動で知名度が高まり、続編が5作も作られている。
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各方面から非難を浴びたクリスマス・ホラー映画『悪魔のサンタクロース』
「悪魔のサンタクロース 惨殺の斧」が公開されたとき、映画評論家のジーン・シスケルとロジャー・エバートは酷評した。とくにシスケルは、サンタクロースが斧を振り回して惨劇を繰り返すことに腹をたて、まったく胸が悪くなるとこきおろした。
だが、バッシングはこれで終わらなかった。
さらにシスケルは、この映画のテレビ広告を「病的で低俗で卑劣」だとして、この映画を作ったコロンビア・ピクチャーズ、CBS、HBOから成る配給会社トライスター・ピクチャーズだけでなく、脚本家のマイケル・ヒッキー、監督のチャールズ・E・セリア・Jr、プロデューサーのアイラ・バーマックなど、製作スタッフまで名指しで非難した。
「あなたたちの利益は、まさに血に染まった金なのです」
シスケルは、この映画をこれまで見た中で、もっとも軽蔑すべきふたつの映画のうちのひとつだと言い放った。
ちなみにもう一作は、1978年のメイル・ザルチ監督の残虐復讐映画『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』(I Spit on Your Grave)である。
ワイルドなサンタが大暴れする今年のクリスマス映画『バイオレント・ナイト』(2022)で、血に飢えたべつのサンタクロースが興行収入を上げている中、こうした酷評は場違いな気がするが、シスケルだけが特別というわけではなかった。
『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』が劇場公開されたとき、保護者団体から、クリスマスに大騒ぎする者たちまでが抗議し、もっとも物議をかもした映画のひとつになった。

「10代の視聴者向けのR指定映画を作っていると思っていたので、まさか、こんなに人々を怒らせるとは、夢にも思いませんでした」シュネイドは2013年にこう語っている。
悪魔のサンタクロース 惨殺の斧 予告編
凶悪サンタを描いた映画は他にもあったが注目されなかった
殺人サンタが大衆文化に浸透したのは、『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』が初めてではない。1980年の低予算スリラー映画『サンタが殺しにやってくる』(Christmas Evil) では、ハリー・スタドリング(ブランドン・マガート)という男が、サンタのコスプレをして、善良な人々にはプレゼントを与え、悪い奴には斧で罰を与えるというもの。
彼は子どもの頃、母親とサンタに変装した父親が性交渉している場面を見てしまい、それがトラウマになってしまったのだ。
『サンタが殺しにやってくる』は、ジョン・ウォーターズ監督のお気に入りの映画であることはよく知られているが、ほとんど注目はされなかった。
サンタが殺しにやってくる、ムービートレーラー
だが、『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』は、初めて殺人サンタが脚光を浴びた映画になった。すべてはハーバード大学の寮の一室から始まったという。
もともとは、ハーバード大学の学部生ポール・カイミが、授業の課題として書いた脚本で、原題は『He Sees You When You’re Sleeping』という。
これが、パートナーのデニス・ホワイトヘッドと共に、プロデューサーとして使える作品を探していた、ハーバードの卒業生のスコット・シュネイドの目に留まった。
シュナイドとホワイトヘッドは、凶暴なサンタという設定で手直しするつもりで、この脚本をオプションで購入した。
「当時は、『13日の金曜日』や『ハロウィン』の時代でしたから、10代にうけるのではないかと思いました」シュナイドは2013年に語っている。
「サンタの恰好をした異常者がクリスマスイブの夜にやりたい放題する...クリスマスを代表する幸せの視覚的イメージ、つまりサンタを殺人に織り交ぜるのです。十代の若者は、もっとも反抗的
な生き物なので、このコンセプトを気に入ってくれると考えました」

このテーマに沿って、ある犠牲者はトナカイの角で殺され、もうひとりは、クリスマスのイルミネーションで殺られる。サンタの膝に座っている子どもは怯えてしまう。
シュナイドとホワイトヘッドは、脚本(このときのタイトルはSlayride)をトライスターに持ち込み、トライスター側は少ない予算で大きな利益が出そうなホラー映画を制作することに価値を見い出した。
そしてふたつの映画契約の一環として、『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』をプロデューサのアイラ・バーマックに任せた。
もうひとつはコメディだったという。バーマックはのちに、トライスターの誰もこの映画について詳しくは調べていないようだったことを思い出した。
下級幹部以外は誰も、脚本を読んでいなかった可能性がある。それが本当なら、すぐに後悔することになるのを、まったく見落としていたということだ。

子供たちに悪夢とトラウマを与えたサンタの復讐
『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』は、1984年11月9日、『エルム街の悪夢』と同じ週末に、全米400の劇場で限定公開された。火傷を負ったフレディ・クルーガーが夢の中で十代の若者たちに忍び寄る、ウェス・クレイヴン監督の映画も、同じように人騒がせな映画だが、世の親たちの怒りの矢面に立たされたのは、『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』のほうだった。
『サンタが殺しにやってくる』と違って、『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』は、トライスターの強力なテレビ広告に支えられていた。
全国でゴールデンタイムの視聴者(その多くは子どもたち)が、サンタが斧を抱えて煙突を滑り降りてくるという広告を目の当たりにした。
これは、陽気に施しにやってくる典型的なサンタクロースのイメージとはまるで対照的だ。驚いた保護者たちやお目付け役の面々にとっては、それこそ、ビッグバードに鉈を渡すようなものだった。
テレビコマーシャルの放映はすぐに、学齢期の子どもたちが寝る支度をしているであろう、午後9時以降に追いやられたが、おとなしくそのまま寝た者はほとんどいなかっただろう。
抗議行動で一部の地域では上映中止に
「一部の映画は取り返しのつかない害を人々に及ぼすことがある」と指摘するAsbury Park Pressの記事があり、広告が子どもたちに恐怖症反応を引き起こす場合があると述べている。ある心理学者は、幼児のトイレトレーニングの成果が後退する可能性すらあると警告している。
「この映画は、イースターバニーが、町を歩き回って、人々を絞め殺すようなものです」イメージが地に落ちたあるショッピングモールのサンタは、新聞に語った。
「まったくの恥知らずだし、あんなものを平気で公開する劇場の経営者は無責任です。クリスマスの祝日に対して、敬虔な感情というものがないのでしょうか」
映画が封切られた翌週の激しい反発は、映画館の外でのデモや抗議活動として現れた。
「信じられないかもしれませんが、私たちは実際にデモ隊を越えて行かなければなりませんでした」シュナイドは、自分の制作映画を最初に観に行ったときのことを語った。
「人々が"サンタは殺し屋ではない"とか、"死体ではなくヒイラギで劇場を飾れ"といった垂れ幕を掲げていました」
もっとも声高に抗議していたひとりは、ウィスコンシン州ミルウォーキーに住むキャサリーン・エバーハルトだ。
「映画の狂気に反対する市民(CAMM)」という抗議団体を立ち上げて、この映画の上映禁止をさかんに訴えた。この抗議は、ほかの都市でもコピーされ、それがさらにメディアの報道につながって、さらに非難の声が高まった。
数日のうちに、ニューヨーク、ウィスコンシン、ニュージャージーの3つの州で、上映が中止され、トライスターのマーケティング部門は反発を鎮めようと躍起になった。
映画会社は、この映画はR指定で、17歳未満の子どもは保護者同伴でなければ観ることはできないと主張した。
だが、そんな主張はほとんど役に立たなかった。ついにトライスターは、11月24日までに予定していた大規模公開を取りやめるとことを決断した。
会社はテレビCMが足りなかったせいで、興行収入に影響を及ぼしたと述べた(のちに、トライスターがこの映画の配給権を手放したため、1985年5月にテレビ広告なしで、アクエリアス・フィルム・リリーシングから、ひそやかに再公開された)。
だが、これですべての決着がついたわけではない。
ロサンゼルス・タイムズの事後分析で、ある匿名の幹部がレポーターのデボラ・コールフィールドに語ったところによると、トライスターは、『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』の制作にゴーサインを出す前に、殺人サンタという筋書にろくに注意を払っていなかったせいで、つまづいたのだろうという
映画が完成して初めて、ある幹部は公開すべきかどうかを考え直し始めたという。さらに、コロンビア社は当時、コカコーラが所有していて、広告でフレンドリーなサンタがソーダをぐびぐび飲むシーンがあった。
大騒動になったにもかかわらず、続編が登場
エバーハルトは、抗議行動のこうした展開に満足していて、『悪魔のサンタクロース惨殺の斧』の続編が作られるようなことがあれば、必ずそこに出向いて抗議すると息巻いた。ところが、実際に続編は実現したのだ。このような大規模な反発があったにもかかわらず、この映画は公開からわずか2週間で320万ドルを稼ぎ出し、ホームビデオでも成功をおさめた。
1987年に公開された第2弾は、4つの続編のひとつだったが、いずれもオリジナルに対するヒステリックな反響を超えるものはなかった。
2012年にはリメイクが作られたが、批評家は不快というより出来が悪く、単に退屈だっただけだと書いている。
References:When 'Silent Night, Deadly Night' Caused a Public Panic / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
クリスマスに大暴れするしっと団もある意味悪夢の塊だろうな
2. 匿名処理班
特定の作品を公開を停止させたり、公序良俗に反するって異常なまでに大騒ぎするのって、かえって見てみたい思う人間を増やすだけな気がする。
1984年といえばグレムリンの公開された年ですね
3. 匿名処理班
※1
しっとマスク懐かしいwww
4. 匿名処理班
日本でも特番ドラマ化されてたんだよ。
金田一少年の事件簿のメンバーで。
剣持警部が美雪を追いかけまわす絵面だったはず。
5. 匿名処理班
これ子供の頃みて衝撃受けたw
サンタが斧お持ってで人に襲い掛かるなんて想像もしてなかったから・・・
6. 匿名処理班
サタンクロース!?サタンクロースじゃないか!!
7. 匿名処理班
サンタが殺しにやってくる
昔TVで一回だけ見た
もう一回見たいと思ってる映画の1つ
結構好きだけど、もうTVで放送はしてくれないんだろうな…
8. 匿名処理班
ピエロにサンタに
これ以上子供等の夢を壊さないでくれ
9. 匿名処理班
「サンタvsペプシマン」というのはどうだろうか
サンタクロースの赤い服のイメージはコカコーラ社の広告から始まったらしいし、対決させると面白いかもしれない
10. 匿名処理班
>「映画の狂気に反対する市民(CAMM)」という抗議団体を立ち上げて、この映画の上映禁止をさかんに訴えた。この抗議は、ほかの都市でもコピーされ、それがさらにメディアの報道につながって、さらに非難の声が高まった。
方向性はともかくたった一つの映画に対してこれだけできる程の行動力・組織力・活力が欲しい!人生変えられそう!
11. 匿名処理班
空想と現実の境が確りした大人が見るなら何も問題ないでしょ
R指定して全年齢向けクリスマス映画と誤認させない様にしてるなら十分配慮してるのでは
12. 匿名処理班
>>9
対決よりコメディ映画になりそうな予感
13. 匿名処理班
>イースターバニーが、町を歩き回って、人々を絞め殺すようなものです
これはこれで普通にそういうホラー映画がありそうな気がするw
14. 匿名処理班
ピエロが襲ってくるときのギャーん!ていう効果音、
クッキーさんがネタで使うギャーん!かな?
15. 匿名処理班
記事にもある「バイオレント・ナイト」はワイルドなサンタさんがでてくるがコッチはめっちゃイケメンで正義の味方って点で評価高いんじゃなかろうか
自分も見てみたい映画です
16. 匿名処理班
※6
よう、カーリングしようぜ!
17. 匿名処理班
※9
日本ならその流れは最後共闘するやつだがアメリカだと・・・?
18. アユラ
>>1
正月に、浮かれている人々の家をあちこち回っていた一休さんは
髑髏のネックレス(髑髏が本物かどうかは謎)してたらしいですよ💧
こっちもこっちで、折角のお祝いムードをぶっ壊してますけど……。